第24話:あつい
避難隊は東に進んでいく。
無論、ミルが俺と手をつないでいる。殴られたくない.....
ただでさえ熱があって体調が悪いのだ。無理はしたくない。
「あの、どのくらい進んだら街につきそうなんですか?」
俺は先ほど東から街のにおいがすると言った人に聞いた。
「うーん。一日半くらいかにゃ。二日はかからないと思うにゃ。」
結構遠い.....
道中で一度食料を調達する必要がありそうだ。
「ら、ラーファルト!あ、あついわ!」
ミルが突然そんなことを言ってきた。
全く、今の子供はそんなことも我慢できないのか?
それとも王宮で育ったため我がままなのだろうか。
暑いといわれたって対処のしようがないだろうが!!!
「あのね、ミル。暑いといわれたってどうしようもないんですよ!お願いですから我慢していてください!」
少しはこれでわがままを言わないようになるだろうか。
「ら、ラーファルト?何を言ってるの?」
これでも分からないのか!?
結構強めに言ったつもりだったのだが、これでもわがままをやめないという事か!?
「だから、わがままをやめて下さいと言っているんですよ。」
「わ、わがまま?いつ私がそんなこと言ったのよ!!」
自覚症状なしいいいいい!!??
そんなに王宮では好き勝手に振舞っていたのですか!?
「あ、暑いわ。というのは暑すぎる!助けてっていう意味ですよね!?わがまま以外の何だっていうんですか!?」
「えっ?」
ミルが意味が分からないという顔をした。
「えっ?」
とりあえず俺もそんな顔をしておこう。
「そ、その私は、ら、ラーファルトが熱いって言ったのよ!!」
えっ?俺が熱い.....
確かに熱はあるもんな.....つまりそれって.....
「ということはミル、僕のことをしんp.....うぎゃ!」
「べ、別に心配してるとかじゃないからね!!」
また、殴られた.....なんで.....?理不尽だ.....
「ら、ラーファルト、だ、大丈夫?」
お前が殴っただろうが!!
と言いたいところだが、可愛いから許してあげるとしよう。
元々、俺の勘違いから始まったことだしな。
「はい。大丈夫ですよ。」
「そう。ならいいわ!」
良くないわ!!!
その時、大きな声が響いた。
「魔物だあああああ!!!!」
魔物!
「戦えないものは僕の後ろへ!戦えるものは遠いところから援護をお願いします!」
俺は魔物の出た方向へ走り出す。
ミルの手を振り切ってしまったが致し方ないだろう。
魔物の姿が見えた。
距離はおよそ30メートルといったところだろうか。
《ロックショット!》
上級土魔術を放った。
上級や初段の魔術はコスパよく威力の高い魔術を放つことができる。
そのため防御はしにくい。
だが、回避は容易。
魔術の正確性が下がるからだ。
特に対人戦では回避される回数が多い。
魔物と戦う時も他の魔術より回避されやすいが今回は.....
キュエエエエエン!!!
魔物が叫んで飛び上がった。
回避できるタイプの奴か!
こいつは本で見たことがある。確か「スコーピオン」だ。
いわゆるさそりだな。
最も、巨大化している。
この世界は蟻と言い、イノシシといい巨大化するものが多いな。
「さて、どう仕留めるか。」
出来れば食料にしたい。拘束を優先するか。
キュエエエエエ!!!
スコーピオンが突進をしてくる。
まずは.....体勢を崩す!
《アンダーフローズン!》
スコーピオンの足元を凍らせた。
これで.....
キュエエエア!!
滑る!
次は.....体勢を崩したところを拘束する!
《バブル!》
上段水魔術だ。
水の中に敵を捕らえる魔術。
水の表面は弾性を持たせているため、かなりとがったものを持っていないこれは限り破れない!
プシャアアア!
破られた。
なぜ破られた?
ああ、毒”針”か.....
結構簡単な答えだった。
キュエエエエエン!
刹那、スコーピオンが尻尾を使って飛び上がる。
俺の頭上を飛び越して後ろへ......
後ろはまずい.....!!避難民が....!!
「大いなる力を与えし宙を舞う者よ。颯爽と今、目の前に現れさらなる恵みを与えたまえ。」
《スコール》
突風が吹いた。
スコーピオンが逆方向へ飛んでいく。
こんな巨体は一人の魔術では押し戻せないことが多い。
かなりの実力者なんだろうな。
「ラーファルト!後は任せるぞ!」
ルイスがそう俺に声をかけた。
「早く倒せよ!」
「ミンチにしてやれ!」
「あんな縦歩き蟹野郎はやく潰せ!」
「ご飯にしてやれ!」
次々と俺に声がかかる。
なんだか応援されるのはいい気分だ。
アスリートがアウェーよりホームの方が良いと思う気持ちはこんなものだったのか。
キュアアアアアア!!!
どうやら怒っているようだ。
しっかり突進してきた。
だが、先ほどの突進と違う。横にも動いている、
同じ手は食らわないという事か!回避されそうだ。
ならば.....!!
《ブロードフレイム!》
広範囲への炎の攻撃だ。
これで威嚇して足を止める!
というつもりだったのだが、止まらない.....
炎が怖くないのだろうか.....
「ラーファルト!」
ミルの声がした。
「が、頑張って.....」
おや。素直に応援を.....
「.....なんて思ってないんだからね!」
してくれないかあ.....
さて、どうしようか.....確実に倒せる手が一つある。
だが、それはなあ.....
「ミル!」
「ど、どうしたの!!」
「お腹すいてるか?」
「急に何よ!お腹すいてなんかいないんだからね!」
なるほど。お腹がすいていることが凄く分かった。
なら、大丈夫だろう。
《ウインドロード!》
この魔術に前から発動していた「ブロードフレイム」を載せる!
風の道に炎を載せて一点に集中する。
そうこれは.....
《混魔術:火炎放射》
スコーピオンはちょうどいい具合に焼きあがった。
さて食べるとしよう。
「おいしい!意外といけるものなんだなあ。」
俺たちは今、百人以上で巨大なスコーピオンにかじりついている。
傍から見ればただの異常者だが、非常事態にそんなことは言っていられない。
「ミル。おいしいですか?」
「お、おいしいだなんて、も、もっと食べたいだなんて思っていないんだからね!」
「フゴォ!」
なぜか殴られた.....やはり理不尽だ......
「ミル。人を殴ってはいけないぞ。」
傍で俺たちを見ていたルイスが注意をしてくれた。
「そうね、分かったわ。」
ルイスには素直!!??
「分かったら謝るんだな。」
「そ、そうね!」
やっぱり素直!!??
「ご、ごめ......ごめんなんて思ってないんだからね!!」
........この........この
この金髪ツインテールツンツン野郎.......!!!!!!
俺以外には素直な癖に.....!!俺はなめられているのか!?
許さねえ......王家の人間じゃなかったら殴ってるぞ!
俺も処刑されたくないから殴らないけど!
むかつくううううう!!!!!
怒ったら頭に血がのぼってしまった気がする。
熱も少し上がっただろうな。戦闘もしたし......
ああ、早く街に着きたい.......
ミルは密かにそんなラーファルトを心配して見るのであった。