第7話
第七話
ネスにある城の地下訓練場。
肩で息をしながら、大量の汗を地面に落とす青年がいた。
「もう少し長く、っ!! 変われるように・・・。」
「戒、もうやめとけ。死ぬぞ。」
声の主に顔を向けようとすると投げられたタオルで視界が塞がれる。
「・・・らあく先輩。」
らあくの手背には小さいが真新しい傷がついていた。
「めずらしいっすね。らあく先輩が傷を負うなんて・・・何十年ぶりっすか?」
「ああ、これか。」
少し傷を見ると、らあくの口元が緩む。
「久々に、規格外の無鉄砲な奴等がいてな。」
「へぇ~、聞かせてくださいよ。その話。」
おもしろそうに、らあくが口を開いた。
ある日、食事中にこすずめはらあくを呼び出した。
何の用かと足を運ぶと
「ポトフの戦力がどの程度のものか、マーラルを攻めてみよ。」
との、ことだった。
大国であるのびたが本気を出さずとも、小国のポトフは滅ぼすことは可能。
別の言い方をすれば
「おもしろければ生かせ、つまらぬなら滅ぼせ。」で、ある
らあくもその考えと同じだ。
それから、すべての準備が整ったのは三日後だった。
マーラルにはモト・N^3・グラム・ストーンの部隊が守備についていた。
「今宵も美し~い。ぼくの愛の結晶。」
お気に入りのフェイのクリスタルに接吻をするこの人物こそ
ポトフ国・将軍クラス、別名 金剛将軍ことN^3である。
彼の趣味はクリスタルの発掘とそのカット及び見て触れることである。
故に部屋の中は一週間もせぬうちに、宝石だらけになるのだ。
「なんて、心強い輝きなんだ!!!!」
今日も彼の磨きには余念が無い。
彼の宝石に対する想いがMAXになった瞬間だった。
「N^3将軍!!の、のびた国の兵が攻めてきました!!!」
「え~もう、来ちゃった?」
残念そうに彼は持っていた宝石を箱にしまった。
「それじゃあ、しっかりと印象づけておきますか。潰されないように。」
みなに予め想定しておいた作戦の最終確認をした後、広場に集めた。
「いいか。この戦いは、ポトフが存続できるかできないかの重要な戦いだ。
奴らが簡単にここマーラルを落としたら、近いうちにデネブを落とし
ポトフを滅ぼすだろう。そうならぬように奴らを痛い目にあわせてやれ!!
そして、100%勝てる気持ちで戦え!!」
のびたの兵力に叶うわけは無く。これは、試されている戦いなのだ。
しかし、負けを宣告されたわけではない。
勝つつもりで戦う。が前提であり、彼以外もその想いと同じだ。
そして、彼は戦の先陣に立っていた。
マーラルから南に20㎞ある森で、のびたの兵らは待機していた。
森は霧に覆われ、両軍とも目を塞がれた戦いだった。
「ここは囮だろうな。」
確信はないが、長年の感である。
「それでは、街のほうに・・・。」
「うむ。ここのは引っかかった状態で連れてきてくれ。」
「御意。」
モトはグラム達に作戦の内容を話す。
「無論、何が仕掛けられているかわからないが・・・・。」
「いいって、俺らに任せとけよ。」
「使命はかならず果たします。」
三人は頷くと兵と共に森に向かう。
「なんだか・・・おかしいぞ。」
はじめに異変に気づいたのは普通の兵たちだった。
そんなに長い距離を歩いたわけでもないのに、なぜか疲労感が目立つ。
「もしかして・・・すでに罠にかかっちゃった?」
モトは全軍の進行を止めると、隊形を整えた。
「来るぞ。気を引き締めろ!!」
森の木で太陽の光は遮られ、霧でさらに不気味になった中で現れた敵軍の姿に
誰もが息を呑む。
髑髏の兜をして全身が黒い鎧に覆われたものが歩いてくる。
(これが敵だと!?)
