第11話:選択と別れ
あの日の悪夢は今でも夢に見る
______この物語。
「14浪生転生記」
その物語は波乱へと向かい始めたのだ
何度、その選択を後悔しただろうか。
「うお。あ、え?あの、あなた達は......どなたでしょう...か?」
「ルインド王国宮廷軍特別部隊です。」
サナが来たと思って開けたドアの外には5、6人の人がいた。全員鎧を着ている。
「ラーフ。誰が来たの~?」
エミリアが奥から聞いてきた。
「なんか宮廷軍が.......」
「宮廷軍!!!???」
慌てた様子でエミリアが玄関にやってきた。
「あの、宮廷軍の方が何の用でここへ?」
「少々、息子さんのことでお話が。主人もここにおられますでしょうか。」
俺!?俺のことなのか?いや、今や息子は俺だけじゃない。リールもいる。ここはリールについてってことにしておこう。
まだ赤ちゃんだけど!!
「仕事でこの家には今はおりませんが、近くなので呼んできましょうか?」
「じゃあ、僕呼んできますね。」
「いえ、仕事というのならば。また後ほどで構いません。待っていますので。」
「分かりました。家に上がられて構いませんよ。」
「では、失礼します。」
家に入っても鎧は外す気はないらしい。それもそうか。
いきなり俺たちが攻撃を仕掛けてくる可能性も考えなければならないのだ。
そんなことするつもりはないけど。
国を敵にするほど馬鹿じゃない。
「ミア。お茶を出してきてくれる?」
「承知いたしました。」
そうしてミアは流れるような手つきでお茶を注いで来た。
まるで機械みたいだ。
「こんにち.......し、失礼しましたー!」
「あ、やっほーサナ。」
そりゃそうだ。いつも出入りしている家に何人ものお客がいるのだ。
そして、そいつらは鎧を着ている。それは、それは怖いだろう。
「あ、えっと、今日は帰りますね......」
「待ってくれ。サナさんにも関係がある話かもしれない。ここにいてもらえますでしょうか。」
「あ、え?まあ、大丈夫ですけど......」
サナにも関係がある話?なぜ?こいつらの目的が見えてこない。
しばらくしてモルガンが帰ってきた。
「ただいまー!って.....えと、こんにちは。」
いやー。そうなるよね。モルガン君。
「お初にお目にかかります。ルインド王国宮廷軍特別部隊の者であり、秘密重視の組織であるため、個人名は伏せさせていただきます。以後お見知りおきを。」
なるほど。秘密重視の組織であるのか。それならば鎧を外さないのも納得だ。
あと、まぁ。この挨拶を見る限り危害を加える感じはない。
「ああ、モルガン・エレニアです。この村で一応村長をしています。で、えと、宮廷軍の方が何の用でしょうか?」
「ええ、それを含めて今から話させていただきたいと思いまして。どうぞ、座って聞いてください。」
「約1年前。おそらくサナさんがこの村にやってこられた頃だと思います。そのころに、ビッグマーモンフィグという魔物を討伐されませんでしたか?」
「それは、どのような特徴の魔物でしょうか?」
「大きい牙を持った魔物です。」
大きい牙.......俺がサナを助けた時の魔物か....!!
「......倒したかもしれません。確か、サナがこの村にやってきた日ですね。彼女の家族が乗っていた馬車が襲われていたところを助けました。」
「そういう事でしたか。サナさん。危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした。」
「ふぇ!?えとまあ大丈夫ですけど、どうしてあなた達が謝るのですか?」
サナがそう答えた。6歳とは思えない大人な対応だ。
やっぱり異世界じ.....いや違うに決まってる.....
「実はあの魔物は我々が以前から追っていた魔物でした。あの魔物は普通森の奥深くに住んでいるのです。しかし、何らかの理由でその地を追われ、こんな村の近くの森にまで来てしまっていました。国民を危険に晒すわけにはいきませんので私たちが討伐をするために追っていたのです。」
「では、なぜ私たちが討伐したと分かったのですか?」
モルガンがそう聞いた。
だが、俺は言いたい!
討伐したのは俺だぁ!
私たちじゃなーい!
