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異世界帰りの俺が魔王軍を殲滅するまで  作者: 霞犬
序章 地球に帰って
2/21

2,無職




ーーーあれから1年が経った。



あの後俺は近くの交番を訪ねて実家まで帰り、母さんと再会した。久しぶりに見た母さんはひどくやつれていて、まるで別人のように見えたのを覚えている。俺の家は両親と俺、妹の4人家族だ。そのため当然のように3人と再会できると思っていたが…


家にいたのは母さんだけだった。どうやら俺がいない間に両親は離婚したようで、妹は父さんと暮らしているらしい。父さんたちとは、離婚してから連絡も取っていないとのこと。


俺を見た母さんはまるで幻を見たかのように何度も目を擦り、それが現実だとわかると走って俺に抱き着いた。ぎゅっと締め付けられる度に母さんの目から涙が溢れ出る。



「おかえり、透」


「母さん…ただいま」



俺こと八嶋(やじま) (とおる)、7年ぶりの帰宅である。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




そして今朝、俺はスマホの通知音で目を覚ました。


メッセージアプリ『ルイン』。

数年前にこのアプリが作られてからというもの、友人や家族、恋人や仕事のメールなどはほぼ全てこれに置き変わった。…らしい。

らしいというのはそのままの意味で、俺はその数年前にこの世界にいなかったので、後から知った話だからだ。


…と、話はそこまで。今俺にメッセージを送った相手について話そう。画面に表示されている「倉敷(くらしき) (たもつ)」という文字。

俺が現在アルバイトをしているカラオケ店の店長だ。1年前にこの世界に戻ってからというもの、俺には生きていくためにやらなきゃいけないことが沢山あった。


その中の1つ…労働が1番の問題であった。俺は18歳の頃に向こうへ召喚された。そう、高校卒業の何ヶ月も前に。突如居なくなった俺のことを家族や警察は一生懸命探したが、とうとう見つかることはなく失踪扱いとなった。


つまり俺は…



「高校中退…空白の7年間…ニート…」



これから働こうとしている者にとって、最悪の要素しかなかった。


が、しかし。幸運なことに、アルバイトではあるがカラオケ店に勤めることができた。これとないチャンスだった。ここである程度社会人経験を積み、正社員への道を歩もうと思っていた。そう思っていたのだが…



『お疲れ様です。倉敷です。突然のことで大変申し訳ないのですが、今月末で当店の閉店が決定致しました。したがって…』



その後の文を要約すると、残っている日数分の有給休暇と今月分の賃金、それを払ったらおしまいということだった。かくして俺は、またしても無職に戻ってしまったのだった。


そうなればやることは1つ。



「…ハロワ行こ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「透、あまり無理しなくていいんだからね」


「ありがとう…でも大丈夫だよ」


「…そう」



家を出る前、母さんに呼び止められる。7年前のことがあったのだ。また俺が急に居なくなってしまうのではないかと不安が消えないのだろう。


…7年前の俺が消えた日。偶然ではあるが、俺はその日に家族と大喧嘩をして家を飛び出していた。その後に俺が失踪したことで、家族は自分たちのせいだと悲しみにくれ、後悔に溺れた。それが引き金になったのかどうか…それは分からないが、それからの家族仲はどんどん悪い方へ進み、最後には離婚となったらしい。


だから母さんは俺が居なくなった理由を『家出』だと思っている。そして1年前、家出から帰ってきたのだと。


これを聞いてわかる通り、俺は母さんに異世界のことを何も話していない。あえて話す意味もないし、そのままの解釈でいてもらっている。…ただその弊害で、俺と母さんの仲は少しぎこちないが。



「じゃあ行ってきます」


「うん…行ってらっしゃい」


「…母さん」


「何?」




「今日の夜はさ、生姜焼き作ってよ」




「っ、ええ、わかったわっ」



母さんの瞳に、僅かばかりの光が灯った気がした。



「じゃあ楽しみにしてる」




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