第17話:初任務
「おいっ!起きろ!朝だぞ!」
う〜ん。まだ寝かせてくれ。眠い。疲れた〜。
「おいっ!今日から仕事だ!早く!」
仕事....?何のだよ.....俺は浪人してるんだぞ。
「ファルゴ陛下に怒られるぞ。」
ファルゴ陛下.....ファルゴ陛下.....!!??
ああっ!俺は宮廷魔法使いになったんだった!
「はいっ!早く仕事行きましょう!」
飛び起きて起こしにきたトーマスにそう言った。
俺は部屋をそのまま飛び出す。
「こっちのセリフなのだが......」
文句を言いながらもトーマスはついてきてくれて。
「遅い....!!!!」
”あの戦闘”をしたファルゴの部屋に行くとしっかり怒られた。
宮廷魔法使いの仕事を説明しよう。
主に二つだ。
一つ目は与えられた任務の遂行。
魔物の討伐が主だが、その他にも色々なものが来るらしい。
二つ目はファルゴの護衛。
謁見やパーティが行われる時に護衛をする。最もその必要はないと思うが。
いざという時は肉壁とかになるのか?
まあその他にも細々したものがある。これがまた時間がかかるから面倒くさいのだ。
そして、空いた時間は魔術の特訓だ。
「今日はお前ら二人に森の魔物討伐をしてきてもらう。よいな。」
「承知いたしました。」
トーマスと同時にそういった。
「敬語やめろ。」
しまった。トーマスにつられてしまった!
ーーー
「おい。初任務を緊張しているのか?」
任務へ向かっているとトーマスが喋りかけてきた。なぜだか今日はトーマスが優しい気がする。
「少しですかね。それよりもトーマス優しくなりました?」
するとトーマスが少し顔をあからめてこう言った。
「怒られたんだよ。もっとしっかり気にかけろって。理由は言わねえぞ。」
なるほど。よく分からんが。ファルゴに何か言われたんだな。
「今日の任務難しいんだぞ。」
「そうなんですか?」
「初任務はな難しいものを任せるんだ。」
うげっ!ふざけるな!
「そんな怒るなよ。というより俺に怒るな。始めに難しい任務を持ってくることで慣れさせるためだそうだぜ。」
しっかりとした理由はあるんだな。だからといってきつい任務は嫌だ!
「まあ、今回の任務を説明しておくぞ。」
「はい。お願いします。」
「今回討伐する魔物は蟻だ。」
あ.....り......???
蟻ってあの昆虫の蟻か.....?
「蟻....??」
「蟻が信じられない力を持っているのは知っているだろ?」
「ええ、個体の小ささの割に力が大きいと。人間サイズならとんでもない怪力となるらしいですね。」
「そうだ。それが人間サイズになった。」
ふーん。巨大化か....いやなんで!?
「どうして、そんな大きさに?」
「魔力の影響だな。魔力の力は未知だ。理屈は分からない。」
「なるほど。それを討伐しろということですか。難しそうだ。」
「それじゃあ、討伐頑張ろうか。」
いつのまにか目の前には森が広がっていた。
俺たちは森へ足を踏み出した。
「そういえばどうやって蟻の魔物を見つけるのですか?」
「そうだな。一つは魔力探知だ。巨大化した場所に残る魔力の跡を探す。」
魔力によって変化する蟻だ。確かにそのやり方は有効かもしれない。
だが......
「探知できませんね。」
「ああ、場所や距離などの様々な条件が必要だからな。だから、二つ目。自身の目で痕跡を探す。」
目で....?そんなこと可能なのか?
「まあ、魔物の種類によって探しやすさは変わるんだけどな。ほら見てみろ。」
トーマスはそうして地面を指差した。
大きな足跡が付いている。
「近くにいるぞ。気をつけろ。」
トーマスの空気が変化した。
「伏せろぉ!!」
トーマスがそう叫ぶ。
……!!??木が飛んできた。
当たる...!死ぬ....!!
「ふげっ!」
地面に叩きつけられた。
後方で次々と木が折れる音がした。
当たったのか.....??
いや違う。
トーマスが頭を掴んで伏せさせてくれたのだ。
痛い.....
