第16話:涙
「そなたを宮廷魔法使いに任命する。」
勝った.....!!!!認められた。俺はファルゴに勝ったのだ!!
パチパチパチパチ
「おめでとう。」
俺たちの再戦を離れたところから見ていたトーマスが祝福を述べてくれる。
「全く、三日でこうなるとは。怖いな。」
ファルゴ人間でないものを見るような目で俺を見てきた。
ひどいじゃないか。俺だって傷つくのに。
ボクハワルイマホウツカイジャナイゾ。
おっと、そのネタはスライムだったか.....
「さて、お前は俺に勝ったのだが、一応反省をするか。」
反省か。正直、挙げるときりがない。
勝ちはしたがまたファルゴと戦ってまた勝利を納められるかと問われると自信はない。
「まずは良かった点だが、初級水魔術を使ったことだな。」
ああ、それか。戦いの最中にも言われた。理由は分からないが。
「そういえば、それはなぜなのですか?」
するとファルゴはポカンとした顔をして俺に聞いた。
「知らないで使ったのか?」
「え?あ、はい。全く。」
「はあ。トーマス。お前はこの後居残りだ。」
「しょ、しょうちい、い、たしました.....」
これは見ごたえがある。トーマスがびびっているぞ。
あのいつもへらへら笑っているトーマスがビビっているのだ!!!!!
「仕方ない。俺が教えてやろう。低い階級の魔術ほど正確に放てるのだ。また、探知がされにくい。魔力の消費が少ないからな。」
「へえ。確かに言われてみればそんな気もします。」
「はあ。なんなんだお前は.....」
なぜだろう。謎の人間的判定をされてしまった。
ボクハワルイニンゲンジャナイヨ!
おっと、これはまた間違えた、このネタはスライムだ。
「まあ、それは置いておこう。次に悪かった点について話そう。」
同時に俺のスライムネタも置いていかれてしまった。悲しい。
まあ、当たり前だが真面目に考えると悪い点はある。
「お前は判断が遅い。遅すぎる。かなり重症といえるレベルでだ。実戦では一歩の遅れが命取りだ。相手はこの戦いみたいに容赦はしてくれないぞ。」
そこまで遅いのか.....平和ボケした日本人だったからなあ。
「では、どうすればよいのですか?」
「経験を積め。実戦経験を積むことでお前の中に自然と勝利の方程式が完成する。確かお前は三年で宮廷魔術師をやめるのだったな?」
「はい。」
三年。その間に強くなって村へ戻る。そこからどうするかはまた考えるのだ。自由に生きるために。
「そうか。この際先に言っておくが三年では到底そのレベルまでは行かない。最低でも十年だ。」
じゅうね.....ん.....だと.....
「お前はどんな顔をしているのだ。にらめっこでもしたいのか?ほぼ白目だぞ。一応俺も国王なのだがな。少しは気にしないのか?」
「はい、申し訳ありませんでした。陛下。」
「ふざけただけだ。気にするな。」
気にするか気にしないのかどっちだよ!!
「話を戻すが十年は経験を積まなければならない。だから、三年後、お前がまだ強くなりたいと思ったならばここに残れ。」
「はいっ!!」
「あと、お前にはこれから宮廷魔法使いとして任務をこなしてもらうからな。」
「分かっています!」
「では、よい。下がれ。また戦おう。」
「はい!失礼します!」
「では、私も失礼します.....」
あれ?トーマスは残るはずじゃ.....
「トーマスくん.....君は居残りだって言ったよねえ.....?」
おお。ファルゴ。圧がえぐいな。
「は、はは、いいいいい。ひいいいい。ぎゃああああああああ!!!!」
全く。トーマスはみっともない。というよい、そんなに怖いのか。まあ頑張れ。
そうして俺は部屋に戻り、休息についた。
明日からは宮廷魔法使いとしての任務も始まる。
これからがおれのこの三年のスタートラインだ。
俺はこの三年で強くなる。そうして自由を手にいれる。
必ず———
ーーー
トーマス視点
「ぐすん。ぐすぐす。」
「何、大の大人が泣いているんだ!!!」
「だって陛下は怖いじゃないですか!!」
やめてくれええ。その鬼の形相を俺に見せないでくれえ。陛下怖いいいいい。
「ん?誰が怖いって?」
「こ、こ、こ、怖くないです。陛下はこ、怖くないです。優しいです。」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。陛下怖い。
「まあ、落ち着け。俺が怖いわけないしな。」
いや怖いだろ。
「はい、怖いです。じゃなくて怖くないです。」
また睨まれてしまった。それも鬼の形相だ。
「はあ。まあいいだろう。それよりも本当に怖いのはラーファルトだ。」
「そうですか?俺にはただの子どもに見えますが。」
少なくとも陛下のような鬼の形相は想像できない。
「今、俺と比べただろ。」
「いえ、全く。顔が鬼の形相になることなんてないのにと思いました。」
「なるほど。お前の任務を二倍にしておいてやる。」
しまった!!口が滑った。ただでさえ忙しくて限界に近いのに。
「まあなんにせよ、あいつは怖いよ。」
「どのような点がですか?」
俺には想像が全くできない。
「お前、本当にそう思っているのか?あいつはまだ七歳だぞ?」
怖くないですよ.....
