守りたい
アシストから解放された桜子は「ふぅ……」と息を吐いた。
「小葉さん、ちょっと」
院長に呼ばれ、ついていく。
階段を上がり、院長室に入った。
「溝田先生と付き合ってるの?」
ドキッ
桜子は目を丸くした。
「……いやいやいや!そんなわけないじゃないですか!」
「そういう話を聞いたから」
桜子は溜め息をついた。
「誰が言ったかなんとなくわかります。その人のことあんま信用しない方がいいですよ」
「そうなの?」
「ひとりでそうやって暴走して人に迷惑かけるんです」
桜子のことが気に入らなくて告げ口したのだろう。
溝田を守らなければという気持ちに駆られる。
「ややこしいことはしない方がいいかもね」
「もうひとりの人も好きなドクターにしかアシスト付かないですけどね」
桜子はボソッと言った。
「わたし、ドクターに手出す勇気がないのでご安心を」
桜子はにっこり笑った。
「わかった。ごめんね、もう戻っていいよ」
「失礼します」
桜子は院長室を出た。
昼休みー
喫煙室に溝田と院長がいた。
「小葉さんと付き合ってる?」
「は」
「いや、うわさを聞いたから」
「まさか。ないっすよ」
溝田は灰色の息を吐く。
「最近、良くアシスト付かせてるって。親密そうって」
「俺が教えてるんです。アシストを」
「へぇ」
院長は灰皿にタバコを押し付けた。
「付いてればわかるとしか教えてもらってないらしくて。教え方雑なんすよ」
「あーそっか」
「アシスト付かせてから上達スピード早い気がしますし」
「それは良かった」
院長は笑った。
「ご飯食べよっか」
「そすね」
「今日のお弁当はね」
院長は喫煙室を出ていく。
溝田は「ふぅ……」と息を吐きながら、灰皿にタバコを押し付けた。
立ち上がると、喫煙室を出た。
『院長に俺とのこと聞かれた?』
桜子は座敷に座り、スマホを開いた。
溝田からメッセージが来ていた。
『付き合ってないって言っときました』
『俺もしっかり否定しといた』
『溝田先陽一さんを守りたかったから』
『俺も桜を守りたい』
(あっ、溝田先生って消すの忘れてる)
『桜、好きだ』
ドキン
もう今は溝田への恐怖心はないというか忘れている。
逆にもっと近づきたいと思い始めた。
『わたしも気になってるというか、意識はしてます』
『見たらわかる。俺のことすごく意識してるよな』
『えっと、そう、ですね』
バレてた!
恥ずかしいよ〜
何と打ったらいいか戸惑う。
『これからもよろしくお願いします』
桜子はまばたきした。
(なんか違うかも?)
『こちらこそよろしく』
(あっ、返事くれた)
桜子はほおをゆるませた。
「アシストお願いしまーす」
桜子は反応した。
動こうとすると、右手をつかまれた。
「小葉、アシスト」
溝田の声がして、そちらを見た。
桜子は苦笑いする。
(久しぶりに見た怖い顔)
「あっ、はい……」
桜子は溝田のアシストにつく。
(あー怖)
桜子は深呼吸した。
「ライト」
「は、はい」
(だから、怖いって)
視界が滲んでくちびるを噛んだ。
「ミラーで舌押さえて」
「はい」
桜子は指示通りに動く。
「ん、ありがとう」
「えっ」
桜子は溝田を見た。
「何」
「いや、何でもない、です」
(今ありがとうって……!)
「小葉、アシスト上手くなったな」
「本当ですか?ありがとうございます」
「もっと上手くなれよ」
桜子は嬉しそうにうなずいた。
おわり