表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/163

第18話:波乱

 「ファルゴ・ルインド」

 第十五代ルインド王国国王。魔力探知について研究し、形にした。


 そんな功績を残している人と違って前世で十四回浪人した男。


 それが俺。ラーファルト・エレニアだ。


 二年半もの間、経験を積むために宮廷魔法使いとなった。


 任務は大変なものが多い。


 例を挙げるとしよう。

 一番大きなものとしてはファルゴ国王の暗殺阻止。


 一番小さなものとしては生活品の買い出し。


 そんな感じだ。まあ半分ほどは魔物の討伐に出向く。


 ここ最近で面倒くさかったのは巨大プラナリア(正式名:アルターエゴ)だ。


 切っても切ってもすぐに再生して復活しやがる。


 それもどんどん数が増えるし.....


 結局ああいう奴は消し炭にしてやるのが一番早い。


 まあ、その任務の難しい点は森林火災を起こさないように気を付ける点だったな。


 そんな感じでこの二年半、俺は忙しい日々を送ってきた。


 俺の目的は成長することだ。


 だから休みの日のほとんどすべてを王宮図書館へ通い、特訓に費やしている。王宮図書館にはここでしか学べないような知識の書いてある文献が多数ある。


 その成果として、基礎四種(火・水・土・風)魔術を上段まで使用できるようになった。


 そして更に、土の技巧級魔術も習得した。


 こうして俺は「技巧級二種魔術師」となったのである。


 我ながら頑張っていると思う。着実に成長している。


 剣術の腕も上達した。


 カールから習うガルス流を中心にすべての流派を大人と同じように使うことができるレベルだ。


 鍛錬を怠らなければそこら辺の者に負けることはそうそうないだろう。


 ガルス流が一歩他の剣術よりリードしているといえる。


 ただ.....!!!俺はクリス流を得意にしたいんだけどなあ.....



