1,全てが終わって
1作目です。
よろしくお願いします。
目を開けた時、最初に見えたのは公園で遊ぶ子供たちだった。砂場で山を作る子、ブランコに乗っている子、滑り台で遊ぶ子。そしてそれをベンチから見守る母親らしき女性たち。
この視界の全ての情報から「平和」という言葉が思い浮かぶ。満足に食事ができ、明日の命の不安もなく眠り、暖かい家庭がある。
そんな世界を作る。誰もが死に怯えなくていい世界を。
…それが、俺が正義を振るった意味。
目の前の光景は俺が目指していた平和そのものだ。しかし同時に、この光景は俺の脳を混乱させていた。公園も、健康な人間たちも、言語も…
その全てが懐かしい日本のもの。
俺が生まれた星、地球。既に平和であり『勇者』という存在が必要ない世界。ここは俺が救おうとした世界ではない。
これはもしかして走馬灯というやつなのだろうか?だけどこんな場所に見覚えなどはない。そうして硬直していた時だった。
「おじさん、なにしてるの?」
不意に子供に話しかけられた。俺を認識しているのか、その大きくつぶらな瞳に見つめられる。どうやらこれは走馬灯ではなく、実際の出来事のようだ。俺はその子供を見つめ返すと、しゃがんで話しかける。
「縺薙s縺ォ縺。縺ッ」
「へ?」
…話してから気付いた。久しく日本語なんて話していないということに。発音の仕方を完全に忘れてしまっている。困惑した様子の子供は俺を外国人だと思ったのか、小さい声でハローと言い直してきた。俺は少し待てというジェスチャーをすると、何度か小さく発声し、改めて子供に話しかける。
「あ、あー、あ〜…」
「…?」
「こんにちは」
「っ!こんにちは!」
何とか日本語を話せた。子供の方も話が通じて安心したようだ。
「それでおじさんはなにしてるの?ずっとぼーっとしてたけど」
当然の疑問だ。俺は183cmほどの長身、それに加えて25歳というおじさんとも呼べる歳。乱雑に伸びたぼさぼさの黒髪から覗く青眼の下には大きなクマ。子供たちからしたら警戒の対象だろう。真昼間の公園で何をするでもなくそんな男が突っ立っている。
「…おじさんは、何をしてるんだろうね。自分でも分からないんだ」
俺は本当は何をしたかったのか。あの世界で俺は『勇者』として正義を振るった。誰もが笑顔でいられる世界を作るために。
本当に?本当に俺はそう思っていた?
俺は…俺はただ…
「ふーん、へんなの!」
そう言うと子供は走り去って行った。1人、ぽつんと取り残される。…状況は何となく分かった。
7年前、俺は異世界に呼び出されて、『勇者』として魔王討伐の旅に出た。地獄のような日々だった。でもそれも終わった。…そう、終わったのだ。
俺は魔王との戦いで命を落としたはずであった。だけどどうしてか、今もこの心臓は脈を打ち続けている。ああそうか、俺は…
7年ぶりに日本に帰ってきたのか。
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