「あいつはあの年で俺に勝利したんだ。」
陛下、やめて下さい.....
「成長スピードも凄まじい。」
陛下、やめてくれ.....
「いつか俺たちなんて優に越えていくのだろうな。」
「やめて下さいよ!!!!!」
あ.....やってしまった。
ああ、終わったな。死刑かな。火炙り?首吊り?
「やはりな。お前も怖がっているじゃないか。」
「.....はい。」
ばれてしまったか。
「そうだよなあ。怖いよなあ。同時に尊敬もする。」
その意見には完全に同意だ。
あいつはすごい。ラーファルトは尊敬できる。七歳でここにいるのだ。
自分が自由に生きたいという信念を持っているからだ。その目標に対してひたすら努力する姿は尊敬できる。
だが、同時に怖い。
あいつは天才だ。努力だけではない。才能がある。世界最高峰の才能だ。
いつか抜かれる。その怖さがある。
「俺はなあ。生涯をかけて魔術探知を極めてきた。」
「はい。知っております。」
「俺は悔しいよ。先程まで怖いという単語を使ってきたが悔しい。」
悔しいか。それもわかる気がする。
「もちろん俺が見つけて指導しなければあんなに早くあいつは習得できていなかっただろう。だけどな、あいつは俺が一生かけて習得した技を三日で習得したんだ。悔しいよ。」
「俺も一ヶ月かけましたからね。」
「俺からすれば一ヶ月も三日も誤差だけどな。」
なんか陛下、ごめんなさい。
「なあトーマス俺はなあ。」
「はい。何でしょう。」
「俺は、ラーファルトが——————」
陛下の発した言葉に俺は耳を疑った。
だが、そに言葉は妙に納得もできて、信じたくなる。
いや、信じよう。
ラーファルトがそうなるとすれば仕方ないと割りきることもできそうだ。
陛下の言葉を信じよう。
「ラーファルト・エレニア。将来が楽しみだな。残念でならない。」
「残念?」
「ああ、俺は三年以内に死にそうだからな。」
え.....⁇三年以内に陛下が死ぬ?到底信じられない。受け入れられない。
「まあ、信じられないだろうな。その顔は信じていない顔だ。」
「当たり前です。信じるはずがありません。」
「だけどなあ。最近体調が優れないんだ。」
何も言えない。俺が何か言わなきゃいけない。ラーファルトがいずれ彼の一番弟子となるだろう。
だがそれでも、一番弟子でなくても、弟子であり、今この場にいる俺が何か言わなければならない。
「し、師匠.....!!あの.....」
「ふん。お前から師匠と言われるのは何年ぶりだろうな。トーマス。俺の死んだあとはお前に宮廷魔法使いを任せるぞ。この国しっかり支えてくれ。」
俺が、支える?
「あの、それは俺よりも有望なラーファルトに任せるべきでは?」
「何を言っているのだ?俺は三年より後も残っていいと言ったが、彼は三年でいなくなるだろう。彼の人生にはこの国を守る理由も、余裕もない。」
「それに、俺の一番弟子はトーマス。お前だからな。」
陛下が。いや、師匠が。ファルゴ師匠が背を向けながらそう言った。
師匠の顔は見えなかった。俺はそのときに師匠の顔を見たかった。
だが、次の瞬間、光が何かに反射した。
俺にはそれだけで十分だった。
俺は、大粒の涙を流し、鼻水を垂らしたみっともない姿で告げた。
「師匠........!!!!必ず......必ず俺がこの国を宮廷魔法使いとして支えます.....!!」