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【羞恥系超能力者、七草将史!】  作者: 伊藤 五面
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第七話 調査依頼②


この男があの〇〇美術館襲撃事件の実行犯。

目が金色に光っている。...金色?超能力が発動できる状態の時は赤色じゃなかったか?


「なぁ、顔に傷のあるオッサン。聞こえてるか?

そのバッジ俺のだから返してくれって。」


鳥兜(とりかぶと)がなおも若草刑事に問いかける。

若草さんはどうするんだ。素直に返すか、返さないのか。

俺としては場を丸く納めるために返してほしい。


鳥兜が現れてから無言だった若草刑事が口を開いた。


「...これはお前のものなのか?」


「そうそう。ちょっと前に無くしちゃってさ。

心当たりがある場所を探し回ってたわけ。そしたらオッサンが拾い上げてるところにバッタリって感じ?」


「お前ここへ()()()()()入ってきた?立ち入り禁止のテープ付近は警察が巡回していた筈だが。」


この男、随分と喋りが軽い感じだ。大学の佐藤と田中のような軽薄さを感じる。





「あ?殺したけど?」


「お前...。」


!!

こっ、ころ、殺した?

こいつマジか?なに平然と言ってるんだ?


瞬間。

若草刑事の腕が動く。


鼓膜が破れるような、パァン!という音が4回響いた。


動作が早すぎて見えなかったが、若草刑事が発砲したようだ。恐らく4発。撃った後も拳銃を構えたまま油断なく鳥兜に照準を向ける。

さ、流石に超能力者といえど、今のは死んだだろ...。

西部劇のガンマンみたいな早打ちを4発だ。

鳥兜がどうなったか様子を見たいが、銃を撃った時の煙が酷くて見えない。


......まてよ?いくら銃を撃ったとは言えここまで煙がでるものなのか?凄い量の煙だ。

いや!拳銃から出た煙じゃない!相手から出ている煙だ!

いつの間にかピンポン球くらいの火球が数個、鳥兜の周りを衛星のように回っていた。

そして地面にドロドロに液状化した銃の弾丸が落ちている。あの火球で防いだのか。これがこの指名手配犯の能力、パイロキネシス。

 

「チッ。やっぱこんなんじゃ死なねえか。

だがテメーには部下を殺した落とし前、キッチリつけさせてもらうぜ。」


「お前にできんのかなあ、オッサン。」


若草刑事、結構人情にアツいタイプだった。いいぞやっちまえ!


「その拳銃に入ってる弾、後一発だろ?足りんのか?」


「......俺にはとっておきがある。」


は!?一発?装弾数少なすぎだろ!

日本警察のリボルバー式拳銃って5発しか弾はいらないのか!火力が低すぎる!ロケットランチャーぐらい標準装備にしとけよ!

それに、とっておきってのも苦し紛れのブラフだろう。

若草刑事は恐らくだが超能力者じゃない。超能力があれば最初っからそれを使っている筈だ。とっておきに期待しちゃダメだ。


しかしマズイぞ。最初の4発は呆気なく火球に防がれた。1発じゃ絶望的だ。まず同じように防がれてしまう。


「ふーん。とっておきか、楽しみだな。

じゃあ次はこっちから行くぜ。頑張って避けろよ。手加減はしてやる。」


手加減?何故?

そう思った矢先、男の回りを漂っていた火の玉が若草刑事の方向に射出された。


「うおおっ!」


若草刑事が悲鳴をあげながら回避行動をとる。顔面から公園の遊具の影にヘッドスライディングだ。

ドン!という爆音と共に若草さんが立っていた場所が爆発する。間一髪だ!


「ははは!なっさけねぇ声をあげてくれるじゃねぇの。

隠れてないで出てこいよ〜。」


俺と御形さんから対角線上の遊具に逃げ込んだため、刑事さんの姿がこちらからでは見えない。

...どうする?今鳥兜は俺たちに背を向けている。チャンス...だと思う。思うが、攻撃を仕掛けた途端に消し炭にされるのが怖くてそれができない。

そして俺はこの任務を受けるにあたって、()()()()()()をしていた。情け無いが頼れるのは御形さんしかいない。彼女は今何をしているかと後ろを振り向こうと思った時に、若草刑事が動いた!


