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異世界帰りの俺が魔王軍を殲滅するまで  作者: 霞犬
序章 地球に帰って
6/21

6,街に潜むもの




「い、一緒に行動って…」



彼女…葉桜さんはぽかんとした様子でこちらを見ている。それもそのはず。今日初めて会った男と2人きりで、しかもこんな状況で一緒に行動するのは危ないと思うだろう。


俺がこの事件の関係者である可能性もあるし、この非常事態に便乗して女性を襲う変質者かもしれないから。



「…不安なのはわかる。俺が何者かわからない以上迂闊に信用することもできないし、そもそも俺たちに何が出来るって話だしな」


「そうですよ…。あ、あなた、八嶋さんがいきなり私を襲ったりするかもですし…。それにこれは絶対に魔人の仕業です。私たち一般人が手を出せる範疇じゃないんですっ!」


「前半については安心してほしい。俺は未成年にそういう感情を抱かない」


「…本当ですか?全く信用できないんですけど…」


「もし不安なら俺は葉桜さんの5mくらい前を歩く」


「…」



ジーッと怪しむ視線を送る彼女。当たり前だが信用はされてないようだ。



「…それと後半についてだが、俺たちにもできることがある」


「できること…?」


「現在の状況把握。そしてそこから何が起こっているのかを推測すること」



葉桜さんと一緒に行動するにあたって制限されることがある。それは疲弊した彼女を連れて遠くまで行けない…つまり、あの山へ向かうことはできなくなるということだ。


だがそれに関しては問題ないだろう。先程…誰かが山の方へ向かったの感じたので、あちらはその者に任せるとする。俺たちは俺たちがやるべきことを。



「葉桜さん、一緒に来てくれないか?俺には聴こえない誰かの悲鳴…そして血の匂い。君がいると異変にすぐ気付ける」


「私、が…いたら、役に立ちますか?」


「立つ」


「………わ、かりました。ええわかりましたよ!一緒に行きます。行けばいいんでしょうっ!どうせこのままここにいても死んじゃうんですからっ!」



何とか彼女の説得に成功したようだ。



「でもっ、八嶋さんは私の10m先を歩いてください!それならいいです」


「了解」



それくらいなら問題ない。余程気を抜いていない限り、その距離なら()()()()()()()()()



「…それでまずは何をするんですか?」


「まずは葉桜さんの友達が消えた場所に行く」


「わ、わかりました…」



少し表情が暗くなる。彼女にとって事件の始まりとなった場所でもあるし、行きたくないというのが本音だろう。



「それじゃあ後ろからでいいから、道案内よろしく」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…ここです」



彼女に案内されて着いたのは至って普通の街路だった。ただ1つ、誰も人がいない点を除いて。



「…葉桜さん。何か気づいたことはあるか?」


「人が完全に消えましたね」



そう…先刻まで、まばらではあるが確かに人はいた。が、今はどこを見ても誰もいない。歩いている最中も誰ともすれ違わなかった。


ーーーまた何かが起こった。


「…今は悲鳴は聴こえるか?」


「いえ、聴こえないです…。けど、血の匂いが濃くなった気がします」


「…なるほど、ありがとう」



再び消えた人々、濃くなった血の匂い、聴こえない悲鳴。彼女から得られたこれらの要素が導く答えは?



「そういえば、さっきまで俺たちに見えていた一般人は全員が異能持ちだったな」


「えっ、そんなのわかるんですか?」


「魔力量でわかるよ。葉桜さんも異能持ちだろ?」


「あ、はい。その、そんなにすごい異能は持ってないですけど…」


「…ちなみに『遮断耐性』とか持ってない?」


「『遮断耐性』…?えっと、多分ないと思います」



『遮断耐性』。この異能はその名の通り、『遮断』という異能を使われた際に抗える唯一の手段である。俺たちは今、知覚情報を遮断されている。現時点わかっているのは、


1,ここら一帯は、能力者は能力者、非能力者は非能力者しか認識できなくなっている。

2,山にいる何者かが『遮断』によりこの現象を起こしている。


ということ。


「多分葉桜さんは『遮断耐性』を持ってると思う。俺たちは今『遮断』という異能を使われてる可能性が高い。俺は耐性を持ってないから視覚・嗅覚・聴覚が一部遮断されているが、葉桜さんだけは嗅覚・聴覚の影響を受けていない」


「そ、そうなんですか?そんな異能初めて聞きましたけど…。ちなみに触覚と味覚は?」


「これも予想でしかないけど、これほど広範囲にかける異能となるとそこまで効果は及ぼせないと思う。それに相手のしたいことを考えればその必要もないし」


「したいこと…?」



そして3つ目…






「俺たち一般人の大虐殺。俺たちを殺し回ってるやつがいる」



「っ!?」


「何の目的があるのかは謎だけど」


「そ、そんな…、わ、私…ほんとに死んじゃうんだ…もうおしまいなんだ…」



脚の力が抜けへたり込む彼女。

その額には汗が滲み、ガクガクと体を震わせている。



「大丈夫。葉桜さんは死なない」


「………。な、なんでそんなことが言えるんですか…?は、ハンターでもない私たちは、魔人相手に蹂躙されるしかありません…!友達もきっと…もう助からないんです。あはは…あははははは!!!こんなことなら今日はズル休みすれば良かった!ずっとずっと真面目に生きてきて、その最期がこれだなんて!…バカみたいっ!」


