第104話:失いたくない
ラーファルトは彼女の差し出した手をじっと見つめる。
「無理だ。その手は取らない。」
「.....どうして?」
「俺は、もういいんだ.....もう.....」
淋しげに声を振り絞ってそうラーファルトは彼女に伝える。
「俺は既に生きる気力なんて無くしてしまった。希望を探すことに疲れてしまった.....」
「でも、あなたは何をすればいいのか分からないったさっき言ってたわ。」
彼女はそうしてラーファルトへ声をかける。
「分からない。分からないよ.....希望なんてないまま過ごしてきた。十年.....耐えて、耐えて、耐えながら過ごしてきたけれど希望なんて見つからなかった.....もう.....!!無理なんだ.....!!諦めたんだよ.....!!」
声を荒げるラーファルトへ彼女は少し微笑んで、優しそうな目で口を開く。
「なら、私があなたの希望になってあげるから.....」
「もういいって言ってるだろ.....!!もういいって.....!!」
更に声を荒げ、歯を食いしばりながら憤慨するラーファルトと彼女の間に沈黙が出来る。
「はあ.....はあ.....」
ラーファルトの息が早まり、心肺数が上昇する。
「そうやって.....そうやって助けてくれようとする人の思いを.....あなたはどれだけ無視してきたの?」
「は.....だから俺には....!!」
「いいえ。少なくとも今のあなたからはそうとしか思えない。差し出された手を狭い視野で振り払って、過去に囚われて.....希望がないって言い訳してるようにしか見えない。」
彼女の強い口調にラーファルトは押し黙った。
「あなたは今を見れてない。自分の過去にばかり目がいって、後悔して.....それで.....!!」
彼女のその目は淋しげで、悲しげで、幼なさが残っていた。
「ねぇ.....!!今を見て.....あなたの目の前にいる私はあなたの希望にもなれないの.....!!私はあなたを助けてあげたいのよ.....何て言われても、私はあなたの為に動いてあげたいって思う。救いたいと思う。それでも希望が見えないって言うの.....!!」
話していて、初めてあげた彼女の荒ぶった声にラーファルトの目は泳ぐ。
かと思えば、目を伏せポツリと呟いた。
「怖い.....」
「えっ.....」
「怖いんだ.....もう誰かに期待して.....期待されて、託されて。ただただ、俺が動くほど、後悔ばかりが募る。仲間が傷つく。」
彼女はそんなラーファルトの様子を見て息を呑んでいた。
「もう、失いたくない.....だからもう希望なんて持ちたくない.....もう、何も.....」
「ねえ、ミサール.....さん.....大丈夫だから。」
「え.....」
彼女はそうラーファルトへ声をかけると優しく手を包み込んだ。
「大丈夫だから。私は今、ここにいるから。」
「っ.....!!」
涙が.....溢れてきた。
抑えきれなかった。
優しい、懐かしい。
前にも握られたことがあったかのように安心する手だった。
「大丈夫.....私はここにいるよ。だから安心して、希望を持って。」
「.....うっ.....」
ラーファルトの目から更に大量の涙が溢れてくる。
今更ながら、ラーファルトは恥ずかしくなって、彼は顔を隠し、嗚咽を混ぜながら泣いていた。
ーーー
「そういえば自己紹介まだだったね。」
「確かに.....ごめん、名前も聞かず一方的に泣いたりしちゃって.....」
「ううん。いいよ。むしろ嬉しかったから。私、ライナ。よろしくね。」
「あ、う、うん。よろしくお願いします。」
ライナの嬉しかったという言葉に困惑しながらもそうラーファルトは返事をする。
「それで、そのミサール.....さん.....は私たちのパーティーに入る.....で大丈夫?それとも.....」
「うん。パーティー.....入るよ。」
10年もの間一人で生活してきたラーファルトにとって仲間とは特別な存在だ。
というより、私たちってことは.....
「他に何人いるんだ.....??」
「剣士二人とタンクが一人、それに治癒魔術師が一人いるよ。」
へえ.....
トントン.....
「あ、ちょうど良かった。入っていいよー。」
ガチャと音を立ててドアが開いた。
「おいよにーちゃん。」
そこに立っていたのは金髪、パーマ、サングラス(?)にピアスの男。
こ、強面ヤンキーだ.....
ラーファルトの新たなる旅路はこうして幕を開けたのである。