第10話 調査依頼⑤
「御形さん!!好きだ!!!付き合って下さい!!!!」
.........。
うおおお!言っちまったああ!
恥ずかしいいい!!
だ、だがこれで羞恥心を犠牲に超能力が発動可能になった!
思えば告白で超能力を使えるようにしたのはこれで3回目だ。
1回目はWSO支部の地下で芹さんの秘書の桔梗さんに告白。
2回目は御形さんと初めての顔合わせの時。初めて超能力者と会うことになったので、クラスメイトのギャルにフラれるのを分かって告白した。クラスで笑いものになりはしたが、安全の為で仕方がなかった。
そして3回目は今。
1、2、3回目の告白で、どれが1番恥ずかしいかと聞かれたらダントツで3回目の今だ。
1、2回目はまだ自然で動機がある告白だった。
それぞれ、芹さんに唆されて自爆。クラスのスクールカースト上位ギャルに、何を勘違いしたのか貧乏陰キャが告って玉砕。
共に恥ずかしいが、告白する流れとしては普通でまだ我慢できる。
でも今回の告白は違う。
まず第一に、緊迫感あふれる戦場でやってること。
第二に、告白に脈絡が無さすぎること。
第三に、怪我で重体の人に告白していること。
控えめに言って頭沸いてるわ......。
鳥兜でさえも何言ってんだコイツみたいな顔してる。そして怖くて御形さんの顔が見れない。きっと口を開けてポカンとしてるんだろうな。でも刑事さんは気絶してて聞こえてないのが幸いだ。これが地獄に仏か。
だけど。
だけど、羞恥心が過去3回で1番凄いってことは!
超能力パワー全開ってことだあああああ!!
「うおおおおおおおおお!!!」
全身に不思議な力が駆け巡る!今までで最高のエネルギーを体から感じる!よし!いける!この状況を何とかしてみせる!
「!
目が赤く...。
なんだ、今の超能力の発動トリガーか。気が狂ったかと思ったぜ。」
「御形さんと若草刑事の仇をとらせてもらう!」
「フン。今まで隅で震えてたくせに何言ってんだか。最初っから攻撃しろや。」
うっ...。反論できない。
「そんな臆病者に良いこと教えてやろうか?
超能力の発動トリガーってのはな、それで大体の強さが分かっちまうんだ。
発動トリガーが怒りだったら攻撃的な能力。悲しみだったら移動系の能力。羞恥心はサポート系の能力が多い。信じるかはお前次第だがな。」
俺の能力ってサポート...なのか?
しかし鳥兜の言ってることは結構合ってる気がする。桔梗さんは防御系能力って芹さんが言ってたからサポートと言えるだろう。
「ってことはだ。お前の能力はサポート系の能力の可能性がたけぇ。俺を殺せる攻撃的な能力じゃねぇ。雑魚い能力。恐るに足らずってヤツだな。」
「......。」
...確かに俺の能力は攻撃的じゃない。
「俺に負け目がないのが分かったか?
......まあ俺も鬼じゃねぇ。絶望してるお前に、大サービスで1発攻撃を譲ってやるよ。」
!
チャンスだ。
相手は油断してる。
「じゃあ、ありがたく仕掛けさせてもらいます。」
「おう。いつでもいーぜ。」
鳥兜を見据えると、俺は能力を発動した。
すると世界がゆっくりと動き始め、俺は加速する。
ーーー
「俺に負け目がないのが分かったか?
......まあ俺も鬼じゃない。絶望してるお前に、大サービスで1発攻撃を譲ってやるよ。」
そう言って俺、鳥兜修斗は冴えないガキに先制攻撃を譲る。
この服の丈が合ってない貧乏臭い男は、側から見ても明らかに場慣れしてない素人だ。恐らく演技でもない。
それに超能力もサポートよりの能力だろう。殺傷能力が低い超能力なら、万が一も俺の負けはあり得ない。
なので俺は先手を譲った。
絶望的な状況下で相手に僅かな希望を見せる。
そしてそれを捩じ伏せることで、敵の表情が歪んでいくのを見るのが俺の楽しみだ。
「じゃあ、ありがたく仕掛けさせてもらいます。」
「おう。いつでもいーぜ。」
さあどんな超能力なんだ?
