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【羞恥系超能力者、七草将史!】  作者: 伊藤 五面
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第13話 外務大臣護衛依頼①


自分の家にいるのに落ち着かない。



もしも彼女がいれば誰もが通る道なんだろうけど、俺は彼女いない歴=年齢だ。

だから、一緒の空間に女性がいることに焦るのも当然だった。


そう、メイドの美女、母子草華純が黙々と部屋の掃除をしていた。



「あの、母子草さん。掃除は俺がしますので今日は帰ってもらってもいいですか?」


「拒否します。ご主人様。」


「......。」



スッパリ言い切って床の拭き掃除に戻ってしまう母子草さん。

ご主人様の命令を一考することもなく拒否するメイドって一体なんだよ。



「ほ、ほら。もうこんな時間ですし。親御さんも心配してるんじゃない?」


こちらも負けじと食い下がる。一歩間違えば事案になってしまうのでこっちも必死だ。

只今の時刻は20時12分。高校生であろう母子草華純さんは直ぐにでも家に帰るべきだろう。例え恋愛関係であっても、大学生の家に未成年がいたらアウトである。


「その親の指示で来ていますのでご心配なく。それと、お風呂がもう沸いていますのでさっさと入ってきてください。」


「いやそうではなく......いえ、わかりました。お先に頂戴します。」


うーん、とりつく島もない。

どうする?今まで女性と関わりのなかった俺が一つ屋根の下で過ごせるか?......無理だ。ストレスで胃に穴が空いてしまう。

恐らく日中は学校に行ってくれるのだろうが、それ以外はずっと2人っきりだ。間が持たない。

早くどうにかしないと。


まあ、まず先に風呂に入って頭をリフレッシューー


その時、大きな音を立てて壁がドン、と鳴った。

やべっ。


「......今の音は何ですか?ご主人様。」


「しーっ!お隣さんだ!このマンションは壁が極端に薄いから、うるさいと壁を叩いて威嚇してくるんだ。ここからは小声で話そう。」



お隣さんから壁ドンされてしまった。

そこまで大きな声で話していたつもりはなかったが、しっかり聞こえていたらしい。



「少々失礼します。」


「うん?」


そう言って母子草さんはどこかに電話をかけ始めた。

一体何だろう。

まあいいや。とりあえず先に風呂に入ってしまおう。






ピカピカに掃除してあった風呂場に驚きながらも、入浴を終えて髪を乾かしてから居間に戻る。

俺を視界に捉えた母子草さんが口を開いた。



「もう大きな声で喋っても構いません。問題は解決しました。」


「......どういうことですか?」


「隣の部屋を母子草家が買い取りました。多少住人には渋られましたが1億の札束で頬を叩いたら、快く退居に応じてくれました。」


「そ、そうですか。」


1億て。もはやこのマンションごと買えるだろ。

少し気になったので、スマホを取り出して『母子草家』で検索をかけると、御形家のように財閥...とまではいかないが、かなりの資産家であるらしい。主に航空関係の利権を握っているみたいだ。

御形家の分家といえども日本有数の権力を持っているようだ。母子草さんには逆らわないでおこう。長い物には巻かれろの精神だ。



「ようやくご主人様も母子草家の凄さに気づかれたようですね?今更ですが、まぁいいでしょう。

ああそれと、ご主人様は私と長時間いることが嫌そうでしたので、今し方買い取った部屋を私の住居にしたいと思います。

いちいち隣の部屋から家事をしにくるのが面倒ですが仕方ありません。」


「隣に?......わざわざありがとうございます。」


一緒に住むことに嫌そうな表情が出ていたらしい。

でも正直言ってこの提案は助かる。同棲とか童貞には荷が重すぎた。母子草さんの負担は掛かってしまうが背に腹は変えられない。お言葉に甘えさせていただこう。


会話が終わってしばらく静寂の中に母子草さんが掃除をする音だけが響く。

居た堪れなくなった俺は次の依頼について考えることにした。


......恐らくだが俺の能力は、超能力者全体でも強い方だろう。

今まで見た超能力が、炎を操る能力、水を操る能力。しかもどちらの能力もかなり強い部類らしい。

それを踏まえて俺の超能力。自分の時間を操作する能力は、前の二つの能力に比べて段違いに強いと言える。レベルが違うって言っても過言じゃない。現に、喧嘩もしたことがない素人の俺が、超能力者上位ランカーの鳥兜修斗を倒せるぐらいには、恐るべき強力な能力だ。

だがその強い能力に胡座(あぐら)をかいているといつか足元を掬われてしまう気がする。

しっかり依頼の下調べをし、自分の超能力を深く理解することが生き残ることにつながっていくはずだ。


今回の依頼は小松親仁大臣からの護衛依頼。

〇〇駅から東京まで、とWSOのアプリには書いてあったから、恐らく相手は車で追跡してくるだろうと推察してみる。

それに、大臣の移動手段は防弾仕様のリムジンとも書いてあった。なので恐らく敵対勢力は拳銃などの銃火器での襲撃を諦めて、リムジンを破壊するような手段をとってくると予想できる。

......うん、良い線いってるんじゃないかなこの考えは。



「次のご依頼ですか?」


「えっ?

