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【羞恥系超能力者、七草将史!】  作者: 伊藤 五面
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第11話 調査依頼 エピローグ



鳥兜の頭を銃弾が貫通する。



目を見開き、何が起こったか分からないという表情で奴は崩れ落ちた。


発砲音がした方向を見ると若草刑事がうつ伏せのまま銃を構えていた。その銃の銃身から煙が出ている。いつのまにか気絶から目覚めていたようだ。



「ガハッ!......この...クソ...刑事...。」


呪い殺すかのような目で若草刑事を睨みつけ、金髪の男は血を吐き目を見開いたまま動かなくなった。



今まで苦戦したのが嘘のように、呆気なく鳥兜は死んだ。



「......へっ。ざまぁみやがれ。

鑑識に見つからないように、お前に殺された同僚から拝借しておいた()()()()()、2丁目の拳銃だ。」


あ、危なかった。若草さんが銃を撃ってくれなければ死んでいた!

心臓が早鐘を打って、背中に嫌な汗が流れ落ちる。急死に一生を得た。


俺が命拾いした事実に震えていると、鳥兜に蹴られた後頭部をさすりながら若草さんが起き上がる。

まだフラついてる。ちょっと危なっかしい。

...ハッ!御形さん!御形さんの容態が気になる!不良警官なんかどうでも良い!

直ぐに救急車を呼ぼう!......でも電話でなんて説明すればいいんだ?超能力者と交戦して重傷者がいます!って言って来てくれるんだろうか?とりあえず怪我人がいるって言えばいいか。


「御形さん!今から救急車を呼びますね!意識はありますか!?」


「......大丈夫。今直ぐに、死ぬような怪我は、負ってない。それと、救急車は呼ばなくて、いい。」


本人は意識はハッキリして大丈夫と言っているが喋るのも辛そうだ。

でも救急車を呼ばなくていいって何で?このまま放置していい怪我じゃないぞ。


「あー確か超能力者専用の救急車があるんじゃなかったっけか?」


と、若草刑事。


「え?そうなんですか?」


「ええ。一般の救急車だと超能力による外傷が説明しづらい。だから専用のものがある。

七草君、WSOのアプリを開いて、ホーム画面の右上の赤い<緊急>ってボタンを、押して。」


「ちょっと待ってください。」


慌てて自分のスマホを取り出す。アプリを開いて緊急ボタン...これか!

ボタンを押すと、・救助要請・依頼破棄・応援要請・その他、と画面に表示される。

この救助要請を押せばいいんだよね?とりあえずタップしてみる。

<負傷者SOS、救急車要請>これを押せばいいのかな。


「そう、そのボタン。タップしたらスマホのGPSを、辿って駆けつけて、くれる。」


「ほー便利だな。」


「はい。押しました!もうちょっとの辛抱です御形さん!直ぐに救急車が来てくれます。」


「ええ。...ありがとう。」


とりあえず後は待つだけだ。御形さんに命に関わる怪我がなくて良かった。



「ふぅ〜〜。」


口から安堵のため息が漏れる。

危機を脱して緊張の糸が切れた。足の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。


「なーに気ぃ抜いてんだ。元はと言えば、お前が最初っから本気を出しとけば嬢ちゃんはこんな怪我を負うことはなかったんだぞ?反省してんのか?」


「うっ、すみません。気が動転していたというか...。」


「チッ。まあ俺がお前に命を救われたって見方もできるから許してやる。嬢ちゃんには詫びいれとけよ。」


誰得ツンデレヤンキー刑事(男)



