3,地球での出来事
家を出てしばらく歩くと大通りに出た。この道を真っ直ぐ進めばハローワークである。
それにしても、日本の技術の進歩には本当に驚かされることばかりだ。この世界に帰ってから1年が経ったというのに未だに知らないことが沢山ある。時間がある時にはスマホや本などでここ数年の出来事を調べるようにはしているが、それもあまり頭に入ってこない。その情報を目で見て覚えるのと、生活の中で体感するのとでは理解の深さが変わってくるからだ。
だがそんな俺でも覚えている出来事がある。
8年前、地球に『魔素』が発生したこと。
魔素とは本来異世界に存在しているもので、この地球にはなかったものだ。魔素が溢れたことで、この世界には様々な影響があった。
1つ目、魔素を体内に取り込むことで、異能力を使える人が現れたこと。
2つ目、原因不明であるが、異能力を持つ人がまれに凶暴化して、『魔人』となることがある。
3つ目、そうして誕生した魔人を倒すべく、各国で魔人討伐の組織が設立されたこと。
…日本にはその際『魔殺協会』が設立された。そこに所属する討伐を行う人を、ハンターと呼ぶ。
『いざ集え!未来のハンターたち!』
ふと目に止まった文字。魔殺協会が出しているハンター募集の貼り紙である。ただ申し込めばハンターになれる訳ではなく、ちゃんと試験に合格しなければならない。
「ハンター、ね…」
俺が就活を始めたばかりの頃、最初に候補に上がったのがハンターだった。俺は勇者として7年間戦ってきた経験がある。だからハンターの仕事も問題なくこなせるだろうと思ってのことだった。
しかし1点問題があり…
『資格:17歳以上 受験費:¥300,000』
そう、この試験を受けるためには30万円が必要なのだ。
当時は母さんが出すと申し出てくれたが、さすがに払わせるわけにはいかない。それに試験内容が分からない以上落ちる可能性もある。単純な戦闘試験のみ…なわけないだろうし、ハンターに求められる適正な人格なども見られると思う。確実性がないものにそこまでのお金は払えない。
したがって俺は今後もハンターの仕事をすることはないだろう。
「…行くか」
そして再び歩き出した時だった。
「…」
ふとした違和感。気のせいかとも思えるが、辺りが静かだと感じた。先程まであった道行く人だかりの数が明らかに減っている。
何かの異変が起きている。
俺の他にも気づいてる人はいるみたいで、何人かは辺りを怪訝な顔で見回している。俺は原因を調べるため、意識を集中させて周囲の魔力を感知した。
「…あ、なんかいた」
感知した魔力の中で一際大きい反応があった。ここから東に2kmほどの場所。あそこは確か…
山だったか。
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『…お疲れ様です、勇崎ハンター。聞こえますか?』
「うん、聞こえる」
『良かったです。任務が終わったところ申し訳ないですが、隣の市で大きな魔力反応がありました。現在近くのハンターに招集をかけてるところでして…』
「わかった、場所を送ってほしい」
『ありがとうございます。今勇崎さんの端末のマップにピンを差したので、至急向かってください』
「うん、了解」
ピッ…
協会の端末を手に持ち、マップで場所を確認する。
ここは…山?とりあえず向かうとしようか。
「かっこいいおにーちゃん、助けてくれてありがとー!」
ふと私に声をかけたのはまだ5歳程度の小さい女の子。今しがた私が魔人から助けた子だ。
「ああ、怪我はなかったかい?」
「あたしはこのとーり!」
そう言うとこの子は「フフン!」とでも言いたげなポーズを取った。
「ははは…、もうお母さんから離れちゃ駄目だからね?じゃあ気を付けて」
「うん、まかせなさいです!」
(…何かのアニメの口調かな?)
「あのっ、本当に…ほんっとうにありがとうございました…」
先程からこの子の後ろでずっと頭を下げている女性…母親だろう。
「いいんですよ、それが私たちハンターの仕事ですから」
「…っ、ありがとう…っ、ございます…」
自分の子供が魔人に殺されていたかもしれない…その恐怖は計り知れないだろう。涙を堪えながら言葉を紡いでいる。
(それにしても、最近は魔人の発生率が高すぎる…)
ここ1年の魔人発生件数はそれ以前と比べて倍以上になっている。
(協会もそろそろ人手が足りないだろうな…)
私はこの子を母親へ引き渡すと、足早に目的地へと進んだ。
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