第26話:努力
休息の時は過ぎ、俺たち避難隊は街へ向かっている。
まだ、名も知らぬ街へ。
何故か、女の子と手を繋いで.....
ーーー
「もう少しで街だが.....追い付かないのか?」
「ええ、連中も早めに歩いてるんでしょう。」
「早く捕らえないと怒られるぞ。」
「では、走りますか?」
「いや、体力を消耗するわけにはいかない。」
暗い服を着たその二人の男は静かに後ろから迫っていた.....
ーーー
「......」
「......」
「まだ、熱いわよ。大丈夫なの?」
一切の油断を許さない。
もし、追っ手が迫っているのならば早く街まで行かなくてはならない。
町まで行けば逃げ切るのは容易いはず。
そう、全員が考え、無言で街を目指していた。
そんな状況下でミルは俺に話しかけてきた。
「大丈夫ですよ。」
まぁ、本当は熱もあがり気味なのだが、こんな状況だ。
きついと言ったところで何も変わるわけではない。
ならば空元気でも、取り繕うことが大切だろう。
「そ、そう。ならいいわ!」
ミルと一日過ごして分かったことがある。
彼女は王宮で英才教育や王女教育というようなものを受けている。
「べ、別に頑張った訳じゃないけど魔術とか、剣術とか、礼儀とか、色々習ったわ!」
というように頑張ったアピールをしながら伝えてきた。
失礼を承知で言おう。彼女は馬鹿だ。
あの、ファルゴからは想像も出来ないような馬鹿具合だ。
だが、英才教育の賜物だろう。今は、普通の人という感じがする。
それでも、俺以上に努力していると思う。
彼女は努力が好きなのだろう。そう考えると彼女を羨ましく思う。
俺は努力が好きではない。
もちろん、俺はこの世界に来てから努力をしている。
努力すること自体は辛くないのだ。
「努力は報われる。」
とよく言うが実際はそうではない。
俺は努力はチャンスなのだと思う。
自分を変えて、報わさせるチャンスなのだと思う。
だから、報われない時もある。
ピンチはチャンスというように、チャンスもピンチだ。
努力をしてきた分、嬉しくなるチャンスが訪れる。
だが、それと同じ分の、絶望するピンチが訪れるだろう。
そこで、確実に報われ、嬉しくなる人間を秀才と呼ぶのかもしれない。
だが、俺はそうではない。掴み取れない人間だ。
掴みたいのに、あと一歩が届かない。絶望に叩き落とされる。
だから、俺は努力が嫌いだ。
「ミルは努力してきたんですね。」
思わず、口に出してしまった。
ミルの顔が赤く染まる。
「べ、別に、誰でも出来るわよ。」
彼女がツンツンするのは何度目だろうか。
俺以外の人にはそんな態度じゃないのに.....
「私ね、実は王女様なのよ!」
と言って周りを少し困らせているのに.....
俺は嫌われているのか.....?
そうしょんぼりしていると、ルイスが寄ってきた。
俺の耳元に手と口を近付ける。
「鈍感すぎだろ.....」
何が.....??
俺、そんな鈍感か?
ああ、熱か。
「安心して下さい。気づいてますので!」
「お前.....はぁ.....」
何故かため息をつかれた.....
熱はあるよ。気づいてないふりしてるだけだ。
俺は鈍感じゃない!
ぐうっ!
俺はルイスに向かって親指を立てる。
「はぁ.....」
またルイスからため息をつかれた。
ミルはそんな俺たちを不思議そうに見ていた。
ーーー
「あれが.....!!」
「ああ、あそこだよ!間違いない!」
ようやく街が見えてきた。
最も、まだもう少し時間のかかりそうな距離ではある。
だが、獣族の人も間違いなくそこだと言っている。
終わりが見えただけでも十分だ。
街に入ってからのことを考えておかなければならない。
うーむ。
まずは、宿だよなぁ。
とりあえず泊まれる宿を探す。
出来れば人口密度の高い場所だ。その方が追っ手がいたときに見つかりにくい。
全員で泊まれたらそれでいいのだが、無理ならば近い宿で別れて泊まらなければならないだろう。
まぁ、なんにせよ、泊まることさえ出来れば捕まらないと思う。
この世界には防犯カメラはないからな。
宿の次は飯だ。
所持金で買える飯の量を考えなければならない。
所持金が無くなれば暫くは狩りでやり過ごそう。
ついでに冒険者の依頼を受けるのもありだな。
飯の次はこれからのことについて考える必要があるだろう。
ルートやかかる日数、お金、交通手段。
様々な要素を用いて考えておく必要がある。
ふぅ、考えることが多いのは.....
