The other side:フィックス先生の旅⓷
「本当にありがとうございました.....!!」
「いえ。当然のことをしたまでですから。」
村までリリーを連れていけば、そこには心配をして子供を探す親の姿があった。
子供ってのは、時に親の想像も超える行動を起こす。
いや、常に想像を超えてくるからこそ、その行動に振りかかる危険から守るために親というものは不可欠なのだろう。
そして、その背中を見て子供は成長するのだろう。
「では、ここら辺で失礼します。」
「あ、あの。おじいさん。」
「あ、ありがとう、ご、ござい、ました。」
そう照れるような表情でお礼を子供らしく伝えてくる。
不器用で、ただ、真っ直ぐな口調だ。
その純粋さと言ったら子供そのもので、世間というものをまるで分かっていない。
ただ、それだけに愛おしい存在に感じる。
なぜだか、弟子を思い出す。
ラーフを思い出す。
自由を探したいという彼の言葉が忘れられない。
彼の疑問はとても大人びているようで子供っぽい。
そんなの、考えることなく一生を終える人だっているだろう。
その、人によっては簡単で、人によっては難しい疑問に人生をかけて挑もうとする彼の純粋さが思い出された。
そして、彼は知っていた。目的のためには力が必要なのだと。
「水の神よ。我の通る道を作る礎となりたまえ!」
《アイスフィールディング》
短縮詠唱でフィックスはその魔術を発動する。
彼の近くは氷の世界に包まれる。
太陽の光を反射するその世界。氷の世界はどこか、綺麗で、人を魅了する。
リリーもその一人だ。
「何かを成し遂げるためには、力が必要です。やりたいことのために、これからは力をつけて、そして、今日の様な小さな、とても小さな冒険を積み重ねてくださいね。」
「は、はい.....!!」
フィックスの作った氷は今にも溶け出しそうだ。
「では.....」
その氷が溶け出す前に、彼はもう旅立っていた。
ーーー
夢を見ていた。
故郷の夢だ。
そこは、小さな集落で、大きな力を持つ者もいない村で、いわば、田舎だった。
そして、その場所は魔物が良く出る村だった。
その魔物に良く、苦しめられ、死人の出るような村だった。
この夢は、俺の両親が魔物に殺された時の夢だ。
ガルルルル.....!!
そう、唸る音で目が覚めた。
「と、父さん.....??」
両親の寝室からするその唸り声に不安と恐怖を感じながらドアを開ければそこには一匹の狼の魔物がいた。
首のない父の死体と、引っ掻かれた跡のある母が転がっていた。
母はまだ、息があった。
「に、逃げて.....」
その声と共に俺は走り出した。
「あ、あああああああ.....!!」
と、振り絞る様な母の声を背に聞きながら俺は走っていた。
「た、助けて!!い、家に魔物、魔物が!!」
「.....!!すぐに兵を向かわせろ!大丈夫だからな。」
もう、大丈夫じゃないことを俺は知っている。
そして、多分、この人も分かっていただろう。
この村に駐在する兵士。彼は大丈夫だと言っていた。でも、多分、大丈夫じゃないことなど、彼はとっくに知っていたのだ。
そんな、表情をしていた。
ーーー
「大丈夫。私がいるから。」
突如として、場面は切り替わる。
夢だからだ。ただ、目は覚めない。
この後の出来事を知っている筈なのに、それが思い出されるのはきまって事が起こってからだ。
これが、夢であると同時に記憶だからだろう。
両親を亡くした俺は、村長の家に引き取られた。
村長の娘.....アーナとは元から仲が良くて、遊んでいた。
この村はそんなに大きくない。故に子供も少なく、同じ年齢ぐらいだったのはアーナだけだったからだ。
そんな彼女にかけられた言葉.....大丈夫。私がいるから。
どうして、今まで忘れていたのだろう。
そう思った。
ーーー
目が覚めた。
何がきっかけで、この夢を見たのだろうな.....
俺の原点。俺の.....故郷。
どうして、今まで帰らなかったのだろうか。
「久しぶりに行ってみるのも良いかもしれないな。」
そう呟いて、彼は、彼の始まりの地へ歩き出した。




