第1話:変化する世界
【記録:人魔暦0年朝方】
ラーファルト・エレニア 誕生
その日、外は暗かった。雲が空を覆っていたのだ。
一昨日に咲き始めた庭のプロテアの花を綺麗に鑑賞できないほどだった。
日の出の時刻から3時間は経過しようとしているのにも関わらずろうそくが必要であった。
まるで、戦火を消し去るような雨が降っていた。
んん、、ふわあ。よく寝たなあ。ん?
「WOW!!!ナイスバディ!!」
うお、危ない。こんなこと言っていたらまた殺されてしまう.....
こいつらは外国人のようだ。英語だと意味が通じてバレてしまうかもしれない。気をつけるとしよう。幸いこいつらは俺の言葉は聞き取れなかったらしい。ああ、良かった良かった。
じゃねー!!!こいつら誰ーー!!??
いつ、どこで、どのように、誰から生まれた奴なんだー!!ってそれは関係ないか.....
で、ほんと誰なの?この人達.....
いやあ、でもまぁ、それは置いておくとするか。
起きた瞬間にこんな豊満な胸を見ることができるなんてここはやっぱり天国なのか?
この人は神だったりするのか?
それなら知らない人(神)がいることも納得できるなぁ。
だけどなぁ.....あんなブラックホールみたいな場所を通らされてきた場所がここなのか!?
いや、でもまぁ.....天国だよな?ここは!天国なら、胸なんて触っても罰なんてあたらないよなあ。
ん?いや、まだ待とう。まだ触ってはいけない。
まずは周りの様子の確認からだ。しっかり状況判断をしてから触ろう。
殺されて地獄に落ちたくはないからなあ。
もう殺されるのは懲り懲りだ。
うーん。今、改めてよくよく考えると殺されたのか.....??
でもまぁ、殺されてしまったのだろうな。仕方ないか.....とりあえず、まずはこの豊満な女性から見るとするかあ。
純粋にかわいい.....!!
好きです!結婚して.....!!
うっ、いやだめだ駄目だ.....そんなことを言ってはいけない。
他の者から見るとしよう。欲が抑えられない.....
ん?おお、こいつはメイドか!?今までしゃがんで仕事をしていたから気づかなかったぜ。
メイドを雇えるなんて、こいつら金持ちなんだな〜。いや、天国だからか?
こいつも豊満だなあ。いいねぇ〜!俺はメイドの君も大好きだよ!結婚しよ.....!!
いやいや、駄目だ.....浮気はだめだ.....!!
この人を見るのもやめよう.....欲が抑えられねぇ.....
よし、この男性は、そうだな。がっちりとした体つきに鍛えられた腕っぷし。
こ.....これは間違いなく警備の者だ.....
警備、警備かぁー.....
まあ、そうだよなあ。もし天国だったとしても警備がいたらと触れないよなあ。
あーあ、こいつがいる時点で、豊満な胸もみもみ大作戦失敗じゃないか....!!
結婚出来ねぇ.....!!
じゃねぇ.....!!結婚はしない。しないんだ.....
ふぅ.....頑張って欲を抑えよう。
うう、なんか悲しくなってきてしまった.....
いや、諦めるな!チャンスは無数に存在するのだ!もっと周りを見るんだ。
ふむ。ここは暗いなあ。ろうそくを使っているのか。アナログだなあ。いつの時代だよ。
天国ってもっと最新機種が転がってるもんじゃないのか?そういうのを好きなように使って幸せな死後の世界を満喫する!
それが天国じゃないのか?
まあ悲しい気もするが、それはいいだろう。
それで、おい、俺はどんな場所で寝転んでいるんだ?
柵のあるベッドだなあ。
こんなベッドは赤ちゃんが使うものだろう。
いわゆるベビーベッドって奴だ。
うお、こいつら俺にめっちゃいきなり話しかけてきたぞ!
