表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/139

第102話:死にたい。

 10年。



 あれから10年。



 人生の大半を一人で過ごした。


 仲間など作らずに過ごして来た。



 俺が今、何をすれば良いのか。



 未来へ向けて何を思っているのか。


 全く分からない。



 不安も希望も自由も持たず、ただひたすらに無関心だ。



 時間が後悔だとか恋だとか。


 そんなものを忘れさせてくれるなんてただの妄想で。


 いくら月日は経とうと、辛い思いは頭から離れない。


 死にたい。


 生きづらい。


 生きたくない。



 この世に存在したくない。



 なのに.....


 死ねない。



 救ってもらえたこの命を自ら捨てに行くなんて出来ない。




 もう充分やったんじゃないか。


 なんて気持ちが10年も経てば出てくる。



 救われてばかりの俺が誰かを救いたいと思って奴隷の解放を始めた。



 今の俺には芯がない。


 目標もない。


 夢もない。


 かつての俺は自由を夢見ていた。



 自由ってなんだ。



 夢の内容も分からないのに、その夢を追うなんて馬鹿のすることだ。



 答えを追い求めて、この度に折れて。


 地に這いつくばって、周りに迷惑をかけているだけだ。



 それでも、自由ってのは多分人生において大切なことだ。



 自由のない人生なんてあってらならないと思ってしまう。


 自由なんて分からないのにそう思ってしまう。


 自由が欲しいと考えてしまう。



 自由ってなんだ?


 自由は本当に存在するのか?



 と考えてしまう。



「これで、やっと.....やっと自由に.....!!」


 と解放した奴隷の人は言っていた。



 奴隷としての立場からの解放。


 彼らの目は希望に満ちていた。


 これから生きる世界に期待を抱いていた。



「はぁ.....」


 そうして、ラーファルトはため息をついた。



 せめて.....


 せめて、俺以外には自由に生きて欲しいな.....



 そう考えてラーファルトは眠りについた。




 ーーー




 オオオオオオ.....!!



 ウオオオオオン.....!!



 ドバアアアアアアン.....!!



 外でなったその激しい音が俺を起こした。


 魔物の暴れる音。


 戦闘音。



 それが森を普段の様子からかけ離させていた。


「何が起こった.....!!」


『戦争です。トランティア王国がビリミアム伯の治めている土地へ攻め入りました。』



 ビリミアム伯.....魔大陸の一部を支配した実力者集団のトップ。


 だがそのやり方はそれ故に強引で身勝手で、常に何かの批判がある。



 奴隷も使い、土地を繁栄させているとのこともよく聞く。


「その結果、戦争か.....」


 トランティア王国は魔族の割合が圧倒的に高い。


 差別されやすい魔族は、その分奴隷にもされやすい。


 トランティア王国の国民をビリミアム伯が拉致し、奴隷にしている。



 攻めいる口実といえばこんなものだろう。


「自由ってなんなんだよ.....」


 また、自由が奪われる。



 自由は守られることも許されないのかよ.....!!


『攻撃の余波が来ます。』


 ああ、見えているよ.....


 《ディスクリート!》


 ラーファルトの棲家は吹き飛ぶ。


 が、ラーファルトには傷が一切ついていない。



 アオオオオオオ.....!!



 森の主.....大狼だな



「雑魚が。」


 《ウォーターソード》



 シャアアアアアア.....!!



 アオオオオオオオ!!!


 鳴き声と共に大狼は突進してくる。



 攻撃力、速度、森の主と言うのに申し分ない。


 魔大陸でもまあまあな強さに分類される個体だ。


 だが.....


「ガルス流奥義」


 《一閃》


 Sariの助けなど借りる余地もなく、一瞬で葬る。



 が、同時にラーファルトはその場に座り込んだ。


 顔に手を当ててうずくまる。



 10年。



 ジェットの死から10年。


 ミルとの別れから10年。


 サナとの別れから15年。



 ラーファルトは今まで虚勢を張っていた。


 自分に希望を持てない分、周りに希望を持たせてやろうと。


 自分の出来ることをやろうと。


 周囲に自由を与えようと奮闘して来た。



 その度、感謝を述べられた。


 その度に胸が痛んだ。



 希望を持てない分、周りへ希望を配る。



 ただの自己満足だ。


 結局、自分がそうでもしないと生きていけないほど辛いからそうしていただけだ。



 死にたい。


 死にたい。



 死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい.....


「死にたい。」


 ぽつりとそう呟いたと同時に後方で魔力探知が反応した。


「じゃあ殺してやるよ。差別主義者め!」


 《ロックショット!》



 死にたい.....



 もう.....いいか.....


「ジェット.....」


 俺はもう充分に生きたよ.....



 ラーファルトの心はもう完全に折れていた。


 いや、折れていたのを無理にラーファルトは動かしいたのだ。



 ジェットの言葉が呪いのように聞こえていた。


 その言葉がラーファルトを10年の月日の間動かし続けた。


 でも、今、当たれば死ぬという攻撃を受け入れたいと思えば、何も起こらないと実感できた。


 例え、攻撃を受け入れたとしても大丈夫だと感じた。



 ジェットは怒るかも知れないとけど、きっと一発殴ればすぐ仲直りして.....


 きっと剣の話をして.....



 サナとも会えるかもしれない。


 大人びていて、でもどこか子供っぽいさなサナはきっと泣きじゃくりながらも抱きついてきてくれる。



 モルガンとも、エミリアとも、ミアとも村の皆とも会えるかもしれない。



 ミルとは時間がまだかかるかもしれないけど、きっとまた会えば彼女も泣きじゃくりながら、ツンツンしながら。


 それでも受け入れて、抱きしめてくれるだろう。



 もう、いいや.....



 考えれば考えるほどこの世にいいことなんてなくて辛くて。


 死にたくなる。



 攻撃がもう当たる。



 やっと解放される.....



 顔に手を当てて、敵に背を向け、放たれた攻撃を気にすることもなく、ラーファルトはその場で動かなかった。



「クリス流止開」


 《打壊》



 攻撃はその剣に砕かれ、ラーファルトへ当たらない。


「誰だ.....!!」


 と敵は叫ぶがその人物は何も答えず、詠唱を開始する。



「天地輪廻。駆け巡る龍の息吹。水の赴くままに。風の赴くままに。我が体を、その魂を。我の守護可能な命を。運べ。光の無きその世界の道が、我々の光の道となれ!」


 《ソウルゲート》



 その瞬間、ラーファルトの体は消える。


 ラーファルトだけではない、詠唱を唱えた者も消えていた。



「なっ....!!」


 と、その敵はただただそこに立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