ああ、そうですよ母子草さん。」


携帯を見ている俺に彼女が話しかける。

母子草さんも超能力が使えるらしいし、やっぱり他の超能力者の依頼が気になるんだろうか。



「華純。」


「はい?」


「先程から気になっていましたが、華純とお呼びくださいご主人様。私の主人ともあろう方が苗字呼びだと他に示しがつきません。かしこまった物言いもです。」


「いやーそれはちょっと恥ずかしーー分かりました華純さん。」


「......()()付けも御遠慮してほしいものですが、まあいいでしょう。」


恐ろしい眼光で睨みつけられて名前呼びをせざるを得なかった。



「それで先程から見ているのは次の依頼ですか?」


「はい。そうなんです。護衛依頼なんですがちょっとやったことがなくて。イメージトレーニングを。」


あんまり依頼の詳細をいうのはマズイよな。守秘義務的に。

しかも大臣の護衛とかいうトップシークレットだし。


「ふぅん......。」


「な、なにか?」


何か悩んでいらっしゃる。



「その依頼、私もついていきましょう。」


「え!?」


母子草......いや、華純さんがとんでもないことを言いだした。





ーーー




よく晴れた日の依頼日当日。

華純さんの同行を拒否しきれなかった俺は、2人で地元駅のロータリーで依頼人を待っていた。

あと10分程で大臣が来るはずだ。



「あのー、母子......華純さん。本当にヘルプ依頼を出さなくてよかったの?」


「構いません。主人のサポートをするのがメイドの勤めですので。

それに、護衛依頼で無様なご主人様の勇姿を拝見できるのに、お金までいただいてはバチがあたります。」


「......。」



ヘルプ依頼とは。

俺が御形さんを鳥兜の居る公園に案内したように、ヘルプに来てくれる人に、雇った側が報酬を支払う依頼だ。


今回は半ば強引に、俺の依頼に華純さんがついてくることになった訳だが、一応は手伝ってくれる形となった華純さんにお金を渡そうとヘルプ依頼を出そうとしたら断固拒否されたのだ。



「もし、依頼受注者の七草将史様ですか?」


華純さんと話していたら、後ろから声をかけられた。

初老でカチッとした黒いスーツ姿の男性だ。


「あ、はい!そちらは小松さんの......」


「あまり大きな声を出さずに。

こちらへついてきて下さい。」


「す、すみません。」


俺、御形さん、スーツの男性3人で駅のロータリーから場所を移す。どこに行くんだろう?


移動している最中、スーツの男性が話かけてきた。


「はじめまして。大臣の秘書をしております、佐藤と言う者です。先程の場所では人目につきやすいので話を遮らさせていただきました。申し訳ありません。」


「は、はじめまして。依頼受注者の七草と言います。

こちらこそあのような場所で依頼人の名前を出してしまって......申し訳ありませんでした。」


迂闊だった。

今暗殺されようとしている人物の名前を駅のロータリーなんかで出して良いはずなかった。反省。



「一名と聞いていたのですが、そちらの方は?」


「えー。なんというか。......付き添いです。護衛依頼に不慣れな俺をサポートしてくれると一緒に来てくれまして......。」


華純さんのことを突っ込まれた。

そりゃそうだ。護衛依頼を受けたのは俺だけなのに、どこの馬の骨とも知れない小娘を連れていたら、疑り深い目を向けられることは分かっていたことだ。


どう説明したものか。



「申し訳ありません。身分がわからない者を同行させるわけにはいきませーー」


「母子草家、母子草菊次郎(きくじろう)が長女、母子草華純。WSOのアプリでの証明はできますが、必要でしたら本家にご確認ください。」


「なんと!華純様であらせられましたか!」


お?なんか華純さん有名人っぽい。

実家が名家だから、金持ちの間では名が通ってるんかな?



