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【羞恥系超能力者、七草将史!】  作者: 伊藤 五面
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第四話 依頼を受けてみよう


自分の超能力についてあれこれ試していたら夜が明けてしまっていた。ヤバい、もうすぐ時間だ。

今日は大学は休みだが、7時〜14時まで飲食店のバイトがある。

開店準備があるので朝は忙しいんだ。

手早く支度を済ませ、ボロアパートの階段を駆け下り自転車にに乗って職場に急いだ。



「遅ぇぞ!今何時だと思ってる!」


「すみません!」


服を着替えて、仕事場に入った際に店長に怒られる。店長の外見は、頭がバーコードで脂ぎってるデブ。近くに寄ると腐ったスイカの匂いがする。

バイトの開始時刻は7:00。現在の時間は6:30。別に遅刻はしていない。だが店長は労働基準法無視のクソ野郎なので、これは仕方がないことなのだ。俺に金がないことを知っているため、辞めない事を知っててパワハラしまくってくる。今までいろんなバイトをしてきたが、コイツより酷い上司は見たことがない。


「七草ァ!お前の為に仕事を残しといてやったぞ!感謝しとけや!」


「...ありがとうございます。」


洗面台に積み上げられた大量の皿。

この量...昨日の閉店時の食器がそのまま残ってやがる。昨日のシフトの遅番は店長だ。サボって俺に押し付けやがったなあの野郎...。

文句を言いたいがこの飲食店はシフトの融通がきき、なおかつ家に近いために辞めることができない。俺は黙って皿を洗うことしか出来なかった。


店長がバイトの若い女性の従業員と下心丸出しで喋っている最中(店長は彼女募集を公言している)、俺は黙々と食器を洗う。クソ、ちょっとは手伝えよ。と心の中で悪態をつきつつ、部屋の壁にある時計を見る。

...げっヤバい。店の開店がもうそろそろだ。早く終わらせないと。


いやこれ無理だわ。絶対に間に合わない。後10分で山積みの食器を処理できるわけがない。

あーあまた店長からネチネチとお小言をもらってしまう。

油ぎった顔と同じで説教もクドいんだよな。


......まてよ?俺の超能力ってまだ使えるか?

幸いにも店長にイジメられるのを恐れてか、この職場で俺に近づいてくる他の従業員はいない。誰にもバレずに超能力を使えそうだ。この部屋には防犯カメラもないし、扉を閉めれば洗面所は誰からも見えない。やってみようか?


よっと。自分の身体に加速をかける。すると世界がゆっくりした動きになった。よし、まだ使える。これでサクサク皿洗いができるぞ。もし俺を今見てる人がいたら超スピードで皿洗いをしているように見えるのかな。ちょっと自分がどう見えるか見てみたいな。


俺は次々と皿を洗い、超能力もあってか開店時間には余裕で間に合った。そして忘れずに能力の使用を切っておく。

直後にバタン!と扉が開けられた。


「おい七草ァ!開店まであと少しだぞ!皿洗いは終わったかあ?」


「終わりました。」


突然店長が洗面所の扉を開けて入ってきた。

あぶね!あとちょっと部屋に入ってくるのが早かったら加速してるの見られてた。

仕事を押し付けてれれてからまだ2、3分ぐらいしか経ってない。普通なら出来るわけないだろうに。まだ必死に皿を洗ってる俺を笑にきたんだろうが、今回は当てが外れたようだな。俺は反則技だが皿を洗い切った。