だが、死んでいないのだから良いだろう。
「おい!ラーファルト生きてるか?」
「はい。痛いですけど生きています。」
前を見ると大きな蟻の魔物がいた。
よく見ると地球にいる蟻と違う。足が8本ある。
最早蜘蛛である。
それにしても、あの小さな姿からは想像もできない気持ち悪さだ。
「よし、倒すぞ、ラーファルト。」
「はいっ!」
キュウェェェェェェ
変な鳴き方をして蟻が土を掘り始めた。
「ラーファルト!潜らせるなぁ!」
《ソイルハード!》
中級土魔術で土を硬くした。
キュウェェェェェェ
だが、蟻の魔物の勢いは落ちない。
想像を絶する怪力である。
「土に潜む神よ、我々の踏む大地のありがたみを感じ、今一度、その力をここに顕現したまえ!」
《タワークラフト!》
俺が魔術を打っている間にトーマスが詠唱をして魔術を発動をした。
トーマスが蟻の魔物の掘る土ごと上へ動かす中級土魔術だ。
これで地中へ潜ったとしても余程深くいくまで意味はない。
キュエオオオオオオオオ
蟻の魔物は土へ潜るのを諦め、こちらを睨んでいる。
俺は睨み返して先手を取った。
《ウォーターガン》
初級水魔術のウォーターガンを放つ。
同時に蟻の魔物は突進を始めた。
初級だが、威力は十分だ。生物を殺傷できる。
魔術はまっすぐ蟻の魔物へ飛んでいった。
だが、蟻の魔物の表面は硬かった。
避けることもせず、クリーンヒットしているが傷さえついてない。
ただただ、敵の突進を邪魔しているだけだ。
「くそっ!なんなんだこの硬さは!並みの固さじゃないってことかっ!」
《ロックショット》
俺はそう言って上級土魔術を放つ。
威力は初級とは比べ物にならない。
いくらなんでも倒した。
そう思った矢先、蟻の魔物が大きく動いた。
俺の放った石を咥え、こちらに跳ね返してきたのだ。
まずい!俺に当たる!
《ロックショット!》
今度はトーマスが放った。その魔術は、跳ね返された魔術を相殺した。
「一度冷静に分析をしろ。正面から戦っても負けるぞ。」
確かに、彼が詠唱しているのも聞こえていなかった。
冷静に倒すのだ。分析をしろ!
ギュウエォォォォォ
そう叫んだ蟻の魔物は側にあった木を投げつけてきた。
「危ない....!!」
俺もトーマスもそう言って物陰に隠れる。
しばらく攻撃のチャンスを伺うが絶え間なく木は投げられている
「反撃ができません!」
「ああ。一度引くぞ。」
そう言って俺たちは後方へ引いた。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
なんとか蟻の魔物から逃げ切れた。
あいつ、足速すぎるんだが。それもしつこいし。
「トーマスさん。どうするんですか?」
「そうだなぁ。とっておきに来てもらう。」
とっておきが来る?人か?
「どんな人ですか?」
「剣士だ。先程の戦いで分かったことはあの魔物を足止めする存在が必要だということだ。防御ができるやつだな。」
足止めか。確かにそれならば魔術を打つ時間を稼げる。
「ですが、今、二人いるのですからできませんか?」
「お前は何を見ていたのだ?魔術は跳ね返されただろう。」
た、確かに........
「遠距離からの足止めでは駄目だ。近距離で、足止めする必要がある」
「なるほどぉ。」
トーマスは俺のように魔術を作戦を立てずに打っていた訳ではなかったのだ。
俺を守れるように、かつ、相手の状況を分析して動いていた。
こういうのは実践経験がやはり必要なのだろう。
「来たぞ。」
そう言ったトーマスの方を見るとあのブラックホールのような穴が空いていた。
中から人が出てきた。転移魔術だ。
「カールさん!」
そこから出てきたのは確か宮廷軍特別部隊隊長だった人だ。
前から思っていたがかなりの実力の持ち主に見える。
「ああ、久しぶりだな。よろしく頼む。」
そう挨拶を交わした。
「それじゃあ剣士の人も来たし、さっさと討伐しちゃいましょうか。」
「はいっ!」
先程、蟻の魔物と戦った地点まで来た。
足跡が残されている。
それ程時間は経っていないためそう遠くにはいないだろう。
「追うぞ。」
トーマスがそう言って先頭を歩き出した。
「いや、俺が先頭で行こう。」
そのまま付いていこうとした俺と違いカールは先頭を歩くと言いだした。
「じゃあよろしく頼むわ。」
トーマスが潔く後ろへ下がる。
「あの、どうしてカールさんを先頭に?」
「はぁ....??」
二人とも同じように反応をしてきた。
「剣士は先に行って、そのまま戦闘に入るべきだろう。」
「そうそう。前にいたら俺が斬られてしまうかもしれないからなあ。」
なるほど。そういう戦闘面の問題を考えていたということか。
「いたぞ。」
しばらく歩いているとカールが止まって言った。
「では、私が先に出る。援護を頼む。」
「ガリス流奥義」
《一閃!》
技名を言い、蟻の魔物へカールが斬りかかる動作へ移る。
蟻の魔物は途中でそれに気づき、防御を.......
