第25話:守る者
「こっちで間違いないのか?」
「ええ、間違いありません。ラーファルト・エレニアはガルストへ向かっています。」
「そうか。急ぐぞ。」
ーーー
「まだ着かないのか?」
「遠いな。」
「疲れた~」
街を目指して歩き始めてから早十時間。
避難民に不満や疲労が溜まってきているようだ。
「ペース的にはどうですか?」
「悪くないにゃ。ここらで休憩してもいいと思うにゃ。」
なるほど。順調に進んでいるのか。
獣族の人がそういうなら.....
「では、皆さん。ここら辺で休憩にしましょう。」
やはり休息は大切だからな。
《ビルド》
技巧級土魔術で簡易的な建物を作る。
今日はここで寝泊まりだ。
最も、俺は護衛。すなわち見回りをしなければならない.....
「いやーやっと少しゆっくりできる。」
「安心だあ〜!!」
そんな声を聞くと俺も嬉しくなってくる。
だが、油断はできない。
気を引き締めておかなければ.....
ーーー
夜になり、殆どの者は寝静まった。
俺はというと、外の焚き火の近くで見張りをしている。
一応、熱があるんだけれどなあ。
体調は早めに直したい。
「よっ!」
「痛いっ!」
突然後ろから背中を叩かれた。
「驚いたか?」
「驚いたかじゃありません!何するんですか!?」
ニヤニヤと笑ったルイスがそこに立っていた。
「叩いただけだが?」
こいつ.....イラつくぅ.....
「お前見張りだろ?これぐらい気付けよ。」
…..確かに。
そう言われると反論出来ない。
「はぁ。お前体調悪いだろ?」
体調は.....悪い.....
だけどなぁ.....
「いや、そこまでですよ。」
心配をかけるわけにもいかない。
護衛として頑張らないといけない。
とりあえず、明日街まで行く。
一息つくならばそこだ。
それまでは集中を切らさない。
「そうか。まぁ、無理はするなよ。」
「はい。」
「今、嘘ついたな。」
「.....⁇ついてませんよ。」
嘘はついていないと思う。
俺だって無理はしたく無い。それにしているつもりもない。
「いや、無意識の内についてるはずだ。疲れ切った顔だしな。」
「それはそうですが、疲れているのは皆同じですから。」
「そうだな。だけど、きつい時は頼れよ。これでも剣士だからな。」
剣士!?
もっと早く言ってくれたら加勢をお願いしたのに!
「悪かったよ。言ってなくて。タイミングが無かったんだ。」
俺の顔を見て察したようだ。
感情が表情に出るって良くないなぁ.....
「良いですよ。死んだわけでもないですし。どのくらいの実力なんですか?」
「大した実力じゃない。期待しないでくれ。」
ん?そういえば、魔術を使ってたと思うが.....
「魔術使ってませんでした?」
「ああ、クリス流の一環で、少しかじった程度だよ。」
ほお、かじった程度であれは期待できるかもな。
それにしても剣士かぁ。
俺の剣の師範は主に二人だ。
父のモルガン・エレニアと宮廷軍隊長のフリード・カール
彼らとの稽古を思い出すと沢山の痛みが蘇ってくる......
ーーー
「いてっ!」
モルガンは稽古のとき手加減をしなかった。
いや、俺が弱すぎてそう感じたのかもしれない。
だが、実際、打たれた所は痛かった。
「師範!なんで、そんなに強くするんですか!」
「お?知りたいか?」
モルガンはいつもこの調子だ。何かある度に茶化す感じになる。
「まぁ、なんだ。大人になったら分かるよ。」
大人になったらって.....
俺の方が前世との合計年齢は上なんだが?
そう、ふて腐れた俺を見てモルガンは真面目な表情になった。
「俺にはな剣士って何かを考えるときがある。」
剣士とは何か。
剣を使える人。
そうではないのだろうか?
そんな俺の考えはモルガンの言葉によって一蹴された。
「俺はな剣を使うことのできるだけでは剣士ではないと思う。」
「どうしてですか?」
今思えば、彼が師範として最も立派だったのはこの時だ。
「お前が自由を求める理由と同じだ。」
ーーー
彼は理由をあの日、誤魔化した。
なぜかは分からなかった。
それは今も同じだ。
だが、その答えに少し近づいた日がある。
カールとの初めての特訓の日だ。
ーーー
「うりゃああ!」
パアン!
木剣の当たる音が響く。
「うむ。悪くない。」
カールがそう俺を評価した。
当然だ。
モルガンとの特訓で全ての流派を上級まで上げた。
年齢の割にはいい腕だ。
「時に、ラーファルト。お前に一つ聞きたいことがある。」
「何でしょうか?」
カールから聞かれることなどあるだろうか。
モルガンが何か言ったのだろうか。
「お前はなぜ剣術を習う?」
俺が剣術を習う理由.....
言われてみれば考えたことが無かった。
成り行きでやっている分もあるかもしれない。
だが、拒絶はできた。
それでもやっている理由。
「守りたいからですかね。」
「では、何をなぜ守る?」
何を、なぜ。
うーん。
「守ることに理由はいりますか?」
俺はそう答える。
「.....!!??お前は答えを知ってたのか.....」
なぜかカールがやるなぁという顔をした。
答えを知っていたの?
カンニングなんてしていないのですが.....
と思ったが言っても面倒くさいことになりそうなので、
「あはは、ええ、まぁ。」
と答えておく。
最後に、カールが神妙な面持ちで話を締めた。
「ラーファルト。肝に命じておけ。守る者は強い。」
と。
ーーー
その時の俺は少し馬鹿だったかもしれない。
守る人は当然強い人だろう。
そう思っていた。
だが、今は違う。
護衛として避難民を守っている。
俺は強いのだろうか?
怪我もしたしミスもした。
だが、必ず切り抜けた。
守る者は強い。
ありふれた言葉だ。
だが、力の根源でもあるのだろう。
俺は弱いやつだ。
すぐに、ミスをして、一人ではどうしようもない。
ダメなやつだ。
だが、そんな俺を強くしてくれる。
届かない一歩を踏み出させてくれる。
それが、守る対象なのだろう。
剣士が何かは分からない。
だが、守る者は強い。
例え剣士でもそうでなくともだ。
できる人が守るのだと。
カールは始めに教えてくれたのだろう。
剣術の心構えを。そして、人間としての心構えを。
「期待していますよ。」
俺はルイスにそう伝えた。
「だから期待するなって!」
自身を下に下げる彼に俺は心の中で伝える。
ルイス。それでも俺は君には期待しておく。
なぜなら、君は守ろうとしてくれているのだから。
俺を。
守ろうとしている。
守る者は強いのだから。