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第15話:再戦、そして任命

 「入れ。」


 大きな扉がゆっくりと開く。

 中からまた神々しい光景が流れ込んできた。


「ふむ。思ったより早かったな。3日で仕上げたか。」


「ふうっー。」

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「再戦よろしくお願いします。ファルゴさん。」

「うむ。存分にやり合おう。」



「ふうっー。」

 もう一度深呼吸をする。


 集中だ。魔術の正確性。それを高めるには集中しろ。判断を早くしろ。


 そしてどんな戦いになるとしてもこれだけは譲らないようにするのだ。


 先手!これだけは譲らない。


「行きます!」


 《ウォーターガン》



「ふんっ。まずまずだな。」

 ファルゴが真剣な表情で分析している。


「氷の精霊」

 《アイシング!》


 ファルゴは俺の放ったウォーターガンを凍らせた。だがまだだ。


 《ロックショット!》

 無詠唱魔術の俺にはスピードというアドバンテージがある。


「水の精霊」

 《ウォーターガン!》


 前回の戦いと同じように彼はウォーターガンで俺の魔術の軌道をずらした。


 その瞬間ウォーターガンを使用したファルゴがふいに不適な笑みを浮かべた。


「これでは、前回と同じ流れだな。始めにお前がウォーターガンを打ってきたのは少しの成長と言えよう。真面目に特訓はしたようだ。そしてだんだんものにしている。だが、まだまだだなぁぁぁぁぁ!!!」


「風の精霊よ、我が体を」

 《ムーブドウィンド》


 ファルゴは叫ぶと同時に魔術で俺との距離を詰めてきた。


 その勢いに俺は一歩引いてしまう。


 ファルゴのスピードは早い。



 また負ける。



 その考えが頭をよぎったとき、俺は距離を詰めた"本当の意図"に気が付いた。



ーーー




再戦から三日前


「トーマスさん!!はぁはぁ。」

 あー疲れた。探すのに苦労したぜ。


 俺には見えていないものも私達には見えている。


 ファルゴとの戦いにおいてのそれに気が付いたとき、トーマスの所へ駆け込んだ。


「おーおーどうした?まだ考えろって言ってから3時間位しか経っていないが?」


 そんな俺を見てトーマスは陽気に返事をしてくる。


「ぜぇ。えっと。その。ぜぇ。あの、戦いでの。はぁ。」

「くくくくく..........」

「えと、ぜぇ、トーマス?ぜぇ。さん?」


「うわ、はっはっは.....!!!ひー!!面白い。息があがりすぎね。どれだけ急いできたのよ。それじゃ伝わらないって。あと、さん付けしなくていいから。あー面白い。」


 俺は、「ひー」といって笑う人を初めて見た気がする。こっちは必死だってのに。


「あーごめんごめん。そっちは真剣なんだもんね。まあ中入って。くふふふ。」

 反省はしていないようだ。


 そうして入った部屋はトーマスの仕事部屋だ。

 机の上を見ると沢山の資料がおいてある。忙しいのはあながち嘘では無さそうだ。


「よし。それじゃ改めて話を聞こうか。」

「戦いにおける明らかな矛盾点を発見しました。」

「早かったねぇ。聞かせて。」

「はい。ファルゴさんが俺に魔術を当てた所です。直前、俺はファルゴさんを探しました。ですが、深い霧の中にいたため発見はできなかったです。しかし、同じ状況下にいたはずのファルゴさんは俺の頭に正確に当てた。明らかな矛盾です。」


 俺たちはお互い霧の中で正確な位置は分からなかった。


 しかし、彼は何らかの方法で俺の位置を正確に捕捉したのだ。


 もちろんこれだけが彼と俺との差ではない。だが、大きな差だ。


 俺には見えていないものも彼には見えているのだから。


「ふむ。いいだろう。特訓を再開する。外へ出ろ。」

 特訓をするときの重い空気を纏ったトーマスがそう言った。 

「はいっ!」 


 そう俺が返事をしたときにはもう部屋をトーマスが出ようとしている。

「ちょっと、トーマスさん早いですって!」

「忙しいんだ。早くしろ。あと俺に、さん付けはするな。」


 俺、一応見た目は子どもなんだけどなぁ。厳しいなぁ。


 そう考えながら彼の後を追った。



 外へ出て、トーマスが10歩ほど歩いたところで止まった。


「よし、ラーファルト。そこから俺に魔術を打て。」

「え?でも見えないから当たってしまうのでは?」

「いいから、打つんだ。」


 はぁ。もう、どうなっても知らないからな!


 《ウォーターガン!》

 俺の放った魔術はトーマスへ飛んでいった。


 威力はもちろん弱めているがそれでも一応初級水魔術だ。


 もう、あと少しで当たる。危ない!


 次の瞬間、俺の放った魔術は曲がっていた。


 理由は分からない。



「今のが、魔術の正確性をあげる鍵だ。」

 呆然としていた俺にトーマスがそう言った。


「ファルゴ陛下はこれを極めたから強くなれたといっても過言ではない。この技術は、彼が見つけ、魔術に組み込んだ技だ。」


「仕組みはどのようなものなのですか?」


 ファルゴがすごい技術を持っていることは分かる。


 相手の放った魔術を操るなど到底できないことだ。


 俺もできるようになるためには仕組みを理解しなければならない。


「魔力は探知できる。」

 

 魔力を探知する?


