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第5話

第五話


「ちぃ~す。」

軽いあいさつとともに片手を挙げる男に全員が反応に困る。

「なんか、お堅い人の集まりっすねぇー。オグマさん。」

「ぶ、無礼な!!」

一番初めに反応をしめしたのは、沙羅。

オグマに対する無礼に腹を立てたのだ。

「いいのだ、沙羅。“今”は気にするな。」

笑いながら沙羅に視線を合わせると沙羅は一歩出した足を退いた。

「まあ、色々と言いたいことがあるかも知れんが今は時間がおしい。

 ポトフのドラゴン使い・バーンのところへツヴァイを連れて行って欲しいのだ。

 この任務には沙羅ともう一名でむかって欲しいのだが・・・沙羅よ

推薦するものがおるか?」

展開の速さに困っている大勢を無視して沙羅に質問をするオグマ。

「軍師・モトと共にいいでしょうか?」

「わしは構わぬ。いいかな?白い旋風。」

白い旋風は静かに頷いて見せた。

「よし、明朝一番に頼むぞ。」

そういうとオグマは部屋を足早に出て行こうとする。

「こ、国王!?どちらへ?」

「まだ、やることが色々あるんでな。修行に励めよニセ禅師。」

「は、はい・・・あ。」

ニセ禅師が呼び止めようとするのを無視してオグマの姿は消えてしまった。

「早っ!!」

グラムの一言が部屋に響いた。



明朝、デネブの門が開かれ中からモト・沙羅・ツヴァイが出てきた。

「くれぐれも自分勝手な行動は慎むように。」

沙羅はツヴァイに念を押すように言い聞かせる。

「わぁーてるって、衛兵長の姉ちゃん。」

「ね、ねえちゃん!? お前、目上のものに失礼だろう!」

「いーじゃねぇか。もう、城の中じゃないんだから。」

「お前、礼儀というものは・・・ブツブツブツ。」

モトは後ろの二人の会話に少し間が抜ける。

(冷静さが売りの沙羅さんをあそこまで怒らすツヴァイもめずらしい。)

それからルネーシャに着くまでに何度、沙羅とツヴァイは口喧嘩をしたことか

モトはもうこの旅が嫌になっていて、半泣きで続けていた。

着いたころには、モトの涙は枯れているとかいないとか。

宿に泊まり、バーンの居場所を記した地図を見ながら相談する三人。

「また、ものすごいところに住んでるおっさんだな。」

バーンが住んでいるところは山の頂上付近、断崖絶壁の場所であった。

「なんでも、闘うことに疲れ誰も近寄らない、自分の好きな山に登って住んだんだとか。」

「なんか陰気~。」

「だから失礼なことを言うなと旅の最中に何度も何度も・・・・ブツブツブツ。」

「(お願いだから喧嘩は後にしてよ~)森を抜けてから、絶壁を登ることになりますから

 装備をなるべく軽めにしなければなりませんね。」

時既に遅く、二人にはモトの声が聞こえることはなかった。

(私、こなくてよかったんじゃ・・・。)

