The other side:サナの決意
「いや、「自由に生きたい。」だ。」
モルガンさんからその答えを聞いたときやっぱりラーフはすごいなって思った。
今の私の夢は「自由になりたい」なんていう大人な夢じゃない。
ただただ、ラーフみたいな人になりたいという夢だ。
ラーフはすごい。
強くて、優しくて、大人っぽくて、一緒にいると楽しくなる。
でも、そんな風に、ラーフのようになりたいなどと思っていると、きっとラーフのようにはなれないのだろう。
ラーフのようになりたい。
その夢を叶えるためには、その夢を目指すのをやめないといけない。
なんて残酷なのだろう。
だからラーフが、
「分かりました。三年ですね。受けます。宮廷魔術師になりましょう。」
と言った時私には3つの気持ちが胸の奥でひしめき合っていた。
一つ目が不安の気持ち。
ラーフがこれからの生活でいなくなってしまうことへの不安だ。
二つ目が決意の気持ち。
ラーフがいなくとも私はこれから三年間しっかり生きていく決意だ。
そして、三つ目が安心の気持ちだった。
安心する理由は分からなかった。私は何に対して安心をしているのか理解ができなかった。
なぜ安心してしまったのだろう。
分かっているのに分からないような不思議な感情が蠢いていた。
その答えがはっきりしたのはパーティーの時間だ。
このパーティーは私が提案した。
ラーフの門出にはパーティーをするべきだ。私はここに来た時に祝ってもらったのだから、出ていく時もするべきだ。
そんな風に説得をしたが、本音は違う。
私が覚悟を決めるためだ。
ラーフと別れる覚悟だ。
ラーフと離れることを受け入れるための儀式とも言える。
パーティーが始まって、ラーフを探した。
ラーフは父と話していた。
「サナ........好き.......??」
「は.........い.......」
ふと会話から私の名前と好きという単語が聞こえた。
私の心臓の鼓動があがった。
モルガンさんはそんな私に気づいたようで、ラーフを振り向かせた。
はっきり言う。
私はラーフのことが好きだ。
大好きだ。
でも、だからこそ、それを伝えられない。
ラーフは私には雲の上の存在なのだから。
雲の上の存在か。
私も頑張らないといけない。
今の私は釣り合わない。
私はそこでようやく気付いたのだ。
なぜ、あの時安心していたのかということに。
私はラーフがそばにいると自身も成長できないということに気付いていたのだ。
ラーフという存在に甘え、救われ、それを続けていく。
ラーフという存在が側にいれば、私は一生ラーフのようにはなれない。
もちろん、ラーフには助けて欲しい。守って欲しい。
でも、いざという時に、守ってあげる、そして支えてあげられる様な。
互いに守る関係になりたいのだ。
だから、私は離れる必要があった。
だから、安心した。
そう考えると私の気持ちも軽くなったような気がした。
「父様は酔いつぶれていると思うので。」
「そうだな。」
そうやって会話をしているラーフを見てやっぱりすごいやと思う。
ラーフの行動一つ一つがすごいと感じてしまう。
これが好きということなのか。
ラーフも私のことを好いてくれているのだろうか。
「サナ。あの、ありがとう。」
「うん。えと、何が?」
「このパーティー提案してくれたんだろ?」
「あー!うんまあ。一応。」
「ありがとうね。」
私は三年間頑張って努力してラーフのようになる。
ラーフに相応しくなる。
だから今は........
「ねえ、ラーフ。」
「な、何?」
「約束守ってね。」
「な、何のかな....?」
「もし、どこかへ行っても必ず戻ってくるっていう言葉忘れてないから。私のこと考え続けてくれるんでしょ?」
「も、もちろんだよ!」
「私も考え続けておくからね。」
考えない訳がない。ラーフのこと。
ラーフにも私のことを忘れないでほしい。
三年後、お互いが驚くような再会ができることを心から願っている。
私は三年間、私を磨く。
これは必要な別れ。
私のための、そしてラーフのための別れ。
必要なこと。
分かっていたとしても出発のとき、涙は止められなかった。
次の日の朝が来た。
もう私の日常にラーフはいない。
ここからは私次第だ。
ラーフのようになる。
必ず。
その決意をここに書き記した。
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「へぇ、サナってこんなこと思ってたんだ。」
「ちょっと、馬鹿にしてるでしょ!」
この話ができるのはまだ先の話だ。