と、思ったら。
冴えないガキの姿が。
一瞬で消えた。
......馬鹿な!油断していたとはいえ、瞬きした瞬間に視界から消えた!?だだのサポート系の能力じゃないってのか!
俺は瞬時に自分の不利を悟り、俺の得意技を発動した。
名付けて『人魂』。
周囲に小さな炎の玉をばら撒いて、炎の揺らめきで相手の位置を特定する使い勝手のいい技だ。
美術館襲撃事件で風の超能力者を瞬殺したのもこの技があってこそだった。
炎を纏った腕を振るうと辺りに人魂が漂い始めた。これでどこから攻撃して来るかわかる。さあ、あのガキはどこ行った?
......いた!俺の後ろだ!
まだだ。
まだ気づいていないフリをしてーー
振り向き様に火炎放射を相手がいるであろう場所に放つ!最高速度の攻撃だ!
俺の炎によって背後のジャングルジムがグニャグニャに溶ける。メラメラと燃える地面と遊具。
どうだ!やったか!?
......いや、手応えがないーー
!!
人魂の反応が俺の後ろにっ...!
「ぐあっ!」
顔に衝撃が走る!
口の中に血の味が広がる。
どうやら殴られたらしい。この俺が...殴られただと?数々の超能力者上位ランカーを殺したこの俺が?素人のガキに?
何だ今の移動?あれはどういうことだ。俺の背後にいたガキを攻撃したら、一瞬でまた背後に回られた。
なんだ奴の超能力は。瞬間移動?......まさか。瞬間移動は超能力の中でもレア中のレア。コイツがその超能力を持ってるわけがねぇ。それに瞬間移動は移動系の超能力。発動トリガーは悲しみが多い。まず間違いなく別の能力だ。
サポート系で、スピードが早いとなると、自己加速...とかが有力か?
とりあえず加速能力と仮定して戦うとすると、相手の弱点は......。
俺は殴られた後の僅かな時間で相手の能力を分析し、対応策を繰り出す。もう相手への油断などカケラもなかった。ここからは本気で殺しにかかる。
「オラァ!」
気合いを入れて足で地面を踏み締めると、足元から炎が噴き出し俺の周囲を筒状に覆う。
相手が攻撃的な能力でない場合、この炎の壁を貫通して俺に攻撃することは難しい。とりあえずこれで一安心だ。あの水を操る女なら炎の壁を無視して俺に攻撃できるだろうが今は動けない。大丈夫だ。
この隙に時間を稼いであのガキを殺すプランを考える。
とりあえずあのスピードは厄介だ。
そうだ、今いる公園を火の海にして、移動できなくさせて......ん?
なんだ?今一瞬炎の壁の中に動くものが見えた気がーー
「ガハッ!!」
炎の壁の中から現れた冴えないガキに、また顔面を殴られた。
体勢を崩した俺は地面に倒れ込む。
なっ何故!ありえない!俺の炎の壁は鉄も溶かす温度だぞ!生身の身体じゃ絶対来れないはずだ!どうやってここまで!
体を起こしながらガキを見る。直ぐに違和感に気づいた。
俺の炎の壁を越えてきたからか、顔や腕、それに服が焦げている。
何故たったそれだけの被害しか受けていない...?普通なら骨まで溶けている温度だぞ。
だがそれが次の瞬間、時間を逆再生でもするように元通りになった!
なんだそれは!
どういうことだ!超再生と超スピード!?コイツは超能力を2つも持っているのか!?そんなことがあってたまるか!
