第13話:特訓開始?
ザザザザザザザザー
ああ、王宮の風呂は綺麗だなぁ。
はぁ........
はぁ........
「はぁ..........」
「なんだ落ち込んでいるのか?」
思わず漏れたため息にトーマスが反応してきた。
「それは.....もちろん.....」
「あんまり気にするなよ。ああ見えて陛下は50年に一人の逸材と言われている方なんだ。まだ、6、7歳のお前は負けて当然だ。逆に、経験を積めばお前の方が強いだろうな。」
あまり、励ますのが得意でないのだろうか。それとも恥ずかしいのか。だんだんトーマスが早口になっていった。
「ふふふ。そうですね。ありがとうございます!」
「何を笑ってんだよっ!」
そうやって怒るトーマスも笑っている。
「それにしても本当に大丈夫なのか?」
「そうですねぇ.......」
ーーー
——30分前
《ウォーターガン》
俺の頭が魔術によって濡れた。
「ははは、私の勝ちだな。」
「くっ...」
悔しい......戦いの途中から実力差は歴然としていた。
今までにない程の完敗を喫してしまった。悔しい。もっと強くなりたい。
今はそんな単純な感想しか湧いてこない。
「悔しそうだな............」
「それは、もちろん............」
ファルゴのこの発言は煽っていると捉えてもいいのだろうか............
「お前の魔術師としてのレベルはまずまずといったところだな。おい、トーマス。」
「はいっ!陛下。何なりとお申し付けください。」
トーマスと言われている部下がやってきた。杖をパシられていた人だ。
「お前のその陛下という癖早くやめてくれぬか。ファルゴにしてくれ。おい、ラーフ。お前はくれぐれも陛下と言わないようにしてくれ。ファルゴでよろしく。」
おっと、失礼、脳内ではもうそう呼んでいました。
「承知いたしました。ファルゴ”さん”」
「なぜ”さん”をつけるのだ?」
「年上ですので。」
「そうか。まあいいだろう。」
「ところでラーフ。お前と戦って分かった課題は大きく二つある。何だと思う?」
おいおい、トーマスを呼んだのに先に俺と話すのかよ.......
「そうですねえ、技のバリエーションが少ないことと、判断が遅いことですかね?」
俺は思ったままのことを言った。
「一つのみ正解だ。」
「どちらがでしょうか?」
「判断が遅いことだ。」
ふむ。それは俺も以前から分かっていたことだ。俺には実戦経験が全く足りていない。
「お前には実戦経験が全く足りていない。」
どうやら俺自身の考察はしっかり当たっていたようだ.......
「そして、お前の第二の弱点それは”魔術の正確性”だ。」
「正確性?そこまで低いわけではないと思いますが.......」
「お前の魔術は確かに全魔術師で比べれば標準以上の正確性はあるだろう。だが、今のお前は技巧級火魔術師だ。そのレベルの魔術師となれば完全に実力不足と言える。お前は魔力量が膨大だろう?なにせその年でこのレベルの魔術を使えるのだ。余程小さいころから魔術を使っているはずだ。」
「それは、もう、文字が読めるようになってすぐ程から.......」
「それが原因だろうな。魔力量が多いということは威力の高い魔術を何度も打ってるということだ。正確に魔術を打つなんて面倒くさい行動はしたくなくなってしまう。」
確かに俺は初級の魔術はほとんど使った記憶がない。上級以上の魔術を使う癖もついている。
「心当たりがあるようだな。いいか。苦手意識があるのにも関わらず、そこから目をそむき続けるほど愚かな行為はないぞ。」
何も、反論ができない。実際、思い返してみるとファルゴとの戦闘前にも苦手意識を持っていた。
「俺は.......どうすればいいのでしょうか?」
「フッ。そのためのトーマスだ。」
やっと出てきてくれた.........トーマスお待たせ。
「トーマスはこう見えて俺の一番弟子だ。まだ俺には遠く及ばんが、いずれ超えるだろう。彼に魔術の基礎を一から学びなおせ。」
「一から?なぜ一からなのですか?」
「魔術の正確性を高めることなど基礎中の基礎。一に過ぎないことだぞ。逆にお前は十が出来ているがな.........」
「トーマスは魔術の正確性だけで言うと私より上だからこれほどの適任はいない。」
「では、トーマスさん....よろしくお願いします....!!」
「そんな堅苦しい挨拶はいらない。同僚なのだ。トーマスと呼んでくれ。」
いや同僚じゃなくて上司だろ。
そしてファルゴを陛下と呼び続けている人に言われたくはない!
「俺のことは陛下って呼び続けているのにな.......」
どうやらファルゴもそう思っているらしい。
「じゃあトーマス。よろしく。」
「うむ。よろしく頼む。」
「ああ、そうだ。俺から課題を出しておく。状況によってお前の行う行動を決めておけ。そして、俺に勝てると思った時に挑みに来い。3回チャンスをやる。一回でも攻撃を当てたらお前を正式に宮廷魔法使いとして雇う。」
ファルゴが付け足すようにそう言った。
「分かりました!」
ん?正式に?つまり今はまだ見習いってことなのか〜!!!
色々確認をしたい部分はあったがそのまま謁見は終了してしまったしまった。
今、俺は濡れた体を温めるために風呂に入っている。
さて、トーマスとの話に戻ろう。
トーマスもなぜ風呂に入っているのか?彼も魔術に巻き込まれて濡れたからだ。
かわいそうに........
「まあ、大丈夫かと言われたら大丈夫ではないですね。」
「それは......」
トーマスが何か言いかけたが、俺はそれを遮る。
「でも、俄然やる気が出てきました!」
「ふふふ。それは良かった。」
「どうしてですか?やはり今から教えないといけないからですか?」
「いや、俺の時は自身を喪失していたからね。心配だったのさ。」
「ああ、それは、大変でしたね.......」
ということはトーマスも俺のように宮廷魔術師になったということだ。
「あの、トーマスさんは.......」
「ラーファルト。もう何分入ってる?30分は過ぎたぞ。またその話は明日にしよう。」
「明日ですか?」
「ああ、明日からの特訓の時間に.....!!」
こうして地獄の特訓が幕を開ける........!!!!!