「そのように感じた経験はないのですが。」


「いや、お前は普段から探知している。無詠唱魔術を使えるのだから。」


 無詠唱魔術は他の魔術師と違う。


「魔術の探知は自身が魔術を使っていないときにのみできる。自身が魔術を使うのと同じ感覚だからだそうだ。無詠唱魔術の使い手は普段から勝手に魔術が涌き出る感覚なのだろう。自身の魔力の感覚と混同していても不思議ではないからな。」


「では、自分が魔力を使用していないときに使用する感覚があればいいのですね。」

「ああ、そうだ。そしてこれによる利点を話しておこう。」


 利点。相手が魔術を使っていることが分かるではないのだろうか?


「利点は主に三点だ。」

 なるほど。便利な技術なんだな。


「逆にデメリットはないのですか?」

「ほぼ、ないといっていいだろう。」

 いや、お得ボックスみたいにいいなぁ。


「まず、一点目は魔術の使用タイミングが分かることだ。」

「不意打ちに備えられますね。」

「そうだ。それ以外の用途はあまりない。」


「次に、二点目は魔術の使用位置が分かることだ。正確に言えば魔術の影響が出ている場所がわかる。」

「相手の位置の捕捉ですね?」

「ああ、そうだ。お前との戦いで陛下はこれを使い、霧の中のお前を見つけた。だが、頭に当てられたのは、彼の経験により頭の位置を予測しただけにすぎない。」

「すぐには追い付けないレベルということですね。」


「理解が早くて助かる。そして三点目は魔術の面を捉えられることだ。これが最も魔術の正確性に役立つ。」

「面を捉えると良いことはあるのですか?」

「かなりある。これのお陰で魔術の正確性は飛躍的に向上する。この技術はルインド王国でしか採用されていない。だから、魔術の正確性に関しては世界最大と言えるように成長している。」 


 ふむ。面を捉える。スポーツなどでも重要なときがある。


「例えばどんな用途があるのですか?」

「まず、先程の俺のように操れる。」

「あれは、魔術の発動を上書きしているのですよね?」

「ああ、発動だけに詠唱は必要ないからな。」


 魔術への魔力の変換や移動の作業には詠唱が必要でも発動に詠唱は必要ない。

 考えてみるとなぜ曲がったのかを理解できる。


 射出方向や速度を上書きして変更したからだ。


 面を捉えるとそんなことも可能なのか.....!?


「そして、軌道をずらしやすい。自身で魔術を使用し、面を捉えて軌道をずらす。陛下もお前にやっていたな。同じ仕組みで跳ね返すこともできる。」


 面を捉えれば魔術の正確性が向上する。


 この言葉に偽りはないようだ。


「じゃあ、本格的に特訓を始めるか。」



 《ウォーターガン》パシャー。


「ふぇっくしゅ。」


「できないですよぉー!!トーマス!」

 後ろから放たれた魔術の軌道をずらせずに濡れてしまった。


 さ、寒い。


「まあまあ、誰でも通る道だ。」

 トーマスよ、こんないばらの道は工事してアスファルト製に変えてやりましょう。


 そういう冗談はさておき、状況を整理しよう。


 俺はまだ魔術の面が捉えられていない。他は簡単に成功したのだか.....


「はぁ、わかんねぇ。」

 気長にやっていくしかない。


 そう思って、濡れ続けること三日が経過した。


「うーむ。どうしようか。」

「なあ。ラーファルト。俺はな、イメージの問題だと思うんだ。」


 悩む俺にとトーマスがそう喋りかけてきた。


「イメージ?」

「ああ、今のお前は魔術をずらすことをイメージしているだろ。でも、戦いのなかでは更に精密なコントロールをするんだ。例えば、跳ね返すとかな。」

「え、じゃあ、、俺は一生、、、」

 俺は一生できないということだろうか?


「違うさ。実戦の中で大成することもあるってことさ。より、正確なイメージでね。」

「で、でも、、、まだ、、」

 まだ俺は現場に立てる立場じゃない。見習いだ。


 するとトーマスがにかっと笑ってこう言った。

「そのための陛下だろ。三回チャンスがあるのはなぜだ?」



ーーー



「これでは、前回と同じ流れだな。始めにウォーターガンを打ってきたのは少しの成長と言えよう。真面目に特訓はしたようだ。そしてだんだんものにしている。だが、まだまだだなぁぁぁぁぁ!!!」


「風の精霊よ、我が体を」

 《ムーブドウィンド》


 ファルゴは叫ぶと同時に魔術で俺との距離を詰めてきた。


 その勢いに俺は一歩引いてしまう。


 ファルゴのスピードは早い。



 また負ける。



 その考えが頭をよぎったとき俺は距離を詰めた"本当の意図"に気が付いた。



 俺の後ろで魔術を探知した。



 彼が距離を詰めてきたのは陽動だ。

 そして、距離を詰める前に話していあのは魔術を背後に回らせる時間を作るため。



 —————ならば!俺のすべきことは!



 イメージを頭の中で精密に構築する。


 イメージは完璧だ。


 後は俺次第。


「うおおおおおおおおお!!!」

 相変わらずファルゴは突っ込むふりをしている。


 《ムーブドウィンド》

 左手で魔術を発動し横に避ける。


「ファルゴさん。俺の勝ちです。」

 ファルゴが目を見開いた。



 魔術の面を捉えた右手はファルゴが事前に放っていた《ウォーターガン》を加速させた。



 俺のイメージ通りにファルゴの顔が濡れる。



 数秒の沈黙の後、彼はこう言った。

「お前の勝ちだ。ラーファルト・エレニア。そなたを宮廷魔法使いに任命する。」


【記録:人魔暦6年】

ラーファルトが魔力探知を習得し、宮廷魔法使いとなった。

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