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指名していいよな?  作者: ブルーローズ
第三章 恋の始まり
8/12

驚き


2日が経ちーー


桜子は階段を上がる。

タイムカードを押していると


カサ


紙の音がして、制服の左ポケットを見た。

となりに溝田が立っていた。


「おはよう」

「お、おはようございます……」


桜子は首を傾げながらロッカールームに入った。

トートバッグを自分のロッカーに入れ、左ポケットに手を入れる。

4つ折りの紙を見ると、目を丸くした。


(え?えっ?目おかしくなった!?)


驚いておもわずたたんでしまった紙をもう一度広げる。


『好きだ』


その一言だけ書いてあった。


(は?どいうこと?え?)


体が熱い。

自分のことを言っているのだろうか。

まさか物のことを言うわけはない。

ということは告白されているのか……?


(どうしよう。人を間違ってる?……感じじゃなかったけど……。え?)


頭が混乱していて、その場から動けない。

紙をたたんで、目をこすり、もう一度広げたが、やはり『好きだ』と書いてある。


(ど、どうしよう!)


とりあえず紙を左ポケットに直した。

手で顔を仰ぎながらロッカールームを出た。


***


桜子は他のスタッフと朝の準備をし終え、ゆっくり息を吐いた。


コツ


後ろから足音が聴こえた。


「見た?」


溝田の低い声が鼓膜を震わせた。

ビクッと体を震わせ振り返った。


「あ、あの、あれ……」

「うん」

「人違いじゃないかなって……」

「は?」


桜子はチラッと溝田を見た。


「だって、わたしなんかに……」

「なんかって言うな」

「できの悪いわたしなんかを……」


大きな溜め息が上から聞こえてきた。


「自分のこと何もわかってないな。そこがダメなんだよ」

「っ……」


目が潤む。

仕事中に泣いちゃダメなのに。


「あ……いや、泣かせたかったわけじゃ……」

「あ!溝田先生が小葉(こば)さん泣かした!」

「ちょっと来い」


溝田は桜子の手を引っ張り歩く。

他のスタッフから離れたところで手を離した。


「もっと自信を持った方がいいって話だ」

「え?」

「合ってるのに間違ってないか不安がってるシーンを最近良く見かける。間違ってたら教えてやるから、もっと堂々としろ」


出そうだった涙は引っ込んでいった。


「コホン、話がそれてしまった。……その、返事……というか気持ち聞かせて欲しい。すぐじゃなくていいから」


溝田はボソボソとつぶやく。


「ホントにわたしに……?」

「あぁ」

「なんで?」

「……メッセージで教えてやる」


(気になるんで、今教えてもらっても!?)


桜子はうつむく。


「とにかく、考えといてくれ。……あぁ、あと……今日は俺に付けよ」

「はぇ?」


変な声を出してしまった。


「アシスト。……スパルタ指導控えるから、付いて欲しい。……小葉(こば)に」

「は、い……」


桜子は小さくうなずいた。


***


「バキューム、ここで大丈夫ですか?」


すると、溝田と目が合う。

思わず体が強ばった。


「いや、右でいい。左の歯を削るからバキューム入らないと思う」

「わかりました」


(あれ?溝田先生、確かに優しいかも……?)


「指でほっぺ引っ張っといて」

「はい」


桜子は患者さんの口に人差し指を入れ、左の頬を引っ張った。


(アシストやりやすい……!)


マスクの下で顔がほころぶ。


「ライト、大丈夫ですか?」

「ん。その位置でいい」


チラッと溝田を見る。

彼が目を細めたのがわかった。


(アシストしてるときに初めて柔らかい表情になった)


桜子も目を細めた。

その目は潤んでいるようにも見える。

溝田はふっと笑い、治療を続けたーー

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