第2話:新たな世界で自由へ、踏み出す第一歩
俺が転生してから1ヵ月が経とうとしている。
俺は自由に生きるんだ!
そう3週間前に決断したが、流石に赤ん坊の体ではどうしようもあるまい。
まずベッドから脱出を図らなければならないだろう。
無論、到底不可能である。
もし、脱出できたとしても早々に見つかって更に厳重な監視がつくかもしれない。
勘弁して欲しい。
俺はこの1ヵ月、長男として生まれたため、かな〜〜〜〜り可愛がられた。
おかげで自由な時間はなかったといってもいいだろう。
まあ特段しなければいけないことなんてない。
というより大抵のことはできない。
しかし、することが全くないわけでもない。
赤ちゃんも忙しいんだよ!
例えば、試しに歩いてみようとしてメイドのミアに立っているところを見られかけたことがあった。
生後1ヵ月以内に立つ子供など気味が悪い。
見られなくてよかったあ~!と感じている。
何はともあれ、今は自由に固執する必要はない。
普通の赤ちゃんとして生活することを心がけよう。
さて、この1ヵ月の成果を整理しようじゃないか。
結論から言うとほとんど何もない。
言葉が分からない。成果が得られにくいのは当然だ。
まず赤ん坊に情報を与える者などほとんどいないだろう。
せめて翻訳者がほしいなあ。
そんなことを考えていると家の庭で花見をすることになった。
俺は今日転生してから初めて外へ出るということだ。
正直ワクワクが止まらない。
外に出るだけだと思っているだろう?それが違うんだなぁ。
俺は転生したから赤ん坊である。故に、今から、母のエミリアに抱き抱えられるのだ。
つまり、あの豊満な胸を揉み放題!!とか、思ってないぞ!母親にそんな目は向けてないからな!
「ウヘ、デュフフ、デュフフ......!!」
赤ん坊の俺がこんな笑い方をしているのが気味悪かったのだろうか.....
メイドのミアにだいぶ侮蔑した目を向けられてしまった。
まあミアは元からこんな目線のはずだ!多分!
父のモルガンからは笑顔で話しかけられるので大丈夫だろう。
ちなみに、その笑顔は親バカ的なのにそっくりである。
ん?親バカ?親バカって冷静な目で俺のこと見れていないよなあ?
つまり、ミアの視線が本当の人々の視線ってことか?
.....いやいやいや、そんなわけない。多分。おそらく。絶対!!!
まあ親バカな人の言っている言葉はわからなくても想像できる。
「はーい。パパちゃんでちゅよ〜」
などと言っているのだろう。
想像するだけで恥ずかしい。
俺は前世で子供を作らなかった(作れなかったわけじゃないぞ!おい!)から分からないが、親ってものはみんなこうなるのだろうか。
何はともあれ、4人でしっかり花見を楽しんでいたと思う。
庭にはプロテアの花を始めとした。様々な種類の植物が植えてあった。
医大に落ちたとはいえ14浪した人の知識だ。花の名前はある程度頭に入っている。と思っていたのだが、見たことのない花が少しあった。
いや、少しではないかもしれない、半数ほどだ。
そんな様子の花見は理由は違えどみんな笑顔(ミアは時々侮蔑の視線を送ってきたが.....)だ。
天気も晴天で快調!だと思っていたのだが......花見を始めて30分後、突然雨が降り始めた。
うっわ。最悪だ。びしょ濡れじゃねえかよ。
はあ、この国にはドライヤーがないからなあ。風邪ひきそうだぜ。
俺はミアから屋根のあるところまで運んでもらえたが.....
「ウフフフ」「ハハハハ」
ん?なんで俺の両親達はこんなびしょ濡れになって笑えるんだよ。少なくとも前世では殆どの親は笑っていなかったぞ!
ああ、洗濯物が面倒だわあ。 って言っていたぞ!
まあ、国の文化もあるってことか.....
いや、それにしてもだろ!というよりどんな文化だよ!楽観的すぎる!
早くお風呂に入らせてくれぇ。寒い。凍え死んじまうよお。
あ、お風呂ないか......
お!エミリア大天使様〜!!!!!