 さて、自分語りはこのぐらいにしておいて家族の話をしよう。


 俺の父、「モルガン・エレニア」から送られてきた手紙によると、三つ子の子供たちは元気に成長しているようだ。


 三つ子なんて育児がさぞ大変だろう。


 村の人達との関係も良好だそうだ。あの頃と変わらない平和な村なのだろう。


 そういえば、サナのことも書いてあった。彼女は今も魔術の特訓を頑張っているとのことだ。


 そういうことを聞くと、俺も頑張らなければという気持ちになる。


 彼女には才能があった。追い抜かれないようにしなければならない。


 なんにせよ、残り半年間を頑張っていこうと思う。




ーーー




 俺のその残りの半年間を頑張る目標は叶わなかった。


 人生には困難が立ちふさがることをここまで痛感した日はなかった。


 自由に生きる。


 その夢と正反対の出来事が起こるとは想像もしていなかった。



ーーー



「ファルゴ陛下!」

 次々と部下や貴族たちがやってくる。



 ファルゴ・ルインド。彼は死の淵にいる。


 魔力探知を発見した歴史的偉人が死に際にいるのだ。


 彼を慕うものも多い。


 彼の死を見届けよう、死の前に一度顔を見ておこう。


 そう考えてこの部屋へ来るのだ。



 俺は彼の護衛でここにいる。


 二年半もの間任務をこなしていればこれほどの信頼は容易に得られる。


「んん?ふああ。」

 十数時間ぶりの明かりに眩しすぎて目を開けられないような顔をしてファルゴが起きた。


「おはようございます。」


「ああ。ラーファルトとトーマスか。すまんな。護衛なんぞさせてしまって。」

「いえ、陛下に何かあると大変ですので。」

「ふっ。もうじき死ぬ男に言う事ではないな。」


 そうやって笑うファルゴは寂しそうだったが覚悟も決まっているようだった。


「おい。ここへ要人を集めてくれ。家族や大臣、有力貴族等だ。」

「承知いたしました。」


 トーマスが呼びに行くということで俺もついていこうとしたが止められた。


 それもそうだ。護衛という任務を二人ともが放棄するわけにはいかない。


 いつもパシられるのはトーマスである。


 初めて会った時もそうであった。


「なあ。ラーファルト。」

 黙って護衛をしていようと思っていたところで話しかけられた。

「なんですか?」


「お前の夢は何か忘れていないか?」

「自由に生きることですよ。話しましたっけ?」

「いや、確かカールに聞いた。」


 なるほど。任務で来た俺の家での会話を報告する必要があるだろう。それならば知っていて当然だ。


「あの、ファルゴさん。一つお聞きしても?」

 ふと気になることができてそう質問した。


「ああ、もちろんだ。」

「自由って何だと思いますか。」


 ファルゴは一瞬沈黙をしてこういった。

「.....自由かあ。そうだなあ。俺も分からないかもしれない。」


 意外だ。国王という立場上、好きに振舞えるから分かるものだと思っていた。


「一般的な意味で言えば、何事にも縛られないということになるんだろう。」


 それは俺も同意だ。自由と言われて最初に想像する意味はこれだろう。


「だけど、俺はそれが自由だとは思わないね。人によっては違うだろうけれど。」

「どうしてですか?」


「国王だったからだよ。」

 国王だったから....?理解ができない。

「困惑しているねえ。説明してあげるよ。国王っていうのは好きに振舞えると思われがちだろう。」


 もちろんそうだろう。俺も先ほどそう考えた。


「だけど、それは違うんだ。例えばトーマスは俺のことを何と呼んでいる?」

「陛下ですかね。」

「でも、俺はファルゴと呼んでくれといつも言っている。」


 一瞬の間をおいて彼はこう言った。

「国王という立場だからこそ。自由でなかったと言える。束縛されない、それ自体が束縛だったんだ。」


 束縛されないということが束縛。その概念に束縛されているということか......?


 まだ、俺には理解できないことなのかもしれない。


 そう考え込んでいる俺にファルゴは続けて話しかけてきた。


「俺は自由と言われても答えは浮かんでこない。でもラーファルト・エレニア。君ならば、いつか浮かぶはずだ。」


「お前には芯があるからな。多くの困難にぶつかるだろうがそれを忘れなければ乗り越えられる。そして、お前は私をも超えた世界有数の魔術師の一人だ。これで自由について分からない訳がないだろう。」


「いえ、そんな訳がありません。私はファルゴさんを超えているなんて思っていませんし、世界を代表する者になんてなれませんよ。」


「そう言うと思っていたよ。ラーファルトこれだけでいい。忘れるな。」


 彼は死に際の弱々しい声をしていた。


 だが、この言葉だけは自身に満ち溢れていて、死に際ということを忘れてしまいそうになった。


「お前はもっと自信を持て。胸を張れ。ファルゴ・ルインド。第十五代ルインド王国国王はラーファルト・エレニアを認めている。ファルゴ公認。この肩書は.....技巧級魔術師という称号よりも大きいぞ。」



「はいっ。」


 何を言えばいいのかよく分からなかった。

 

