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第116話:シアの治癒

「ミサール!」


 谷の硬い岩盤へ叩きつけられ気を失っているラーファルトの元へライナとルアが駆け寄った。


「ミサール!しっかり!目を覚まして!」


 苦しげに眉を顰めるラーファルトの息遣いは荒く、かなり酷い怪我を負っている様子だった。


 心配そうな表情と口調でライナは声をかける。


「倒れた戦士よ。倒れるまで戦った勇者よ。この生に縋る一命よ。目覚めろ。我がその身を呼び覚ます。傷よ癒えよ。体よ動け。感応せよ。自然を感じよ。精霊の導きが汝の心を呼び覚まさん。」


 《アウェイクヒール!》


 ルアの手から光が溢れ出る。


 中段の治癒魔術。


 全身の体の内側の傷も癒していく。



 中段の治癒魔術は欠損をしていない部位の傷なら全てを直すことが出来る。



 ルアは治癒魔術師として天才だった。


 治癒魔術は普通、一階級あがるのに五年以上もの月日を要する。


 ラーファルトが現在使えるのは初段まで。


 年齢を考慮すると彼も天才の域に余裕で入ることが可能だ。



 だが、ルアは五年だ。


 治癒魔術を学び始めて約五年の月日しか経過していない。


 初級.....よくて中級を扱えるレベルの年数だ。


 それが彼女は現在、技巧級まで扱える。



 今回、ラーファルトに対し中段の治癒魔術を使ったのは怪我の酷さを見て治療の速度を考慮したからだ。


 階級が小さければ小さいほど扱いやすくて、早い。


 ラーファルトが魔力探知を学んだ時によく考えた知識だ。


 それをルアは己の勘で、治癒魔術に落とし込んでいるのだ。


 正確に最高の判断を下し、治療する。


 ラーファルトが入る以前にこのパーティーが生き残れたのは彼女の治癒の功績というものもかなり大きい。


「ミサール!」

「う.....」


 苦しげに顔を歪めた表情のままラーファルトは目を覚ます。


「サ.....」


『攻撃の余波です。』


 《シェルマッド!》


 目覚めてすくの咄嗟のラーファルトの判断で攻撃の余波が防がれる。


 が、シェルマッドはすぐに崩れた。


 それほどの威力の余波。


 正直これまで飛んでこなかったのは奇跡のレベルだ。


 だが、一概に奇跡と言い切ることも出来ないだろう。



 ドォォォォォン.....!!


 と轟音を響かせてウォーリアと冥神がぶつかる。


 きっとウォーリアが攻撃を殺してくれていたのだ。


「俺も加勢を.....」

「待って!」

「うっ.....ゴホッゴホッ.....!!」


 唐突に頭に痛みが襲い、同時に口から血が出てくる。


「まだ完全に治ってませんからね。」


「精霊のお心のままに。見えぬ傷を曝け出し、癒し、休息を与えん。掛け違いたる戦線の中、再び立ち上がる希望を持たせよ。心に剣を持て、思考に盾を持て。かの身を幾度もこの世で救いたまえ!」


 《アナリシスヒール!》


「これって.....」


 上段の治癒魔術.....


『体内を細かく解析、不調の見られる箇所を修繕することのできる治癒魔術です。ただし病気などによる不調は一時的な効果のみしかありません。』


「こりゃすごいな.....」

「ええ、ルアはすごいの。ミサールも起きたし、私も戦ってくるわ。ゆっくりしてて。」


 そう言って彼女は詠唱を唱え始めた。


「深淵の彼方に光は届かず。深淵の深みに光を届けず。深淵の奥地へ敵を封ずる。邪悪の化身よ闇へ沈め。闇で包め。一雫の希望さえ与えず、封じろ。深淵のままに.....」


 《キブラック.....!!》


 途端に冥神の足がおぼついた。


 今でも笑い、余裕を浮かべてはいるが、少々その技には驚いたようだ。


『ギブラックは敵の視界を奪い、同時に黒の世界を見せることにあります。』


 何も見せないんじゃなくて、黒の世界を見せるか.....


『禁忌魔術の一瞬ですが、その習得難易度は技巧級以上に相当すると言われている技です。』


 下手するとそれ以上だな。


 すげえ技を使うもんだ.....


「ならば俺もやるべきことを.....」


 《ゴーレム》


 防御の為に勝手に動いてくれるゴーレムを作った後、俺は戦う冥神を目に焼き付けた。


 今、超えて、倒すために.....!!

投稿一日遅くなってしまいすみません!

来週頃からは学校の方も落ち着いてくると思いますので安定した更新ができると思います。


ラーファルトの倒れた冥神戦!

ライナたちは冥神を倒せるのか?!


乞うご期待下さい!

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