できなかった。
俺が蟻の魔物へ目を逸らした一瞬で彼は距離を詰めて斬りかかったのだ。
人間とは思えない速度で、それもあの硬い表面を楽々と斬ってしまった。
「はぁ。一撃か。まぁそうだよなぁ。」
トーマスがやってらんねぇという態度を見せる。
だが、カールは油断していなかった。
「いや、まだだ。」
……!!??
俺の魔力探知も反応をしている。
トーマスも気づいた様子だ。
森の奥から、今倒した個体より一回り大きい蟻の魔物が出てきた。
「こいつが、ボスって訳かよ。」
そう分析するトーマスに女王蟻って言えよと心の中でツッコミをする。
そんなことを考えながらも俺は戦闘モードへ入った。
魔物はその怪力で目の前にある数本の木を投げつけてきた。
こいつら木を投げるのが好きだな。
こんなことを考えられるのは彼がいるからだ。
「カール!」
「ああ、任せろ。おりゃああ!」
トーマスの呼びかけに応え、飛んで来る木をすべて一刀両断にする。
彼は強い。トーマスによると「技巧級ガリス剣士」とのことだ。
階級で言えば「技巧級火魔術師」である俺と同じだ。
その上実戦経験も豊富である。安心して背中を任せられる。
最も今、守ってもらっているのはお腹の方向だが。
カールが延々と攻撃を防いでいる。
なら、今のうちに攻撃だ。
《ロックショット!》
俺のはなったロックショットは攻撃に夢中となっていた魔物の目に命中した。
キュエエエエエ!!!!
魔物がひるんだ所をカールは見逃さない。
「ふん。」
魔物の足の一本を切り、体勢を崩した。
今がチャンスだ。止めを!!
トーマスもそう考えたようで詠唱しながら移動を始めた。
その時だった。背後で俺の魔力探知が反応をした。
《ムーブウインド》
無詠唱で魔術を発動する。
俺の首筋に殺意のある風が当たった。
後ろを振り返ると蟻の魔物がもう一匹いた。
そして、その奥を見るとトーマスが吹っ飛ばされている。
「トーマス!!!大丈夫ですか!?」
「俺のことは気にするな!」
怪我を負っているのか彼は立ち上がれていない。
まずい!助けなければ!!!
するとカールから指示が出た。
「おい!ラーファルト!こっちを頼む!」
声の方向を見るとカールがこっちへ走ってきている。
奥には手負いの蟻の魔物がいる。
手負いということもありいまだ立ち上がれていない。
足を二本失っているようだ。バランスが取れないのだろう。
「分かりました!」
そう答えると俺も移動を始めた。
手負いとはいえ、蟻の魔物が動き出すまでの時間は少ない。
一瞬に内に頭の中で自分の放つ魔術をイメージする。
よし、準備は万全だ。この攻撃でこいつを倒す!!
ーーー
トーマス視点
くそっ!情けねえ!
俺が先輩としてラーファルトを引っ張らなければいけないのに何をやっているんだ。
動け、俺の足.......!!動けよ!!!
くそお。俺は治癒魔術をまだ使えねえ。練習中だ。
俺は不必要な人間なのか?
俺はこれから宮廷魔術師としてこの国を支えるんだ。
こんなところで躓いていては.........
