第14話:見えていないもの
「今から特訓を始める」
「よ、よろしくお願いします!」
トーマスの空気が重い。どのような特訓が行われるのだろうか。
「さて、お前の課題は何だと思う?」
「え?魔術の正確性が低いこと.....??」
「あーまあそうなんだけどなぁ。分かるか。そのために何が必要か。っていうなんていうか。」
「具体的にってことですね。」
「あ、そうそう!具体的に!」
なるほど。トーマスは授業に慣れていないな。
フィックス先生の授業はもっとわかりやすかった。
こいつ、もしやモルガンタイプか.....!!
とりあえずやってみようなぁ!!
「具体的にですか.....分かりません。」
「そうか。実はな。昨日の戦いでお前が気がついていなければならないことがあるんだ。それを考えろ。」
「気づいていないこと?」
「ああ、明らかにおかしいことだな。それに気付き、ものにすれば良い。そうすれば魔術の正確性は申し分なくなるだろうな。」
ふむ。つまり.....つまりどういうことだ?
昨日のファルゴとの戦いで俺が気づいていない事象を見つけろってことか?
うーん。わからんな。
「じゃあ頑張るんだぞー。」
え?特訓終わり.......??授業下手だなぁ。
これが、授業放棄タイプか!学級崩壊するクラスの担任の特徴だな!
じゃなくて.....
「もう終わりなのですか...??」
「終わりというよりそれに気づかない限り始まらない。よく考えろ。頭を回せ。そうしてお前は成長する。あと俺は忙しい。」
「はい.....」
なるほど。俺が何かに気が付かないと特訓のしようがないのか。
実験したいけど実験器具がありません的な感じか?
いや、違うな.....多分。
だけど最後のが本音だな。
俺の気づいていないことか。
わかんねぇ。
ひとまず自分の部屋に戻ることにした。
「はぁ。えいっと。」
ベッドにダイブして考え始める。
そういや受験勉強で分からない問題がある時こうしてたな。
うーむ。
「はぁ。わかんねぇ、」
完全に行き詰まっている。
うーん。
うーん。
うーん......
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「聞いているのですか?ラーフ。」
ん?フィックス先生.....?
俺は何をしていたんだっけ?
ああ、いつも通りフィックス先生の授業を受けていたんだ。
「はい。聞いています。」
「ははは。そうですか。」
フィックス先生は笑ってそう言った。
「ラーフ。あなたは自分がどんな人間だと思っているのですか?」
「あ、私も知りたーい!」
いつの間にか俺の背後にサナがいた。
難しい質問だな。何度考えても何も言葉が浮かんでこない。
「俺は、自分がどんな奴なのか分からない。いまだに前世に縛られている奴なのか。それとも今を全力で生きている奴なのか。俺は今、自由なのか。それだって分からない。俺が何をしているのか。どんな人間なのか。全然分からない。だから、知りたい。そのために俺は生きている。」
俺は分からない。何も知らない。無力だ。
そんな俺にフィックス先生はこう声をかけた。
「ラーフ。あなたには分からないことが沢山ありますね。ですが、私達は見ていますよ。」
「私やモルガンにエミリア。サナやミア。それに村のみんなだってあなたを見ています。」
俺の後ろにいるサナは微笑んでいた。
そうして彼は息を吸う。
「あなたには見えていないものも私達には見えていますよ。」
「例えば......?」
するとフィックス先生やサナは笑った。
「そうですねぇ。あなたが30分寝ていたこととかですかね。」
「えっ!?」
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「はっ!」
いつの間にか眠りについていた。
はは。本当に三十分寝てやがる。
「あなたには見えていないものも私達には見えている。か.....」
夢の中の話が妙に引っ掛かる。
もう一度頭のなかで戦いをイメージする。
俺には見えていないものもファルゴには見えている。
そんな可能性を考える。
あのとき、俺に見えていなかったものは何だ?
その答えは———
それに気付いたとき俺はトーマスの所へ走り出した。
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あの夢が何だったのか分からない。
天から貰えたヒントだったのだろうか。
それともただの運だったのか。
あるいはこの世界じゃ常識なのか。
だが、その夢のおかげで俺は今、ここに立っている。
あの、大きな扉の前に———
そしてファルゴとの対戦がまた始まる。