「…」


「…っ、うっ、ぐす…ひっ…」


「…」



彼女はきっと優等生というやつなのだろう。髪は一度も染めたようには見えないし、目元の小さなクマや手にできたペンだこは真摯に勉学に励んだ証だ。


そうやって勤勉に、真面目に、一生懸命生きた最期がこれ。その恩恵を最も受けられる就職後の人生…それを味わうことなく死んでしまう。ふざけるなと叫んでしまいたくなるだろう。


段々と口調が弱々しくなる。



「ゃ…や、だ…死にたくない…死にたく、ないよ…」


「…葉桜さん」


「………なん…ですか?」


「君は1つ勘違いをしている」



しっかり目を見つめて彼女に言葉をかける。

目から溢れる涙は大粒で、ジ〇リ映画みたいだとぼんやり思った。



「…な、なにがっ…」


「その前に一度落ち着こう」



感情が昂った状態では冷静な思考ができない。葉桜さんが落ち着くのを待ち数分。俺は先程頭の中で整理した、予想できる範囲の現在の状況を葉桜さんに伝えた。



「…」


「ってことなんだけど」


「…ありがとう…ございます。すみません、取り乱してしまって…。なるほど…です…。つ、つまり八嶋さんはこう言いたいわけですね」


「ああ」




ーーー相手はなぜこの状況を作った?




山にいる魔人だと思われる者にわざわざ『遮断』による撹乱を頼んでいる。それはそうしなければ都合が悪くなる、と考えられるだろう。では何が不都合なのか?

能力者が非能力者を知覚できなくなる状況…それによるメリットは、能力者による邪魔が入らなくなることにある。が、ある程度力のある魔人なら、邪魔をされたとしてもその者も殺してしまえばいいと考えるはず。

つまり、もし相手が魔人であるとしたら…





「「そんな小賢しい真似をする必要がない」」





「相手は…非能力者だ」



導き出された答え。そしてこの現場に戻ってきた意味。



「葉桜さん、よくドラマで聞くセリフ知ってるか?犯人は現場に戻ってくるって」


「え…?や、八嶋さん?もしかして…」


「そのもしかしてだ。…聞こえてんだろ、びびりの殺人鬼」



目や耳や鼻を誤魔化すことはできても、そこに潜む悪意だけは隠せない。コップの中の水に垂らした墨汁のように、悪意というものは絶対的にその存在を主張する。


…俺にはそれがわかる。



「そろそろ隠れるのも飽きただろ、出て来いよ」


「…ああ、そうさせてもらうよ」



正面、ぐにゃりと歪んだ空間から1人の男が現れた。身長は170cmほどで黒のロングコートを着ている。長く伸びた白髪は怪しい雰囲気を醸し出していて、その中性的な顔はとても美形だ。


突如現れた彼は『遮断』の影響を受けていないのだろう。非能力者だということから魔道具を使用している可能性が高い。魔道具というのは例えるならスマホのような物で、先に魔力を注入しておけばあとは誰でも簡易的な異能が使用できる。結託している魔人に魔力の注入を頼んだのだろう。



「や、八嶋さん…」


「大丈夫、葉桜さんは下がってて」



バチパチと拍手をしてこちらを観察する男。



「いやあ、それにしてもキミの推理力は大したものだなあ。その通り、ボクが殺人鬼だよ」


「…」


「でもね、1つ間違えてる…そう、間違えてるんだよ…訂正してもらえないかなあ…あぁイライラしてきたなぁ…」



ボリボリと頭をかきながら男は言う。そのこめかみには血管が浮き出ていて、目が徐々に血走っていく。



「人から貶されるのが何より嫌いでねぇ…わかるかなあ…?ボクは……ボクはびびりなんかじゃないんだよなああぁああぁあああ!!??」



コートの中から錆び付いた包丁を取り出し、全速力でこちらへ向かってくる。せっかくの綺麗な顔は醜悪に染まり、怒りにより増した握力で手からは血が流れている。



「まずはお前から殺してやる!!!」



非能力者という見方をすればとても速い動き。おそらく今までもこういった戦闘経験があるのだろう。D級魔人なら1人で倒せるほどの実力がありそうだ。


だが異世界で化け物と戦ってきた俺はこの程度じゃ殺せない。



「ごふっ」





刹那、1回の瞬きにも満たない時間。





殺人鬼は壁に頭をめり込ませていた。




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