第11話
第十二話
爆発音とともに大地が揺れる。
二体の像を引きずりながら馬を走らせていたN^3が後ろを振り返った。
「モト・・・・。お前との約束は守ろう。」
手綱を握る手には力が入る。
再び走り出すN^3の前方にはどうしたことか巨大な光が迫ってきた。
その光は一直線でN^3を避けることなく体をすり抜けた。
すり抜けた後、息をすることを忘れていたのか口から息がこぼれ
額から流れた冷や汗を拭うと、再度手綱を引き「なんだかなぁ~。」っと馬を走らせた。
地中から起きた爆発のせいもありポッカリと一つの穴があいている。
土を被ったままらあくが元の姿でゆっくりとでてくる。
肩にはぐったりしたモトが。
「時間切れになると獣化が解けて爆発する仕組みにしてたんだが・・・本当に残念だ。」
投げ下ろすとモトの柳葉刀を拾い上げモトに振り下ろした。
ところが振り下ろした刀身を鷲掴みにモトが静止させてしまったのだ。
引くにも押すにも微動だにしない力の強さにらあくの背中に冷たい汗が噴出す。
(こ、こいつ・・・一体どこにこんな力を残してたんだ?)
全身、血や土で紅黒くなり右足は砕けて正常とは程遠いい形で刀身を掴んでいる右腕に関しては未だ出血がとどまることがない。
それらに目を奪われているうちにモトの左腕の肘までがすっぽりと地中に埋まっていた。
口を開こうとするとドンっと腹部を何かが叩き、足が宙に浮いた。
踏ん張りのきかない足とくの字に折れた上半身が衝撃の強さを物語る。
地中からでてきた突起物はモトの左腕のあたりから盛り上がっている。
(今までの力とは別物だ・・・いや、別人というべきか?)
地中から出てきた左腕には今までにはなかった黄金の篭手が生き物のようにモトについている。
奇妙な音をたてながら折れた足は復元され、口や腕からでていた夥しい出血も完全に治癒されたように見える。
(なんて高純度な精霊の力だ・・・オーラが溢れている。)
見間違えるほどの力に空間が歪んだようにらあくには見えてしまう。
だが、一番驚いているのは本人だった。
止めようのない巨大な力が左腕から全身へめぐってくる感覚は、モトを不思議な陶酔感に引き込んでいく。
先ほど指一本動かすことすらできなかった体が今では大地を揺らさんばかりの力を蓄えている。
(あ~軽。あんなに巨大に見えたあいつが小さく見える。)
「どうした?来ないのか?」
らあくの言葉にキョトンと目を見開くとすまなさそうにモトは頭を傾ける。
「悪い。すぐにいく。」
右拳を抱え込むよう構えると一足でらあくの制空圏へ飛び込んだ。
折れた剣を捨てたらあくは牽制の左をコンパクトに突き出した。
はじかれたと同時に右手首には掴まれた感触が、と思った時には地面に叩きつけられている。
素早く立ち上がろうと両手を地面にあてるが右へバランスを崩して立つことができない。
外されたリストを見てギョっとすると顎を蹴り上げられ全身が宙に泳ぐ。
断定できないほどの打撃音が体幹へリズムよく叩き込まれた。
背中を向けるほどの遠心力がかかった蹴りに即座にタイミングを合わせたらあくは左手一本で足をいなす。
(逆技?)
空中で回転しながら地面に落ちるはずなのだが篭手がのびて地に突き刺さり、逆さまのままで静止した。
「ありか?」
ため息交じりに発せられた言葉にモトは全力で答えた。
「ありさ。」
側頭部を捕らえた蹴りはらあくを左側へ二転、三転と吹っ飛ばした。
距離がとれた時間で手首を入れ治すとすぐに立ち上がった。
(上段なのにもう立ち上がってる・・・。)
そこへすでに潜り込んでいるモトの両拳が唸りを上げる。
避けるらあくも先ほどまでの剣技とは完成純度の違うモトの格技にやっと理解する。
「(こっちが本業か。)悪いが、貴様の土俵にはつきあえん。」
二人の間に黒い炎が割って入り、距離を置かせた。
炎の向こうでらあくがしゃがむのが見える。
両手を地面に合わせ、土がモトの周りを固め始めたが炎の壁は爆発して辺りに炎を撒き散らせた。
衝撃音がドンドンと鳴り続けていたがやがてなくなった。
モトは土の壁をやぶり外を凝視する。
(いない?)
辺りは焦げ臭く、戦闘の激しさで地形が変わっている。
篭手は静かに左腕から落ちた。
先の戦でおきた国宝が動き出したという珍事はまたたくまに世界に知れ渡り、モトの名を世界に知らしめた。
なにせ、現国王の中でも扱えたものはおらず。
なにより、過去に国宝を使用できた人物ですら一人として確認されていないのだ。
いつしかモトは双剣と国宝を扱うため「双剣神」という名で自国のみならず他国からも一目置かれる身になった。
これほどの名誉の中、モトは先の戦をニセ禅師にこう話している。
「あの戦で戦闘したらあくという騎士は、次に対峙した時、今の私が国宝を使おうと勝てる見込みはありません。」
異常な言葉にニセ禅師は表情ひとつ変えずに疑問を投げかけた。
「なぜ、そう思う?」
「彼はロードオブヴァーミリオンを所持しておりませんでした。」
ロードオブヴァーミリオン
のびた国に伝わる最強の武器の一つ
そのロードオブヴァーミリオンを所有するものに与えられるのびた国の称号こそ、闇獣。
ロードオブヴァーミリオンは誰かがつくった武器ではない。
闇属性のものが「最も愛する人」を手にかけた武器こそがロードオブヴァーミリオンとして姿を変える。
愛が深ければ深いほど、愛する人が多ければ多いほど、その色はより漆黒に近づいていく。
愛するという感情を貪りながらロードオブヴァーミリオンはその強さを巨大化させていく。
「そうか・・・・もういい、下がれ。」
そういわれるとモトは静かに部屋をでていった。
(もしかしたらと思ってたんだが・・・・やはり、国宝を扱えるモトでも勝てないと言わせるか。)
椅子に寄りかかりながらため息をついたニセ禅師は天井を見つめてあることに気がついた。
「あいつ、『今の私が』って言ったな・・・・・。」
彼の口元が自然に緩んだ
モトは城から離れた建物に来ていた。
その中にはN^3もいる。
二人の目の前にある大きなクリスタルの中には見慣れた二人の人間が・・・。
双方とも片腕が根元までなくなり、ほかの部位にいたっても生きているのが不思議なくらいの形をしていた。
「傷が癒えるまで・・・・とは言っても、この体の中身はからっぽだ。」
「命を糧に力を・・・・。」
「だが、二人ともすべてを出したわけではない。その証拠に体は完全に呪物に飲み込まれていない。」
「なら、何か別のもので補えば。」
「かわりがあるかどうか。」
言葉のあとにN^3は建物を出て行った。
「見つけてみせる・・・なんであろうと。」
その場を去る黒い瞳に迷いは無い。