「私たちには追跡等のスペシャリストがいますので時間をかければ誰でも見つけることが基本可能です。まず、魔物の追跡を行いましたが既に倒されていました。そこには魔力の痕跡が残っており、一人目はラーフさんでした。魔力の痕跡はそれがほとんどでした。しかし、微量ではありましたがサナさんの他、三人ほどの魔力の痕跡も残っていました。」
うむ。なるほど。やり方は分からんが、理屈は理解可能と言ったところだ。
それを踏まえて俺は口を聞いた。
「つまり、その魔物を倒した人を探してお礼を言いに来たということですか?」
サナを引き留めたのは彼女の魔力が現場に残っていたからだろう。
それにしても魔力によって個人を特定できるとは思ってもいなかった。そして、魔力を使った場所では痕跡が残るのか。
「そうとも言えますが、ラーフさん。少し違いますね。」
ほう、違うのか.....
「では、本来の目的とは何なのでしょうか?」
モルガンがそう聞いた。
「ラーフさん。あなたの息子さんを3年間宮廷魔術師として雇いたい。」
「は?」
思わず、そんな声が出てしまった。
「ラーフ!」
「あ、ごめんなさい。つい。理解が追い付かなくて。」
エミリアから注意されてしまった。
俺が宮廷魔術師?この俺が?嘘だろ。
「構わないですよ。ラーフさんは優秀です。ぜひ、一度宮廷魔術師として雇いたい。彼は技巧級火魔術師とお聞きしました。この年齢では信じられない程の偉業なのです。3年だけでいい。彼の力を貸してほしいのです。」
「うーん。」
モルガンは迷っているようだ。それもそうだろう。まだ六歳である。
エミリアはモルガンの判断に任せるというような表情だ。
ミアは......無表情である。
サナは少し不安そうな顔だが、それ以上に何かを決意した顔をしている。
一分ほど迷った後、モルガンはこう言った。
「宮廷魔術師の皆さん。ラーフ.....ラーファルト・エレニア。彼の夢は何だと思いますか?」
「さあ、世界一の魔術師になりたいとかでしょうか?」
「いや、「自由に生きたい。」だ。」
モルガンは笑いながら俺の夢について語り出した。
なんか照れくさいなぁ.....
「すごいよな。この年で自由に生きることを目標に生きている。俺は、親として、ラーフに言いたいこと。アドバイスしたいことは山々だ。だけどなあ。ラーフの夢が自由に生きることっていうなら、俺はそんな夢を応援したい。彼の手助けをしたい。そして、お前らにもそうしてほしい。親の俺じゃなくて、ラーフに質問してほしい。」
「ラーフ。」
「はいっ!」
「ここに座れ。」
そういってモルガンの座っていた席に移動させられた。
「今から自分の行う選択はこれからの人生を決める大切な選択かもしれない。意味のない選択かもしれない。その上で言う。自由に選べ。それがお前の人生だ。文句は誰も言うまい。」
そうして後ろに下がっていった。
俺が選ぶのかぁ.....まぁ文句はない。
自由に生きるためにはこれぐらい当然だろう。
「では、改めて。ラーフさん。いえ、ラーファルト・エレニアさん。宮廷魔術師に三年間なっていただけませんか?」
「一つお聞きします。僕はそこに行けば成長できますか?」
「人間として成長できるかは本人次第でしょう。しかし、魔術に関してはかなり成長できるかと思われます。宮廷図書館には魔術に関する著書が多くありますから。」
そうか。難しい選択だ。これは重い。今後の人生を左右する選択だろう。
三年か。
「分かりました。三年ですね。受けます。宮廷魔術師になりましょう。」
......何度その選択を後悔しただろうか。
宮廷魔術師になることを決めてから24時間の猶予が与えられた。
それまでに出発の準備や別れを済ませなければならない。明日は忙しくなりそうだ。
明日にはここを出る。寂しくなる。この家で寝るのもこれで3年はないということだ。
これからの人生、俺にはどんなものが待っているのだろうか。分からない。だが、俺は自由に生きる。
今一度決意して眠りについた。
次の日、俺は村の人達に挨拶をして回った。
「そうか。寂しくなるなあ。」
「そうなのね、頑張ってね。」
「凄いなあ。いつでも戻って来いよ。」
そんな声をかけてもらえるだけで俺は嬉しかった。
この村では前世ではなかった経験をさせてもらえた。
自由を少し理解できた気もする。
口で説明できるほどなものでもないが、確実に俺の経験に繋がった。
俺はここに生まれて良かったと思っている。
田舎だけどねぇ.....!!