「おい!トーマス!聞こえるか!?」
戦闘中のカールが話しかけてきた。
「ああ!どうした!?」
「その様子をみるに動けないんだろう?」
ばれちまったか。気にしてほしくなかったが最悪だぜ。更に迷惑がかかる。
「ああ、そうだ。足手まといになってしまって悪いな。」
「いや逆だ。お前の力が欲しい。二秒でいい!時間を稼いでくれ!!そうすれば一撃で鎮められる!」
”お前の力が欲しい”か。
悔しいなあ。俺も今はまだ、そんなレベルか。自分でこいつは倒せない。
俺の初任務の時、同じような状況だった。
怪我をして動けない状況に陥った。
その時の俺は援護すらさせてもらえなかった。
「ちょっとは成長しているのかな。」
そうトーマスがぽつりとつぶやいた。
「で?出来るのか?出来ないのか?」
「やってやるよ!時間稼ぎ!」
「土に潜む神よ、我々の踏む大地のありがたみを感じ、今一度、その力をここに顕現したまえ!」
相手の動きを読み、カールが巻き込まれないタイミング。そこで正確に発動する!!全力で!
《タワークラフト!》
土が隆起して、魔物の巨体は遥か上空まで打ち上げられた。
「これは.......止めなどいらないようだな。」
カールがぽつりとそう言った。
本来、蟻は飛べるのだが魔物は打ち上げられた時の衝撃で気絶している。
ドカアアアアアアンッ!
魔物が落ちてきて大きな地響きが鳴った。
落下の衝撃で魔物は討伐されていた。
「倒した........」
ドオオオオオン!
もう一度大きな音がした。
音の方向を見るとラーファルトが単独で蟻の魔物を倒していた。
ーーー
ラーファルト視点
この攻撃でこいつを倒す!
まずは動きを封じる。
《アイスフィールディング!》
氷で足を固める。
ギョェエエア!!
しかし、魔物がそう叫んで力を入れると、いとも簡単にその拘束は破られた。
だが、これは想定内だ。
《ローリングテレイン!》
巻き寿司のように土を円状にして魔物を拘束する!
具が魔物の海苔が土だなんてそんなのは嫌だ!
と言いたいところだが食べることはないから大丈夫だろう。
円形で拘束することで力を入れにくいはずだ。
狙い通り、魔物は拘束から抜け出せていない。
後はこのまま、圧殺する!
《ソイルプレッシャー!》
土で相手に圧力をかける魔術だ。
このまま......
と行きたかったが魔物も簡単に圧死するわけにはいかないのだろう。
必死に力をこめている。
だが、俺の勝ちだ。これも俺の想定内である。
「じゃあな。」
そういって下半分の《ローリングテレイン》を解除する。
《ストレートソイル!》
中級土魔術のストレートソイルを発動し土を地面と並行に伸ばした。
《ソイルプレッシャー!》
そこに再度、発動し地面の方向に圧力をかける。
蟻の魔物は下半分の圧力がなくなり力を入れていた手が空振りしている。
その状態のままの蟻の魔物はもはや抵抗する術など持っていなかった。
ドオオオオオン!
大きな音を出し、土と土の間に挟まれて蟻の魔物は討伐された。
「トーマスさん!」
戦いが終わり、トーマスの所へ急いで行った。
「ラーファルト!やったなあ!ところで治癒魔術をかけてくれないか?」
え?トーマスは治癒魔術を使えないのか!?意外だ。
「いいですけど大丈夫なんですか?」
治癒するまでに時間がかかってしまっている。心配だ。
「ああ。大丈夫だ。肉体的にも精神的にもな。」
トーマスはそう笑って言っていた。
精神的の意味は全く分からなかったが彼なりの理由があるのだろう。
カールも傍で腕を組みながら微笑んでいた。
怪我人は出た。
だが、木を投げさせ、仲間を呼ばれる程の抵抗しかさせなかった。
完全勝利!そう言い切ってもいいのではないだろうか。
「じゃあ帰るか。」
治療の終わったトーマスはそう言った。
こうして初任務は終了した。
ーーー
その初任務から二年半もの月日が経過した。
様々なことが起こった。
宮廷魔法使いとして様々なことを経験させてもらった。
あと半年で宮廷魔法使いの任期が終了する。
あと半年で、トーマスやカールと別れることになる。
俺は一度家へ帰る。
十分経験を詰ませてもらった。
これからは自分でそれを伸ばしていく。
だが、先に別れを告げる必要のある人物がいるようだ。
それも一生の別れである。
ファルゴ.....
ファルゴ陛下。
彼はもう一週間持つか分からない.....
彼の最期の時が近づいている。