「あぁ?嘘つけ!出来るわけないだろうが!」


じゃあそう思うなら何で俺だけに仕事ふったんだよ。


店長が疑り深そうに俺の洗った食器を確認する。


「...ああ〜?どれも洗われてやがる。」


「頑張りました。」


「...チッ。まあいい。お前は客から注文が来るまでデッキブラシで床でも掃除しとけ。」


「分かりました。」


新たな仕事を押し付けられてしまった。だがあのデブに肩透かしを食らわせれたのは嬉しい。掃除をしている時、気分は良かった。



ーーー



バイトが終わった。

あれから散々店長には仕事を押し付けられてしまった。かなり疲れた。

昼ご飯を食べていないので腹減ってしょうがない。自炊する材料を買う為に近所のスーパーへ向かう。


家から5分圏内にある寂れた、老夫婦が経営する自営業のスーパーに入った。

このスーパーはよくお世話になっている。なにせ俺の主食のモヤシとソフト麺のうどん、焼きそばが凄く安いのだ。

モヤシ10円、うどん、焼きそばが20円で、他のスーパーよりも5〜10円安い。貧乏一人暮らしには非常にありがたいのだ。

買い物カゴにうどんを2パック、モヤシを1パック入れる。

会計に向かう途中、生卵やパックの生肉が目に入るが鋼の意志を持って視線を逸らした。あれは贅沢品だ。次の給料日までしばらく我慢だ。

肉卵に後ろ髪を引かれながら老夫婦が立っているレジで精算を済ませて帰路に着く。あれ?前までいたバイトが今日はいないな。いつもいるのに。...まあいいか。


ボロアパートの錆びた鉄骨階段を登り、開く時にキイキイ鳴る扉を開けて自宅に入る。そっと閉めないと隣の住人から壁ドンをいただいてしまうので慎重に。壁が薄いんだよなこのアパート。


この1Rの部屋が我が家だ。トイレと浴槽のみに囲いがあり、それ以外は一切なく一つの部屋になっている。家賃は月2万円と激安。しかしトイレは汲み取り式、シャワーや浴槽の蛇口からお湯が出ない。冬とかは死にそうになる。だが雨風が凌げるだけましだ。

因みに夏はGが運動会をひらく。


俺の劣悪な居住環境は置いといて、とりあえず腹が減った。ご飯を作ろう。


鍋を取り出し、水を張って火をつける。

鍋の水が沸騰したら買ったうどん2パックと、あらかじめ近くの森で摘んだヨモギとスベリヒユを投入し、うどんをよく解す。湯上がる前にサッとモヤシを入れ、一緒に茹でて直ぐに取り出す。そしてザルに移してよく水を切る。

器に移して、醤油を垂らし完成!

俺のいつものご飯だ。いざ実食。


うーんいつもの味。可もなく不可もなし。でもちょっと今日はヨモギの苦味が強いかな...。

よし、腹は膨れた。今日は夜にバイトは入ってないから家でゴロゴロしよう。このままスマホでネットを見て寝るのが1番いい。動かないから夕飯を食わなくても腹が減らない。明日への体力を温存できるしね。

動画でも見ようとアプリをタップしようとした時、WSOのロゴが入ったアプリが目に止まる。


...あ。依頼を受けるの忘れてた。


「やば、芹さんに勧めてもらった依頼まだ残ってるかな。」


慌ててアプリを起動し、画面をスクロールする。


あ!あったあった。まだ残ってた。よかったー。


ーーー


・9900:××市内の調査任務への同行者募集


9800番台の調査任務への同行者を募集します。××市の土地勘がある方だと報酬額を上乗せします。

具体的な仕事は、現場への道案内や、私が調査をしてる際に周囲の警戒をしていただきます。

連絡お待ちしてます。


日時◯/● 21時〜23時予定

報酬金額:300,000円+100,000円(土地勘アリ)


ーーー


こうしている間にも誰かが受注してしまうかもしれない。

早いとこ依頼を受けておこう。


「よし、申し込みが成功した。」


受注のボタンを押すと、ポロン♪という音がなり、画面に受注完了の文字が表示された。

...あれ?この後どうすりゃいいんだ?依頼場所が分からないし、依頼者と連絡がとれない。と、思ったら依頼者・受注者取引画面というページにアクセスできるようになっている。

ページを表示すると、どうやらフレンド機能とは別の専用のチャットルームのようだ。

ここで連絡を取り合うみたいだな。

...お、さっそくメッセージがきた。


『はじめまして。依頼を受けてくださりありがとうございます。顔合わせをしたいのですが空いてる日はありますか?依頼の締め切りが1週間後なので近日中だとありがたいのですが。』


