第一話 神々の会議1
「さてと…まずは『人神』の後釜を誰にするか、から始めようか…」
そういって『創造神』アトムが話を切ったところで議論が始まった。
これは百年に一度行われる『神々の会議』だ。
二百年前、『人神』は自らが治める『人界』にて過ちを犯した。
ーー絶対にやってはいけない、下界のモノとの接触を図ったのだ。
そのことを受け、百年前の『神々の会議』では、『人神』を神の座から下ろし、権限や能力を奪って『人界』にいるという『人間』というモノに変えた。
そして今ーー第272回目の『神々の会議』で誰が『人界』を治めるのか決めることになった。
会議は三日間にわたって行われることになっており、それまでにその『神々の会議』の議題を解決させなければならない。
「『創造神』様。私にやらせてもらえないでしょうか?」
そういって『人界』を治めたいと言い出したのは『龍神』ラゴットだ。
神はそれぞれ「神力」というものを持っている。この力は強大で、一万年は生きていられるほどだ。
『龍神』ラゴットはもうすでに6000年以上生きている神で、他の神たちからは尊敬され畏怖されている。
だが、彼も何でも作り出すことができると言われる、『創造神』アトムには逆らえなかった。
「そうだな……だが『龍神』殿。あなたは『人間』というモノの事は知っているのか?無知の状況ではいくら治めたくとも『人界』は治められないだろう。」
「ははっ。流石に私もそのことは周知しているつもりであります。」
「そうか……では…」
「ちょっと待ってくださいよ『龍神』の旦那ァ。旦那は『人界』から遠い『龍界』を治めているではありませんか。どうやって離れた二つの世界を統治するんですかい?」
「むっ……貴様は…『魔神』だったか…」
「へぇ『龍神』の旦那。覚えてもらえて光栄ですぜ」
「『魔神』といったか?ならばお前はどのようにして『人界』を統治するというのだ?」
「へぇ『創造神』の旦那。我が『魔界』は『人界』と隣り合わせでございますからな。我が統治すればいいかと思ってですぜ」
「ふむ…それも一理あるな……では皆のもの!明日までに『龍神』と『魔神』どちらが『人界』を治めるのに適しているか考えておくように!これで今日の会議は終了とする!」
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
『創造神』アトムの掛け声とともにそこにいた51の神々たちは一斉に声をあげ、議場から出ていった。
■
「アナタ。『神々の会議』はどうでしたの?」
「む…イシスか…」
1日目の『神々の会議』を終えて議場から出てきた『創造神』アトムは『魔法の女神』であり、妻でもあるイシスに声をかけられた。
イシスは『魔法の女神』ではあるものの、『神々の会議』には出れないようになっている。
理由は至って簡単で『創造神』の妻であるからだ。
イシスはアトムの妻になる前は『魔界』を治めており、『神々の会議』にも出ていた。
だが、妻になった後は、『魔神』にそのすべての座を譲った。
これはイシス自らが提案した事柄だ。自分の発言権が重くならないようにとの措置であったらしい。
「ああ。予想通り『龍神』か『魔神』がかで明日また話し合うことになった。」
「そうですか……あの子が『人界』を……ちゃんとお目付け役をつけてくださいね?」
「わかっている。」
イシスは『魔神』のことを「あの子」と呼ぶ。
これはわざとではなく、イシスは『魔神』と一緒に育ってきており、いつも弟のように接していたからなんだそうだ。
「それにまだ『魔神』が『人界』を治めることになるとは限らんしな…」
「ええ。ですが…今はもう『龍神』よりかは、『魔神』の方が人気が多いんでしょう?ならほとんどあの子に決まりじゃない。」
「まぁ全ては明日行われる『審判の投票』で決まるからな…」
「はい。『創造神』でも介入できないほどに作られてますからね…初代『創造神』様が作られたアレは……」
「まぁなんだ。今日は休むから、お前も楽にしといてくれ。毎日そんなんじゃあ体がもたんだろう。」
「………アトム様…」
「ふはははははっ。冗談だよ。われら神力をもった神がそう簡単に倒れてはいけないからね…」
「…はい。ではまた明日も頑張りください。」
最後にちょっとむくれた顔をしながらイシスはアトムと別れた。
それをアトムはからかい過ぎたかな…と反省した。
■
二日目。
「頑張ってくださいませ。アトム様」
「ああ。といっても何も頑張ることなんてないがな……」
「いいえ。アナタはそこに存在するだけで他の神々の行動を抑止することができるのですよ?」
「まぁそうだがな……それは頑張らなくてもできるだろうが……」
「いえ。ちゃんと『創造神』ともあろう方が大切な『神々の会議』で粗相をしてはいけませんからね!」
「はははっ。確かにそうだな」
そういってアトムは控え室を出た。
議場へ向かう途中、投票箱を抱えた『剣神』に出会った。
「おお。『剣神』殿。昨日はいかがされたか?」
「っ!『創造神』様!すみませぬ。私ともあろうものが気付けずにいるとは……無礼をお許しください。」
「よいよい。……して、今日の投票はどうなるであろうかな?」
「はっ。長い歳を生き、知識や経験を溜め込んでいると言われる『龍神』殿の可能性もあると思いますし、最近勢力を拡大してきた『魔神』もそれなりの人気があると思いますので……」
「ふむ。やはりそうか………さて、入ろうか。」
『剣神』と話していると議場についた。
今回の議場は昨日の議場とは違い、すべての神が入れるような広さを持った、『投票大議場』にて行われる。
『創造神』アトムがその議場に入ると、それぞれ各々の位置に立っていた神々は一斉にアトムの方を向き、頭を垂れた。
その中で一人アトムに平伏せず近づいていく存在があった。
「アトム様。ようこそお越しくださいました。どうぞあちらに席がございますのでお座りください。」
「おお。トート爺ではないか!」
「はっ。爺はここにおりますぞ。」
「そのような老齢な体でよく……いや、この際その話は不要か。それでは『剣神』殿。よろしく頼んだぞ!」
「はっ。皆のもの!よく聞け!今から皆のものに『人界』を治める神の投票を行う!『龍神』か『魔神』、自分が良いと思った方に投票せよ!投票時間は今から1時間だ!それでは投票するものはこちらへ来い!」
そう、『剣神』がいうと一斉に神たちが投票箱のほうへ向かっていった。
その中には、アトムの妻、イシスもいた。
この投票箱は初代『創造神』が作った唯一無二の存在であり、誰もその投票箱には干渉できず、最も公正な手段であるとして、1万5000年ほど前から取り入れられているものだ。
その投票箱の効果は、誰かが投票した後に誰もその投票を改ざんさせることなく、開票できるというものだ。
全員の投票が終わり次第、開票され、その時点で『龍神』と『魔神』のどちらが『人界』を治めることになるのかが決まる。
そして、開票の時が来た。最後にアトムが投票することによって、開票される。
アトムが投票箱の中に、投票用紙を入れたところで周りから「おお………」と声が漏れた。
『龍神』に投票したのは全306の神の内、150だった。『魔神』に投票したのは152。この時点で『魔神』が『人界』を治めることになった。
そして、残りの4票ーー投票を棄権したのは『創造神』であるアトムと、その妻である『魔法の女神』イシスに『龍神』、『魔神』だった。
それぞれ、投票に不公平なことが起きないようにとの思いがあってからだった。
しかし、この判決に反感を覚えている人がいた。『戦神』アムデットだった。
「おかしい……『龍神』様がこのような風に負けるとは……何かがおかしい……」
その小さくか弱い声は他の誰にも届いていなかった。
『面白い!!』
『面白そう!』
など、興味を持ってくださった方、
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