第209話:鉄格子と人々
「うおっと.....」
地面に倒れている警備の人を踏みつけそうになり慌ててかわした。
本当に今まで通ってきた道に意識のあった人はいない。
「サナ、だいぶ派手にやったな.....」
「ん?何が?」
「.....いや、いいや。大丈夫。」
自分では理解していないだろうけど、やはりこれだけの正確性.....敵の動きの予測もしながら攻撃しないと無理だろう。
俺は魔力探知に頼っている分、サナよりもこういう地力の予測精度は負けているんだろうな.....
とラーファルトは考えるが、この精度と己の精度を比べられる時点でおかしいのである。
サナはラーファルトという規格外の存在のせいで気がついていないが、かなりの才覚を持った魔術師に既に成長、完成している。
実際、ラーファルトもサナの魔術師としての有能さについては理解している。
それこそ、今まで出会った魔術師でサナに対抗出来るのはフィックス先生ぐらいだと.....
『そのまま直進.....もうすぐ牢屋があります。』
了解。
「サナ。スピードあげるよ?」
「え、う、うん!」
《ムーブドウインド》
「ちょ、はや!」
とサナは混乱しながら呟く。
ムーブドウインドという魔術は普通、常時の移動に使うものではないし、こんなスピードは出ない。
ただ、
「ま、こんなもんか.....ラーフだし.....」
最初こそ混乱はしたものの、すぐにそう考え直す。
ラーファルトの異様な才能は既に腐るほど見てきたサナにとって、これは日常の一種なのだ。
「ラーフ.....」
「うん。」
十数秒進んで、サナはラーファルトの名前を呼んだ。
二人の視線は、左右に広がる、鉄格子と、その中の人々に注がれていた。
ーーー
「ガルス流霜凪」
《霞捌》
ミアの放ったその技は、迫る敵の死角、正面と不規則な技の出で敵を翻弄する。
前にいると思った敵が、横、後ろ、と移動してくるのだ。
たまったものではない。
家の外に配置されている衛兵はそこまで強い人ではない。
家の中の衛兵は長年、この魔神聖の館の警備に従事し、信頼を勝ち取った者が任せられることが殆どだ。
そして、戦いというものは経験が長いほど強い。
体の衰えもあるが、研鑽を積むことでそれを極限まで減らし、己の知恵と経験が更なる強さを引き出す。
己の得意な勝利パターンにいかに敵の動きを誘導できるかが重要なのである。
「あまり、苦戦するものではないですね.....」
とミアが言う。
確かにシーアやルアが戦っても苦戦する相手ではない。
ただ、こんな遊ぶようにあしらうなんてことはまだ出来ないだろう。
彼女らは戦う強さと攻める強さは知っている。
ただ、彼女らは、敵の攻撃を待つ強さをまだ充分に知らない。
その加減は、経験からくる物だからだ。
「.....敵が減ったわね。」
「倒したのもあるかと思いますが、正規のルートから地下の応援に行ったのでしょう。」
シーアたちのいるのはラーファルトが無理やり地面から地下へこじ開けた穴の外だ。
そこから敵を入れないための時間稼ぎ.....
「ここからが地下は正念場.....」
そうルアは呟いていた。