俺はお前らと言語違うぞー。理解できないぞー。誰か翻訳してくれぇ。
はぁ、ここでの生活は地獄そうだなぁ。始めは豊満な胸に騙されそうになったけれども、欲望を剥き出しにすると警備から捕まり地獄に落とされる。
いやぁ、これは我慢しなければいけないっていう観点から見たら逆に地獄ではないのだろうか。
ああ、俺ってのは死んでからも自由に生きることが許されないのか。
自由に、束縛されずに、生き生きと過ごしたかったなぁ。
うおっ、この女なんなんだ!いきなり俺を持ち上げやがって。
ちくしょう!
いや、ちょっと待て!こいつ、14年間部屋で勉強と自慰行為を行なってきた体重百キログラム超えの巨体をそんな軽々持ち上げるのか!?
どんな怪力なんだよ.....!!
いや、でも、そうか、そうだな!ここは死後の世界だ!
そう言うこともあり得るだろ!!
ふぅー。冷静に見るんだ。
冷静に、、。
そうだ、冷静に、、。
いや、無理!無理無理無理!
絶対無理!意味わかんないもん!なんでなんで?教えて!おーい、だれかぁー。
とりあえずお前離さんかい!手を離せぇ〜!
いや、よく考えるんだ。100キロの俺を仮に持ち上げられると考えても身長はどうなるんだ?俺より背が低い人が俺を持ち上げてもほとんど浮かないだろうな。
こいつ女だよなあ。いくら背が高くても身長が平均程の俺より30cm以上高いことなんて多分ないだろう。
だけど俺はだぁーいぶ浮いてるなぁ。
つまり、こ、こいつら、巨人族!?人間じゃないのか!?
そうだよな!?巨体を持ち上げられるのは更なる巨体ってことだよな!?
うぎゃあー!どこかの漫画みたく食べられちまうよぉ!助けてくれぇ!また死にたくなぁい!
あ、いや、もう死んでいるのか!?わからねえ.....!!??
とにかく怖い!
「バイボロニャヒ。トントンチュワッヒー。」
おーい!!何言ってんの~!
「パンニャラホーイ、ラーファルト、チャマンヂャ。」
メイドさんも何喋ってるんですかー!!!
「チャンバラ、チャンバラ!!!ラーファルト、チャベル!」
ん?警備の人?何を言ってるのかな?
チャンバラ?剣かなにかで切るのかな?私の体かな?
チャベル???.....チャベル.....チャベル.....タャベル.....タベル.....???
やっぱり食べるのですかあ~!?剣で切った私の体を!?やめてもらえませんか~!!!
言葉の辻褄が合うのは怖い!怖いんですけどお~!!!
ん?おお、この豊満な胸の女の巨人優しいぞ!怖がっている俺のことを見つめて優しそうに微笑んでくれている!これが母性か.....!!
お、警備の男も表情緩ませてこっちを笑顔で見ているなぁ。こいつら夫婦なんじゃねえか?
いや、俺はこいつらの赤ん坊じゃないっての!人間!人間です!巨人族ではありません!!!
お願いですぅ.....見逃してくだせぇ.....
とりあえず、手を離してほしいなぁ!持ち上げられるってのは慣れないぞ!
おりゃ!片手ずつで抵抗したって意味がない.....!!流石、巨人族(であろう種族)だな離してもらえないぜ。力が強い.....!
両手を使って抵抗を.....ん?
おいおい、俺は100キロあるとはいえなあ。
右手が左手に届かないってのは少し、いやだいぶ傷つくのだが.....
俺ってそこまで太ってたっけなあ.....
右手を左手に持っていけないなんて人間として致命的な欠点のひとつじゃないか!?
死ぬ直前から嫌なことばかりに気づくなあ。
ああ、もう仕方ねえ。手だけで抵抗できないならば全身を使うしかないなあ!暴れてやる!おりゃぁー!とりゃぁー!うおりゃあああああ!!!
ああ、こりゃ、ダメだな。絶対離してもらえない。子供に持たれている人形の気分だぜ。
いや、自分で言っておいてなんなんだがそれってどんな気分なんだ?
ん??うわ、こいつだんだん俺を顔に近づけてきやがる。
やめてくれよお、食べないでくれえ。あー.....だめだなあ。これは終わったわ.....