 だが、その答えはこれから見えてくるのかもしれない。


 だから、俺は精一杯の返事をした。



 俺が自分に自信を持てるかなんて分からない。


 一生持てないかもしれない。


 だが、今日、少し前に進めた気がした。



ーーー



 しばらくして要人を集めたトーマスがやってきた。


「話はできたか?」

「は、はい!」

 そう小声で話す。


 トーマスがここで俺を待機させたのはそういう意図もあったようだ。


 やはりトーマスはいい人だ。



「さて、俺が死んだ後の話をしておこう。」

 要人を集めたのはそういう話をするためだった。



 その第一声は衝撃的なものだった。


「おそらく隣のジャック王国との戦争が起こる。」


 その場が少しざわめいた。


「まあ、今まで戦争が起こっていなかったのは陛下の抑止力もありましたし。可能性としては。」


 部屋にいる誰かがそう言った。


「起こらなかったらそれでいい。ただ起こったときのことを言っておく。」


「分かりました。」


「まず、国王を我が息子のファイディン・ルインドとして指揮を取ってもらう。」

「父上。お任せを。」


「うむ。次に十歳以下の王族は避難させろ。一家は全滅させてはならん。」

「全滅はいけませんが、避難する必要性が.......?」


 俺は傍から見ておくことしかできないが、避難する必要性は感じない。


 だが、ファルゴは続けてこう言った。


「王都へ敵軍は攻撃可能だ。集中的に狙われるかもしれん。」

「危険からは早めに逃れておく必要があるということですね。」


 まあ確かに戦争が始まってからならばそうするのがベストだ。


 戦争は仕掛けられた時、応戦して自衛しなければ一方的に潰されるだけだ。


 いわば仕掛けられた段階で戦争は自由を奪う。



 自由に生きたい。


 その目標を阻害する。



 戦争が起こりませんように。


 そう願わざるを得ない。



「では、俺から伝えることは以上だ。」

 そういって、ファルゴは話を終えた。


 次の日、ファルゴは安らかな顔をして亡くなった。


 まるで、自分は役目を果たしたかのように、満足気な表情だった。


 更に一日が経過し、ファルゴの葬式が行われた。


 彼は民衆にかなり人気のある国王だった。何万、いや、何十万という人が彼を見送った。



 そして、更にもう一日が経過した。


 国はファルゴの死に少し、動揺しながらも平穏を取り戻しつつある。


 このまま何も起こらないことを願いたい。




 だが、そう上手くいかないのが人生だ。



【記録:人魔暦8年】ラーファルトの住むルインド王国と隣国のジャック王国の戦争が開始した。



 ドォォォォォン!!


 真夜中に大きな音がして飛び起きた。


 ジャック王国からの攻撃だ。


 戦いの火蓋は切られてしまった。



 戦闘開始から少しの待機命令の後、俺は戦いの指揮をとる新国王「ファイディン・ルインド」に呼び出された。


 ファルゴと初めて会ったあの部屋に入る。


「何のご用でしょうか。」


 ファイディンがそこに背を向けて立っていた。


 まだ未熟な国王だ。家来といえど背中を向けるなど普通はありえない。


 だが、今はそんなことを気にしている場合じゃないな.....


 彼は大きな窓から外を.....攻撃されている街を見つめている。


「この前のファルゴ陛下との話は聞いていたな?」

「はい。」

「お前に、避難民の護衛を頼みたい。中には王族が一人いる。いけるか?」

「もちろんです。陛下。」


 ファイディンの声は震えていた。


 威厳を保つため手で顔を拭ったりはしない。


 空と街を見つめ続け考え込んでいた。



 ドォォォォォン!


 話している間にも戦いは激化していた。



ーーー



「では、前に進んで行きます。静かに進んで下さい。」


 戦闘開始から約八時間後、集められた避難民に俺はそう語りかけていた。



 普通ならば「こんな子供に命は預けられない」と言われるところだろう。


 だが、この二年半、様々な場所で活躍した俺はまあまあ有名になっているらしい。


「まだまだ子供だが優秀な宮廷魔法使いがいるらしい」


 とのことだ。なんか嬉しい。


 そんなこともありあまり反感をかうことなく、従ってくれた。


 それにしても人数が多い。


 子供も多数いて、100人以上はいるだろう。



 しかし”戦争”は気分が悪くなるな......


 これだけの人数の人々の、自由を奪う。未来を奪うことに何の意味があるのだろうか。


 あるわけがない。


 否、あってはならない。


 地球でも平和は訴えられてきた。


 それは異世界に行っても共通だ。


 戦争をこの世界からなくす。


 これは、俺だけでなく多くの人が自由を掴むきっかけになるのではないだろうか。



 その第一歩として、まずは俺の仕事を全うするとしよう。



 俺の護衛する避難民は山を移動するルートだ。


 少しきつい道のりだが、山場を越えれば比較的安全な場所である。


 避難は順調に進んでいた。



 もう少しで安全な場所へ抜ける———————その時だった。


 ドオオオオオン!!!!!



 突然大きな音がした。近くに爆弾が落ちたのだ。


 爆弾が近くに.......おかしい。


 この周辺が戦闘場所になる可能性は低いはずだ。


「全員伏せて!一か所に集まって下さい!」


 《シェルマッド!》

 上段土魔術で防御を固める。避難者の周りを土で囲った。


 周りの様子を観察して.........



