第110話:手負いの魔物
「敵は呪いにより防御力を高めています!全員、一旦魔物から距離を取って!」
そう俺は叫ぶ。
呪いの森でのデータがある分、Sariの解析は他のロードリングより早い。
解析にどのくらいかかる?
『既に完了しています。』
よし、ならそのまま他の者の脳波へ干渉して戦闘掌握だ.....!!
『了解。今回の呪いの反動の条件は、本体.....ジャイアントエレファントから半径五メートル以内で二十体の式神を同時に倒すことです。』
なるほど。
それじゃあ本体と式神の担当を分けるんだな.....!!
その通りです。
『マスターには一人で本体を担当してもらいます。』
「全員!この脳波に従って戦って!」
ライナがそう指示を出す。他の者にもこの作戦は伝わっているようだ。
『敵は二本の足を失っています。故に、一度体制を崩し、地面に伏せさせてしまえば、大きな脅威になる可能性が低いです。』
それなら体制を崩す魔術か.....
とジャイアントエレファントへ向かって走りながら考える。
《ムーブドウインド!》
魔物の攻撃を躱しながら、Sariと話す。
『.....』
なるほど、良い感じだ。
任せろ!
《マッドスロウ!》
本体の目に向かって目潰しの魔術を放つ。
が、本体の大きさとラーファルトの魔術の範囲から、それは周囲の式神へも機能する.....
「今.....」
これまでSariの指示でか全く動いていなかった、ジャガー、シーア、ウォーリアが一斉に走り出す。
「空気よ、収束せよ。我らの道標となれ。」
《ウインドロード!》
ライナが風の道を作る。
走る三人に降り注ぐ遠距離攻撃は花火のように弾かれた。
だが、ウインドロードの欠点は正面からの攻撃は防げないことにある。
魔物はそれを本能で理解し、正面からの高下に映る。
高出力の魔力が放たれる。
「俺に任せい.....!!」
そう言って、ウォーリアがジャガーとシーアよりも前に出る。
「クリス流祈願」
《アブソーブソード!》
剣を前に突き出し、彼は目を閉じた。
敵の魔術は全てその剣に収束する。
敵の魔力を使う攻撃を全て剣に吸収させられる剣術。
敵の攻撃が尽きれば.....
《ディバージソード!》
吸収した魔力の分、敵へ斬撃を飛ばす。
ドォォォォォンと轟音を立てて、土煙が舞い、敵が吹き飛ぶ。
同時にその土煙をジャガーとシーアが走り抜けてくる。
あと、数秒耐えろ.....!!
俺の周りにも魔物が集まってきた。
マッドスロウの効果が薄まってきたわけだ。
《ロックシールド!》
敵の攻撃を地面に立てた土壁で防御する。
が、敵の攻撃はしつこい。
あと数秒耐えないといけないんだが.....倒してはならない。
本体の近くで二十体を同時に倒す。
それが今回の呪いの反動の条件である。
それなら無駄に殺してしまえば、面倒になりかねない。
本当に呪いってのは面倒なやつだ。
「炎よ廻れ。かの者を覆え。傷を負わせ、忌避されるその力を救うために顕現させたまえ!」
《ファイアーサイクル!》
炎の円が俺の周りにできる。
「ライナ.....!!」
邪魔が減った.....
ある程度の攻撃ならしても良いってことか.....
『敵が死なない程度ならご自由にして大丈夫かと思います。』
了解。
《ディバシーウインド!》
敵を俺の周りから離れさせる。
俺も敵は攻撃しないし、敵も俺を攻撃出来ないように.....!!
「止めは頼む.....!!」
《アイスフィールディング!》
敵の足元を凍らせ、身動きをさせないようにする。
「アリス流!歴戦!」
《鳴響!》
身動きが取れずとも敵は攻撃を繰り出してくる。
が、アリス流の攻撃はそれさえ覆す。
シーアが爆発音を響かせる。
同時に敵の攻撃全てが爆ぜた。
「ガルス流!急手!」
《光剣!》
同時。
二人の連携は完璧だった。
同時に攻撃を繰り出している。
1、2、3…..
瞬きの間に二十体もの魔物を討伐する。
呪いの反動性が発動した。
が、ラーファルト以外の者にとっての一つの誤算。
「ぐるああああああああおおおおおお!!!!」
敵の底力。
Sariの指示によって自分のやることしか伝えられていない彼らにとって敵のその行動は誤算だった。
魔大陸のような生存競争の場で一番怖いのは「手負いの魔物」なのである。
が、それをSariも読んでいた。
『今です。』
「ああ、全て、見えている。」
《デストロイフレイム!》
ラーファルトの放った超高音の魔術。
敵の皮膚を、肉を焼き、溶かし、消し炭にする。
ミサール・ノイルの加入した.....フローハット始めの戦いはこうして幕を閉じた。




