第99話:生と死
「お前が魔神聖か?」
ジェットの黒連龍撃を止めたその敵に向かってジェットはそう語りかける。
「.....ふふふ。いや、違う。」
そうか....違うのか.....
もし、こいつが魔神聖なのであれば世界の頂点なんて甘ったるいもんだと思ったところだ。
それにこの拠点の制圧も余裕だっただろう。
「貴様、強いな。名は.....??」
「ジェット・ノイル。」
敵の質問に対してジェットは真摯に答えていた。
が、油断は微塵もしていない。
「そうか。ジェット・ノイル。決闘といこう。壁岩のロール。参る。」
「黒の剣士ジェット・ノイル。参る。」
お互いそう名乗ると同時に動き始めた。
壁岩のロール。
ジャック王国で最もタフな剣士だと言われている。
その足腰は信じられない程しっかりしており、体幹のぶれが少ない
タフさだけならば荒野の覇者をも凌ぐ。
「荒野独流」
《光線斬速!》
敵の耐久力は高い。
自身の技を止められたことでジェットはそう確信できている。
故に正面からまともに戦うことなどしない。
大切なのは攪乱することだと考えていた。
最も、その程度のことはロールも理解している。
ロールはガルス流の使い手である。
ガルス流は攻めを中心とした流派。
故に、怪我を負うことが多い。
ロールはそれをいつもそれを逆手にとって敵を討ってきた。
通常ならば動けなくなるような攻撃を食らったとしても、自慢のタフさで油断した敵を打ち砕く。
ただ、今回それはもはや通用する余地はない。
ならば何をするか.....
ロールは逆を突くことを考えていた。
攻めの流派だとしても守る技がないわけではない。
「ガルス流!堅巖」
《時止》
ジェットの剣はロールに再び止められる。
ロールは同時に剣をジェットへふるった。
「ガルス流!急手!」
《光剣!》
技がジェットへ迫る。
が、焦りは一切なかった。
「そう来ることは分かっていた。」
一言そうつぶやくと、ジェットはロールの剣を弾く。
非常に強力な力で剣を叩いた。
それによりロールの手がしびれ、剣は手を離れ、天井へ突き刺さった。
「荒野独流!」
《黎明剣!》
数歩下がると同時に剣を素早く構えなおしジェットは攻撃を放った。
いくらロールがタフな者であっても、ジェットの攻撃を丸腰で受けて耐えられるはずはなかった。
彼の膝はがっくりと地に落ちた。
同時に、ジェットはロールの放った技について思い出していた。
[ジェット!逃げろ!......ガルス流!堅巖!時止!]
ジェットの記憶とその技が重なっていた。
ドオオオオオンン!!!
轟音が鳴り響き、建物が大きく揺れた。
下手をすれば倒壊だ。
これ程の攻撃.....!!
ラーファルトと魔神聖が戦っている.....
ラーファルトが単独で魔神聖を足止め.....逃げ切る.....
「.....行かない理由はないな。」
そう呟きジェットは轟音の方向へ走り出していた。
ーーー
こいつが.....魔神聖......ディオロ......!!
見ただけで分かる。
こいつはやばい。
世界を滅ぼす程の力を持っていると分かる。
感じる。
こういうのは理屈じゃない。
せめて、今いる避難民は逃がさなければ......
Sariが.....
『たった今、解析が終了しました。ルイスに転送.....完了しました。これより、戦闘サポートモードに切り替えます。』
よし.....
「ルイス。逃げ道が書いてあるだろう。バースと共に避難民を守って逃げろ。」
Sariには戦闘サポートモードをここまでしない代わりに、この砦の内部を解析してもらっていた。
敵の位置さえも把握、予測し、逃げるのに最適な道を考案した。
俺の言っていたプランB。
ジェットに足止めをしてもらい、敵の行動を一点に集中。
ジェットはある程度のタイミングで砦の外まで突破してもらう。
そして、俺は避難民を救出の後、Sariの用意したルートで逃げる。
そして、この逃げ道はあくまで予測。
時間がすぎるにつれて不確定要素が多くなってくる。
いわばスピード勝負だったのだ.....
