The other side:戦争の始まりで
私の名前はサナ。サナ・ラスファント。
ルインド王国の辺境の村に住んでいる。ジャック王国との国境沿いに位置する村だ。
私は今、魔術の特訓に夢中になっている。
もちろん、理由はあの人。
大人びていて、私とは比べ物にならない程優秀な人。
ラーファルト・エレニア。
彼はその優秀さが認められ宮廷魔法使いとして、三年間雇われることとなった。
私はそんな彼に以前甘えていた。
私の夢は、ラーフのような人になることだ。
だが、ラーフの近くにいると彼に甘えてしまう。
彼がこの村からいなくなって寂しかった。
でも、その寂しさを乗り越えて、前向きに考えて生活を送った。
ラーフがいなくなったから家庭教師も雇った。
そのお陰で私も魔術師として成長をしていると感じる。
ラーフがそばにいると成長できない
私がかつて感じたことは間違っていなかったようだ。
辛かった別れも必要なものだったと実感できる。
彼がいなくなって二年半が経過している。
あと半年。
半年で彼はこの村に帰ってくるはずだ。
もうすぐ彼に私の成長を見てもらえる。
楽しみでならない。
成長した私の姿を見て驚く彼の顔を早く見たい。
その瞬間のために私は今日も努力する。
「はぁ~。」
いつものように日記を書いた私は背伸びをした。
私の日記の半分以上はラーフへの思いかもしれない。
「ラーフ、元気にしてるかなあ。」
家の窓から空を見る。
雲が空を覆いつくしていた。
「こんにちは~!」
私の日課は日記を書くことともう一つある。
モルガンさんの家へ行くことだ。
モルガンさんはこの村の若村長で、ラーフのお父さんだ。
剣士としての腕も中々良い。
「あっ!サナちゃん!こんにちは!」
モルガンさんの妻、エミリアさんが出迎えてくれた。
「こんにちはー!今日もよろしくお願いします!」
「おっ!もう来たのか。早いな。」
そうやって家の奥からモルガンさんが姿を見せた。
彼は腰に剣を付け、魔物と戦える服装をしている。
私の日課はモルガンさんの家に行くことと言ったが語弊があったかもしれない。
正確にはモルガンさんを呼びに行くことだ。
「それじゃあ今日も行くか。」
「はいっ!」
そうして、私達二人は外へ出掛ける。
狩りをしに行くのだ。
狩りは経験を積むためにはよい方法だ。
危険な魔物との戦闘は少なく、比較的安全だ。その上、食材も手に入る。
しかし、流石に子ども一人でというわけにはいかない。
だからモルガンさんに一緒に行ってもらうようにお願いしている。
狩りをするために森までいつも歩いている。
そこでは他愛もない話をしている。
例えばラーフから送られてきた手紙の話だ。
彼は王様と仲良くなったとか、強い剣士がいたとかいう内容を書いていたらしい。
モルガンさんによると私のことも気にかけてくれていたとのことだ。
「よし、着いたな。」
大体一つか二つの話題を話終えると森に着く。
ここからは戦闘に集中だ。
「いたぞ。」
十分程で今日の獲物を発見できた。五匹の群れである。
「じゃあ今日もいつも通り俺が前に出てサナちゃんが援護で。」
「はいっ。」
魔物からの奇襲以外はいつもこの確認をして戦闘に入る。
「よし、行くぞ!」
そう言ってモルガンさんが前に出た。
「うおおおおおおおおお!!!」
雄叫びをあげながら獲物を斬りつけにいった。
途中で一匹以外は気付き回避行動に移る。
ウオオオオオオオン!
気付くのが遅かった一匹が仕留められた。
もちろん残りの四匹は反撃をしてくる。
回避後すぐ、同時にモルガンさんに襲いかかった。
モルガンさんはまだ体勢を整えていない。
だからここが私の仕事だ。
「岩を形成する女神よ、我が前にその力を見せ、さらに敵の脅威なる姿を顕現し我が戦場に勝利の印を刻みたまえ」
《ロックショット》
ブシャ!!
私の放ったロックショットは二匹の獲物の脳天を順番に捉えた。
倒しきる所まではいかなくとも残り二匹にも攻撃はあてた。
キュアラアアアアン!
しかし、敵は怯んでいない。
残り二匹が私に襲いかかってきた。
私は魔術師だ。とっさの攻撃はできない。
だが、そのためについてきてもらっている人がいる。
「ガリス流龍」
《二連斬》
モルガンさんが二連撃を繰り出し、獲物は倒された。
次の瞬間私は咄嗟に叫んでいた。
「後ろ!危ない!」
私の言葉によってモルガンさんが回避をする。
モルガンさんがいた場所には敵の攻撃がきた。
新たな魔物だ。
戦闘音につられてやって来たのだろう。
ガオオオオオオオン!
唸り声をあげながら魔物はモルガンさんに襲いかかった。
モルガンさんはそんな魔物を鋭い目で睨み付けながら今一度剣を握り直す。
「アリス流主技」
《懐流》
先程の攻撃とは違う流派の技だ。
モルガンさんは相手の攻撃を剣で受け流して懐へ潜り込み、そのまま一刀両断にした。
「す、すごい!」
こういうところで剣士と魔術師の違いを見せつけられる。
私は今みたいな奇襲で攻撃を繰り出せない。
詠唱が追い付かないのだ。
ラーフみたいに無詠唱魔術が使えたらなあと思ってしまう。
「おいおい!!」
そんなことを考えているとモルガンさんが話しかけてきた。
「後ろ、危ないってなんで気付いたんだ!?」
そういえば、あの時.....何でだろう。
ただ、危ない気がしたのだ。魔物の姿が見えていた訳ではない気がする。
「なんででしょうね。多分、たまたまです。反射?みたいな。」
「分からないのか?まあ、なんにせよ助かった。ありがとう。」
なぜ危ないと思ったのかは分からない。
でも、感謝されるのは悪い気はしない。
いつか、今日の体験をいかせたらいい。
そう思い、帰路についた。
ーーー
その日の夜は寝心地が良かった。
モルガンさんから感謝されて気分が良かった。
だが、その気分は一瞬にして壊された。
ドオオオオン!
