第1話
第一話
昔、すべては一つの国だった
いつからか、国は4つに別れ毎日のように争いがおこなわれていた
そして、また新たな国が誕生しようとしている・・・
未だ平穏が訪れることのない、永遠とも言える戦いの繰り返し。
あたりは大砲の音や馬の蹄の音が鳴り響き、何万という人間の血で血を洗うぶつかり合い
が繰り広げられている。
街の門を突破したゼノビア軍は、あと一歩のところで街を制圧できるのだが
守備についているローディスの騎士の強さは、それ以上の進撃を許さなかった。
ゼノビアの兵長がシビレをきらして叫ぶ。
「誰かヤツを倒そうというものは、おらんのか!?褒美は意のままだぞ!!」
しかし、一向に誰も出ようとしない。
周りに転がっている死体が足を止めてしまうのだ。
兵長がさらに声を張り上げ、罵声を浴びせようした時だった。
一人の傭兵がローディスの騎士へ歩を進めていく。
スラリとした体がわかるくらいの軽装備だが、ゴッツイ兜をかぶっている
ため、その素顔を見ることはできない。
腰に一本の鞘があるが、両手には二本の刀があり
未だ乾ききっていない血が刃をしたたり地面に落ちている。
「参る!!」
ローディスの騎士は力強く踏み込むと戦槌を振り下ろす。
振り下ろした戦槌は地面を砕き、あたりに土が飛び散る。
しかし飛び散ったのは土だけではなく、ローディスの騎士の頭も飛んでいった。
頭のなくなった体は、噴水のように血を吹き出し膝が地につき
正座した格好のまま動かなくなってしまった。
先ほどの怒りを忘れ、呆然としていた兵長は ハッ!と我に返り声を張り上げる。
「と、突入!!」
敵の士気は総崩れで、あっという間にゼノビア軍は制圧してしまった。
門の前では、先程の傭兵が一人で立っている。
武器を納めたその手で、無造作に脱ぎ捨てた兜の下からは、黒い瞳の女の顔があらわれた。
兵長は近づき、
「お前、名はなんという?」
女は静かに口を開いた。
「・・・・・モト。」
そのあと、ゼノビアの騎士になるよう誘われたがモトは無言で首を縦に振ることはない。
「お前は何を望むのだ?」
モトは報酬を受け取ると、初めて眼を合わし一言
「・・・国。」とだけ、しゃべるとその場を立ち去った。
中立国・サープ
この酒場には様々な情報が集まり、発信源でもあり
やっかいな仕事などの依頼もここに集まるものである。
当然、そんな場所なのだから「安全」と言う単語とは、無縁である。
モトは隅のほうで酒を飲んでいた。
酒場に一人でいること自体、やっかいなことに巻き込まれそうなのに「女」であるのだか
ら案の定、何人かのゴロツキに喧嘩を売られてしまう。
数秒で軽々と酒場からたたき出すモト、周りの客は「賭け」をしていた者が多く
儲かったものたちはモトに拍手を送る。
モトが席に戻るころには、一人の男が近づいてきた。
「あなたの腕を見込んで仕事を依頼したい。」
もちろん、モトはこれを狙って酒場に来ている。
周りはいつもモトの強さを知っているのだから手をだすことは絶対にない。
それを知らない不幸なゴロツキはモトが仕事を得るためのダシに使われるのだ。
依頼された仕事の内容はというと、最近ひんぱんに積荷を狙う盗賊団を・・・・
つまり、用心棒としてモトは雇われたのだ。
依頼者は、場所と日時を告げると酒場を出ていった。
するとすぐ近くで酒を飲んでいた男が話しかけてくる。
「今回の仕事はやめといたほうがいいぞ。」
「どうして?」
男は少し声を潜めモトに話す。
「その盗賊団の頭、鉄棍鬼っていわれる、相当、腕の立つヤツらしいぞ。」
「鉄棍鬼・・・そんなヤツがいたのか。」
モトは少し笑うと酒場を出ていった。
翌日、馬車の周りを数人の傭兵たちが囲み歩いている。
もちろんその中にはモトが含まれている。
日が上がるとともにサープを出発し、マーラルを目指していく。
平地が続く一本道
見渡しがよく、いつ盗賊が来てもすぐに戦闘態勢にはいることができる。
