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【羞恥系超能力者、七草将史!】  作者: 伊藤 五面
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第六話 調査依頼①


何故か拳銃が俺に向けられている。


ちょちょちょ、ちょっと待ってほしい。俺、何か悪いことしましたか?!直ぐに謝るので許してください!


慌てふためく俺に若草刑事が喋りかけてきた。


「なんでチャカがテメーに向けられてるか分かってない顔だな。」


「は、はい。」


「じゃあなんで俺が銃を向ける時に射線から逃げなかったんだ?」


「は?いや、そんな直ぐには反応できない...」


「それだ。テメーには危機感が全くねぇ。調査依頼だからってナメてたろ?お前のお気楽そうな顔見てたらムカついちまった。それにお前のツレはいつでも動けたようだぜ?」


「私は殺気がなかったから無視した。」


「だそうだ。だがお前はどうなんだ?この女のように肝が座ってるか?......全身汗まみれなの見るに、そうじゃなかったようだな。」


「......」


......普通の大学生にそんなことできるわけないだろう。なんだよ殺気って。

いや、この刑事のセリフは喫茶店で御形さんに言われたな。警戒心がないって。俺が備えていなかっただけか。気をつけようと思っていただけで無警戒だった。俺が悪い...のか?


「...すみません。」


「ふん。素直なのは良いことだ。次に活かせる。」


あれ?顔は怖いけど、結構優しいのかこの刑事さん。


「七草君は超能力に目覚めてまだ日が浅いそうよ。」


「それは理由にならねぇな。死んでから気づいても遅い。」


「そうね。でも一応伝えておこうと思って。その方が動きが予想しやすいでしょう?」


あわよくば御形さんにカッコいいところ見せて...なんて思っていたけど、そんな事は夢のまた夢だ。フォローまでしてもらって気を遣わせてしまった。自分の超能力が強そうだからって調子に乗ってしまっていたな。超能力が使えない俺はただの一般人。なるべく邪魔にならないようにしよう...。


しかしこの刑事と御形さん、お互いに喋り慣れてる気がする。知り合いかな?


「すみませんまだ超能力も数回しか発動したことがない新人です。ご鞭撻お願いします。」


「チッ。しょうがねえな。まあ今日はただの調査依頼だ。この辺で勘弁してやる。」


ツンデレ強面デカ。属性多すぎだろ。


「早く現場を見たいのだけれど。」


「わかったわかった。

しかし、ほんとお前は火炎系超能力者(パイロキネシス)の調査依頼が好きだな。ちょっと炎系の能力が関わったら直ぐに飛びついて、どんな低ランクの依頼でも首を突っ込んできやがる。

お前確かランク1000代だろ?そのランク帯の超能力者はもっと稼げる任務があるって聞くぜ?こんなしょっぱいことしてるんじゃねぇよ。」


「どうでもいい。早くして。」


「へーいへい。ちょっと部下に話通してくるわ。そこで待ってろ。」


keep outと書かれたテープをくぐり、若草刑事は公園の奥に歩いて行った。

御形さんのランク1000代ってかなり強いんじゃないだろうか。

俺が初期ランクの9500番だから単純計算で俺の9.5倍は強いってことになる。本当にカッコいいところ見せようと考えていた自分が恥ずかしい...。

しかし若草刑事が言ってたように、なんで9800番の依頼なんか受けてるんだろう。何か理由がありそうだ。パイロキ...なんとかと因縁がありそうだけど。



若草刑事が戻ってくるまで少し時間がある。御形さんと2人っきりで無言の空間は辛いので、WSO支部長の芹さんに教わり忘れた、いくつか気になっていたことを聞いてみることにした。


「あの、御形さん。少し質問が。」


「なに。」


「さっきのパイロキ...って言う超能力者のことについて聞きたいんですが。」


「......。」


「あ、あの...。」


火炎系超能力者(パイロキネシス)。火を操る超能力者よ。」


「あ、ありがとうございます。」


返答短っ。

もっと詳しく聞きたかったんだけど、これ以上会話が続きそうにない。なんとなく、御形さんの口数の少なさは関係なくて、単に触れられたくない話題な気がする。突っ込んだ話はやめておこう...。


別の話題、別の話題...。


「あのもう一つ聞きたい事が。」


「....なに。」


アカン。ご機嫌ナナメや。返事までちょっと間があった。

やっぱり御形さんには火炎系超能力者(パイロキネシス)の話はNG、っと。


「前から気になっていたんですが、超能力者って大体何人ぐらいいるんですか?」


「...WSOに登録されているのは大体1万人前後と聞いた事がある。」


意外と多い。日本人口を1億人だとすると、1万人に1人の確率だ。


「この数字はWSOの登録者数であって、実際にはもっと多いと予想されてる。超能力者であってもWSOに登録していない人もいるし、そもそも超能力を持っていることに気づいていない人もいる。正確な数は分からない。」


「なるほど。」


火炎系超能力者の話題だと口数が多くなって安心した。


超能力者は1万人以上いるのか。ちょっと怖くなってきた。

しかし超能力者なのに自覚がない人なんてありえるのか?