遊具の右手側から若草さんが飛び出す!

と、思ったら一瞬で火球が殺到してそれを爆散させる!

刑事さん!!


殺された!と思ったら遊具の左手側から、ワイシャツ姿の若草刑事が拳銃を構えながら飛び出した!生きてる!?

最初に爆発したのは若草さんの着ていたスーツだ!今のは上着を脱ぎ捨てて使ったフェイントか!

そして火球を使って攻撃をした今、鳥兜の周りに防御手段はない!つまり拳銃を防ぐことはできない!


銃声が響く。


や、やったか...?

鳥兜はどうなった?


下に顔を向けて立ち止まっていた奴が、顔を上げた。

......クソ、笑ってやがる。


「ははっ、ざーんねん。そんなチンケな作戦じゃ俺は死にませ〜ん。

ちゃんと絶望できたか?じゃあそろそろ料理していくとしますか。」


鳥兜は健在だ。しかも状況は悪化していた。

数個しかなかった火の玉が数十個に増えている。これで最後の一発の弾丸を防いだのだろう。先程の攻撃と同じように、鳥兜の足元に溶けた銃弾が落ちていた。

奴は全く本気じゃなかった。油断させて後から全力を出すとか...ちくしょう、性格悪い。さっきの手加減をするってのも俺たちを痛ぶるためか。

御形さんが言った通り、残逆な性格だ。


......あれ。そういえば御形さんは?


え!?いない!さっきまで俺の後ろにいたのに!

一体どこへ...いた!いつの間にか鳥兜の背後10メートル後ろに移動していた。一切音や気配を感じなかった。

奇襲だ!御形さんは不意打ちを狙っている!

若草刑事が派手に気をひいている隙に相手の死角をとった。即席だがナイス連携だ。


「ん?おいお前。お前のそばにいた女はどこに行った?」


ヤバい。奴が御形さんがいないことに気づいた。こっちに注意をひかないと!


「お、お腹が痛いのでトイレに行くって言ってましたよ?」


「......。」


「......?」


あれ、なんか呆れていらっしゃる?


「お前...時間稼ぐにしても、もうちょっとマシな嘘をつけよ。」


げっ。時間稼ぎがバレてる。更に敵にダメ出しされてしまった。


その隙に御形さんが攻撃を仕掛けようとしている。

彼女の周りに透明な何かがフワフワ浮き始めた。

あれは...水?御形さんの能力は水を操る能力か!


長さ40cmぐらいの円錐状になった水が2、30本は精製されている。

水の能力ってことは、火を操る鳥兜には相性いいんじゃないか?

ゲームでも火属性は大体水属性に弱いし、期待できる!

そして一斉に水の円錐が射出された!


驚いて自分の後ろを振り返る鳥兜。顔が驚愕の表情に彩られていたのが一瞬見えた。あの野郎もこの奇襲と相性最悪の攻撃に驚いているのだろう。

今回の攻撃は明らかにさっきの拳銃よりも火力が高い。

これでどうだ!?


直後に大きな破裂音。

奴の火球と御形さんの攻撃がぶつかり合った音だ。

そして凄まじい量の水蒸気が辺りを覆う。火と水が合わさったらそうなるのは必然だ。


鳥兜の姿が水蒸気に覆われても御形さんは水による攻撃をし続ける。随分と念入りだな。あのタイミングだったら殆どの水円錐を防御できなかったと思うけど。


...あれ?なんかどんどん辺りの水蒸気が濃くなっているような...。

......!!水蒸気が増えてるっていうことは!鳥兜の奴は御形さんの攻撃を火球で防ぎ続けているのか!

そう考えた瞬間に御形さんの背後に人影が現れた!

マズい!

後ろだ、危ない!と叫ぼうと口を開いた瞬間に、鳥兜が思いっきり御形さんの背中を蹴る!しまった。伝えるのが遅かった!


