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桜子は患者を席に案内した。
「あのさ、いて」
「え?」
「アシスト」
桜子はまばたきした。
「桜がいい」
ドキン
桜子は恥ずかしそうに目を泳がせた。
「おはようございます。溝田です。よろしくお願いします」
桜子は慌ててアシストにつく。
(今、名前で呼んだ!?)
溝田は席を倒した。
桜子は戸惑いながらバキュームを持つ。
(あ、あれ?手が震えてる……?)
桜子はバキュームを持つ手を見た。
「……バキューム、ここでいい」
溝田は彼女の手を握って、バキュームを患者の口に入れた。
「大丈夫か」
「アシストって緊張しちゃって」
「緊張することはない。最近の桜は上手くやってる方」
(やっぱり名前呼び!?こんな状況でアシストとかムリ!)
桜子は深呼吸した。
桜子はアシストから解放されると、深く息を吐いた。
「最近、溝田先生に気に入られてるのね」
先輩衛生士が近づいてきた。
「えっと、気に入られてるかどうかはわからないですが……」
「溝田先生のアシストばかりじゃない。他のドクターのアシストもつきなさいよ」
桜子はうつむいた。
(うぅ……そう言われても……)
「好きなドクターのアシストばかりつくな」
「ご、ごめんなさ……」
「お言葉を返すようですが」
桜子の後ろから溝田が歩いてきた。
「あんたも同じドクターにばっかついてるようにお見受けしますけど。しかもそのドクターの指示には早く反応し、他のドクターの指示の反応は遅い」
衛生士はくちびるを噛んだ。
「あんたの方が好きなドクターにくっついてるように見えるけど」
「……すみません」
桜子は溝田を見た。
「あの……」
「それに小葉に教えてるんです。アシストを」
「溝田先生……。すみません、下手くそで」
「そうじゃない。上達するようにって思ってな」
(それって下手って言ってるのと同じじゃ……)
桜子はうつむく。
「ドクターである俺が教えた方が上達が早くなる。ここのスタッフは教え方が雑だ。治療の流れもアシストしてればわかるとか、バキュームも端っこにいとけばいいとか……」
(溝田先生がこんなにしゃべってるの初めて聞いたかも)
「わかりました。気をつけます」
先輩衛生士はさっさと離れていった。
「あの、ありがとうございました」
「思ってることを言っただけだ。本当に教え方が雑で困る」
溝田は目を細めた。
「桜は俺が守る」
溝田は桜子にしか聞こえないように小声で言った。
桜子は目を見開く。
涙が溢れてこぼれた。
「泣くな。泣かしたみたいになるから」
「ごめ……だって……」
「あと、もっと自信を持ってやってみたらどうだ。間違ってるときは教えるから」
桜子はうなずいた。
溝田はあきれ笑いしながら涙を拭ってやる。
「あの……」
「何だ」
「いや、えっと……」
あれ?
胸騒ぎがする
大丈夫かな……?
心臓が大きく動いている。
頭に響きそうなほど。
これは忠告かも
これ以上好きになってはいけないって
前に聞いたことがある。
「Dr.に手を出して消えた助手が何人もいる」と。
「大丈夫ですから」
桜子はそっと溝田の手を振り払い、その場を離れていく。
「……?」
溝田は首を傾げた。