鳴き声
視える私に訴えてくるなら、私は応えるべきだろう。
スタスタと歩み寄り、少女の記す布切れを目視し、直接触らないように袖の上から摘み撤収しようとしていた兵に託した。
「これ、証拠です。犯人の」
左眼の視力が低下したのは約二年前、馬車との衝突事故が原因だった。
顔面にこれでもかと巻いた包帯を見た父はショックのあまり診療所で倒れた。
馬車と衝突したら大概の人間はあの世の淵を視るか、大怪我はすると思う。故に生きてただけで儲けものだと私自身は思っていたんだが、父は違ったらしい。嫁の貰い手がいなくなると別の心配までして嘆いていた。
そんな父の心配を他所に、左眼は視力がこのまま低下していくだろうと覚悟をしていたが、全回復とは言わないまでも視力は徐々に回復していった。
それだけではなく、視力回復と共に左眼の色が変わってしまったという事実がある。
もともと左眼の瞳は空の色のような天色だったが、藤黄色に変色した。
そのせいで私はこの世界ではオッドアイの珍しい人間になってしまったのである。
オッドアイなんて猫以外見たことないというのに。
事実は小説より奇なのだ。
私から布切れを差し出された栗色の髪をした軍兵は怪訝な表情を顔面に貼り付けて「ハァ?」と言った。
その気持ち分かる。分かるよ。けどね、あの少女の訴えは無視出来なかったし、この布切れが犯人の行方の手掛かりになったら、亡くなった男性への弔い上げにもなるんじゃないですか?
肩くらいの長さの髪を後ろで軽く結った訝しげなこの兵員は、私の手の平から布切れを摘んで何かを考え