第98話:ディオロ
本日より三日連続投稿!!!
100話まで駆け抜けます!
「いでよ。炎。その燃ゆる身を我に捧げ、我を勝利へと導きたまえ」
《ファイアーボム!》
「荒野独流!」
《断魔!》
飛んできた魔術をジェットは斬る。
四方にはジェット倒そうと意気込み剣を構えている剣士、詠唱を唱え続ける魔術師.....
かなりの数の敵が溢れ出てきている。既にジェットの進んできた道には倒れた敵の山ができていた。
その山も敵の足止めに役立つものになってきている。
「荒野独流!」
《黒連龍撃!》
敵を倒す、または攻撃を止められるまで剣をふるい続ける技、その対象は当然ながらジェット自身が自由に決められる。
例えば.....
「う.....」
ジェットの目の前に立ち、今にも剣をふるおうとしていた剣士が突如として倒れた。
「なっ.....!!」
その様子に驚く右隣にいた剣士も同じように一瞬にして気絶させられる。
ジェットはこの技の解釈を変更した。
敵を倒すまで剣をふるい続ける技。
その敵とは目の前にいるすべての敵を倒すまでという意味合いと同義だとジェットは思考したのだ。
基本、なだれ込むように現れる敵がいなくなることはない。
「ぐっ.....!!」
大抵の敵はジェットが何をしたどころか、誰に何をされたかも分からず地に伏せる。
床に人の山ができる。
その山に一人も死者がいないのはラーファルトの殺人をできるだけしないという考えに則ったものだ。
もしそれがなければ人の山は死体の山に変化していただろう。
ジェットは無数に現れる敵に剣を襲わせる。
が、二秒後、その技は止まった。
ドオンンン!!!
という轟音と共にジェットの腕の動きが止まる。
この技を止める条件は二つ。
一つ、すべての敵を倒す。
そして、もう一つ.....
「お前が......魔神聖か......⁇」
その敵がジェットの連撃を止めていた。
ーーー
「この角を右に曲がったところだ!」
「ああ、案内ありがとう!衛兵は?」
「十五人だ。」
「了解。」
《ムーブドウインド!》
バースの案内のために走っていたがスピードを出すためにムーブドウインドで移動速度をあげる。
曲がり角があるがラーファルトにとっては誤差程度だ。
F1のカーチェイスで使われるような急カーブを魔力探知によって可能にしていた。
「だ、誰だ.....!!」
とラーファルトが現れるや否や一人の剣士が構えた。
敵がその行動を取る間にラーファルトは周りの状況を整理する。
敵はバースが言う様な人数ではなく十人程度。
牢屋は右手と左手それぞれに存在している。
残りの五人の場所は分からないが、いるならば牢屋の中か、死角。
ただし、死角があるのはかなり遠くだ。
ただ死角にいるだけならばそこまで脅威ではない。
大切なのはその敵に避難民たちを人質にされないことだ。
避難民たちがここまでやってきたのは自分がミルを人質に取られたことで為す術が
なくなったからだとラーファルトは考えていた。
避難民たちを人質にされるリスクを排除しながら、目の前の十人、及び残りの五人を倒す.....!!
それがラーファルトが一瞬で思考した内容。
それを踏まえラーファルトは行動を開始する。
《アンダーフローズン!》
足元を一瞬にして凍らせて敵の機動力を奪った。
少なくとも、目の前に見えた十人に避難民たちを人質にして脅すことはできない。
《ムーブドウインド!》
動きを奪った敵に向かってラーファルトが高速で移動する。
「てめ.....!!」
足は凍らされたが敵の上半身はいまだに動く。
ラーファルトの目の前の剣士は睨みながら剣をふるいかけていた。
《ウォータソード!》
剣を生成し、その剣を止めながら進む。
《ロックショット!》
目の前に飛んできていた魔術をラーファルトはそれで相殺する。
牢屋まであと少しだ。
「バース!ここら辺の敵は頼む.....!!」
「ああ、任せろ。」
遅れて後ろからやってきていたバースは角から現れると剣を構えていた。
「なっ!バース隊長!!」
バースはある程度上の地位にいたはずだ。
隊長という立場にいる。
それゆえに名前を呼ぶだけでも敵の動揺をえられる。
《チェンジボイス》
「伏せろ!」
俺に斬りかかってきた声の人の声とほぼ同じ声で俺は叫んだ。
「チェンジボイス」
自身の声を自由に変えられる禁忌魔術。
声に魔力をのせることでそれが可能になる。
と、Sariが言ってたから試したらできた。
「声」というものは効果的だ。
それが仲間の声ならば尚更である。
普通は反射的に言われたことと同じ行動を取ってしまう。
だから、俺はその隙......
《マグウィップ!》
炎の鞭は牢屋の鉄格子を破壊する。
どうやら対魔と対物の結界が何重にも張ってあったような痕跡が俺の魔力探知にはあったが、関係はなかったようだ。
そして、ラーファルトは牢屋の中を見る。
魔力探知により人に当たらないよう調整しながら放ったマグウィップは「伏せろ!」の声で行動を誘導した甲斐あって人に一切当たっていない。
次に衛兵は左右の牢屋に二人ずついる。
まだ敵が潜んでいるかもしれないと警戒しながらラーファルトは常に最善の行動を目指した。
まず、左側にルイスがいることを確認する。
同時にラーファルトは右側の敵の無力化に動いた。
《ムーブドウインド!》
いつものようにムーブドウインドで一瞬にして距離を詰めて何もできない間合いにまで進もうとする。
《ウインド!》
同時にラーファルトはあるものを投げていた。
モルガンから誕生日に貰った剣。
ラーファルト自身はウォーターソードにより剣を生成できる。
そのため、今現在は没収され、剣を所持していないであろうルイスに対して剣を投げた!