むちゃ有利な待ち伏せもこれでは意味がない。
(今日は現れないか・・・)
とモトが思った時、雲行きがあやしくなってきた。
突然の雨、勢いよく降ってきたので道をはずれの森の中で雨宿りすることになった。
しかし、すぐに雨は止んでしまい再出発をしたが今度は
濃霧のため前方が見えなくなってしまった。
むやみに動くのは危険なため、その場で待機となり各自交代で馬車の見張りについた。
「あんた、よくこんな仕事やるねぇ~。」
休んでいたモトと向かいあって座っていた男が話しかけてきた。
「あんたくらいの美人ならもっと楽な方法があるのに。」
モトは手を口にあてて笑う。
「鉄棍鬼がどんなヤツかと思ってね。」
「あんた物好きだなぁ~。」
直後、モトは胸騒ぎを感じ外へ出る。
馬車を出ると少しずつ霧が晴れてきたのか、前方が見え始めた。
しかも、蹄の音も・・・どうやら盗賊達と偶然に出会ってしまったようだ。
誰かが叫ぶと盗賊はこちらへ突撃してきた。
傭兵達は武器を構えて盗賊達を向かえ撃つ。
モトも柳葉刀を抜刀すると相手の脇・首に刃をあて、削ぎ飛ばしていく。
すると、馬車の反対側を守っていた傭兵二人がモトの頭上から吹っ飛んできた。
体を守るはずの鎧は体にめり込み、即死としか思わせない程の破壊力。
モトは急いで反対側に駆けつけるとそこには
印象的な紅い髪と紅い髭の人物が身の程並みの鉄棍をもって仁王立ちしていた。
「貴様も雇われた傭兵の一人か・・・女だからといって手加減はせん。」
「お前が噂の鉄棍鬼か?」
「おうとも!我こそは鉄棍鬼・グラム。 いざ!!」
モトは刀の峰を叩いて合図を送るとグラムの鉄棍が無数の突きを繰り出す。
モトは一つ一つの突きに刀をあてて体を回転させると竜巻のような波状攻撃で
グラムをなんなく後退させてしまった。
グラムは地面をたたきつける程の大振りで迫るが、軽快なバックステップでモトは避け
タイミングを計ると下段の踵落としで鉄棍を上から踏みつけた。
止めたと思ったモトだったが、体が一瞬にして空に舞い上がった。
驚きながらもモトの顔は嬉しそうだ。
「そうでなくては。」
それからの豪と柔の対決といったら盗賊・傭兵
関係なく魅入られ闘いを止めてしまうほどだった
「勝負はつかん・・・鉄棍鬼よ、この勝負預ける気はないか?」
「いいだろう!この勝負、今日だけで終わらすのは勿体無い。
この荷はお前の腕にてあきらめるとしよう。」
そう言うとグラム率いる盗賊達は撤退していった。
モトは残った馬に跨りグラムを追いかける。
「なんだ?勝負は預けるのではなかったのか?」
「預けるとも。そこで、私の仲間となってくれぬか?」
「なにぃ!?」
さすがに驚いたグラムは馬を止める。
「敵である我をだと?」
「ああ、貴殿の腕を見込んでお願いしたい。」
少し考えるとグラムは口を開いた。
「して、なんのためだ?」
「私は私の求めた国を創るためだ!!」
周りの盗賊達は大笑いしてモトを馬鹿にする。
グラムも大笑いしながら馬から落ちる始末。
「その国を創るには貴殿の力が必要だ。共に創ろう。」
馬上したままグラムに手を差し出すモト。
グラムはその手を掴むと笑顔のまま叫ぶ。
「いいだろう!我もお前が気に入った。それまで勝負は預けるとしよう!!」
二日後、サープのいつもの酒場にはいつもの顔と鉄棍鬼が酒を飲んでいる。
飲んでいるといっても、グラムだけなのだが・・・。
「それで?今後の予定はどうするのだ?」
グラムは酒に強いのか、紅いのは髪と髭だけで頬は一向に赤くならない。
「とりあえず、戦場にでるつもりだ。」
「あ?金が必要なら荷でも襲えばよかろう?」
「ははは。だが、戦場には金を稼ぎにいくのではない。」
「?」
「戦場にいけば、おのずと強者がいるものさ。」
なるほど。っと思いながらも、グラムの酒の量は減ることはなかった。