「私は別に気にしてない。...私が弱かっただけ。」


いやいや、強い方でしょ御形さん。相手が悪かっただけで。



「あっと。そういえば御形の嬢ちゃんよ、おめえの仇を俺が横取りしちまったのを謝っとくぜ。

すまねえな。俺の同僚の仇でもあったんだ。勘弁してくれや。」


あー。なんかそれらしい会話をしてると思ったら因縁があったのね。恐らくは美術館の件だな。



「欲を言えば私がトドメを刺したかった。でもアイツが死ねばそれで満足。気にしてない。」


「そうかい。そう言ってくれると助かるぜ。」


お互い敵討ちができて満足そうだ。よかったよかった。



と、近くでサイレンの音が聞こえた。どうやら手配した救急車が来たようだ。


「お、救急車が来たな。俺の方でも忘れないうちに公園の後始末するように人を手配しておくぜ。」


若草刑事が呟く。

遊具とか溶けてるし、地面も抉れ飛んでるしね。それを修復する人員を呼ぶのだろう。そういったことをやってくれるのはありがたい。


「じゃあここで解散するか。俺は同僚を弔ってから帰るとするぜ。......いや、あの野郎に殴られた所がまだ痛えな。帰りに病院行っとくか。」


「私はこのまま救急車で病院に行く。」


「俺は特に怪我もないので家にこのまま帰ります。」


ああ疲れた。今日は凄くぐっすり寝れそうだ。早く布団に入りたい。と、考えていたら、御形さんが折れてない方の腕でスマホを操作しながら喋りかけて来た。


「七草君、WSOへの依頼報告は私がする。今回かなりイレギュラーな内容になってしまったから、多分私と七草君にWSOから何らかの謝罪が来ると思う。......私の依頼の完了報告は今した。もうWSOから報酬が振り込まれてる。」


まっっってました!!!眠気が吹っ飛んだ!!


20万!!20万円!!!


慌ててスマホを取り出して銀行口座を確認すると、確かに振り込まれていた。よっしゃ!!今日は肉を食うぞ!!

危険な思いをして良かった!でも2度と御免だけどな!今回みたいなの!


「はい。振り込まれてます!ありがとうございます!!御形さん!!」


「...っ!ち、近い七草君!」


「あ、すみません!ちょっと興奮しちゃいました。」


預金額を見てテンションが爆発してしまった俺は御形さんに詰め寄ってしまった。

すみません。キモくてすみません。通報は勘弁してください。


「お?嬢ちゃん顔真っ赤じゃねえか。骨折ると熱が出るらしいから気をつけろよ?」


「......そう。気をつける。」



おっと、そうこうしてる内に救助隊員の人がこちらに来た。

そろそろ解散だ。御形さんに軽く別れを告げると担架で救急車に運ばれて見えなくなった。



「じゃあ俺も業務に戻るぜ。いいよなぁお前は。これから家でスヤスヤ寝れるんだろ?俺なんかここから調書をまとめなきゃならねえし、この公園の後始末もある。頭も痛えしよぉ。ああ面倒くせえ...。」


そうブツブツ呟きながら若草刑事も駐車場の方へ去っていった。

社会人は大変そうだなぁ。


......俺も帰ろう。





ーーー




次の日の朝。

9時に目が覚めた。


.........。

......。


うおおおおお!!学校の1限目遅刻するううう!!!


一瞬で身支度を済ませて愛車のオンボロ自転車に飛び乗る。

うおお間に合え!!1限目の講義は必修科目なので遅刻は非常にまずい!うなれ俺の足!全力でペダルを動かす!


俺の通う大学では出欠席を取るために、名前を書く欄がある紙を授業開始直後に配る。

教授はその紙を回収して出欠をとる訳だが、教授によっては授業の最初にその紙を回収するタイプと最後に回収するタイプに分かれるのだ。

今回の教授の回収タイミングは前者。

つまり、授業開始に紙に名前を書くことができないと問答無用で欠席扱い。

そして必修科目においては1つの欠席が致命傷になる。


必修科目の単位が取れないとどうなるか?ーー


ーー留年する。


うちには留年できるほど金がねえええ!!