今までにない局面に恐怖という感情が次々と伝染していく。
怯むなと、モトが大声でいうが弓の一斉射撃で倒されていく。
このままでは、いたずらに兵が激減してしまうと思った
モトは、蛇剣を地面に突き刺した。
しかし、何も起ころうとはしない。
「この、場所・・・・別の属性が覆っているのか?」
大地属性の蛇剣は一向に反応しなかった。
「くそ!!各自、戦闘しながら後退だ!!」
溢れるように出てきた髑髏の軍勢は先頭の部隊に襲い掛かる。
兵士の弓矢が敵兵に命中するが鎧の前にはじき返された。
剣も斧も鎧にはじかれ、ダメージどころか鎧に傷をつけることさえできない。
(どこかの精鋭部隊だろうが、まさか一般兵でこれほどの差がでるとは。)
彼女は剣刺を抜刀して、首や脇の部分を鮮やかに突き刺していく。
「鎧で守られていないところを狙え!!」
それでも兵らは良くて相殺、ほとんどが一方的な展開だった。
グラムの鉄棍の一撃は相手の鎧をいつものようにヘシャグことができず
弾き飛ばすことしかできなかった。
無論、ストーンも同じような状況。
「じゃあ、上からいくぜ!!」
掲げた鉄棍は勢いよく振り下ろされ、頭から打ち下ろされた。
行き場を失った衝撃は地面から足に跳ね返り鈍い音を響かせる。
「足が折れたくらいか?ぬん!!」
さらに力を込めた一撃は鎧を破壊することに成功した。
その光景に周りの敵兵は動きを止めた。
余程のことがない限り、この鎧が破壊されるなどということはなかったのだろう。
「なんだよ?死にたいヤツからかかってきな。」
振り回した鉄棍は次々と頑丈な鎧を叩き壊していく。
「死に損ねたら痛いぜ~。」
エンジンのかかってきたグラムはさらにスピードが増して森の奥へ進む。
たしかに、敵兵は完璧な鎧で守られているが動きは決して早いものとはいえない。
それでも常人から見れば、普通の速度であるのだが。
「ほう、大砲に当たっても壊れない鎧なんだがな。」
聞こえてきた声の方向にグラムは鉄棍を向ける。
その異質の空気にルシード以来の圧迫感を感じ取ったのだ。
姿を現したらあくにグラムは手に汗握る。
「あんた、人間かい?」
思わずでた、グラムの一声にらあくは笑う。
「これからわかるさ。」
剣を抜いたらあくの姿が彼の目にはさらに大きく見えてきた。
(アルカード・・・さっそく、使うかもしれんぜ。)
歯を食いしばると回転しながら左に鉄棍を振った。
その風がブワッと霧を飛ばすが、らあくも霧と同じように鉄棍を避けた。
静かに振り下ろされた剣を今度はグラムが避ける。
音が激しいグラムに対し、らあくは静かに剣を振る。
一部の無駄のない、その一刀一刀にグラムの神経はすり減らされていき
彼に疲労感をジワジワと浸透させていく。
(こんな戦い、初めてだ。)
時間にしてはまだ短いのだが、彼にはそれが永い永い苦しみにすら感じてきた。
当たったはずの一撃は空を斬る感じしか起こさず
すぐに後ろに気配を感じ、またそれを避けるの繰り返し。
いつまで続くかわからない感覚がグラムを焦らせ苛立たせる。
「いつまで続くんだ!?」
頭を叩いてみるが意識すらはっきりした状態ではなかった。
「お、俺はあと何回戦えばいいんだ!?」
急に彼は息苦しくなり、地面に膝をついた。
後ろから剣を振り下ろした音が聞こえる。
そして、別の方向から違う音も。
何かが折れて倒れてくるような。
その直後、彼の体は宙に浮き上がる感覚を得た。
目を閉じて、再び開くと目の前には大きな木が倒れている。
「ギリギリ間に合いましたな。」
彼のそばにはストーンがいる。
わけもわからず、頭の中はカラッポになったように軽い。
「何か術をかけられていたのでしょう。この空間は好都合ですし。
モト軍師が気づかなければ、私も術の中でした。」
「どうすれば術にかからない?」
「たぶん、キーワードは単独でしょう。
誰かと会話をしていれば術にかかることはありません。」
「俺はまんまと・・・・・クソっ!!」
「グラム、一人で倒せるような敵じゃないことは感じたでしょう。
ここは力を合わせて切り抜けるんです。」
モトの言葉にグラムは頷いた。
「さぁ~て、ここから本番だ!!」
らあくは三人の頭上から剣を振り下ろしてきた。
鉄棍と大剣が左右に剣刺が下から突き上げられた攻撃を同時にするが
鉄棍を素手で大剣を剣で剣刺を口により受け止めていた。
三人は即座に離れ、男に構えなおす。
「なに食べたらそんな歯になるんですか?」
言葉とは裏腹に顔に余裕は無い。
(今ので三人、束になっても勝てないことが証明された。)
グラムとストーンは目を見て、互いに頷いた。
「ストーン、モト軍師を連れて森をでろ。」
グラムは落ち着いた声で言った。
「そんなことをしたら、また術にかけられるぞ!!」
「モト軍師、もうグラム殿は大丈夫です。」
ストーンはモトの腕をひっぱりその場を離れようとする。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ。」
「今は!!我らの言葉を信じてください。」
ストーンはさらに力強く、腕をひっぱりモトをその場から連れ出した。
残ったグラムはゆっくりと目を閉じ、息を吸い込んだ。
「勝てぬと踏んで、お前が二人の犠牲となったのか?」
「馬~鹿。負ける気なんてサラサラねぇ~よ。」
「ほう、いつまでそういっていられるかな?」
「てめぇが地べたに這いつくばるまでだよ。」
すると、グラムの鉄棍は青く光はじめ、体の血管を浮き上がらせて
肌は紅く紅く変化していった。
(グラム殿・・・・ご武運を。)
ストーンは振り返ることなくモトを森の外に連れて行った。