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異世界帰りの俺が魔王軍を殲滅するまで  作者: 霞犬
序章 地球に帰って
5/21

5,山に潜むもの




山道は人の手が入っていて進みやすくなっていた。だがその道を通るとなると、大きくカーブを描きながら登ることになる。…それでは遅い。



(最短距離で行こう)



私は林の中を通り抜けて直線で進むことにした。速度を緩めることなく頂上へ急ぐ。木々の隙間から差し込む太陽光はとても幻想的だ。こんな事態でなければゆっくり見ていたいところだが。



(…ここら一帯は魔素が濃いな)



頂上に近づけば近づくほど、周囲に漂う魔素が濃くなるのを感じる。主に大規模な魔法を使用した際にこのような現象が起きることがあるが、ここまで濃い魔素はあまり見る機会がない。恐らく相当な実力者がいるのだろう。


だが…S級ハンターには遠く及ばない。私は過去にS級ハンターと会ったことがあるが、彼らの放つ魔力や魔素はこんなものではなかった。この程度なら今回の相手は私1人で対処できそうだ。



(…もうすぐ着く)



バッ!


私は林からジャンプして飛び出し、頂上にある見晴らし台へ着地した。…周りを見渡すもそこには誰もいない。


…だが感じる。姿は隠せても放つ魔力は隠せない。



「…いるんだろう?かかってこい」




ーーー静寂。




風が吹き、木々が揺れ、木の葉が落ちる。雑音が存在しない世界。とても心地がいい。こういった場での私は…



いつもより力が出せる。



「は!」



キンッ!


一瞬の出来事…腰から剣を引き抜き、後方より飛びかかってきた何者かを受け止める。


私の眼前にいるのは、一言で言うと虎であった。2mほどの巨大な図体に大きな牙と爪、黒と黄の毛並みはところどころが赤黒く汚れている。

特筆すべき点は、『人間』の形をしていること。亜人…と言えばわかりやすいだろう。服も着ているが、服とは呼べないほどボロボロの布切れを羽織っているだけだ。


剣と爪が不愉快な音を出しながら押し合う。



「…おれの攻撃に反応できるなんてな」


「お前は何者だ?」


「見てわかるだろう?魔人だよ」


「なるほど、殺す」



私は剣の力を一瞬だけ抜き、勢いを殺せず体勢を崩した魔人の腹を斬りつける。鮮血が宙を舞い、跳ね返ったそれが服にかかる。そして間を置かずに肩から斜め下へ斬撃を加えようとするが、寸前でガードされてしまった。


ギリリ…



「…質問。この地域で起こっている現象はお前の仕業か?」


「現象…。ああそうだ。おれがやった」


「目的は?」


「さて、なんだろうな?」


「この…」


「知りたいならおれを殺すしかない」


「安心しろ…端からそのつもり、だっ!」



カキン!


火花が散り、互いの攻撃が何度もぶつかり合う。体格は相手が有利。その巨体から繰り出される技は威力が高く、普通に戦うと負けることは明らかだ。なのでこちらは、相手より唯一勝っている速度で対抗していかなければならない。



(加えて相手の攻撃手段は現状爪のみ、それに対してこちらは剣。リーチ差がある。…これを活かさない手はない)



相手からは届かず、自分からのみ届く距離を保ちながら戦う。こういった場合における基本技術だ。身体強化だけではなく、ここからは出し惜しみなく異能を使う。



「『縮地』」


「なっ」



刹那、私は敵の死角に一瞬で移動し背中を斬る。


ズシャァ!



「ぐぁ…」


もう一度。



「縮地」



斬る。


「縮地」


斬る。


縮地、斬る、縮地、斬る………



相手の攻撃の届かない位置から、反応できない速度で何度も斬りつける。加えられた斬撃は痛々しく、全身が血だらけだ。



「これで終わりだ」



最後、この一撃でこいつは死ぬ。だが殺す前に保険をかけておかねばならない。あまり良くないケースがある。それはこいつが死んでも何もわからなかった場合。もし命の危機に瀕して情報を喋ってくれるのなら万々歳だ。



「…さっきの質問だ。答えるなら命だけは助ける。お前の目的は何だ?」


「…さあな」


「そうか、わかった」



いつも通り迷いはなかった。仕事柄、私は命を奪う行為に抵抗がない。それは一般市民を助けるために染み付いたものではあるが、果たして彼らはそれをどう思っているのだろう。

先程助けた親子…いや、母親は私のことを恐れている様子があった。口では感謝を述べていても、家に帰ればネットにこう書き込むのである。



『魔人を殺すハンターの姿はとても怖かった』と。



いくら人のためになる仕事をしていても、それをよく思わない人は一定数存在する。…当たり前の話だが。私たちハンターには特にそれが多い。私も何度かネットへ書き込まれたことがある。


まあ…命を奪う仕事というのは元来そういうものなのだろう。



「本当、割に合わない仕事だ」



ザク…


私は魔人の心臓を刺した。











「…『カウンター』」




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