...いや、もし超能力が『物を少しだけ温める能力』とかだった場合、自分で気づくのは難しいか。超能力の規模が小さければ小さいほど気付けないんだろう。


「すみません、もう一つ。」


「手短にして。そろそろ刑事が戻ってくる。」


「すみません。

ちょっと疑問に思ったんですが、この調査依頼、WSOから警察に直接詳細を聞けば良くないですか?わざわざ依頼にする必要があると思えないんですが。」


御形さんと喫茶店で顔合わせした後にふと思ったことだ。

直接警察に聞けばいいじゃんって気づいた。


「大規模な超能力者の犯罪行為とかは警察から調査の協力と引き換えに情報提供される。でも今回の調査依頼は公園が少し荒らされただけ。規模が小さい。

殺人が行われて一般市民からの被害届が出ていない限り、警察も積極的に動かない。つまり優先度が低い。

それに警察から情報をもらうには色々と面倒な根回しが必要。

WSOとしても手間がかかるから、直接調べて報告させる依頼を出す方が金も手間もかからない。

今回の警察の協力は立ち入り禁止区域の許可のみWSOが根回ししてる。」


はーそんな事情が。

WSOと警察って捜査協力してるのね。まあそりゃ超能力のスペシャリストが助言した方が事件の解決早いもんな。


御形さんからの回答をあれこれ考えていると、立ち入り禁止のテープの向こうからジャリジャリと歩く音がした。


「お前ら話は通したぞ。入んな。」


若草刑事が暗がりから現れ、公園の奥を指すように顎をしゃくる。

よし、遂に現場入りだ。気を抜かずに行こう!若草さんと御形さんに言われたことを忘れるな!

気合いを入れて御形さんとテープをくぐる。


「緊張しすぎだ馬鹿。」


あれれ。右手右足が同時に出る変な歩き方をしていた。



---



若草刑事に調査現場まで案内してもらうと、まだ現場の精査が終わっていないのか、鑑識と思われる人が辺りにいた。

そして薄暗い場所であっても、教えてもらわずとも遠目で戦闘があった場所がわかる。

案内された場所は遊具がある広場なのだが、中央の広場の地面が何箇所か大きく凹んでいる。

ブランコも上半分程が溶けていた。


......ちょっと待って。さっき御形さんは小さな被害は警察から捜査協力が来ないとか言ってたけど、これ十分ヤバくないですか?

地面が1mぐらい抉り取られてブランコの上半分がドロドロに溶解してるんですけど。

ヤバい。ヤベーって。とんでもなく殺傷力高い超能力者同士の戦闘じゃん。

さっきから足の震えが止まんねぇよ。


俺がガクブルしいる間に、御形さんはスタスタと戦闘痕に近づき観察していく。


「どうだ?結構派手にやってるだろ。世間にはガス爆発って誤魔化してる。」


若草刑事が御形さんに尋ねる。


「......私がずっと探してる超能力者かも知れない。ブランコ...鉄がここまで溶けるレベルの能力は珍しい。」


「ほお?オメーが火炎系超能力者(パイロキネシス)に執着しているのは知ってたが、今回のやつがそうだとはな。よかったじゃねぇか。」


「......。」


あまり表情が動かない御形さんが眉間に皺を寄せて何かを考えている。...なにか焦ってる?


「こっちの穴があいた地面はどう見る?」


「...多分身体能力を強化する超能力者。抉れた地面に拳の跡が少しある。」


「ほー。参考になる。」


公園の地面って踏み固められてるからすっごく硬いんだけど。

それを素手で吹き飛ばすってバケモンやん。

今回の戦闘は、ゴリラみたいな身体能力を得る超能力者vs鉄をも溶かす火炎系超能力者の図式か。


そして若草刑事が御形さんに質問をし始めてから、鑑識の人がこちらに近寄ってメモをとっている。御形さんの予想を捜査の参考にしているっぽいな。こっちも協力してもらってるし、win-winの関係か。案外これもWSOの根回しの報酬だったりして。


「しかし、お前が追ってる超能力者って一体どんな奴だ?有名なのか?」


あっ、それは俺がさっき聞いた質問!

答えてくれないっすよ若草刑事〜。機嫌悪くなりますよ〜。

え?何故それを知ってるかって?御形愛とはだだならぬ関係...とでも言っておきましょうか。


「残忍な男。人をいたぶるタイプ。

......〇〇美術館襲撃事件の実行犯。」


「なっ...!あの死者30人も出した襲撃事件のか!」


あれれー?若草デカに教えて僕には教えてくれないのは何でー?

