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異世界帰りの俺が魔王軍を殲滅するまで  作者: 霞犬
序章 地球に帰って
8/21

8,救援




「もう、なっさけないわねー」


「…っ!?」



ーーー死んでいない。私はまだ、生きている。

爆散するはずであった自分の体をぺたぺたと触り、それが現実だということを認識する。誰かが助けてくれた?私はそこでやっと、自分が誰かに抱えられていることに気づいた。



「ねえ、重いんだけど?」


「え…あ、すっ、すまない!」



急いで地面に降り立つと、そこにはよく知る人物がいた。桃色のボブヘアーに大きく丸い水色の瞳。160cmほどの背丈にしなやかな細い体。


彼女は私と同じA級ハンターの宗方(むねかた) (ひめ)だ。



「宗方さん…君が助けてくれたのか?本当に助かった、ありがとう」


「はっ!別に礼なんていいわよ。協会からの指示で来ただけ」


「それでも感謝する…、君が来てくれなければ私は死んでいた」


「…目の前で失われる命があって、それを守る力があるならアタシはどんな人間だろうと助けるわ。アンタも知ってるでしょ、アタシの異能」



宗方姫の特筆すべき異能…それは『反射』。彼女を中心とした半径20m以内全域において使用可能なこの能力は、指定したあらゆる攻撃を反射することができる。…色々と制限はあるらしいが。彼女は私にあの攻撃が当たる寸前に『反射』を発動し魔人を葬った。大きく削れた地面や倒れた木々などで辺りはめちゃくちゃだ。



「ま、感謝は受け取っておくわっ!どういたしまして」


「ああ…」



ふんっ!と腕を組み、そっぽを向きながら話す彼女。



「…あ」


「?」


「魔人が死んだなら、今起きていた現象は元に戻ったはず…確認しなければ」


「あ…ちょ、ちょっと!アタシも行くわよ!」



私は宗方さんと共に急いで下山をした。あの魔人の目的が不明であるため、迅速に事態の把握をしなければならない。突如非能力者が消えたこの地域。彼らは無事だろうか。




…悪い予想というのはいつも的中する。街に戻った私たちの目の前にはおぞましい光景が広がっていた。


街のいたるところで血液が飛び散り、大量出血した人間を引きずった形跡がいくつも見られる。その血の跡を辿って着いた先は入り組んだ路地裏の奥。日陰になっているその場所には山のように積み上げられた死体があった。


その中に何人か見覚えのある顔を見かける。



「…颯。これ…」


「ああ…、新人のハンターたちだ」



私が協会から指示を受けた時、協会側は近辺にいる他のハンターも向かわせようとしていた。だがその後誰一人として山まで来ないことから、この近くには私しかいなかったのだと思っていた。


…彼らはきちんと向かっていたのだ。ただ、途中で殺されてしまった。一体誰に?



「…宗方さん。あの魔人の共犯者が近くにいるかもしれません。行きましょう」


「…そう、ね」



ふつふつと怒りが湧き上がり拳を握る。そしてその場を離れようとした時だった。



「あの」



…声をかけられた。後ろを振り返るとそこには1人の男が立っている。男の見た目は黒髪の筋肉質で背が高いといったところだろうか。この死体の山を前にして全く動じていないように見える。


このタイミングで私たちの前に現れ話しかけてきたのは偶然か。それとも…




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




殺人鬼が死に、こちら側の脅威はなくなった。残すは山の魔人のみ。



(葉桜さんもとりあえずは安全だろう)



先程の俺の行動に恐怖を抱き走り去っていった葉桜さん。彼女のその行動は至極当然のことであった。

彼女からしてみれば俺は「残虐非道な拷問を行った得体の知れない男」だからだ。このまま俺といるのは危険だと判断したのはむしろ、自分の身を守る良い行動だったと思う。


逃げる際に彼女は俺に対して謝罪していた。いくら俺が酷いことをしたとはいえ、自分を助けてくれた人に対して失礼だと思ったのだろうか?本当に真面目な子だ。

彼女の友達の安否はまだ確認できていない。まずは山の魔人を倒し、この状況を打破せねば。


と、その時だった。



(視界が急にクリアになった?)



かかっていたノイズが消えたようなそんな感覚。それと同時に山の魔人の気配が消滅した。どうやらあちらも無事に終わったようだ。



(大通りに出て被害の確認をしよう)



俺は急いで大通りに向かうとその惨劇を目にする。血まみれの街という表現がわかりやすいだろう。どこを向いても飛び散った血液が目に映る。誰か人を引きずったのであろうか。かすれた筆で線を描くようにいくつも血の道があり、それは路地裏まで続いていた。


俺はその道を辿り、薄暗く、少し開けたスペースに出た。

目の前には殺された一般市民の死体の山。

そしてそれを呆然と眺める2人の男女がいた。


まずは声をかけてみよう。



「あの」



声をかけると2人はこちらを振り返り、驚いた顔をした。


男の方は金髪でスタイルが良く、今風のアイドルみたいな雰囲気がある。女の方は男よりも背が小さく、内側に巻かれている桃色の髪が特徴的だ。両者ともとても整った顔をしている。



「突然すみません。…もしかしてハンターの方ですか?」


「あ、ああ。私たちはハンターだ」



手に握っている長剣を見るにハンターだろうと思っていたが、どうやら合っていたようだ。さて、何を言うべきか。


俺が知りたかったのは被害状況。それはこの積み重なった死体を見て大体想像がついた。

…ここには恐ろしいほど血の匂いが充満している。あの殺人鬼は殺害した人間をここに運んでいたのだろう。数はおよそ30人程度。老若男女問わず様々な人が虚ろな目をしている。




…今回の事件について考えをまとめよう。


例の依頼とやらについて。

誰かが人探しを依頼し、殺人鬼と魔人にコンビを組ませた。

まずは彼らをどう雇ったか考える。


単純に報酬を用意して彼らを雇った可能性もあるが、彼らが頷くほどの報酬とはなんだろうか。代表的な報酬と言えば金銭やお宝だろうが、魔人にはそんなもの必要ないし殺人鬼も人から奪えばいいだけ。それとは別に何かあると考えた方が自然だ。


魔人については正直分からない…が、殺人鬼については大方予想がつく。


それは「人を殺し放題な環境」を得られることだ。


人探しの過程において『遮断』を使用するにあたり、彼から見たその環境は楽園となる。おそらく依頼人はその環境を作ることを報酬として彼を雇ったのだろう。あの魔道具を持たせたのもおそらく依頼人だ。


彼は最後灰と化して消えていったが、あれは契約を結ぶタイプの異能だと思われる。依頼人との間に、人探しについての情報を話してはいけないというルールを作ったのだろう。自分が死ぬ可能性を顧みず自己の嗜好を優先した末路だ。



まとめると、


1,相手の目的は彼の言う通り「人探し」であり、そのついでとして彼の嗜好で人殺しがされた。

2,魔人が協力した理由は謎であるが、それもおそらく人探しのためである。

3,「依頼人」は、魔人や殺人鬼などといった裏社会との繋がりがあり、今後も何らかの行動を起こす可能性が高い。


と、こうなる。




そして以上のことを踏まえて俺が言うべきことはーーー




「その人たちを殺した犯人、知ってます」




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