第97話:嫌気
トランスペアレントで透明化しているため、敵には見つからず拠点に近付けた。
様子を伺っていると、丁度、俺の作った拠点へ攻め込む隊が出てこようとしているようだ。
つまり門が開く.....
今しかない.....!!
「行きましょう.....」
「ああ.....」
ジェットにそう言ってひっそりと俺たちは門の中へ入って行った。
ーーー
中へ入ると敵兵たちが忙しく働いていた。
敵兵の数は俺の作った拠点へ向かったやつより多いな。
恐らく向かった敵兵は小手調べ要員なのだろう。
この拠点に五百人はいる。
ただ、魔物は見当たらない。
敵の使役している魔物がいるなら早めに倒しておきたかったのだが、そう簡単にはいかないようだ。
ここにいる敵には申し訳ないが、この場はスルーさせてもらおう。
出来るだけ犠牲は出さない。
そのスタンスに変わりはない。
そう考えながら俺たちは拠点の建物の中へ入って行った。
ーーー
「侵入しているな.....カスどもめ、この程度の魔術は気付けよ.....」
《リセット》
ーーー
刹那、トランスペアレントの効果が消える。
目の前の兵士が驚きながらも油断のない顔で剣を構える。
気付かれたのか.....!!
『魔神聖の魔術によるものと見て間違いないかと考えられます。』
「敵襲ー!!」
そう目の前の兵士が叫ぶ。
やってくれたな.....!!
「ジェット!プランBだ。」
「分かった。」
俺の指示を聞くや否や、剣を抜き、ジェットは兵士に向かって走る。
「ここは頼む。」
「ああ。背中は任せろ。行け!」
「荒野独流!」
《掌斬!》
技を放ち、目の前の敵を無力化するジェットを見て俺は走り出す。
《ムーブドウインド!》
ここからはスピード勝負だ.....!!
一刻でも早く、ルイス達を救出して逃走する.....!!
ーーー
ドォォォォォン.....!!
轟音が響き渡った。
「なんだ?!」
捕まっている避難民の者達がそう少し動揺する。
「焦るな、俺たちは死なない。大丈夫だ。」
情けない。
俺は.....この避難民達を守ると誓っていたのに.....!!
今となっては剣を奪われ、助けを待つ事しか出来ない。
俺は弱い.....!!
あいつは異質だった。
この世に存在していいほどの生物ではない。
強すぎる。勝てるはずがない。
出会った瞬間そう悟ってしまった。
守る者がいれば強くなれる筈だったのにも関わらず.....俺は負けた.....!!
「くそっ......!!」
誰にも聞こえぬようにルイスがそう呟く。
戦争は終わっていた。それなのにも関わらず俺たちは捕えられた。
狙いは.....なんだ.....
いや、そんなことどうだっていい。
助けに来る者がどんな人であろうと.....皆でまた生き残って帰りたい。
いや、帰るのが俺の使命。
それを捨ててはいけない。
希望を俺が捨てるな.....!!俺が皆を引っ張るんだ.....!!
ルイスは一人、それを決意していた。
ーーー
《ウォーターガン!》
ルイスたちの捕えられている牢屋を探しながら俺は移動をしている。
時折敵が出てくるが想像よりも少ない。
ジェットの方に敵が集まっているのだろう。
だがそれでも.....
「面倒だな。」
いちいち敵を発見し、攻撃をするのが面倒臭い。
その度に牢屋を探す意識が一瞬ずれる。
《ゴーレム!》
自動で敵を殲滅してくれる。その基準はある程度決められる。
俺のセオリー通り、殺しは出来るだけしない。
道の角までやって来た。
その向こうに敵がいるようだ。
だが、それは.....
「うわっ!」
そう言う敵の声が聞こえる。
曲がると既に敵が倒れていた。
ゴーレムが倒してくれたのだ。
こりゃ便利だな.....
「待て!」
後方から声がした。
その声には聞き覚えがあった。
誰だ.....??
と一瞬思ったが、それどころではないと思い、ゴーレムに任せるとする。
ゴーレムはレーザーを放ったようだ。
だが、それは容易くかわされたとのこと。
まあまあな実力を持っているということだ。
ゴーレムのレーザーは基本避けられない。
それをかわした。
早めに倒さなければ.....!!
《ロックショット!》
「ちょ、ガルス流!見攻!」
《龍飛!》
放ったロックショットが弾かれる.....やはり実力は高い。
次は.....動きを止める氷系の魔術を.....
「ちょっと待てって!」
魔術を放とうとするラーファルトにその声の主はそう話す。
「お前は.....」
相手の顔を見てラーファルトはその声の主を理解する。
「バース!」
バースと会うのは三回目だが、また実力は向上しているようだ。
「お前は俺の声さえ忘れていたのか?」「ああ、聞いたことあるなぁとは思ったが。それじゃ、攻撃を.....」
時間が惜しい為、ラーファルトは既に魔術を放とうとしている。
「待てって!焦るな!協力してやる。」
そのバースの話にラーファルトは一旦魔術を放つのをやめる。
「協力?お前の根は悪い奴ではなさそうだと思っていたが、何故だ?ここを裏切るのか?」
ラーファルトのバースの評価は初めからそこまで悪くはない。
なんとなく話してて悪い奴じゃなさそうだなぁ。
と初めから考えていた。
「ああ、裏切るよ。色々理由はあるが、戦争が終わったのに拘束するのは間違ってる。」
「その通りだな。だが、お前は隊長レベルの兵士だろう?拘束を解くように進言出来たのでは?」
「いや、出来ない。魔神聖の脅威がデカ過ぎる。」
なるほどね.....当たり前だが、魔神聖が一番の脅威。
魔神聖は何が目的なんだ.....??
「それにな、嫌気もさしてんだ。悪くないだろ?どうだ?協力しないか?」
嫌気の内容はよく分からんが悪い提案ではない。
そうラーファルトは判断する。
実際、バースの根はラーファルトの感じているように悪くない。
戦争終了後に拘束するのは良くないと感じていた。
また、バースには隊長として国と関わることで気付いたことがあった。
魔神聖にジャック王国は支配されている。
国王は魔神聖の言いなりだ。
この国には嫌気がさした。
魔神聖の狙いなどはよく分からない。
だが、それに利用されることなど絶対にしない。
ただ、それを説明する時間などなかった。
その思いはまた逃げ切ってからラーファルトに話そうと誓いバースは口を開く。
「牢屋まで案内する。ついてこい。」
そう言ってバースは走り出した。