俺は爆速で自転車を走らせた。



大学に到着した俺は自転車を駐車場に止め、学内の階段を駆け上がる。幸いにも、駐輪場でよく見かけるヤンキーの佐藤と田中が不在だったため余計な時間を取られずに済んだ。

はあはあと漏れる息を整えてから講義室の後ろ扉を開けて、そーっと教室に忍び込む。


すると俺の目に絶望の光景が。

出席の紙がちょうど回収されていた。


あ...ああ...お、終わった...。


ちくしょう、頑張って来たのに無駄骨になってしまった。

途方に暮れ、失意の中教室を去ろうとした時に近くの席から声が掛けられる。



「七草氏!七草氏!こちらの席が空いてますぞ!」


「お、太田氏!」



身長180cm、体重130kgオーバーの外見のデ...ポッチャリ系男子の彼は、大学内で唯一の友達と言っていい太田 太志(おおた ふとし)君だ。


彼との出会いは入学初日にまで遡る。

俺が持ち前の人見知りで誰とも友達になれず、食堂で好きなVtuberの配信を見ていた時に声をかけてくれたのがキッカケだった。

Vtuberというのは、大手動画サイト『Atube(エーチューブ)』で可愛いアニメキャラクターの外見で配信を行なっている、vision .tuber、通称ヴィジョンチューバーのことを指す。

彼も同じVtuberを知っていたらしく、そこから話に花が咲き、友達になったのだ。

彼は所謂旧時代のオタクで、侍かぶれの口調に、人名の後に氏をつける癖がある。俺も太田君と会話する際はそれに倣って太田氏と呼ばせてもらっている。


「ありがとう太田氏。だけど遅刻して出席が間に合わなかったんだ。今回は出直すよ。」


「フフ...。そんなことだろうと思いまして拙者、出席の紙を2枚せしめて七草氏の名前の紙も出しておきましたぞ!」


「おっ、太田氏...!」


な、なんという...!

さすがは太田君!現代の武田信玄...!頭がキレるぜ!


「ありがとう太田氏。今度学食を奢らせてくれ。」


「大したことはしてないでござる。それに...学食とは。いいのですかな?」


太田君は俺の懐事情をよく知っている。俺は結構オタク趣味があるのだが、お金がないのでグッズを買えない。だが太田君が安くて出来の良いグッズや、無料配布しているグッズなどの情報を仕入れてくれたりして、貧乏でも楽しくオタクライフができるようにしてくれる、ナイスガイなのだ。


「ああ大丈夫だよ。臨時収入が入ってね。これまでのお礼を兼ねて奢らせてくれないか。」


「おお、それは良かった。そういうことならお言葉に甘えさせていただきますぞ。」


「ああ。遠慮せずに食べてくれ。」


もちろん臨時収入とは昨日の依頼報酬だ。

お金が入ったからって直ぐに無駄遣いしちゃいけないと思うが、太田君にはお金が苦しい時に奢ってくれた恩義がある。今日ぐらいいいだろう。


講義が終わってお互い時間が空いたため、約束通り学食で一食奢ることにした。

太田君とVtuberの話題を喋りながら一緒に食堂へ移動する。



うちの大学は裏口入学で儲けているためか、校内の施設は広いし、最新式のがほとんどだ。その例に漏れず食堂も結構広い。

大体200人が同時に席に着ける。そのため、歓迎会やサークルの打ち上げなどにもよく使われる。


そんな広々とした食堂の隅に俺と太田君は腰を下ろした。

この場所の中央で飯を食おう物なら佐藤や田中を始めとした陽キャグループに絡まれてしまう。よってカースト下位の俺たち2人は、なるべく目立たない場所でひっそりと昼食をいただくのだ。



「ふふふ七草氏、このオムカツカレーこそ至高の味...!食堂のおばちゃんと仲良くならないと出てこない幻のメニュー!オススメですぞ!」


陽キャ以外は誰とでも打ち解けることができるのが太田君の凄いところだ。通常はオムライスとカツカレーは別のメニューなのだが、彼の謎のコミュ力によっておばちゃんに交渉し、新たな料理を創造してしまった。

因みに俺はかき揚げ蕎麦(300円)を頼んだ。理由は安くて美味しくて、料理の提供が早いからである。


先に俺の方が料理に手をつけても太田氏は食べるのが早いので大体同時に食事が終わる。そして食べ終わった後、余った時間にオタク話に花を咲かせるのがいつもの俺たちだ。

本日も仲良く食べ終わり、好きなVtuberの話をし始めた。



「七草氏、最近ビジョンプロダクションからデビューした『赤花トナ』!顔も声も可愛いですぞ!(それがし)のイチオシでござる!」


「ああ、見た見た!凄く可愛かった!

