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第100話:絶望と希望

「じぇ、ジェット.....!!」


 動かない体と口で必死に俺は呼びかけた。



 ジェットは腹を貫かれていた。


「馬鹿め。ラーファルト・エレニアさえ殺せば俺は何も危害を加えなかったというのに.....」


 そう話しながら一歩一歩ディオロは歩み寄ってきていた。




 ーーー




 ああ、体が動かない。


 腹を貫かれたのか。


 このままでは二人とも死ぬ。


 せめてラーファルトは逃がさなければ.....



 俺は、不甲斐ない奴なのだから.....!!


 せめて.....!!




 ーーー




 俺は四十八年前、ルインド王国の田舎の村で生まれた。


 当時のことは殆ど覚えていないが、噂によると剣術が下手だと言われていたらしい。



 俺の父はガルス流の上段剣士だった。


 だからそんなことを言われるのも納得だったというわけだ。



 そんな俺と唯一仲良くしてくれた同年代の親友がいた。


「おーい。ノイルー!」

「おお、ホークじゃん。」


 ギル・ホーク。それが彼の名前だ。



 俺たちはいつも剣を共に極めようとする同志だった。


「ガルス流!奥義!」


 《一閃!》


「うわっ.....!!」



 いつも俺がホークの技を食らっては地を転げる。


 俺が成長すれば彼も同じように成長する。


 一向に実力差が埋まらない。



 悔しい。



 そんな思いもあった。



 が、それ以上に楽しかった。


「俺さー!ノイルと模擬戦するの楽しいわ。俺の方が一歳年上だから勝ててるけど気を抜けばすぐ追い抜かれそうな感じ。」

「鍛錬をサボってくれてもいいんだぞ。」

「馬鹿いえ。むしろ怒るだろ。なんでやらないんだって。」



 そう言って笑いあった日々が懐かしかった。


 俺たちはそうやって育った。



 そんな日々も俺が十五歳の時に崩れ去った。



「異空の龍王」


 後にそう呼ばれるようになった魔物は突然現れ、俺たちの村を焼き尽くし、姿を消した。


 村の人々は大勢死んだ。


 運よく俺とホークは生き残ったが、双方の両親、身内、は全員が殺された。



 身寄りのなくなった俺たちは自分たち自身で生活することを強いられる環境にいきなり追いやられたのだ。



 ただ、その時、アテがなかったわけではない。


 一つ、俺とホークの二人で自信を持っていることがあった。


「俺は剣で生きようと思う。」


 俺は焼けた村を丘から眺めながら隣に立つホークへそう告げた。


「ああ、俺もだ。俺もお前と共に進む。いいだろ。」

「もちろんだ。むしろ誰か旅を共にしてほしいと思っていたんだ。」


 こうして、俺たちは冒険者となった。


 これが、「黒殲の獄」の前身だ。




 様々な土地を旅した。


 新しい仲間も手に入れた。


 ムスカ、シュミット、ピークだ。


 彼ら全員が大切な仲間で、家族で、互いを信頼し、寄り添い、支えあう仲にあった。



 大大陸を中心に各地で魔物狩りを行った。


 魔物狩りを中心に行っていたのには訳がある。



「俺は一匹でも魔物による犠牲をなくせたらいいと思っているんだ。」

「魔物による死者を無くす。それが俺たちの夢だ。」


 そうホークと酒場で同じ夢を語った夜もある。



 そして、運命の日は訪れた。


 俺たちは荒野の覇者の討伐を目指して大大陸南部の荒野を歩いていた。


 当時は荒野の覇者の他に荒野十二銃士と呼ばれる魔物がいた。



 その内の一人を倒した時から荒野の覇者との戦いは加速した。


 十二銃士の内の四銃士を倒した。



 最高戦力の十二人中の四人。


 敵にとっては大損害だった。


 故に、荒野の覇者直々に俺たちを始末する運びとなったのだろう。



「貴様らが黒殲の獄か。」


 俺たちと相対するや否や荒野の覇者.....ダインはそう話しかけてきた。



 そいつは、俺の見たことがある魔物の中で村を滅ぼした異空の龍王の次に強く見えた。


 いや、実際そうだっただろう。



 俺の敵の強さを計る目はかなり正確だった。


「警戒し.....」


 そう叫んだ時には俺の横にいた仲間.....ムスカが死んでいた。


