第19話:牢屋で
「入れ。」
俺たちは大人しく従う。
ガチャン.....
牢屋の鍵が閉められた。
ジャック王国に捕まった俺たちの避難隊は全員が同じ牢屋に入れられた。
かなり狭い。
この世界に人権はないのか?
いや、人以外の種族もいるから動物愛護法?
いや、でも俺は人間だし.....
「俺たち.....大丈夫なのか.....」
「終わった....もう帰れない....」
「誰か助けて.....」
そんな声が聞こえてきた。
人権とか動物愛護法とか考えている場合ではないな.....
捕まってしまった以上、宮廷魔法使いとしての仕事は遂行できていないが、最低限この人達を安心させなければならない。
生かして逃がさなければならないのだ。
よし。笑顔を作って...
「大丈夫ですよ。必ず私が皆さんを逃がしますから。」
「うるせぇぞ、こらぁ!!」
看守から怒号という名の返事が返って来た。
お前に言ったわけじゃねえんだから黙ってろ!
お前の方がうるさいだろ!
見ろよ。お前のせいで不安の色が広がってしまったじゃないか。
せっかく頑張って笑顔で言ったのに。
まあ、捕まったのは俺の責任だ。
仕方ない。
俺がこの人達を安全に逃がす。
それが、俺の今の使命だ。
「あ、あの。」
ふと、後ろから声が聞こえてきた。
見るとそこには一人の少女が立っていた。
孤児なのだろうか?親が見当たらない。
それにしてもどこかで見たような.....
「どうかしましたか?何でも言ってください。」
「あ、あの。さ、さっきはごめんなさい.....」
さっき....?いつの話だ?
「私のせいでみんな捕まっちゃって.....」
ああ、この子は敵に人質にされた少女か。
分からなかった。
少女ってみんな顔が同じに見えるんだ!
仕方ないじゃないか!!!
いや、仕方なくないのか?俺がおかしいのか?
いや、少女はみんな同じように見える!っていうことにしておこう。
いかん、彼女を慰めてあげないと今にも泣きそうだ。
「大丈夫ですよ。私の注意不足でしたから君のせいではありません。名前を教えてくれますか?」
「み、ミル・ルインド。」
「良い名前ですね。年齢を聞いても良いですか?」
「じ、十歳。」
「私より年上なんですね。どおりで大人っぽいです。敵にナイフを向けられても自分の心配ではなく、他人の心配を出来るなんて尊敬です。」
俺は笑顔でそう言った。
「そ、それはお父さんが.....そうやりなさいって。」
彼女が顔を赤くしながらそう答える。
てかそれどんなお父さんだよ。
信じられねぇ。
なんでナイフ向けられた話してるんだよ。
だけど、それにしても凄い子だ。
十歳で、ナイフを向けられても泣き叫ばないなんて。
俺なんて怖くてお漏らしするかもしれない。
いや、今はしないが、昔なら可能性はあるだろうな。
ミル・ルインド。
肝の据わっているこど.....
ん?
ルインド?
王国の名前はルインド王国。
ファルゴのフルネームはファルゴ・ルインド。
そういえば、ファイディン陛下が命令のとき、
「お前に、避難民の護衛を頼みたい。中には王族が一人いる。いけるか?」
って言っていたなぁ。
んー。えー。あーーーー......
うわぁぁぁぁぁぁぁ。
これはやらかした。
絶対にこの子は死守しないと。
「あの、ミルさん。あなたのことは絶対に守りますからね。」
みんな守るけれど、この子だけは......!!!
特別視はよくないって聞くけど王族は別だろ!
「ん?あ、はい。お願いします!」
少し困惑しながらも受け入れるミルであった。
それにしても見たことあるなーと思った理由が分かった。
ファルゴに似ている。
まるで、彼が女装して、ロリになったようだ。
って想像したくない!
ファルゴのロリ女装.....
よ、よし!気を取り直してとりあえず状況を整理しよう。
今、俺たちがいるのはジャック王国の牢屋。
具体的な位置は分からない。
目隠しをして歩かされたからな。
そしてこの牢屋にいるのは避難民百人以上。
子どもも多数いる。
内一人は王族、ミル・ルインドだ。
つまり、スピード勝負で逃げるのは不可能に近い。
そして衛兵はかなり多くいそうだ。
少し見ただけで十人はいるだろう。
なんとかなりそうだが援軍が怖い。
正直、かなり不利だ。
俺が頑張って時間を稼ぐしかないだろう。
よし、整理できた。
それじゃあ脱走の計画を伝えようかな.....
「ラーファルト・エレニア。牢屋を出ろ。取り調べだ。」
ああ.....なんだか面倒臭そうなものが始まった。
俺はお前らに情報なんて渡さないぜ?
俺は転生漫画の主人公を意識した顔を作って口を開いた。
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「なんですか?心理戦でも始めますか?」