「華純様がおられるのでしたら百人力ですな。アプリの身分確認だけで構いません。......はい、確かに。母子草華純様本人ですね。我が主人もお喜びになるでしょう。ささ、どうぞこちらへ。」



俺が華純さん同行の言い訳を考える前に、何だか話が上手くまとまってしまった。助かるっちゃ助かるけど。






駅から少し離れたパーキングエリアに、同じ車種の黒塗りの高級車が10台ほど停まっていた。車の窓ガラスにはスモークが貼ってあり、中の様子は見えないようになっている。


先導していた佐藤さんが一台の車に近寄って、窓をノックするとパワーウィンドウが開いて依頼主が見えた。

佐藤さんが顔を寄せて大臣に話かける。



「七草将史様が到着されました。それと予定とは違いますが、もう一名同行者がいます。」


「おお、ご苦労。

して、同行者とは?お前が私の前に連れてくるということは、確かな身分の者だろうな?」


「はい、小松様。

付き添いの方は、母子草家の者でございます。」


「ほう、あの少女が母子草家か。娘とも歳が近そうだな。仲良くしてくれれば助かるが......おい、顔合わせだ。近くに来させろ。」


佐藤さんの案内で大臣の車に近寄る。



「は、初めまして。こっ今回の依頼を受けさせていただいた七草です。至らぬ点もございまーー」


「よい。堅苦しい挨拶は好かん。楽にしてくれ。」


緊張で噛みまくってしまったが、寛容な人で助かった。

小松大臣の風貌はテレビで見たことがある。

身長が高く、比較的ふくよかな体型で、白髪混じりの七三わけの髪型。顔立ちは柔和だが、眼光は鋭い。

だが車の窓越しに見える小松大臣はどこか覇気がなくやつれている感じがする。



「母子草華純です。突然押しかける形になってすみません。

まだ至らぬご主人様のサポートで参りました。できるだけ邪魔にはならないつもりですが、いざとなったらお見捨てください。」


「ははは。母子草家が私を守ってくださるのなら心強い限りですよ。むしろ私の娘が迷惑をかけないか心配ですな。」


「恐縮です。」


「大臣そろそろお時間です。」


「お?そうか。じゃあ行くとしよう。」


佐藤さんが大臣を促して出発となった。




乗り込んだ車はリムジンのような長さがあるため、広々としていた。車内にはソファーがあり、何故かワインセラーまで付いている。大臣の趣味だろうか?



「それで、目的地まではどのように行くつもりですか?最低限、策はあるのでしょう?」


「うむ。古典的な手法ではあるが、同じデザインの車を10台用意してある。それぞれ別々のルートを通ってもらい相手の狙いを撹乱する作戦だ。......気休めにしかならんがな。」


華純さんが大臣に質問する。

......しまったそれって俺がやらないといけなかったんじゃ。

また華純さんにバカにされてしまう。


「しないよりはマシでしょう。」


「だといいんだがな。

一応だが、駅から駅出発までは、高い金を積んで認識阻害の超能力者を雇っている。だから私達の存在は気づかれていないだろう。

......君たちがつけられていなければね。」


「その点は大丈夫でしょう。尾行の気配はしませんでした。」


「ふむ......なら現時点では安心か。」


「小松様、油断は禁物ですぞ。」


「佐藤、分かっておるわ。

だが気が抜ける時に気を抜かないと精神が持たん。」


とりあえず今は多少だが安全のようだ。

まあでも、同じ車種の高級車が駅から何台も出たらバレそうだけども。

というかイカン。華純さんばかり喋らせている。俺も気になっていることを聞いてみよう。



「あの、小松大臣。気になっていたのですが、もう1人の護衛対象というのは......?」


「おお七草君、すっかり説明を忘れていたよ。

ほら姫冠(ティアラ)、挨拶しなさい。」


ティ、ティアラ?



「別に挨拶とかど〜でもよくね?めんどいんですけど。」


「行儀が悪いぞティアラ。東京観光がしたいというワガママを聞いてやっているだろう?さあ、早く。」


「はいは〜い。」


姿が見えないと思ったら、どうやら助手席にいたらしい。


だが俺はティアラと言う名前に驚愕していた。

キラキラネームとか、DQNネームのネーミングセンスに驚いていたのではない。

()()()()()()()

ティアラとか言う珍しい名前の人物を。


「小松姫冠(ティアラ)で〜す。よろしく。

......ん〜?」


身体の震えが止まらない。な、なんという巡り合わせの悪さだろうか。



「あれ。七草くんじゃ〜ん。おひさ〜。」


「お、おっ、おおお久しぶりです......。」


「キョドっててウケる。」


「ティアラ、知り合いなのかね?」


「え〜?知り合いっていうか〜。」



ーーあの日。

俺が初依頼で御形さんと顔合わせをする日。


御形さんがどんな人物か分からなかったので、念のため超能力を発動できる状態にしてから向かった。

()()()()()()()()()()だったのだ。


そう、俺は小松ティアラに告白してフラれている。



「告白された仲?みたいな感じ〜。」




「......七草君?どういうことかね?」


「ご主人様......お盛んですね。」




神は死んだ。



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