 胴を真っ二つに割られ、俺の真隣で瞬きする間に死んだのだ。



「なっ.....」

「さあ、次は誰だ.....」


 悲しむ余裕などなかった。焦る余裕などなかった。


 死。



 死が目前に迫っていると考えていると人のことを考える余裕などなかった。


 生まれて初めて、剣を握る手が恐怖で震えていた。


「全員!ムスカの役割をカバーしながら戦うぞ!ムスカのためにも必ず勝つ!」


 震えていた俺を見たのか、ホークは全員へそう指示した。


「ガルス流!重!」


 《十連!》



 手の震えを忘れるつもりで戦った。


 技を放った。


 が、簡単にそれはあしらわれる。



「この程度か.....」


 《牙爪獄!》



 気づいた時には俺の目の前に攻撃が来ていた。



 死を肌に感じた。


 が、実際俺は死ななかった。



 死んだのは俺の仲間。シュミットだった。


 俺を庇って攻撃を受けた。


「シュミット!」

「あいつに攻撃が.....が、あ、ああ......」


 最期に彼はそう言って息絶えた。



 恐らくシュミットが言いたかったのは.....


[あいつに攻撃が効くのはお前だけだ。]



 その通りだった。


 俺の攻撃はホークより既に強かった。

 まだまだ及ばない部分も多かったが、威力の部分だけ切り取れば俺の方が上だったのだ。


 攻撃は俺しか敵に通用しないかもしれない。



 それでも、俺はシュミットの亡骸を抱えたままでいた。


 その時、ホークは一人でダインの相手をしていた。


 もう一人の仲間であるピークは一人で他の十二銃士と戦っていた。


「ジェット!ジェット!立て!戦え!」


 戦い、敵の技を受けながらそう叫んでいた。



 が、俺はその瞬間言われた言葉に反応することができなかった。



 手だけだった震えが足にまで、そして全身にまで広がった。



 立つことなど到底できなかった。



 死。


 それをもう確信していたのだ。


「ジェット.....ジェット.....!!ガルス流!」



 恐怖。


 それが俺を支配し、体を動かさなかった。


「ガルス流!龍麟!」


 《黎明剣!》



 キイン.....!!



 そう音がしてその攻撃は弾かれていた。


 いや.....弾いていた。


 ホークは俺に向かって技を放ったのだ。



「ジェット。絶望は分かる。恐怖も分かる。死が目前に迫って動揺するのも分かる。」


 荒野の覇者と戦いながらも彼は言葉を紡いでいた。


「だが、希望を捨てるな。」

「でも、もう.....」

「ならなぜ攻撃を防いだ。」


 ホークの言葉に何も俺は言えなくなった。



 俺は先ほどのホークの攻撃を反射的に防いでいた。


「反射。それは生きたいと願っている証拠だろう。お前の中の希望を信じる僅かな可能性が、この戦況を覆すかもしれない。立て。」



 そう言われても、俺の手足の震えは止まらないでいた。


 体を動かせない。


 歯を食いしばり、立ち上がろうとする。



 戦いたい。役に立ちたい。希望を持ちたい。


 心の奥底でそう思っているのに、反射で体は動いていたのに.....意識をすると体はついてこない。



 その時、ダインと目が合った。


 ほんの一瞬。


 だが、死を今までと比べ物にならない程大きく感じた。


 今まで感じていた死とは何だったのかというほどだ。


 《終極黙》


 死の風が飛んできているのを感じた。


 その瞬間、ホークが俺と風の間に割って入った。


「.....ジェット、逃げろ。」


「ガルス流!堅巖!」


 《時止!》


「最後に一言.....生にしがみつけ。」



 ダインの攻撃をホークが受けた。


 その余波はとてつもない物で、目を開けていられない程だった。


 俺の右目には傷ができた。



 次に目を開けた時、ホークは消えていた。


「ホーク.....ホーク.....!!ウああああああああ......!!」


 俺は泣き叫んでいた。


「お前の仲間は善戦したが皆死んだ。あとはお前だ。」


 ピークはダインの攻撃の流れ弾を受けて死んでいた。



 なんで、俺じゃないんだと思う。



 俺は、何もしていない。


 できていない。


 弔うことが出来ていない.....