次の日モトとグラム率いる盗賊達はフェイの草原にゼノビア側の軍隊として参加していた。
「どいつもこいつも似たようなヤツばかりだな。」
グラムが鉄棍を地面に突き刺し、寄りかかりながら口を尖らせる。
「闘っていれば、そのうちいるかもね。」
兜をかぶりながらグラムに話しかけたモトがあたりを見回すと、周りにいたはずの兵士や
傭兵がいない。
どうやら合図を聞き逃してしまったらしい。
その場にポツンと取り残されたモト、グラムとその配下の盗賊達・・・。
「お頭、どうしましょう?」
「もう、お前らの好きにしてくれ。」
投げやりなグラムの言葉を聞くと盗賊達は遅れながら戦場へ。
そのあともモトはゆっくりと、戦場へ歩を進めていく。
そのスローリーな動きは敵軍と遭遇した瞬間、恐ろしいスピードに変化した。
グラムの遥か後ろに居たはずのモトは、グラムを追い越しドンドン前に斬り進んでいく。
モトに負けじとグラムの鉄棍も唸りを上げハイランド兵を吹き飛ばしていった。
あらかたの敵兵を二人で一掃し、ひとまず周囲の戦火が収まり
ほっと一息ついたときだった。
まだ戦の続いている、遥か前方に目を向けたモトは、異様な光景を眼にした。
隊列を組んで敵を追い詰めているゼノビアの騎兵が、ポツポツと馬ごと消えてゆくのだ。
兵士が斬られて落馬するのならともかく、馬まで消えるのはおかしい。
「なにかおきたようだな。」
妙に凸凹のくっきりした地平線を眺めながら、グラムが呟いた。
「行ってみればわかる。」
モトとグラムがその方向へ走っていくと傭兵達がこちらへ逃げてきた。
ゼノビアの騎兵長と揉めているところだった。
「え~い! 貴様ら戻らんか!!」
「あんなのがいるなんてきいてねぇぞ!!」
「馬ごと人間きり飛ばすヤツなんか相手にできるか!!」
「どうした?」
モトが問いかけた時に、傭兵が群がっていたところからここまで上半身だけの死体が吹き飛んできた。
「あ、あいつだ・・・とにかく、俺達はもう逃げるぞ。」
騎兵長の言葉を無視して逃げていく傭兵達。
モトは問題の場所に視線を向ける。
たくさんの人間がいるため、よくわからないが時々なにか大きな物体がでているのがよくわかる。
「どうやらヤッコさん、よっぽどデカイ得物をあつかっているみたいだぜ。」
ニタニタと笑いながらグラムは鉄棍を握り締める。
やがて、取り囲んでいた傭兵達はその人物にから離れ逃げていく。
その人だかりの中から現れたのは、黒いマントに分厚く身の程を軽々と超える
「剣」と言いがたい大剣を担いだ黒髪の男だった。
男の周りに転がる死体は竜巻にでも巻き込まれたかのように
バラバラにきり飛ばされている。
モトは、無防備に男に近づいていく。
男も何も言わず、モトへ一直線に歩を進めていく。
その場にいた誰もがモトの体が飛び散ると予想したが、振り下ろされた大剣は空を斬る。
「ぬう!?今の一撃よくぞよけた!!この血の滾る思い、久しく忘れておったぞ。」
「私は、モト。して貴殿は?」
「名乗るほどの者ではないが、どうしても呼びたいのならストーンと呼べ。」
二人とも剣を構え、「これから」っというところでモトの頭上を飛び越えストーンに
いきなり襲い掛かる人物。
突き出された鉄棍を大剣の腹で受け止めるが、ストーンの足がヨロヨロと二、三歩後退してしまった。
「今日は、なんと言う日だ。このような強者が二人も現れるとは・・・。」
「モトよ。ここは、オレが引き受ける。」
モトは頷くと二人から距離を置く。
「我は、グラム!! ストーンとやら、いざ!!」
「尋常に・・・。」
「泄堰I!!v
叫んだ後の両者の得物が間髪入れず金属音を辺りに鳴り響かす。
両者一歩も引く事無く、その場での連続の打ち合い。
得物をもった二人の手の皮が衝撃に耐え切れず、ズルズルと皮膚が剥げていき
互いの体に武器があたっていないのに血が飛び交い
衝撃に耐え切れなくなった地面は二人の足跡を戦場を走る馬のものよりも深く食い込ませていく。