俺また死ぬなあ。
とりあえず目を瞑っておくかあ。
ん?なんだこの感触?柔らかいなぁ。これは舌なのか?その割には包まれるような安心感!実家のような安心感があるぞ。
これは、まさか!
乳ー!!!!!
乳だあー!!!
興奮でラーファルトは鼻血を出しながら体をエビのように反り、その反動で女は彼を手から離した。
彼の体は地面へ楕円軌道を描いて落ちていく.....
ラーファルトが目を瞑って本当に死を覚悟したとき、男の体が動いた。
何かに支えられた感触に陥ったラーファルトは無傷だった。
男が彼の体を優しく包み込んでいた。
彼は心配そうにラーファルトをのぞいている。
男の動きに衝撃を隠せずにいたラーファルトはその時気がついた。
瞳に映っていたのは赤ん坊だった。
「うぉーーーー!!!!!」
【記録:ラーファルト誕生から30分後】始めてラーファルトが産声と思わしき声を上げた。
俺がここへ転生してから1週間ほどがすぎた。
俺がこれまでで気づいたことを挙げていこうと思う。
まず、俺の名前はラーファルト・エレニアと言うらしい。
最初はラーフと呼ばれていたから勘違いしたがな.....あだ名つけるくらいなら元からその名前にして欲しいな.....
名前由来のあだ名つけるくらいならば.....
ちなみに、警備の者だと思っていた男性が父だった。彼の名前はモルガン・エレニアである。
そして、あの豊満な胸の女性が母だ。名前を、エミリア・エレニアという。
父の名前に関してそこまで感想はなかったが、母の名前に関しては、某未来型ロボットのアニメのドジっ子みたいな名前の作りだと思ってしまった。
性格が名前の印象のようにドジでないことを祈りたい.....
だが、俺はドジな女の子が好きだよ.....!と、言いたい所だが、流石に母へ欲は向かないぞ!
乳は好きだけど.....!!
そして、メイドの名前だが、ミア・アルハインであるらしい。
ちなみに、何年ほどここで過ごしているのかはまだわからないが彼女がメイドとして優れていることは見るだけでわかる。
そのぐらい彼女の動きは洗練されているのだ。
最もこれらの名前は俺が聞こえた音から予想しただけである。
次に、俺の予想通りここは日本ではない。まずまず言語が違うから当たり前だ。
ああ、俺英語苦手なんだよなぁ、言葉覚えられるかなあ.....
ま、子供は物覚えがいいというからな!何とかなるか!多分!
とにかく言葉が伝わらないのは不便だ。何語かは知らないがさっさと覚えよう。
お願いだから早く言葉を教え始めてくれ。
そして、この国の食べ物はそこまで美味しくない。
最も、食事の回数は少ないのだが.....まぁ、代わりに飲乳できるのだ。
控えめに言って最高.....とか思ってないからな.....!!
それはそうとして、主食は米ではない。小麦に近いがそれもまた違うような気がする。
そして、最後にこの国についてである。窓から外を見た感じは自然に満ち溢れ、村という感じだ。
王宮的なのは見当たらなかったため田舎の方なのかもしれない。
まあ、雰囲気を見る限り中世ヨーロッパって感じがするなあ。
発展途上のヨーロッパの国なのだろうか。
ネットはもちろんガス、電気、水道でさえも整っていないのだ。
世界にはこんな国がまだあったんだなあ。
と、転生してから現時点までで分かったことを整理してきた。
そうだ、俺は転生したのだ。
俺はこの場所で強く生きていかなくてはならないのだ。
まだこの国のことは全然わからない。
なぜ、転生したのかもわからない。
前世の経験は活きるかもしれないがまだここでは右も左も分からないひよっこだ。
だが、この2回目の人生での目標は決めた。
俺は前世のような後悔は繰り返さない。
自由に生きる。
縛られず。
自分のしたいことを、好きに行う。
周りから認めてもらえる程清々しく。
生き抜くのだ。
どんな困難が立ちふさがろうとも。
また後悔を繰り返さないように。
俺は自由を求めて突き進む。