 情けない。


 その瞬間死が怒りに変わった。



 自分でも遅すぎたと思う。


 手遅れだったと。


「独流!」


 《黒殲獄豪傑斬!》


 俺の知りうるガルス流の技を混ぜて作った即興の技。


 俺が強いと感じる剣の振り方。



 不意打ちだったこともあり攻撃は荒野の覇者の左目を斬った。


「ぐわっ.....!!」


 その痛みにダインはのけぞる。


 それを見て俺は立ち上がり、走り出した。


 逃げだした。


 生にしがみついた。


 生きる事に固執した。


「誰かそいつを捕らえろ!今すぐに.....!!」



 そうダインが叫ぶと敵が同時に襲い掛かってきた。



 そこからのことはよく覚えていない。



 ただ、必死に逃げ、後先考えずに走り続けたようで、結果的に十二銃士を更に四人殺し、四銃士にまで減らしていた。





 ーーー




 それからは後悔の絶えない人生を過ごした。


 自責の念から、自身に厳しくなった。


 荒野の覇者を必ず殺すという目標を持った。



 あの時、しっかりと自分が動けていたならば.....死を怖がらず、生という希望へ向かう事だけに固執出来ていたら.....


 そう考えると、いつも自分を殴りたくなった。


 そんな日々を過ごして三十年。


 ラーファルトらと出会い、荒野の覇者の覇者を倒した。



 最後はあっけなかった気がする。



 それでも後悔は消えない。


 後悔を軽減することはできても、後悔を消すことなど到底不可能だ。



 だが、後悔が消えないから俺は強くなれた。



 そして、今、死を目の前にして思う。



 死などもう怖くない。



 死ぬことがなんだと。



 これはホークも最期に感じていたのではないかと思う。


 それならば、俺とどれだけ精神年齢が違ったのか.....ということになるが.....


 だが、それでもそう信じたい。



 ホークが絶望の心情だけで死んでいったのではないと。



 俺のせいで彼は死んだ。


 俺が何も出来なかったせいだ。



 それでも、彼は俺を守ってから死んだ。


 俺に託した。



 ならば.....俺も託せ.....!!


 未来へ......!!



「天と地。陸と海。この世に存在する全ての神に告ぐ。その力の結晶は我に集まる。天界を駆ける龍。その身に力を宿し、我に届けよ。天から地へと落ちる怒りの結晶。雷の轟くこの世が破滅を迎える。世界に終焉をもたらせ。」


 《命の契約-全開放》




 ーーー




「じぇ.....ジェット.....!!」


 体は全く動かない。


 命の契約など.....!!そんなの.....!!


「いいんだ。ラーファルト。もう俺は死ぬ。致命傷だ。」


 と、死ぬとは思えない元気な声で彼は話していた。


 これも命の契約の効果の一部だろう。


「だが.....!!」


「荒野独流!」


 《魔終斬!》



 今まででは出なかった火力、速度。


 そんな斬撃が敵へ飛ぶ。



 世界を終わらせることのできる力。



 それがジェットへ集まっているように感じる。


「くそが.....!!」


 魔神聖は少し焦っているようだ。


 が、戦いは互角に近い。



 それでもジェットの寿命は着々と減ってきているだろう。



 Sari!ジェットを救う方法はないのか.....!!


『現在分析中です。』


 くそ.....くそくそくそくそ.....!!!!



 何も出来ない.....!!


 何も.....!!


 ここから動くことさえできない.....!!



 ジェットが死にそうなのに.....!!


 それを俺は見ていることしか出来ないのか.....!!



「ラーファルト。俺は口で何かを伝えることが得意ではない。」

「じぇ.....ジェット.....!!」


 出血多量からか、段々と意識が遠ざかっている気がする。


 瞼が重い。


 ジェットを助けたいのに.....!!


「だから、俺の言いたいことは短くまとめる。」

「はあ.....はあ.....」


 もう声も出ない。


 それでも俺はジェットを見ていた。


 彼の背中が見える。



 きっと、今まで見たことがある誰よりもだ。


「後悔を糧に生にしがみつけ。その絶望に希望を見いだせ。」


 俺の意識はそこまでだった。





 ーーー




 すべてを感じる。


 全てがわかる。



 だが、それでも.....