...でもなんか声が作り声じゃなくて、本物の高校生っぽい声な気がするんだよなぁ。」


「ははは。いくら何でもそんなわけでありませんぞ七草氏〜。最近の声優は演技力が高いでござるからなぁ。」



赤花トナは、大手Vtuberプロダクションであるビジョンプロダクション(通称VP)からデビューしたばかりの新人女性である。ちょっと幼い声が特徴で、茶髪。そして赤花トナの名前は、赤鼻のトナカイからもじっているらしく、外見がそれっぽい。

因みに三択(さんたく)ロスという、そのまんまなVtuberもトナの前に直近でデビューしている。こちらも女性。お互いに主従関係があるキャラのようだ。


だが俺にはもっと好きなVtuberがいるのだ!



「まあトナも良かったけど、やっぱり俺の人生を支えてくれた『(ほとけ)ホットケーキ』が1番だね!」


「ははぁ。やはり1番の推しは揺るぎませんか。」



仏ホットケーキ。この人も女性Vtuberで、「そんなんほっとけ!」という決め台詞で、面倒ごと全てを放って逃げるという凄まじいキャラである。ネガティブな気持ちになるとよく動画を見て楽しませてもらっていた。俺の人生は、このVtuberによって支えられていたと言っても過言ではない。それぐらい勇気をもらったのだ。



「ふふ、まあ某も好きなVtuberは変わらず、『甘味(かんみ)みかん』ちゃんで不動ですな。」


「やっぱり太田氏も変わらずか。」



太田君の1番好きなVtuber、甘味みかん。

ゴスロリ服であっま甘な言葉を伝える、癒し系の女性Vtuberだ。太田君の家には彼女のグッズで溢れかえっているらしい。



そんな趣味全開の話をしていたら食堂がざわつき始めた。

ん、なんだ?また陽キャが机の上でブレイクダンスでも始めたか?



「お、珍しいですな。校内5大美女の1人が食堂に居ますぞ。

普段は学食を食べないはずですが。何かここに来る理由でもあるのでござろうか。」


こう見えて太田君は学校の人物情報に詳しい。

誰と誰が仲が良いとか悪いとかよく知っている。

だがまあ校内5大美女だかどうだか知らないが俺には関わりのないことだ。

太田君とVtuberの話を再開してー......ん?


太田君の口がどんどん開いていく。

一体どうしたというんだ。もうあんぐり口を開いてる、って表現が似合うぐらいになってーートントンと、後ろから軽く肩を叩かれる。



「七草君。ちょっといいかしら。」


「え。あ、御形さん。」



ビックリした。振り返ると後ろに御形さんが立っている。

同時に周囲の騒めきが大きくなる。


「話したいことがあるから後で第一講義室まで来て。ここじゃ喋り辛い。あの教室なら、もう今日授業がないからゆっくり話せると思う。」


「あ、はい。少ししたら行きます。」


「そう。じゃあ後でね。」



食堂で御形さんに会うなんてなんかちょっと変な感じだな。

今まで学校で関わることなかったし。

しかし怪我はもう大丈夫なんだろうか。見たかんじ顔色も良くて、折れた腕も大丈夫そうだったけど。



「ごめん太田氏。呼ばれたから行くよ。Vtuberの話は後で話そう。」


「な、七草氏!5大美女の御形氏と知り合いだったのでござるか!?随分と仲が良さげでしたが!」


「え?......あっ、いや最近偶然知り合ってね!きょ、共通の話題で話すようになったんだ!決して仲良くないよ!」


げっ、やばい!昨日の依頼の感じで彼女と普通に喋ってしまった。

通常なら俺のような人間は、超絶美女の御形さんと接点はない。スクールカースト最上位が何故か貧乏陰キャの俺に話しかけるという異常事態。気づけば食堂中の人が俺に注目していた。ひええ!


「おい、なんかアイツ御形さんと喋ってたぞ。」

「は?嘘言え。御形さんが喋ってるところなんて誰も見たことないぞ。」

「いやマジマジ。初めて声聞けたわ。綺麗な声だった...。」


「俺の御形さんと親しげにしやがって...殺す!」

「涙拭けよ。」


「あの貧乏くさい野郎は一体何もんだ?御形さんの彼氏...なわけないよな?」

「いや流石にねーよ。ただ喋ってただけだろ(震え声)。」



あちらこちらで噂話をされている。

早くここから抜け出そう!