「なんか、大変そうだな。」
俺を見てルイスが話しかけてきた。
本当にルイスは周りをよく見ていると思う。
リーダーに向いているタイプだ。
「まぁ、そうですねぇ、着いてからのことも考えないといけないので。」
「ああ、そうだな。良かったら聞かせてくれよ。負担が減るだろ。」
おお、ありがたい!
神様、仏様、ルイス様!
やっぱりこういう細かい気遣いが助けになるんだよなぁ。
「いやぁ、助かります。主に三つすることがあるのですが.....」
「なるほどなぁ。冒険者はいい案かもしれない。お金はどのみち必要だ。」
うーん。難しい。
高二の時の修学旅行の計画とは比にならない難易度だ。
まぁ、当たり前だが.....
あの頃は楽しかったなぁ。
まあ、受験に向けて勉強の必要はあったけど、まだリラックス出来ていたなぁ。
といってもその時の友達は俺のこと馬鹿にしていた疑惑があるのだが。
死ぬ直前に気付いて最悪だったぜ!
ああ、関係のない話に逸れてしまった。
真面目に考えないとなぁ。
「お金が必要なら借金すれば?」
えっ?
ミルだった。
「話を聞いていたのか?」
「うん、隣にいたしね!」
それもそうか。
他の人と喋っていた訳でもないのだから当然だ。
それにしても借金かその考えは無かった。
「案外、いいかも知れないなぁ.....」
ルイスもそう、考えている。
確かに並の人には借金は大変かもしれない。
だが、これは恐らく経費だ。
王宮で支払ってくれる可能性も高いだろう。
「ありがとな!ミル!」
「べ、別にいいわよ!」
またこの対応.....俺は悲しいよ.....
ーーー
これからのことを考えている内に街は目と鼻の先に迫っていた。
もうすぐ、リラックスできる!
「もうすぐで着きますよ!頑張りましょう!」
そう言った瞬間、大きな声が響いた。
「貴様らがラーファルト・エレニアの率いる避難隊かぁぁぉぁ!!!」
剣を抜き、迫ってきているものがいた。
影はギリギリで追い付いてしまったのだ。
追っ手の剣は既に一人へ降り下ろされそうになっている。
ラーファルトは躊躇しなかった。
覚悟していたからだ。
追っ手が来たときに避難民を守るため、全力の魔術をぶつけることを。
《ウォーターガン!》
初級水魔術。
それ故に射出が、速度が早い。
「ぬぉっ!」
キィン!
鈍い音を立てて追っ手は剣で技を弾いた。
《ビルド!》
追っ手と避難民との間に壁を立てる。
避難民を逃がす時間を作った。
この人たちに配慮している間、俺は本気を出せない。
《ムーブウインド》
俺は壁の上に移動した。
追っ手は二人か。
俺の姿を確認し、敵は動こうとした。
《ロックショット!》
もちろん、俺はその動きを封じるように魔術を放つ。
《コールドウインド!》
ロックショットで足を止めつつ、コールドウインドで更に前へ進みにくくするのだ。
敵の動きを見ながら俺は避難民へ指示を出す。
「俺が敵の足止め、撃破をします!街の方へ!」
全員が走り出した。
敵はいまだに進めずにいる。
避難民の方は安心して大丈夫だろう。
俺は敵に向き直り口を開く。
「ラスボス攻略といこうか.....!!」