『こちらこそはじめまして。明日の午後からなら時間が取れます。』


挨拶が出来る礼儀正しい人で安心した。なんか人格破綻してる人がいそうなんだよな超能力者って。

明日は午前中に大学の講義があるが、午後からはバイトもなく暇だ。相手の方は大丈夫だろうか。


『明日の午後3時に〇〇駅西口の猫の銅像前で待ち合わせでどうですか?』


『大丈夫です。』


『ありがとうございます。では明日会いましょう。』


なんか話がトントン拍子に進んだな。予定決めが早くて助かるけど。

...明日初めて自分以外の超能力者と会うのか〜。いや、橘さんが初めての超能力者か。芹さんは...どうなんだろ?超能力持ってるのかな。

でも、いざ超能力者と2人で会うとなるとちょっと怖いなあ。「かかったな!俺らは超能力者狩りだッ!!」とかの展開も予想して保険をかけおくか。


スマホを見ながら色々考えていたらいつのまにか日が落ちていた。

起きていても腹が減るだけだし、もう寝よう。



ーーー



早めに寝たからか、朝早くに目が覚めた。講義までまだ時間があるけど早めに大学へ行くことにした。


ゴミ出しの時に捨てられそうになっていたのを、持ち主に必死に拝み倒して譲ってもらった自転車で大学へ向かう。フレームが歪み、車輪も曲がっている為、漕ぐとキイキイうるさい。ちょっと恥ずかしいが文句は言ってられない経済状況なので我慢する。この自転車のおかげでバイトや大学に行く時間を短縮できているのだ。感謝しかない。


大学は家から自転車で5分ぐらいの距離にある。

県下では割と上位の国立大学だ。死に物狂いで勉強し、何とか入ることができた。残念ながら特待生にはなれなかったので、学費は普通の人と同じく払っている。だが私立の大学より幾分マシな学費だ。受かってよかった。


正門をくぐると駐輪場と一体になった駐車場が見える。

本当は車が欲しいが教習所は20万以上かかるし、車の維持費は年60万を超える。とてもじゃないけど払える値段じゃない。遠くから眺めるだけにしておこう。

...げっ!佐藤と田中だ。


「おいおい貧乏人の臭いがするぜー?」


「んー?ああ、アイツか。七草。相変わらず丈が短い服着てんのな。ダッセー。」


高級車のボンネットに座って煙草を吸いながら()()()している佐藤と田中とその取り巻きに出会ってしまった。

同じクラスの佐藤と田中は絵に描いたような陽キャのヤンキーで、俺のような隠キャをイジるのを趣味にしている奴らだ。2人とも日焼けサロンで肌を焼いていて浅黒く、髪は派手に染めている。そして親が市議会議員か何かでお金持ち。

コミュ力が高く、別の学部や大学にも知り合いが多くいるため誰も逆らえない。一度別の不良派閥と喧嘩になったことがあるらしいが、集団でボコボコにしたそうだ。恐ろしい。


だが、直接的に虐めてくるわけではないので、無視すれば良いのが幸いだ。

媚を売るために愛想笑いをし、頭を軽く下げて陽キャ集団の前を横切る。


「うわ笑顔キモっ。ああはなりたくねーな。」


「視界に映るだけでもムカつくわ〜。」


2人が取り巻きと一緒に俺のことを悪く言っているのが後ろから聞こえる。クソ、俺の超能力でギタギタにしてやる!


...今は使えないから、また今度な!

朝起きたら超能力が使えなくなっていたから、俺の超能力は発動できるようになった後、大体1日ぐらい使える時間が持続するらしい。

超能力が使えない俺はただのヒョロガリモヤシだ。早足で駐車場を去った。



ーーー


廊下で有名女性誌の読者モデルとすれ違う。凄く整った顔の女子生徒だ。

別に珍しいことではなく、この大学は結構有名人がいるらしい。

偏差値が高くて有名な大学のためか、親が金を払ってでも入学させたいようだ。所謂裏口入学。先程のヤンキーの佐藤と田中もその口だろう。


噂によると、読者モデルや現役アイドル、元有名子役、有名人2世タレントなど多岐に渡るジャンルで著名人がいる。

まあ、俺は友人がいないので誰がどう有名かは知らないが。

でも誰とは分からなくとも、オーラを放っている人は分かる。

その1人が今視界に映る。先程の読者モデルとはまた別人。

1限目の授業に向かう途中、廊下ですれ違う美女。

隣のクラスの御形愛(ごぎょう あい)だ。

身長は女性では高めの160cmぐらい。真っ黒な腰まで届く綺麗な髪。意志に強さを感じる大きな目。本人の冷静沈着さを物語る佇まい。...そして巨乳。


学内でもトップクラスに人気がある美女だ。

凄くクールな性格らしく、あまり他の人と一緒にいるのを見たことがない。だがその美貌を男子生徒が放っておくはずもなく、何人も告白したらしいが全て撃沈。断られたらしい。こんな美人が彼女だったら、さぞかし薔薇色の学生生活になるだろう。気持ちはよーく分かる。あまりの顔面レベルに先程の読者モデルも霞むほど。