俺の方に何か言いながら走ってきてくれている!
それにしても何を言っているんだろう?
俺やミアに話かけているのではないし、モルガンに話しかけているわけでもない。
どちらかというと暗唱しているような感じだなあ。
うお。なんだ?いきなり風が強くなった!!
ん?いや違う!周りの木々は揺れていない!!!
俺の方向にだけ風が吹いてきている!!!これは超常現象なのか!?
14回浪人した俺でもこんな現象知らないぞ!?
やはりこういう細かいことまで知らないから受験は失敗したのか.....??
いや、そんなわけない!
こんな現象起こるはずがないんだ。
風向は.....エミリアの方からだ......!!
エミリアは今も暗唱のようなものを続けている。一体何をしているんだ?
ああ、もうそんなことはいい!
エミリアが何をしているのかなんてどうでもいい!
風でもっと寒くなっちまった.....
ブルブルブルブル.....寒い..........
風邪を引いて.....
...........ん?
寒くない???なぜだ?
次の瞬間、ラーファルトは驚きのあまり動けなくなっていた。
いや、赤ん坊であるから動けないのは当然だ。
エミリアから目を離せなくなったというのが妥当だろう。
炎がエミリアの手のひらの上に浮いていた。
風が炎の熱を吸収して温風となり、ラーファルトへ当たっていた。
ラーファルトにとってこれほど混乱し、高揚した瞬間は早々見つからないだろう。
それほど、魅力的だった。
「魔術.....ここは.....異世界か何かなのか........!!」
ラーファルトがつぶやくことができたのはこの一言だけであった。
エミリアが起こしたと思われる温風で体を温めてから、ラーファルトは先ほどの出来事について考えた。
言うまでもないが、ラーファルトにとってその出来事は大きかった。
ここまでラーファルトは、自由に生きるという目標を持っていた。
だが、今すぐの実行は不必要なのである。
もちろん先延ばしにしすぎるのは前世の二の舞になるため早めに達成したいと思っている。
しかし、生後1か月なのだ。余裕はたっぷりある。
いわば、自由になりたいというのは長期目標なのだ。
だが、あの瞬間彼の短期目標は一瞬の内に決定した。
「魔術を使えるようになりたい。」
そうだ、魔術を使いたい。
それが俺の短期目標だ。
一度見せられたからにはもう忘れることができない。そんな光景だった。
無論、動揺は感じている。
今いる場所は恐らく地球ではない。
ここは異世界である。
この世界には魔術が存在している。
こんな状況に陥った時に動揺を感じないものなどいないだろう。
しかし、そのような動揺などはねのけてしまうほど興奮は止められない。
「おもしろい!」
そうだ。面白い。
自由。それは欲望の塊だ。
俺はどうなりたい?
自由になりたい。
そうだ、言いすぎだと言われるぐらい言え。
自由になりたい。
声に出すのだ。
「自由になりたい。」
目標を設定することなど容易だ。
例え頭の中で目標を立てていたって意味がない。いつまでに?具体的にどうやって?
分からないことも多いだろう。答えられないことがたくさんあるだろう。
少しずつでいい。声に出すのだ。
考えて、考えて、考えぬいた答えを叫べ。
分割していい。だが、だんだんと具体的にしていくのだ。
積み重なった己の声は必ず自身の壁となる。
それを乗り越えることが目標の達成なのだ。
面白い、知りたい。身に着けたい。
これをやりたい。あれがやりたい。そんな「何かをしたい」というものを実現していくこと。これが自由だ。
今までは「自由になりたい」だけであった。
だが、今は違う。具体的な目標ができた。
「魔術を知りたい。使いたい。」
一瞬の空白をおいて、俺は.....
「そうだ!俺は魔術を知りたい——-!!そして使いたいんだああ————!!」
一瞬の空白をおいて俺はこの世界で誰も知らないであろう言語でそう叫んだ。
これが、俺の新たな世界で自由を求める物語の第一歩。
【記録:ラーファルト・エレニア誕生から約1か月後】
ラーファルト・エレニアが魔術の存在を認識した。
このラーファルトの自由を求める行動を合図に世界の歯車は狂い始める。