やがて、流れが一度切れるとストーンは大きな声で笑い始めた。
「おもしろい!おもしろいぞ!!まさか、このような相手に出会えるとは。」
「お前こそ、我が鉄棍と正面から打ち合いができるとは、大したヤツだ!!」
お互いの得物を地面に突き刺し笑い合う二人は、とても嬉しそうに声を響かす。
その声を掻き消すくらいの空気の振動が街の方から聞こえてきた。
「むむ?勝鬨か。どうやらハイは、街を守りきれなかったようだな。」
一人ブツブツとストーンは呟くと大剣を掴み、瞬く間に逃げていってしまった。
あまりにもあっさりしていたため、ゼノビアの兵隊達も傭兵も対決していたグラムさえも
呆気にとられて逃がしてしまった。
マーラルの酒場にいるグラムの杯は、酒が一向に減ることがない。
ムスっと顔を膨らませて、不満そうである。
「まあまあ、グラム。また、縁があれば会えるさ。」
モトは、肩を叩きながら少しだけ酒を注ぎ足していく。
その酒にかぶりつこうとした時だった。
町にけたたましく響く鐘の音。
「盗賊団がせめてきたぞぉー!!」
グラムは今日の出来事の後味の悪さと酒を飲むのも中断されたため
イライラが頂点に達し、物凄い形相で酒場を飛び出る。
呆れながらモトも酒場を出て行く。
モトが外に出たときには、既に戦いは始まっていた。
今日の戦より力の入ったグラムの鉄棍の一撃一撃が
まとめて4~5人を突き飛ばしていく。
人々は盗賊から金品を剥ぎ取られ殺されていく。
女、子供に関係なく虐殺される風景。
人々を助けるモトはグラムと広範囲にわたって盗賊たちの攻撃から守る。
いくら二人が常人離れした強さでもすべての人を助けることは不可能である。
やがて、盗賊の一人が子供にナイフを突きつけたまま、二人の前に立つ。
モトは武器を下げる。
「動くなよ。子供の命がどうなってもいいのなら別だが。」
モトにナイフを投げようとした盗賊の手が切断され、痛みで泣き叫ぶ盗賊の体はさらに真っ二つなる。
「人質を捕るとは、野蛮なヤツ等だ。」
「ストーン?」
「貴殿は昼間の・・・話はこの場を切り抜けてからだ。」
竜巻のごとく突き進む三人の得物は夜が明ける頃には真っ赤に染まっていた。
グラムと拳を合わしたストーンはモトの前に膝をつく。
「慈愛にみちた貴殿のために一振りの剣となりたい。我が剣の主となってくれないか?」
手を差し伸べモトは笑顔で
「断っても仲間にするつもりだったぞ。」
握られた手は朝日を浴びてより一層、輝いていた。
「モトよ、次はどうする?」
鉄棍を担ぎ、あくびをしながらモトへ近づくグラム。
「次の街を目指そう。」
三人がむかったラーミディの街はこれ以上とない活気に包まれていた。
街をあげてのパレードの最中だったのだ。
「たまには、いいものだ。」
酒を片手に少し頬を紅く染めながら、陽気なグラム。
「モト殿~グラム殿~。闘技大会をやるそうですぞぉー。見物でもどうです?」
街中を歩き回っていたストーンがモトとグラムのもとへ戻ってきて
三人は闘技場へ向かう。
闘技場では、勇敢な戦士たちが自己の技を遺憾なくぶつけ合う。
圧倒的なパワーで勝ち上がるもの、観るものを釘付けにするような身のこなしで勝るもの。
己が信じてきた、スタイルを貫き勝負に命をかける。
決闘を見ていた三人の違う方向から今までない声が上がる。
「音越えの風読みだー!!」
「ラーミディ1の弓使い。待ってました!!」
風読みが音越えと呼ばれる所以は、戦場で風読みが放つ初弾の弓矢に笛がついており
ピィー。っと音がする間に何十人という人間を瞬殺したことからいわれる異名なのだ。
常人離れしたリロードの早さによりなせる技といえよう。
「すごい人気ですな。」
「騎士でもないのに随分、有名な傭兵だな。」
「それくらい強いということだよ。」
なるほどと頷く、グラムとストーンは何かを思いついたようでニタニタと笑い始める。
「やるか・・・。」