大きな音がした。
驚いて外を見ると隣の家が燃えていた。
何が起こっているんだ?
ドオオオオオン!
また大きな音がした。
私は怖くなって両親の所へ行こうとした。
しかし、その必要はなかった。
部屋に両親が飛び込んできたからだ。
「おとお...」
「サナ!逃げるぞ!」
「え、う、うん。」
私は訳もわからず家を飛び出した。
周りは火の海となっていた。
どうしようかと逃げる方向を考えていた。
「おーい!サナちゃん達!」
モルガンさん達の一家が走って来た。
「戦争が始まった。ジャック王国の者達だ。」
「国境が近いだけで攻め来たのか.....こんな小さな村を.....」
お父さんとモルガンさんがそうやって話している。
「とにかく、早く逃げよう。」
話はまとまったようだ。
次の瞬間、私はモルガンさんを押し倒していた。
「な、何をするんだ!」
そうやって反論しされた直後、私の上を魔術が通過した。
「い、今のは......」
そこにいる誰しもが驚いていた。
い、今のは何だ?
なぜかは分からないけれど、そうするべきだと感じたのだ。
「ほう、やるな小娘。」
声の方向を見ると敵の軍勢が迫ってきていた。
「お前ら!何が目的だ!」
お父さんがそう叫んだ。
「目的?そんなもん国のお偉いさんしか知らねえよ。これは戦争なんだ。俺だってやりたかねえさ。だが、やらなきゃやられる。それが戦争だろう?自由な決定権なんて俺たちにゃないのさ。」
敵の隊長と思わしき人物が今の状況を悲観するようにそう言った。
正論だ。こいつらは悪いかもしれない。
だが、こいつらはを倒したところでほとんど意味はない。
戦争とはそういうものだ。
ラーフの夢の自由に生きることとは真逆のことなのだ。
「お前らやっちまえ!」
敵が突撃をしてきた。
「くそ、やるしかない。」
そうしてモルガンさんが一人、剣を構えた。
「お前たち!死ぬ気で逃げろ!」
モルガンさんのその言葉を受けて私達は走り出した。
火の海を走る。
逃げ惑う。
生き延びる希望を持って走り続けた。
だが、現実はそう甘くなかった。
どこへ行っても火や軍勢に邪魔をされた。
火の勢いは強すぎて、私の水魔術では止まらなかった。
軍勢にはとても立ち向かえるわけがない。
結局、はじめの場所に戻ってきていた。
30分は走り続けていただろう。
だが、モルガンさんはまだ戦い続けていた。
まだ、剣を振るっていた。傷だらけになりながらも敵を食い止めていた。
だが、希望はすぐに消え去った。
ドサッ
「はあ、はあ。」
モルガンさんが倒れた。とっくに限界を超えているはずなのだから当たり前だ。
終わりだな。
そう感じて今までの人生を振り返った。
いつも最初に浮かんでくるのはラーフとの思い出だ。
ふと、ラーフなら今どうするかと考えた。
私の夢はラーフのようになることだ。
彼なら今、どんな行動をとっているだろう。
答えはすぐに出た。
彼ならば戦っている。
自分にとって大切な人を守るために戦っている。
例え、結果や戦力差がどうであれ戦っているだろう。
それに気付いた瞬間、私は走り出した。
「さ、サナ!」
両親が止めようとしたが私は足を動かし続けた。
「大地から湧き出る大河となる熱よ。その聖霊よ。我が手にその熱をもたらし、相手の手札を溶かすほどの強大な力を分け与えん!熱よ!相手の防御を打ち砕く、最大の鉾となれ!ああ、神よ。その熱を線として、放出し、世界の敵を溶かし尽くせ!!!」
あれはいつの日だっただろうか。
ラーフは私にこの魔術を見せてくれた。
自分の最大火力の魔術を見せてあげると言っていた。
「綺麗....」
その技は綺麗だった。
花火のような綺麗さ。そしてしっかりとした威力もあった。
ずっと私の頭に残っていたこの魔術。
初めて使用する。
でも、今はこれしか残っていない。
決めるしかない!
《マグウィップ!!》
あの日を彷彿とさせる光景だった。
綺麗な魔術だ。改めてそう思う。
成功した。
技巧級火魔術だ。
私は技巧級火魔術師になった。
だが、そんなことを考えている場合ではない。
今にもモルガンさんに止めをさそうとしている人がいた。
ごめんなさい。
謝りながらその人へ魔術を放った。
威力は凄まじかった。
おそらく即死だ。
やらなければやられる。
ごめんなさい。
そう思いながら敵の軍勢を攻撃する。反撃などはさせない。
敵の戦意が喪失し始めたとき私は一人の男を見た。
不適な笑みを浮かべる男を.....
番外編どうでしたでしょうか?
サナの運命はいずれ本編で明かされるのか?
ブックマークなどをしていただけると幸いです!
これからの展開にご期待ください!
次回:第三章開幕!お楽しみに!