泣くぞこの野郎。


っとまあふざけていい話題じゃないな。

〇〇美術館襲撃事件。有名だ。


国内最悪クラスの立て篭り事件で、美術館にいた客が100人も人質に取られた美術館強盗だ。当時、この美術館に海外から名だたる名画が集まる展覧会をやっていて、そこを襲撃されてしまった。

まさかそれに超能力者が関わっていたとは思わなかった。

当時、名画は裏で非常に高く取引されるらしく、それを狙ったのだろうとテレビでやっていたのを覚えている。今でもたまにドキュメンタリー番組とかで特番が組まれているらしい。


この事件は人質の人数も凄かったが、むしろ犯人の残虐性で話題になった。

犯人は美術品と共に法外な人質の身代金を要求した。もちろん用意できるはずもなく、警察は交渉人を立てて事態の解決を図ろうとした。だが、犯人は身代金が払えないと知るやいなや、1時間に1人ずつ人質を殺した。30人が犠牲になり、30時間が経過した時に突然犯人が美術館から逃走して事件が終結した。逃げた原因や理由は一切不明。そして逃走した犯人は今だに捕まっていない。

国際指名手配を受けていて顔写真と名前も出回っている。思い出すのもおぞましい、不可解で残酷な事件だ。


「なんでこんな街中の公園に凶悪犯が来てるんだよ。クソが。」


「確証はない。あくまでも可能性が高いだけで本人とは限らな、......?」


「どうした?」


「どうしたんですか?」


俺と若草刑事が御形さんに話かける。喋っている御形さんの言葉が途中で途切れ、何かに気づいたようだった。


「これ...。」


御形さんが溶解したブランコの影から何かを見つけて拾い上げた。

暗くてよく見えないけど、公園の街灯に反射して少し光っている。バッジ...かな?御形さんはそれが何か知ってるようなリアクションだ。


「鑑識が見逃したか。あんまり素手で触るんじゃねーぞ。ちょっと見せてみろ。暗くて見えん。」


若草刑事が近寄って御形さんからバッジを受け取る。


「こっ、こりゃあ!ヒガンバナのバッジじゃねえか!」


彼岸花?確かに近寄ってバッジを見てみると花の形をしている。

でも若草刑事は花の名前を言ってるわけじゃなさそうだ。


「彼岸花ってなんですか?そういう会社とかでもあるんでしょうか。」


「超能力者になって日が浅いお前が知らないのも無理はねぇ。このバッジは国際超能力テロ組織、ヒガンバナのメンバーが持ってるものだ。」


「こ、国際超能力テロ組織?」


なんだその特撮ヒーローの悪役みたいなグループは。


「超能力を使って犯罪を起こし、金儲けをするクソみたいな組織さ。直接的に銀行強盗や、犯罪行為で株価を操作して間接的に金を稼ぐイカれた集団だ。日本の超能力犯罪のおよそ4割がこいつらヒガンバナが関わっていると言われてる。」


「そんな危険な組織のバッジがなんでこんな場所に...?」


なんか猛烈に嫌な予感がする。


「俺が聞きてーよ。あーあ上司に報告上げんのダリーな。とんでもなく面倒なことになりそうだ。」


俺と若草刑事が会話をしている最中ずっと黙っていた御形さんが口を開いた。


「...私が追ってる超能力者の可能性が凄く高くなった。

あいつは何年か前にヒガンバナに所属したと聞いた。」


あいつ...件の火炎系超能力者と直接会っているような口ぶりだ。

もしかして御形さんはあの事件の時、美術館にいたんじゃ...。


「じ、じゃあこれがそいつの持っていたバッジだってことか?

......だとしたらマズイぞ!」


「どうしたんですか若草刑事。そんなに慌てて。」


「このバッジはヒガンバナに所属している者にとっては重要な物なんだ!バッジがないとヒガンバナの構成員と認めてもらえないらしい!」


へー。社員証みたいなもんか。なくすと大変だもんな。

最近の社員証はタイムカードと一体化してるから無くしちゃうと就業の出勤退勤の打刻ができなくなってしまう。こんな重要な物をなくすとか結構ぬけてるとこあるのかもな。いやもしかして身体能力強化の超能力者と戦闘中に落としたのかも。

でもなんでここまで若草刑事は焦ってるんだ?


「お前分からないのか!?大事な物をなくしたらどうする!取りに戻ってくるだろうが!!30人も殺した頭のネジが外れた超能力者が!」


「!!」


確かに。確かに確かに!!


やっヤバいぞ!今すぐここを離れーー



瞬間、辺りを刺すような空気が張り詰める。


なんだこの悪寒。全身の震えが止まらない。

何が起こっているんだ。


すると。

ザッ、ザッ、ザッっと、先程俺たちがくぐってきた立ち入り禁止のテープがある方向から足音が聞こえた。


その足音から逃げたいけど逃げれない。

足が動かない。


御形さんと若草刑事を見ると、2人とも汗を垂らしながら音が聞こえてくる方向を見つめている。

2人とも俺と同じく足が震えている。


公園の街灯に照らされて足音の主の姿形が見えた。

背は180cmほど。年齢は30代前半。肌が浅黒く、体型は痩せ型だがガッチリしていて髪は金髪。そして耳に大量のピアスが付いている。


その男が俺たちの20メートル先で止まり、口を開く。




「その手に持ってるバッジ、俺のなんだ。返してほしいんだけど。」


手配書で見た顔と瓜二つ。

国際指名手配犯、鳥兜 修斗(とりかぶと しゅうと)が目の前に現れた。


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