「荒野独流!」


 《醒祓!》



 こいつには及ばない.....


 恐らくこいつに勝てる力を俺は今、命と引き換えに持っている。


 だが、それを使いこなす力を俺は持っていない。



 今すべきことは.....


 《命の契約-転》


「なっ!貴様.....!!」


 ジェットの行動にディオロの焦りは極地に達する。



「荒野独流!」


 《黒戦獄豪傑斬!》



 焦りからか見えた隙をジェットは突く。


 攻撃hいつもと違う色を放つ。


 火花が散り、赤黒く剣が染まる。


「くっ......!!」


 攻撃を受けたディオロはやむを得ず数歩下がる。


 そして同時に魔術を放った。


 《ウルフォン》


 遠吠えが聞こえたかと思うと「何か」がジェットの方向へ飛んでいった。


 だが、その「何か」をジェットは知らない。


 分からなかった。


 だが、魔術には変わらない。



 ジェットが鏡を取り出した。


 同時に、魔術が消える。


 魔術を無効にすることに成功した。


 が、その鏡は一発で壊れた。


 通常、三回耐えられるはずだったが、敵の魔術の威力に魔道具が追い付かなかった。


 もう一度今のが飛んでくると危ないとジェットは判断する。



 《命の契約-転!》


 再びそれを発動する。


「やめっろおおおおおお!!!」


 そう叫んでいるが、今度はディオロにも邪魔されない距離だ。



 見納めだな......


 そう思い、ジェットはラーファルトの顔を見る。


「強く生きろよラーファルト......!!」


 ラーファルトの身はその場から消えた。


「きさまあああああああああああああああ!!!!!」


 同時にディオロの手がジェットへ届く。


「荒野独流!奥義!」


 《黎轟爆》


 ディオロの両手と両足が斬れた。



 焦りと動揺から隙を見せたのだ。


 勝てる。


 そう思った。


 剣を大振りにする。


「うおおおおおおおおおお!!!」


 カツン......


 非情にも、その剣は敵の頭にそんな音を立てて止まった。


「ごふっ......!!」


 ジェットは血を吹いた。


 《シャイン》


 途端にディオロの手足が再生し、ジェットを殴る。


 同時に首が斬れた。



 ディオロは怒りに満ちた表情をしてジェットの首を見つめ蹴っていた。



【記録:人魔暦9年】ジェット・ノイル死亡。





 ーーー




 その光景が懐かしかった。


 空の色。土の色。そんなものは全く違った。


 だが雰囲気がどことなくあの荒野に似ている気がした。


『ここは魔大陸北西部の地です。』


 Sariがそう告げる。


 ジェットがここまで逃がしてくれたのだ。




「うわあああああああああああああああああああああああああ........!!」


 俺は泣き叫んだ。


 思いを吐き出すように。


 後悔を吐き出すように。


 ただ、その後悔は一切消えない。



「後悔を糧に生にしがみつけ。その絶望に希望を見いだせ。」



 ジェットの言葉が脳内に鮮明に蘇る。


 きっと一生この声が脳から消えることはない。



 後悔は消えない。



 生にしがみつけとジェットから言われた。


 託された。


「うわああああああああああああああ......!!」


 尚も泣き叫び続ける。



 魔神聖.....ディオロの狙いは俺だった。なのにどうして.....


 その思いが駆け巡る。



「はあ.....はあ.....」


 泣き叫び疲れ、地面に涙を浮かべながら寝転がる。



「死ねないじゃないか......」



 死にたいほど辛く、非情なこの世界を......


 生きる事を託されたら.....


「死ねないじゃないか!!!!!」



 大声で二度目を言った。




 希望の見えない絶望の未来。


 今、ラーファルトに見えているのは自由などではなくその景色だった。

14浪生転生記!100話まで書ききりました!

ここまでやってこれたのも読んでくれる方々のおかげです!ありがとうございます!


次回(水曜日)は番外編をだし、次々回(金曜日)から9章の連載をしていきます!


これからも読者の心を動かす物語を作っていけるように頑張っていきますので応援よろしくお願いします。


ブクマ、評価、感想等いただけるとモチベにつながりとても嬉しいです!


ジェットを失ったラーファルトはこれからも自由を追っていけるのか?!

ラーファルトのこれからの人生を刮目してください!

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