スピードは目で追えない速さで、再生能力は不死身を疑うぐらいの回復力。どちらの能力も単体でみても上位の超能力だ。チクショウ、ありえねぇ...。
とりあえずこのガキの超能力は俺の理解を遥かに越えている。
...逃げるべきだ!相手の超能力の底が見えない場合は即時撤退。俺は今までこの業界でそうして生き残ってきた。プライドなんてクソ喰らえだ。
炎の壁を作りまくって目隠しにしてどうにかここから離れたい。
駐車場まで行けばパトカーがある。さっき殺した警官から鍵は盗んであるから、それを盗んで逃げ切るしかない。問題があるとすれば、あいつのスピードが恐らく車より速いことだ。クソッ、詰んでないか?この状況!
いや......まだ手はあるな。
この状態を打破するにはあのガキの心の弱さに頼るしかない。
そして今いる位置も丁度いい。あの女の近くだ。
「おいお前。お前の超能力はいったい何なんだ?
超スピードと再生能力...どちらの能力も一つの超能力から派生したものなのか?」
俺は冴えないガキに語りかける。これは時間稼ぎだ。
「そんなの教えるわけないでしょ。諦めて逮捕されて下さい。」
ガキと喋っている間に、ジリジリと倒れている女へ距離を詰める。
俺の最速の攻撃、炎弾の射程が5メートル程。あの女までの距離は10メートル。なんとかいけるか...?
「ハッ。お前、この後に及んで逮捕を考えているのか?
とんだ甘ちゃんだ。」
「え?もしかして...殺さないと駄目...なのか?」
「俺は国際指名手配犯の超能力者だぜ?それが普通だろ。」
しめた!
コイツ素人だと思ってはいたが、まだ殺人童貞だ!人殺しに対する拒否感は強い!いざという時に俺を殺す判断ができないとみた!
いける!このガキの甘さなら、あの女を人質にとってパトカーで脱出できる......やるしかねぇ!
「ああ困ったな。若草刑事早く起きてくれないかな。こういう時どうすればいいか分からない。」
!!ガキの視線が刑事に向いた!
今だ!
一気に水の超能力者の女まで距離を詰める!
ハハハッ!ガキは今更俺の思惑に気づいたようだ。判断が遅いんだよ!
「あっ!お前一体何を!」
「フン、馬鹿が。
おおっと、動くなよ?大人しくしないとこの女の綺麗な顔が丸焦げになるぜ?」
手のひらを女に向けて冴えないガキを見る。
「......その前にお前を殴ればいいだけだ。」
「甘いな。今から俺が発動しようとしてる炎弾は、拳銃と同じ速さだ。果たして間に合うかな?」
ーー俺がセリフを言い終わるやいなや、ガキが消えた。
うおっ!なんの躊躇いもなく女を救いに動きやがった!
だがその判断はムカつくが正解だ!
ここで俺を逃してしまうと、どちらにしろ女は死ぬ。どうせ死ぬなら、一か八かに賭ける方がいい!クソッ、思ったより土壇場で頭が回りやがる!
このガキの好判断でこっちは女を庇って受けるダメージを期待するしかなくなっちまった!
数瞬でそこまで考え、俺も女に炎弾を発射ーーーーできなかった。
俺の手がない。
な、なぜ?
「ぎゃああああああ!!!」
俺の悲鳴だ。気がつけば痛みで絶叫していた。
手がなんらかの強い力で捩じ切られ、出血する右手を左手で抑えながら体を丸めてうずくまる。
訳が分からねえ。どんな攻撃だ?一体何があった?
ぐうぅ...あのクソガキ、土壇場の駆け引きが上手いと思ったら、単に強力な攻撃手段を残していただけだった。くそ、クソッ!深読みし過ぎたか!これ以上の強力な超能力はもうないだろうと思い込んじちまった良くなかった......!
ぐ、だが後悔するのは今じゃねえ。
今すべきことは、俺の右腕を消し飛ばした能力の確認だ。相手の攻撃手段がわからないことには対策が練れねぇ。
手の痛みを堪えて顔を動かすと、奴と俺の直線上に、線状に抉れた痕が見つかった。
何だこれは?まるでアサルトライフルの銃痕じゃねえか。
そしてさらに目を凝らすと、地面が暗くて見にくいが銃痕の終点が目に映る。
そこにあったのは......石...?