御形愛は友達がいないのは俺と似ているが、彼女は作ろうと思えばいくらでも作れるので俺とは立場が全く違う。まさに住む世界が違う人だ。


すれ違った彼女の後ろ姿を少しだけチラ見したあと、1限目の教室に急いだ。




今日の講義が全て終わった。自分のクラスで()()をかけたし早く帰りたい。

...依頼人との待ち合わせに向かうにはちょうどいい時間だ。

駐輪場に向かい、自転車を回収しに行く。


「でさー!俺今狙ってる女がいるんだよね!結構可愛いんだこれが。」


「ああ?お前前に付き合ったって言ってたろ。その女はどうしたよ。」


「あ?あれか?()()が悪かったから捨てたわ。ギャハハ!」


「ブハハッ!ひでーな!でも気になるから今度俺にも使わせてくれや!」


まだ佐藤と田中が駐車場にいる。授業はないんか授業は。

ちくしょう内容は酷いが羨ましい話をしてるぜ。こっちは生まれてこの方彼女なんて出来たことないのによう。

佐藤と田中はこちらには気づかずにバカ笑いをしていたので、存在感を消して自転車を回収することができた。

さっさと待ち合わせ場所に行こう。



〇〇駅の猫の銅像前に着いた。自転車を降りて近くの駐車場へ止めておく。

待ち合わせの時間まで後5分だ。


あー超能力者と会うの緊張する。彼女がいたら待ち合わせする時もこんな気持ちになるんだろうか。それとは全く違う種類の緊張か、これは。

そんなくだらないことを考えていたら辺りの人達がざわつき始めた。

なんだ?有名人でもいたか?

待ち合わせ場所の銅像がある所は、駅前の広場にあるためか人通りが多い。その人だかりを割って1人の人物がこっちに近づいてきた。


......!! 御形愛だ!



人が騒つく理由が分かった。先程廊下ですれ違った超美人の御形愛がいたのだ。

学内ではその存在が有名なことも相まって、ちょっと視線を投げられるだけで済まされるのが、学外だとこうも注目されるとは。恐るべし校内トップの人気の美女。街中でも以前その輝きは曇らない。

でも何でこんな場所に?

...もしかして彼氏との待ち合わせか?!これはビックニュースだぞ!

さっそく友達に教えて...あ、俺友達いなかったわ。


俺が1人で悲しみに暮れていると、猫の銅像前で御形愛が立ち止まる。すぐ俺の隣りだ。ひええ、オーラが凄い!

しかし本当に誰かと待ち合わせているみたいだ。く、羨ましい。俺と代わってくれ!まだ見ぬ彼氏よ!

きっと彼氏はWSOのドアマンみたいなイケメンなんだろうな。


邪な想像をしながら依頼人を待っていると、彼女を一目見ようと周りに人だかりができ始めた。猫の銅像を囲んで人が密集している。そのせいか、俺も銅像の前から身動きが出来ず御形愛と同じ数多の視線に晒されることになってしまった。


き、きついなこのジロジロ見られる感じ。有名人の気持ちがちょっとだけ分かったぜ。

周りの男どもは声をかけたいのだろうが、しかし誰も声をかけれない。あまりにも自分とランクの離れた人に話しかけれないように、恐れ多くて声をかけることができないのだ。

御形愛の隣で立ち続ける栄誉をしばらく味わってしまおう。

ははは!平伏せ愚民ども!俺は御形愛の隣に立っているだけ男だぞ!


...しかし依頼人遅いな。もう時間過ぎちゃったぞ。さては時間にルーズなタイプか?

もしかしてこの御形愛のギャラリーの中に居る?


いや違う!この人だかりで近寄って来れないんだとしたら!

やばい早くここから抜け出さないと。

と思った時にスマホから着信音が鳴った。

依頼人からのメールだ。慌ててアプリを起動して内容を確認する。


『もういますか?』


案の定依頼人からだった。この文の感じ、もう待ち合わせ場所に着いてるな。


『います。ですが人だかりが凄くて誰が誰だか...』


急いで返信をした。

直ぐに返事が来る。


『右手を上げるのであなたも右手を上げて下さい。先に見つけた方から声をかけましょう。』


『分かりました。』


なるほど、それは分かりやすい。

直ぐに右手を上げた。

辺りを見回すが手を上げている人は見当たらない。おかしいな、と思いスマホに目を落とした時にトントンと肩を叩かれた。

こちら側は気づけなかったが向こうが気づいてくれたか。よかった。超能力者と会う緊張もあったが、依頼人と無事合流できた気持ちでホッとして振り返ったら。




右手を上げた御形愛がこちらを見ていた。







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