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指名していいよな?  作者: ブルーローズ
第二章 さりげない優しさ
5/12

走り出す想い、動き出す気持ち


溝田はスピードをあまり出さず、安全運転する。


「……小葉(こば)さ」

「はい」

「最近、鉗子(かんし)(歯を抜く器具)のミス減ったよな」


桜子は驚いた顔で溝田を見た。


「まだ完璧じゃないけど。逆に鉗子(かんし)しか持ってこないときが増えた」

「うっ……」

「物は合ってるけど、上下逆のやつ持ってくるときもあるし」


桜子はうつむく。


「すみません……」

「アシストついたかと思ったらバキューム変なところに置いてるし、まだライトもちゃんと当たってるときが少ない。被せ物磨いてるときもエアー当たってないし」

「……っ」


桜子は涙をこらえる。

信号待ちで溝田は桜子をチラッと見た。

溝田は小さく溜め息をつく。


(やっぱり溝田先生嫌い)


桜子は溜め息をついた。


「……でも、頑張ってるのは知ってる。あのメンツで良く続けてるなって」

「え……?」

「小言言われながら辞めずにいるのはすごいと思う」

「っ……!」


桜子の目から涙がこぼれる。


「グスッ……っ……」


溝田はコンビニの駐車場に入ると、奥に車を停めた。


「大丈夫か」

「大丈夫……」

「それ……口癖にするなよ」


溝田はシートベルトを外した。


「そうやって溜め込むな」

「……わたし、サンドバッグなんですって。そういう存在も、必要だって……」

「……」


溝田は目を伏せた。


「それで、丸く収まるなら、わたしはーー」


グッ


桜子は目を丸くした。

溝田に抱き寄せられたのだ。

顔を彼の胸板に押し当てられ、そっと頭を撫でられた。


「たまには吐き出した方がいいぞ。じゃないと、ダメになる」

「グスッ、グスッ……」

「俺が……になってやる」

「えっ?あの……今何て……」


桜子は顔を上げた。


「……だから、その……」


溝田は目をそらす。


小葉(こば)のサンドバッグに……。いや……違うな」


ボソボソ言っていて、桜子は不思議そうに首を傾げた。

涙はいつの間にか止まっている。


「俺には気を遣うな。たまに話聞いてやるから。愚痴とか」

「え……」

「いつも文句ばっか言って、恐がらせてごめん。でも、小葉(こば)はコツをつかめばできる人だと思ってて」


桜子は驚いた顔をした。


「スマホ貸して」

「へ?」

「いいから」


桜子はしぶしぶスマホを渡した。

溝田は彼女のスマホで操作をする。

少ししてスマホを返した。


「何かあったら連絡していいから」

「へ?」

「愚痴送ってきてもいいし」


溝田はシートベルトをすると、車を走らせた。


「!」


メッセージアプリに溝田のアカウントが登録されていた。


「あの……!」

「サンドバッグとか言うな。サンドバッグにされないように頑張れよ」

「溝田先生……」


トクン

トクン

トクン


心臓の動きがいつもより早い気がする。


「……」


桜子は溝田のアカウントを見た。

温かいものが胸の中で広がっていく。


(っていうかさっき抱きしめられたよね!?頭撫でられたよね!?しかも顔が胸に……!)


桜子の顔が赤く染った。


(夢だったのかな?いや、確かに感触?はあった!現実だったと思う!ど、どうしよう!)


手がわずかに震え出した。


『目的地に到着しました。音声ガイドを終了します』


「あっ、すみません、ありがとうこざいました!失礼します!」


桜子はそそくさと車を降り、家に入っていく。


「……すみませんも口癖なんだよ……」


溝田は溜め息をついた。

「すみません」「大丈夫」が口癖なところが性格が如実に現れている。

引っ込み思案で、常に人に気を遣っていて、自己肯定感が低くて。

だから、心配で目が離せない。

自分が面倒を見てやらねばという気持ちになってくる。

その気持ちがいつの間にか恋愛感情へと変わりつつある。

しかし


「恐がられてんだよな……」


障壁は高い。

どうしたら崩れてくれるのか。

溝田は大きな溜め息をつきながら、車を出した。

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