「ルイス!殺すな!」
それだけを告げ、ラーファルトは敵の無力化に集中することにした。
ラーファルトの考えていた技は一つのみ。
一撃で決めると決心していた。
そうでなければ目の前に避難民がいるため人質を取られる可能性が大幅に高まるからである。
《バブル!》
一つの瞬きのうちにラーファルトは中を空洞にした水の中に敵二人を捕らえ、無力化に成功していた。
ーーー
「ガルス流!龍」
《二連斬!》
バースが斬撃を放ち、同時に走り出した。
「伏せろ!」
と、ラーファルトがチェンジボイスにより変えた敵の声で言う。
が、バースは伏せない。
事前にその作戦は聞いていたというのと.....
「今の実力のバースはこの技を防ぐ程度なら可能だよ。ま、俺が避けておくから、もし、万が一飛んで来たら防いで。」
とラーファルトに言われたからである。
ラーファルトが避けておくと言った。
本当か?
とバースは疑っていた。
いくら、優秀でもそんなコントロールができるのかということに疑問を感じていたが、バースは信じることにした。
もっとも、そんな疑問は不必要なものであった。
ラーファルトが魔力探知により完璧に近い正確性の魔術を放ち、なおかつ、それはバースを避ける。
敵は伏せていて無力化しやすい格好だ。
この好機は逃がせないと、バースは力をこめる。
「ガルス流!急手!」
《光剣!》
首にあて、気絶させる。
バースの攻撃速度は以前より上昇していた。
バースは技の威力も上昇している。
が、それよりも凄まじいのは技の威力の調節がかなり上達したことだろう。
更に強い剣士になった証拠だ。
目の前の敵たちを殺すことなく気絶させる。
その成長を今、目の当たりにしたのは一人。
ラーファルト、ではない。
ラーファルトはバースの成長に気づき、どれほどかを気にしてはいたが、今はそんなことに構っている余裕はない。
目の前の避難民を必ず助けるという決意の下、すべての自分の行動に集中している。
唯一気づいていた人。
それはルイスであった。
「伏せろ!」という声にルイスには確信があった。
ここを襲撃する目的があるのは恐らく俺が一瞬連絡を取ったラーファルトだ。
つまり、俺たちを殺すような真似はしない。
その確信の下、伏せるのはほどほどにして顔をあげ、ラーファルトに見えそうな位置にいることに専念した。
敵の位置、ラーファルトと思われる襲撃者......できる限りの情報を集める。
ルイスはラーファルトの姿が見えると同時に、バースの剣技を見た。
彼の剣技については以前見たことがある。
ラーファルトを瀕死の重症に追い込んだ敵として、その戦闘の様子をロードリングを通して見たことがある。
なぜ、ラーファルトと共に戦っているのかは分からないが味方であることに変わりはないだろう。
かなりの上達だ。
短期間でここまで成長できるのかというほどである。
正直、ラーファルトを瀕死に追い込んだと思うほどの敵ではなかった。
俺が戦えば一瞬で倒せるような敵だった。
だが、今は五分.....最終的に勝つのは大義の剣が使える俺だろうが、それほどの実力者になっている。
不甲斐ない。
バースの姿を見てそう思う。
ラーファルトとバースが戦ってからの短期間でこれほどまで強くなれるのに.....俺は一切成長していなかっただろう。
ラーファルトが王都に帰るまで避難民を守る。
と思っていたが、実際すべきだったのは避難民を帰るまで守ることだ。
情けない。
守るべきものを守れない。
守れる強さがない。
こんなにも悔しい思いは初めてだ.....
だから.....
「ルイス!殺すな!」
ラーファルトから剣が飛んできた。
「感謝する。」
そう呟きルイスが飛んできた剣を直に掴んで一瞬にして構えをとった。
「ガルス流!」
まずは.....原点を......
俺が初めて習得した技で。
守れ。
守る者は強いのだから。
「奥義!」
《一閃!》
ルイスの牢屋内にいた敵はその攻撃に意識を飛ばされていた。
ーーー
「これで.....制圧か。」
ラーファルトの声により避難民らにも安堵が一瞬広がった。
が、すぐにそれは消える。
《ディスクリート!》
魔物が攻撃を仕掛けてきた。
ラーファルトはそれを反射的にバリアで防ぐ。
犬の魔物.....!!??
そこまでの大きさではないが、速度が異次元だ。
そして顎の力も強そうだな.....
コツコツ足音がする。
パチパチパチパチ.....!!
不意に拍手が飛んできた。
「お見事。今のを防ぐとは流石だ。」
「.....お前が魔神聖か?」
「ああ、いかにも私が魔神聖、ディオロだ。」
犬の魔物はディオロになついているようで舌で彼の手を舐めている。
「ラーファルト・エレニア。お前を殺す。」
ディオロは獣の様に獲物を見つけた目をしていた。
100話まで残り二話!!!
明日、明後日と三日連続投稿予定!!!