結局、夜遅くまで続けられた討論はモトを安らかに眠らすことなく

彼女の目の下にクマを残すほどのダメージを刻んだのであった。



「さぁー! 出発だー!!!」

大きな声で宿を出るツヴァイ。

帽子を触りながら沙羅もでてきたが、モトの足取りは遅い。

「お~い、朝っぱらから なんてひ弱な歩き方だい?」

「モトさん、どうしました?」

二人に対して言いたいことが沢山あったが、もはやそのことを口にすることが

できないほどモトの精神状態は不安定になっていた。

「いいえ、なんでもありません。」

一方、ポトフの城ではグラムとストーンがニセ禅師に話をしているころだった。

「俺たちに精霊の力を使うことはできないのか?」

ニセ禅師は無表情のまま、言葉を返す。

「それは無理だ。」

「どうして!?」

「無理なものは無理なのだ。」

「訓練をすれば、身につけれるものではないのですか?」

ストーンがさらに迫って聞くが答えは変わらなかった。

「こればかりはどうにもならないのだ。人は生まれつき精霊の属性を持つものが

 稀にいるが、ほとんどの人は無なのだ。こればかりはどうにもならんのだ。」

「じゃあ、俺たちは・・・。」

グラムは残念そうに肩を落とす。

「まあ、それでも貴殿たちは十分に強い。日々、精進せよ。

 人は人のまま、強くなるには多くの犠牲を払わなければならないのだから。」

ニセ禅師はそういうと二人をあとに部屋を出て行った。

「多くの犠牲?」

グラムはわけが分からなくなった。

そのころ、モトたちは森を抜けてバーンが登ったといわれた山を発見した。

「こ、これ登れるのか?」

ツヴァイがそういうのも無理はない。

90度、直角の断崖そのものだった。

「この山の後ろに周っても、谷しかないのだからこちらを登るしかあるまい。」

三人は死に物狂いで崖を登り始めた。

本当にこんなところを人が登っていったのか不思議なくらい厳しい難関が用意されている。

「バーンとやらはトカゲか何かの類か?」

「これなら戦のほうが生存率がたけーよ!!」

「戦はしたことないだろう!!」

「うるせぇーー!! 例えだよ例え!!」

「お、お願いだから、こんな酸素の薄いところで喧嘩しないで。」

もう、モトの涙を止める術は残されていなかった。

三人が頂上付近についたころには夕陽が見え、感動の瞬間だった。

「こんなところ、よく登れたな・・・・。」

心底疲れきったツヴァイは腰を地面につけて座った。

「あそこにある小屋がバーンさんが住んでいるところだろう。」

もちろん、周りに家など存在しない。

平べったい場所にポツンと一つ小屋があるだけである。

「ごめんくださ~い。」

扉を叩くと中からでてきたのは普通の人にしか見えない人物だった。

「あっら~、珍しい。人間の顔なんて2年は拝んでなかったぞ。」

「ポトフの衛兵長・沙羅と申します。こちらは軍師・モトとオグマ様からここに来るよう

 に言われたツヴァイを連れてまいりました。」

「お~、ついにオグマ様は後継者を探しおったか。

まあ、話は中で休んでゆっくりしようじゃないか。」

三人は用意された食事を食べながらバーンと今のポトフについての話をしていく。

「オグマ様はバーンさんに何とおっしゃったのですか?」

「私が引退するといったら、ワシの後継者を育ててくれって言ってきたよ。

 つまり、ツヴァイはここに住まなきゃならないな。」

飲んでいたスープを暖炉に向けて噴出すツヴァイ。

「はぁ!?なんでこんなむさ苦しいところに俺が?」

沙羅はお約束どうりにツヴァイの頭をすばやく叩く。

「バカもの。バーンさんはわざわざ、お前の先生になってくれるのだぞ。

 それをなんだ! えー!! ブツブツブツブツ・・・・。」

沙羅のお説教がはじまると同時にモトは耳に紙を詰めて、もくもくと食事を食べていく。

バーンは紙に字を書き、モトに見せた。

『いつも、こうなのか?』

モトは生気のない目で首を縦に振って見せた。

(この親にしてこの子ありってか・・・・衛兵長のおっさんとそっくりかい。)

肉を切りながらバーンは思い出し笑いをしていた。

突然、バーンは槍のようなハンマーをツヴァイに差し出した。

「な、なんだよ。」

驚いたがツヴァイは差し出されたハンマーを掴んでみる。

「う?おおお!!!!?」

バーンが放した瞬間、ハンマーは地面に勢いよく落ちてしまい

ツヴァイは手の痛さに目をパチパチとしていた。

「お前が扱う新しい武器だ。」

「こんなクソ重い武器なんか使えるか!!」

「今は無理だがいずれ精霊の力を扱えるようになれば、どんな武器よりも

 軽々と扱えるようになるさ。」

武器を収めながらバーンはツヴァイに語る。

「それにもっとすごいことができるようになるぞ~。」

バーンは嬉しそうに笑うと三人に寝るようにいった。

三人はお腹がいっぱいになると朝の疲れもあり、ぐっすりと熟睡してしまった。

朝日があがると共にモトと沙羅は目覚める。

荷物をまとめ、外に出るとバーンが待っていた。

「もう、行くのかい?」

「はい、それでなくてもポトフは大変ですから。」

「そうか・・・なら、モトとやらこれをもっていけ。」

そう言われて、モトに手渡されたのは・・・・。

「双剣?」

「蛇剣といって、波型の刃をしている。あと大地の精霊の加護を受けた神具だ。」

モトは蛇剣をみながらバーンに言う。

「なぜ、私に?」

「なんでだろうな~君なら扱えるような気がした。」

丁寧に二人はバーンに礼を済ますと崖を降りようとしたときだった。

「まあ、待て。もうちょっとで私のペットがくる。」

「へ?」

まぬけなモトの声が響いたとき反対の谷側の崖から大きな大きな蛇が現れた。

「だ、大蛇!?」

「あわてるな。私のかわいいドラゴンさ。」

翼がない三つ目の大蛇は高らかに鳴き声をあげる。

「乗るがいい。森をぬけるまで一瞬ですむぞ。」

バーンは大笑いしながら二人に手を振った。

「ツヴァイは責任をもって、私が戦士としよう。みなにそう伝えてくれ。」

バーンを見た二人はゴクリと唾を飲む。

「ここを一気に・・・。」

「モトさんもうしゃべらないほうがいいですよ。」

バーンが手を挙げたと同時に大蛇は直角の崖をそのまますべり降りていく。

鱗につかまっている、二人の顔は引きつり死を予期したような表情になっていく。

グッタリした二人を静かに降ろすと大蛇は森へすごい勢いで帰っていった。

沙羅は力無く呟いた。

「殺す気ですか・・・。」

モトの涙は枯れていた。

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