 次の瞬間、正面で魔力探知が反応した。


 瞬きをすると、火魔術が目の前まで迫ってきていた。


 俺は重心を後ろに逃がして回避の姿勢を見せながら、反撃を開始する。


 相手の使った魔術をそのまま利用するのだ。

「自分の魔術で燃えな!」


「なっ!!」

 敵の魔術を操作し跳ね返す。


 その攻撃を捌くことができず、敵は戦闘不能へ陥っている。


 殺しは......しない。


 敵も戦争に参加しているとはいえ家族がいる。


 故郷に待つ家族が......だからギリギリまで殺しはしない......!!


 しかし、敵は一人ではない。


 今度は周りから一斉に俺へ攻撃をしてきた。

 中には剣士も含まれている。


 捌ききれるだろうか......いや、捌く......!!必ず.....!!


 《エアーアセンド!》

 上昇気流を起こす魔術を出力最大で展開し、こちらへ放たれた魔術をすべてそらした。


 また、これを常時発動することで剣士との戦闘に集中する。


 俺に斬りかかってきている剣士は三人。後ろでチャンスを伺っているのが二人だ。


 五人の攻撃をあしらい、反撃に転じる必要がある。


「うおりゃあああああ!!!」

 始めに斬りかかってきた剣士の攻撃は、単純にステップで交わした。


 二年半もの間宮廷魔術師をしており、尚且つ、子供の小さな体だ。一回ぐらい攻撃を交わすのは簡単である。


 次に二人目だ。俺の足あたりを狙い、低い姿勢で斬りかかってきた。


 おいおいっ。そんな低い場所にいていいのかい?


 《タワークラフト!》


「ぐほっ。」

 地面から土のタワーを伸ばし、顎へクリーンヒットさせた。


 しばらくは立ち上がれないだろう。


「なにをおおおおお!!!」

「このクソガキがああああ!!」


 一人目と三人目の剣士が今度は同時に斬りかかってきた。


 《ライクオーシャン!》

 俺の周りから大量の海水が出てくる。

 その水の流れによって、斬りこんできた二人の剣士は流される。


 《アイスフィールディング!》

 すかさず、海水を凍らせて体を固定させた。


 あと、二人!

「そう思って見ると一人になっていた。」


「俺が相手だな。参らせてもらう。」


 その剣士が地面を蹴る音がした。


 次の瞬間、目の前には刃が迫っていた。



 キィンッ!



 刃と刃の当たる音がした。


 俺は、”右手に持った剣”でその攻撃を受けた。


 モルガン。ありがとう。


 誕生日にくれた剣のおかげで生きながらえたよ。


 剣術の練習もしておいて良かった。


「ほお。魔術師の割に中々の腕前を持っているようだ。」

「それはどうも。」

「だが、お前は流石に非力すぎるんじゃないか?」


 俺はだんだん押されていく。


 だが、非力だと?それで構わない。俺は剣士ではないのだから。


「時間が稼げれば関係ありませんね。」


 《マッドボール》

 俺の放った初級土魔術は股間に命中した。


「なっ!グッ!うぎゃああああ!!!」

 剣士は倒れこみ、もがいていた。心底面白い。



 さて、あと一人の剣士は——————


 そう考えた時だった。


「動くな。」

 避難民のいる方向から声が聞こえた。


 振り返って見ると、少女を掴んで剣を首筋に充てている。


「おとなしく投降しろ。」


 くそ......人質か......攻撃ができない。


 もっと周りの魔術師や剣士全員に意識を向けるべきだったか......


 剣士の相手をするのに必死で避難民を意識できていなかった。


 絶対に失敗してはいけない場面で......!!


 だが、今となってはもうどうしようもない。


 俺は、持っていた剣や杖を地面に置き両手をあげた。


「連行するぞ!」


 必ず助ける......


 捕まるのはもう失敗してしまったことだ。


 反省はするとして必ずここにいる全員を生きて返してやる......


 必ず......!!


【記録:人魔暦8年】ラーファルトの護衛する避難民が敵国に捕まった。

これにて第二章終了です!


新章 捕まったラーフはどんな行動に出る.........!!??


次回は番外編を公開します!本編にもつながる内容となります!


ブックマーク、評価等をして待っていていただけると幸いです!


これからもラーファルトの自由を求める人生に刮目してください!


ご期待のほどよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