気になる存在
翌朝ーー
「えー!別れるの!?」
「別れようかな……」とつぶやいたら、複数のスタッフが食いついてきた。
溝田はピクっと反応し、耳を傾けた。
「なんで?」
「ん〜価値観の違い、かな。向こうガツガツしてるし」
「へぇ〜。じゃあマッチングアプリで探そう」
桜子は首を横に振った。
「しばらくいいです」
「もう別れたの?」
「メッセージ送りました」
「早!」
桜子は苦笑いした。
「どんな人がタイプ?」
「面倒見が良いのは絶対条件かな。あと年上がいいかも」
「へぇ〜」
関水は溝田に近づく。
「ですって」
「何?」
「独身でしょ」
「……俺には関係ない」
溝田はそっぽを向いた。
「いや、気になってるみたいだから」
「別に、そういうことじゃない」
「どうだか」
関水はニヤニヤしながら溝田を見る。
「小葉さん絡みで絡んでくるのやめて」
「は〜い」
関水は去っていく。
溝田は小さく溜め息ついた。
***
桜子は洗濯物を持って階段を上がった。
チェアーが多いので、その分洗濯するタオルも多く、地味に重い。
「ふぅ……」
桜子は息を吐いた。
「お疲れ」
溝田だ。
「あっ、お疲れ様です」
溝田はじっと桜子を見る。
「体調悪そうだけど、大丈夫か?」
「えっ、体調悪そうですか?」
「うん」
桜子はうつむいた。
「大丈夫、です」
「そう」
溝田はスタッフルームに入った。
(……だから、ドキッじゃない!もう……!)
桜子は胸に手を当てた。
***
「……」
溝田はスマホを眺める。
(体調悪そうだったけど、本当に大丈夫なのか?少し元気なかったし……。彼氏と本当は別れたくないとか?いや、別れたいって言ってたし、そんなことないか)
溝田は小さく息を吐く。
『気になってるみたいだから』
関水の言葉を思い出した。
(気になってちゃ悪いか。珍しそうにニヤついてたが、俺だって人を好きになることはある)
そのとき
ガタッ
スタッフルームの外で物音がした。
気になってスタッフルームを出る。
すると、桜子がしゃがみ込んでいた。
「どうした?」
「あっ、大丈夫、です……」
「いや、明らかに大丈夫じゃなさそうだけど」
桜子はお腹に手を当てている。
「っ……。もう少ししたら薬飲めるから……」
「今飲めよ」
「今飲んだら、夕方に切れて、仕事できなくなる」
桜子は痛みに耐え、呼吸が荒くなっている。
「薬飲めって、小葉」
「……わかりました」
「立てるか?」
溝田は手を差し出す。
「大丈夫です」
桜子は洗濯機につかまりながら立ち上がり、ロッカールームに入った。
(今日は生理痛ヤバイ。痛すぎる……!)
桜子は薬を持って、スタッフルームに入った。
コト
溝田がコップを置いた。
中には麦茶が半分くらい入っていた。
「あっ、ありがとうございます」
「コップ、どれ使ったらいいかわからなかったから俺の使ったけど……」
「へっ、えっ、あっ、えっと……」
桜子の顔がほんのり赤くなる。
「ちゃんと洗ってるって」
「あっ、はい、すみません。ありがとうございます」
溝田は手で顔を覆った。
(その反応はちょっと……くるな)
桜子は薬を飲み、お茶を飲み干す。
すると、安心したのか表情が和らいだ。
「ありがとうございました。戻ります」
「もう少し休んでいけよ」
「そろそろ戻らないと。サボってるって怒られちゃう」
桜子は足早にスタッフルームを出る。
「……怒られる、か」
溝田は溜め息をついた。