「協力しますぞ。」
「二人とも何をゴソゴソと?・・・あっ!!」
モトが声をかけると二人は風読みの前に飛んでいった後だった。
「なんだ貴様らは!?」
警備の兵士達が二人に武器を構える。
「祭りだからいいではないですか。」
「少しはスリルがないと客も退屈するぜ。」
「構いませんよ。」
風読みも少し退屈していたのか、兵士達に下がるように言う。
「血を見ない、祭りというのも民は少々退屈だろし・・・。」
二人と風読みの間に20M距離がある。
「さて、風読み殿とやら参りますぞ。」
ストーンが一歩前に出ると足の周りに三本の矢が打ち込まれていた。
指の間に挟んだ三本の矢は放つ予備動作も見せず突き刺さっている。
「むむむ。これはグラム殿・・・作戦はβに変更ですな。」
二人とも叫ぶとストーンとグラムは左右に分かれる。
「一方に打ち込む間に、もう一人が襲い掛かる・・・セオリーどうりだな。」
足を狙いに定めた風読みは変な風切り音に気づく。
声にもならぬほどの気合とともに双方は自分の武器を風読み目掛けて投げつけていたのだ。
モトはあんぐりと口を開けて唖然とする。
「ちょ、ちょ!!?」
さすがの風読みもビックリしてアタフタとしながらも矢を射る。
地響きが風読みの近くで二回すると次に来たのはストーンのラリアット。
鮮やかに空中で回転させられると地面に倒れ、裸締めをグラムに極められ・・・完。
~夕刻~
祭りは夜通し行われる。
むしろ、夜のほうが酒場は騒がしくなる。
「○×□っと、言うことで地球のために風読み殿に仲間になっていただきたいのだ。」
虚実を含めたアバウトなストーンの説明を聞かされた風読みは終始
【心、ここに在らず】のような顔で話を聞いていた。
「ウィー。今日も酒がうまい!!」
風読みをオトシタ張本人は、祭りということもあって酒樽を次々と飲み干していく勢いだ。
「風読みさん、無理にとは言わない。好きにしてください。」
モトは、静かに席を立つと外へ出て行った。
風読みは、少し酒を飲むとモトの行った外へ向かい・・・。
「おもしろそうだから、一緒に行きますよ。」
と、弓の弦をいじりながら返事を返した。
モトは笑顔を返すと再び歩き始めた。
「風読み殿。まあ、一杯やりましょう。」
牛乳の入ったコップを渡し、ストーンが言い寄ってきた。
「お酒じゃないの?」
不思議な顔でストーンを見ると胸を張って返された。
「酒は、飲めぬのです!!」
苦笑しながら、風読みは牛乳を飲み始めたのだった。
モトは、ラーミディの塀の上で風を受けているところで彼女の顔はどこか虚しそうだった。
静かな塀の上では、少しばかり街のにぎやかな音が聞こえてくるだけで
風の音がよく聞こえてくる。
その静寂な夜を誰かがぶち壊す。
「ガァー。小便は、こういうところでやると爽快だ。」
顔を紅くして、結構酔ったグラムはモトにも気づかず用を足す。
モトが後ろを向き走り去ろうとするところでグラムが気づく。
「おー、モト~ そんなところで小便か?」
「ち、違います!!」
普段の冷静な佇まいとは一転してモトはパニクっている。
「なんだ、可愛いところあるじゃないか。」
大笑いしながらグラムは生理的なことを済ます。
「からかわないでくださいよー。」
「あー、悪い悪い。ところで次は、どこへ行くんだい?」
「デネブに向かうよ。」
「ほう、街を下っていくか。」
「ええ。そして、王となる器の者を探す。」
「あにぃ~~!!?」
酔いながらしゃべっているので口が思うように回らない。
「お前が王になるんじゃないのか?」
「違いますよ。私は補佐する役です。すべてを束ねるようなカリスマ性はありません。」
「なんだ、違うのか・・・・。」
残念そうにグラムは俯く。
「まあ、それはいずれ・・・。」
「ああ、わかった。 さあ、飲みなおそう。」
二人が酒場に戻ると、無理やり飲まされたと思われるストーンが苦しそうに吐いていた。