だが、今、目の前には魔神聖がいる。
こいつをなんとかしないと全員死ぬ。
俺が何とかしないといけない。
理由は不明だが、こいつは俺の命を狙っている。
「いや、俺も.....!!」
ルイスがそう言って残ろうとする。
が、それを俺は許さない。
「だめだ。お前は剣が慣れたものじゃない。ある程度の敵までしか太刀打ちできない。」
魔神聖から目を逸らさずに俺はそう告げる。
「だが.....!!」
なおも食い下がろうとするルイスに俺は口を開いた。
「お前の守るべきものを考えろ。」
「それは......!!」
ルイスが口ごもった。
更に俺はルイスへ語りかけた。
「その剣は借り物だろ。いつか返せよ。」
俺はそれで会話を打ち切る。
死ぬつもりなど毛頭ない。
死ぬ気で勝利を掴みにいくが、本当に死のうなどと考えていない。
今を、一瞬を、全力で、生にしがみついて、生き抜く。
「まだ.....子供だろ.....肝座ってんな.....」
「.....」
俺はもう何も言わない。
「ラーファルト・エレニア、死ぬなよ。」
ルイスの声を引き金に俺は動き始めた。
《ムーブドウインド!》
「ラーファルト・エレニア。お前は本当に隙を作らないなあ」
「ほら吹きめ.....!!」
俺はルイスと話すことであえて隙を作っていた。
が、こいつはそれを読んで攻撃をわざとしてこなかった。
それにこいつは俺に反撃をされてもそこまで攻撃に影響しないだろう。
それほどの実力差が存在している。
この戦いは俺がこいつを倒せるかではなく、こいつから逃げられるかの戦い......
分かってはいたがかなり厳しいな.....
杖はもちろん手に持っている。
今は周囲の状況なんて気にしている暇はない。
避難民は必ずルイスとバースが守ってくれるだろう。
それを信じて.....!!
《雷砲!!》
魔力消費は二倍、威力は三倍.....!!
それも至近距離からの攻撃......!!
これでどうだ......!!
「いやあ、危ない。危ない。お前を殺すことは確定事項だが......遊びすぎるのも良くないなあ。」
傷一つないだと.....!!
危ない.....??
どこがだよ.....!!
『危ないのは事実であると考えられます。雷砲に混じっていましたが何かを召喚した痕跡が残っています。それに何かしらをさせ、魔術を無効化させた可能性が高いです。』
つまり召喚させる暇もないぐらいで魔術を放つべきだと......
いや、きついな.....
倒すことは到底できない気がするが、手負いにしなければ逃げることさえできない。
「んっ.....!!」
『こうげ.....』
《ムーブドウインド!》
魔力探知が反応し、Sariが攻撃の報告をしていると同時に魔術を発動させる。
ボオオオオウン.....!!
と後方で爆音が響いた。
やばい.....
速度も威力も比べ物にならない。
《デスマジックパワー!》
見えない攻撃だろう.....!!
これで......!!傷を与えられたら.....!!
「カスめ......」
《サクションマジック!》
魔力を集めた.....俺も対処する時に使っていた魔術だ。
『続けて.....』
《エアーボム!》
当然のように無詠唱.....!!
速度も段違い.....!!避けられない.....!!Sariの処理さえ追いついていないようだ。
《ディスクリート!》
即座にバリアを張るが当然の様に破られる。
「がはっ.....!!」
威力は多少軽減されたとはいえ、吹っ飛ばされた。
地に伏したラーファルトの周りには血だまりが広がっていた。
指一つさえ動かせない.....
くそ.....!!
「終わりだ。潔く死ね。」
「えっ.....」
その瞬間、ラーファルトの目に移ったのは二つ。
《キルシャーク》
一つは魔神聖ディオロが俺に向かって放ったその魔術。
ラーファルトには原理の理解など到底できない攻撃。
そして、もう一つ。
ラーファルトに向けた攻撃の間に割って入り、腹で受けたジェットだった。