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指名していいよな?  作者: ブルーローズ
第一章 嫌いなんだから
1/12

緊張の理由


「ふぅ……」


桜子は深く息を吐きながら職場に入った。

消毒液の匂いが妙に落ち着く。

なぜなら珍しいことに病院や薬局の消毒液みたいな匂いが好きだからだ。


小葉(こば)さん、おはよ〜」

「おはようございます」


短大を卒業してすぐにこの歯医者で働き始めて半年。

いまだに緊張してしまう。

診察室のアコーディオンカーテンを開け、階段を上がった。


小葉(こば)さん」


ビクッ


「おはよう」

「お、おはようございます」


仕事にまだ慣れないだけが緊張してしまう理由ではない。

もうひとつの理由がこの医師だ。


「……」


桜子は足早にロッカールームへ入った。


背が高くて、声が低くて、無愛想で。

恐くて緊張してしまう。


「なんであんな無愛想なの……」

「あぁ、溝田先生?」


ビクッ!


「ビックリしたぁ……」

「あぁ見えて小葉(こば)さんのこと気にかけてくれてんのよ?」

「いや、わたしが出来悪いからでしょ?」

「違うよ〜。妹を見るような目してるよ」


桜子は首を傾げた。


「悪い人じゃないからさ」

「う〜ん……」


桜子は苦笑いした。


***


小葉(こば)さん、ライト!」


桜子は光を当てた。


「当たってない」

「すみません」

「アシスト代わって!」


桜子は溜め息をついた。


「洗い物お願い」

「はい」


桜子は器具を洗い始めた。


「ライト、ライトって頑張ってるのに……」


桜子はくちびるを噛んだ。


***


桜子は階段のダンボールを開けた。

2Lの麦茶のペットボトルが6本入っている。


「2本だけお茶持っていきますね」

「は〜い」


桜子は両手に1本ずつペットボトルを持って、階段を上がる。

2階に着くと、桜子はスタッフルームに入った。


「地味に重い……」

「お茶どこ置いたらいい?」


後ろから溝田の声が聞こえた。


「え、あっ、えっと、コンロの横にでも置いといてください」

「おう」


溝田は麦茶が入ったダンボールをコンロの横に置いた。


「あ、ありがとうございます」

「ん」


溝田は1人掛けのソファーに座ると、チェストに置いてあった小さいタッパーを手に取った。


カリッ


(何食べてるんだろう……)


「食う?」

「え?」

「ナッツ。塩で味付けしてるやつ」


溝田はナッツを差し出す。


「もうすぐ昼メシだろ。昼メシ前に塩分摂ると食欲上がるんだ」

「へぇ」

「お前、細いんだからちゃんと食えよ。ほら」


桜子はおそるおそる手を差し出した。

ナッツを手のひらに置いてくれた。

ナッツを口に入れる。


「美味い?」


桜子は眼鏡を押し上げた。


「はい、ありがとうございます」

「ん」


溝田はスマホを手に取った。

桜子はスタッフルームを出る。


(あんな優しい?一面あるんだ)


桜子は首を振った。


(ドキッじゃない!わたしはあの人のこと好きじゃないんだから!むしろ逆だから!)


桜子は階段を駆け下り、仕事に戻った。


***


午後になり、桜子は治療の準備をする。


「器具熱い。持ってみろ、これじゃ持てない」


溝田は桜子をにらみ、器具を差し出す。

おもわず首を横に振り、後ずさった。


「すみません。替えます」


(やっぱ嫌い!もう、やだ……)


桜子は涙をこらえながら、治療の準備をした。


鉗子(かんし)(歯を抜く道具)違うから教えてあげてって溝田先生に言われた」

「すみません……」

「あとで教えるわ。良い覚え方あるから」


桜子はうなずいた。


「いつもわたしなんかを気にかけていただいてありがとうございます」

「なんか何かとわたしに言ってくるんよなぁ。『小葉(こば)さんが〜』って」

「わたしが出来悪いから……」

「だから、妹みたいに思ってんの」


桜子は首を傾げた。


「どうだか」

「他の人と対応違うもん。優しくしてる」

「う〜ん」


桜子は苦笑いした。

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