「じゃあ行ってくる。詳しくは今度話すよ。

あ、決して付き合ったりとかはしてないからね!そこの所は勘違いしないように!じゃあまた!」


この場でハッキリと付き合っていないことを明言しないと何者かに襲撃される気がした。周りの人達に聞こえるように大きな声で宣言しておく。

太田君の返事を待たずに席を立ち、走って食堂から抜け出す。すまん、太田君!周りの視線がキツかったんだ!許せ!


心の中で謝りながら御形さんに言われた第一講義室を目指す。

食堂からそう離れていない場所なので、直ぐにたどり着いた。

扉を開けて講義室に入る。えーと御形さんはどこに居るのかな?

すると扉の近くの椅子に座っていた。待たせてしまっていたみたいだ。



「すみません、遅れました。」


「別に大丈夫。呼び出したのは私だし。」


「いえ、そんな。...それで話とは?」


「昨日の依頼についてWSOから私に連絡が来た。」


ああ、やっぱりその話か。



「どういった内容ですか?」


「主に依頼内容の相違についての謝罪。本来戦闘行為が発生しないはずの9000番代の依頼で、強力な超能力者と交戦することになってしまったことについての違約金。私が出した依頼を受注した七草君ももらえる。」



え!?

依頼報酬とは別で追加でお金をもらえる、......ってコト!?

よっしゃあ!苦労した甲斐があったぜ!

まあこっちは死にかけたんだし、100万以上は貰わねーと割に合わねえぞコラァ!



「あのー、下世話な話なんですけども。金額はどれくらいで...?」


「私が5000万。七草君が2億。」





......?

におく...?


あー分かった。

2億ジンバブエドル、ってことか。1億ジンバブエドルが大体600円だから1200円ぐらいかな。うーん、ちょっと少ないなぁ。



「もう振り込まれてると思うから確認して。」


「了解です。」



ーーーー

フリコミWSO *200,000,000 ザンダカ  *200,234,037

ーーーー



うふふ。ゼロがいっぱーい❤︎

って、マジもんの2億円やないかーい!!!!



「あ、あばばばば。」


「......?

知らないと思うから説明するけど、WSOを経由したお金は所得税とか、諸々の税金がかからないから安心して。」


理解を超えた金額に頭が追いつかない俺を他所に、御形さんが説明を続ける。



「今回、私の方が違約金の金額が少ないのは、私のランクが七草君よりも高いのと、受けた依頼のランクがあなたの方が高かったこともある。だから気にしないでほしい。遠慮なく受け取ってくれて構わない。」


2億?2億ってどのぐらいの金額だ?

確かサラリーマンの生涯年収がそのくらいだったはず。

え?もしかするともう働かなくていい?



「WSOは今回の依頼のランクを300番に修正した。元々鳥兜修斗はWSOに所属していて、その時は超能力者ランク400番ぐらいだったから300番は妥当だと思う。」



よーし!

服も買って、炊飯器と電子レンジも壊れかけてるから新調しよう!

肉も食えるぞ!いや、今日は贅沢にコンビニ弁当買っちゃおうかな!

そうだ!推しのVtuber、『仏ホットケーキ』さんにスパチャ(投げ銭)もしてみたい!

あと免許も取りたいなぁ。車も欲しいし。

うおお夢が広がる!!


「それと後からWSO支部長の芹って人から電話がかかってくると思う。直接謝罪したいみたい。あと私の家の分家がお礼をしたいって。鳥兜は母子草の......七草君、聞いてる?」


「えっ?すみません!ちょっと考えごとを。」


「...別にいいけど。後から芹さんが電話してくるから。ちゃんと出てね。」



やっべえ。お金の使い道に夢中になって話を聞いてなかった。

いつもの無表情だけどなんとなく怒ってる気がする。


「上の空でしたすみません。お詫びに俺でよければ御形さんの依頼を手伝わさせてください!」


「べつに気にしてな......分かった。難しそうな依頼をする時にヘルプで呼ぶ。」


機嫌は戻っただろうか?