冗談のように御形さんが吹き飛び、蹴られた場所から反対側の遊具にぶつかってようやく動きが止まった。

口から血を流し、ぐったりしている。

重症だ。直ぐにでも病院に行かないと!


俺が御形さんの容体に気をとられている時に、鳥兜は更に、同じく御形さんに気を取られていた若草刑事に攻撃を仕掛けていた。

後頭部を蹴られて若草さんは倒れて気絶してしまった。



一瞬。一瞬で制圧されてしまった。

戦闘時間は30秒もないだろう。恐ろしいまでの強さをこの鳥兜は持っている。


「あー弱え。こんなんじゃ、ここで戦った身体能力強化の奴の方が楽しめたぜ。」


そう言って若草刑事から離れて御形さんに近づく鳥兜。


「お前も期待外れだったな。能力だけだったら相性は良かったが、俺は()()()()だ。同じ土俵じゃなかったのがお前の敗因だ。」


セカンド?また新たな用語が出てきた。

だがそんなことはどうでもいい。御形さんと若草刑事を守らないと。......だが足が震えて動かない。


喋りながらも歩みを進める鳥兜は、遊具に背中をあずけて俯いている御形さんに近寄った。そしてしゃがんで目線を彼女に合わせる。


御形さんが近寄ってきた奴に気づいて顔を上げた。


!!

凄い表情だ。怒りを堪えきれない憤怒の形相。いつもクールな彼女のあんな顔は初めてみる。


「おお怖えな。今まで俺に負けた雑魚は、諦めとか泣き喚いたんだが。こういう状況で怒りを向けるやつは大抵俺に個人的な恨みがあるやつだ。

お前になんか恨まれるようなことしたっけか?記憶にないんだが。」


「......〇〇美術館襲撃事件。」


「お?...おお!あん時のガキか!懐かしいな!

確かにあのガキは水を使う超能力だった!お前だったか!」


やはり、というか。御形さんと鳥兜は美術館襲撃事件の関係者だったようだ。もしかして懐かしさで見逃してくれたりしない?


「やっとあの時の心残りを精算できるぜ!

喜べよ?お前は俺が今まで殺してきた奴よりも1番キツい拷問をしてやる。......でもちょっと家に連れて行くまで我慢できねえな。腕一本ぐらい楽しむか。」


な!拷問!?

コイツ俺が思っているよりイカれてやがった。

とんでもないサディスト。御形さんが言っていた残逆ってのはこれだったか。


「手は体の部位でも楽しめる方でな。両手の爪を剥いで10回、指を折って10回。合計20回悲鳴を味わえるんだ。最高だろ?

まあもう一回逆の方向に折り直して楽しむのもアリだが、あんまり同じ部位の悲鳴は飽きちまうんだ。ジレンマだよな。」


一切共感できないことを言いながら御形さんの綺麗な指に手を伸ばす鳥兜。

一刻の猶予もない。

恐怖で震える心を、御形さんへの仕打ちによる怒りで上書きして奮い立たせる。


「お?なんだ?ようやくやる気になったか?

お前は素人全開だったから後回しにしてたけど、俺の楽しみを邪魔するなら容赦はしねえぞ。」


御形さんから俺に向き直って、攻撃の意思を見せる鳥兜。


あークソっ。怖え。

怖いけどやるしかねえ。俺が戦わなきゃ全員死んでしまう。


今回の依頼はただの調査依頼だったはずなのに、なんでこんなことに。調査依頼だからって俺も気を抜いて、

()()()()使()()()()()()()()()()()()()

失敗だ。生きて帰れたら次に生かそう。

...せめて、若草刑事じゃなく、御形さんが気絶してくれていた方がよかったな。


「おい何突っ立ってんだ。大人しくしてても楽には殺さねえぞ。」


鳥兜がなんか言ってるけどこっちはそれどころじゃない。

凄く緊張する。心臓バクバクだ。


「おい、俺の話を聞いてーー」


大きく深呼吸し、腹に空気を溜める。

...いくぞ!!






「御形さん!!好きだ!!!付き合って下さい!!!!」




緊迫した空気の中、

公園の中心で、

愛を叫ぶ。





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