ま、まさか...石を投げただけだってのか?今の攻撃が!?それだけで俺の手を貫通!?拳銃より上の威力だったぞ!
治癒再生と高速移動の他に、物体を高威力で射出する能力まで持ってるのか!?
ば、化け物が!!
今の攻撃をやられたら距離なんて関係ねぇ。石が尽きない限り俺の体は穴だらけになる。
......この場から逃げる可能性は限りなく低い。だが逃げれる可能性はまだある!諦めるな!
女を人質にするプランは失敗した。次は最後のプランだ。
あのガキにはまだ素人臭さが残ってる。そこを突くしかねえ。
奴の超能力の唯一の弱点を叩く!それに賭けるしかない!
ーーー
今のは危なかった。
鳥兜が御形さんを人質に取ったのだ。
奴から彼女を守るため、危険な賭けだったが石を投げた攻撃は上手くいった。俺の超能力による加速が石に乗るか分からなかったが、無事に相手を攻撃できてホッとしている。
しかし凄い威力だったな、俺の投石攻撃。相手の手が吹き飛んだぞ。これで鳥兜は俺が何もしなくても失血死、またはショック死するだろう。
勝負は決した。
.........。
......冷静になってみると俺って今人を殺してしまった...のか?
いや、正確にはまだ生きてるけどいずれ死ぬ。
救急車を呼ぶべきだろうか?
いや、相手は大量殺人鬼なんだ。死んで当然の悪党さ!
ここで俺が殺さなかったら、また罪のない人たちが死ぬかも知れない。......これでいいんだ。
あ!御形さんもかなり怪我をしてるんだった!早く容態を確認しないと!
「御形さん!大丈夫ですか!」
御形さんがぐったりと倒れている場所へ駆け寄ってしゃがみこむ。
うわ、近寄ってみると怪我の状態がかなり酷い。腕の骨が折れている。頭からも血が!直ぐに手当が必要だ!
そう思って立ち上がろうとした時、御形さんの口が開いた。
「ゆ、油断しちゃダメ...アイツはまだ戦える......!」
「御形さん!大丈夫!?無理して動いちゃ駄目だ!」
御形さんが倒れた体を起こそうとしていたので、慌てて止める。
それに鳥兜がまだ戦えるって?それは無理だ。
手が吹き飛んだ状態で、出血と激痛を耐えて戦闘を続けるわけが......。
.........ん?何か肉の焼ける匂いがする。なんだーー
「おめえの超能力の弱点はよぉ、不意打ち、だ!最後の最後で詰めが甘いなァ!!」
なん...!?
超能力を発動寸前の鳥兜が手をこちらに向けていた!
しかも千切れた筈の右手が炭化している。まさか自分で焼いたのか!
まずい、直ぐに超能力を使って攻撃を......え!?使えない!この能力インターバルがあるのか!検証しておけばよかった!しかも遠距離攻撃用の石もない!まずいぞ!
しかも俺が攻撃を躱すと御形さんが巻き込まれてしまう!
つ、詰んでる...!
終わった......!最後の最後で油断した!
チクショウ、鳥兜の手を攻撃した後に直ぐにトドメを刺しておけばよかった!
俺は次の瞬間に奴の手から出る炎に飲み込まれて死ぬ!
だが相手の攻撃がそこまで強力じゃなかったら、後から発動した俺の超能力で時間を逆再生して生き残れるかも知れない。
だが鳥兜の手は俺の顔を目掛けて超能力を発動させようとしている。頭が無くなっても俺の能力は発動できるだろうか?......いや無理だろう。流石に死ぬ。
...あーあ、せっかく強い超能力を手に入れたっていうのにここで終わりか。依頼報酬で肉食いたかったなあ...。
人生を諦めて目を閉じる。
その瞬間に。
拳銃の発砲音が響き渡った。
鳥兜の頭を銃弾が貫通した。