そんなことを考えて家に戻ると驚きの光景が広がっていた。
「よっしゃ!ラーフの旅立ちにカンパーイ!」
パーティーの準備がされていた。村総出で行ったのだろう。準備がかなり早い。
ありがたいことだ。
「飲むぞー!今日は騒ぐぞー!」
そういっているモルガンに俺は話しかけた。
なぜ初めがモルガンなのか。
それは、おそらく酔いつぶれて喋れなくなるからだ。
「父様。ありがとうございます。」
「何がだ?」
「その、昨日の会話の時とか、このパーティーだとか。」
「ふふ。」
「何がおかしいんですか?」
「いや、お前は何か勘違いをしているなと思ってな。」
俺が何か間違ったことを言ったか!?
「何をですか!」
「まず、これはお前の功績だ。俺の功績でも何でもない。俺はお前が自由になりたいなんて言ってなかったらおそらくあんな会話はしていなかった。そして、このパーティーは俺が企画したんじゃない。」
「ん?では誰が?」
「サナだよ。彼女が私はここに来た時に祝ってもらった。それなら出ていくときも祝わないといけないよ!みんなで祝うんだよ!って」
サナはそんなことを言っていたのか。なんていい子なのだろう。
やはり、異世界から来た人.....いや、絶対ないわ。
「お前は意外と鈍感で気づいてないかもだから言っとくぞ。」
俺が鈍感だと!?聞き捨てならないな。
「サナはお前のこと好きだぞ。」
「ん?いや、ないないない。ないですよ。」
「いや間違いないな。そしてお前も好きなんだろ?」
「.........は.......い.....」
「自分に自信を持て。今は無理かもしれない。でも、三年後。また帰ってきたときに伝えてやれよ。その気持ち。今は、しっかり別れを告げるんだ。ほら。」
そうして、俺を振り向かせるとそこにはサナが立っていた。
「じゃあ、俺はむこう行っとくから。」
「あ、父様!」
「なんだよ。」
「本当にありがとうございました。」
「ふふ。そういうのは別れの直前でも良かったんじゃないか?」
「父様は酔いつぶれていると思うので。」
「そうだな。」
そうして笑って向こうへ行ってしまった。
俺はサナへ向き直る。
「サナ。あの、ありがとう。」
「うん。えと、何が?」
「このパーティー提案してくれたんだろ?」
「あー!うんまあ。一応。」
「ありがとうね。」
彼女も俺のことが好きだということを聞いてから俺はサナをまともに見れてない。
ああ、クソ。こういうところが経験のない理由なんだろうな。
「ねえ、ラーフ。」
「な、何?」
「約束守ってね。」
「な、何のかな....?」
「もし、どこかへ行っても必ず戻ってくるっていう言葉忘れてないから。私のこと考え続けてくれるんでしょ?」
約束か.....
肝に銘じておこう。
「もちろんだよ!」
「私も考え続けておくからね。」
そして、彼女は今までで一番綺麗な笑顔を見せてくれた。
その笑顔は一生忘れない。
パーティーは終わり、別れの時間が近づいてきた。
それにしても今回の丸焼きのお肉はおいしかったなあ。
「母様。ありがとうございました。」
「うん。ラーフ。頑張ってね。」
エミリアは涙ながらにそう訴えた。
「リール、ラゼ、リゼ、お前たちも頑張るんだぞ。」
そう三人の赤ちゃんへ告げるとみんな一斉に泣き出した。
嫌われることでもしたのだろうか。
これが本当のキラワレチャッタの反応なのか.....
そんな風におろおろして、落ち込む俺を見て村のみんなが笑ってきた。
ひでぇ。
「準備は出来たのか?」
宮廷軍の人がそう話しかけてきた。
俺はまず村の風景を見た。綺麗な田園風景が広がっている良い村だ。
次に家を見た。住み慣れた家だ。楽しい日々がよみがえってくる。
最後に、門出に集まってくれた人々を見た。
村の人たち、ミア、リール、ラゼ、リゼ、エミリア、モルガン、そしてサナ。
俺にとってかけがえのない人達だった。
「本当にありがとうございました。」
「頑張れよ!」
そうやってみんなが口々に言ってきた。
「では、行くぞ。」
どうやら移動には転移魔術を使うらしい。詠唱を唱えて出てきたものに俺は衝撃を受けた。
あの、ブラックホールのような穴である。
俺が異世界から召喚された穴だ。
だが、今はそんな衝撃などどうでもいい。
ただ今は、今までこの世界で支えてきてくれた人に............
最大限の感謝を................
何度でもありがとうを................
その思いを胸に俺は王都へ転移した。
【記録:人魔暦6年】ラーファルトが家族の元を離れ、王都に行った。
第2章終わり?いえいえ、まだまだ波乱は続きますよ!!!!