そして自分で言っておいて何だが、あまり難しい依頼じゃない時に呼ばれたいな。



「これで伝えたいことは全部伝えた。私はもう帰る。...じゃあまた。」


「あ、はい。また会いましょう。」



仕事は終わったとばかりに、説明し終わった御形さんは講義室の扉を開けて去っていった。うーんクール。仕事早そう。


あっ。そういや2億の衝撃で聞き忘れてたけど、御形さん怪我大丈夫なのかな?骨折ってたはずだけどギプスもしてなかったし。

んーまあ無事ならいいか。


彼女を見送った後、俺も講義室を出た。

しばらくして携帯が鳴り着信を知らせる。

この番号、芹さんだ。



「はい、もしもし。」


「もしもし?WSOの芹だ。今、時間は大丈夫かね?」


「あ、はい。大丈夫です。」


今日はもう大学に予定はない。なので時間はある。

夜に夜勤のバイトがあるぐらいだ。


「電話したのは今回の依頼の件なのだが...本当に申し訳ない。私の見通しが甘くて君達を危険な目に合わせてしまった。深くお詫びさせてほしい。」


「あーいえいえ!大丈夫です!全員無事でしたから!」


......御形さん病院行ってたけど。


「いや、下手をしたら全滅していた可能性もあった。

これからは一層、依頼ランクの厳正な制定をすると誓うよ。重ね重ね申し訳ない。御形君から聞いてると思うが、違約金は私達WSOからの謝罪だ。少ないだろうが受け取ってほしい。」


「あ...はい。いやもう過ぎたことですし、気にしてないですよ。」


2億だぜ?2億。少ねーよ!

こんな大金貰ったら何でも許しちゃうよ!



「それともう一つ七草君に謝らなければいけないことがあるんだ。」


「え?なんでしょう?」


「君に()()()()が来てしまったんだ。」


「......指名依頼?」


なんじゃそりゃ。



「そう。それを説明するには、君達が倒した鳥兜修斗が関わってくる。そこから話さないといけない。

鳥兜は超能力者の中でもかなり強い部類でね。元々彼はWSOに所属していて、その時は3桁代の超能力者ランクがあったんだ。そして現在は国際テロ組織に所属している。

......このことから非常に危険な人物だと言うことが分かるかね?」


「はい。」


そんな奴に勝てたのは運が良かったのだろう。



「御形君の報告書を見たが、その危険な超能力者を君はほぼ単独で圧倒してしまった。

そうなるとWSOとしては七草君のランクを引き上げざるを得ないんだ。今の君のランクは999になっていると思う。」


「え!」


あの後WSOのアプリ一切確認していませんでした。すみません。だって通帳見るのに忙しかったから...。



「ランクが9000から一気に999に上がったことを誰かが嗅ぎつけたみたいでね。それを知ったある人物が君を気に入って指名依頼をしたみたいなんだ。

それにこれは私の説明不足によるミスなのだが、ランクが999より上になると、月に一度は指名依頼を受けることが強制されてしまう。まさか初めての依頼でここまでランクが上がるとは思わなくてね...説明するのを省いてしまった。そこでなんとかWSO本社に掛け合って君のランクを1000以上にして指名依頼を回避しようとしたが......ダメだった。すまない。

不運が重なってこの依頼は断れないんだ。」


えーと、要は俺がラッキーパンチで激強超能力者の鳥兜をボコボコにした。それを見た人が、こいつ良いじゃん!指名依頼出してやろう!

ーーって感じか...。



「えーっと。その依頼の危険度は?どんな依頼ですか?」


「この依頼は主に要人護衛になる。依頼主がその要人当人で、依頼主を東京まで守る任務になる。」


護衛依頼、かあ。

何かを守るって凄い難しいって聞くけど、素人の俺で大丈夫なのかな。不安だ。

その護衛する人によっては難易度変わりそうだなぁ。聞いてみよう。


「依頼人が誰か教えてもらっても?」



俺は聞いたことを後悔することになった。





「内閣府外務省外務大臣、小松親仁(こまつ しんじ)だ。」




ないかく......。




政治家ァ!?

めちゃくちゃ危険度高いでしょうこの依頼!!


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