第一話 超能力の目覚め
よければ前作も見てやって下さい。
俺は駅のホームで電車待ちをしている最中に、こう呟いた。
「あれ?生きてる。」
ーーー
俺の名前は七草将史。
幼いころ両親が失踪し、親戚のじいちゃんばあちゃんに引き取られて育てられた俺は、質素に生きてきた。
じいちゃんばあちゃんに迷惑をかけまいと、高校生になったと同時に一人暮らしをし、バイトに明け暮れた日々。所謂苦学生だ。
そんな俺も現在俺は大学一年生。
大学生になったことで夜勤ができるようになり、今日もフルタイムで働いた後、疲労困憊でバイト先から帰宅途中、それは起こった。
連日の夜勤と、バイトによる寝不足を我慢しながらの講義で疲れが溜まっていたのか、駅のホームで最前列に並びながら眠気でウトウトしていたのがいけなかった。
意識が一瞬飛び、気がつけば頭から線路へ転落している最中だった。
線路に落ちる俺。落ちた際の痛みを感じる暇もなく、自分の置かれた状況に絶望する。
ここの駅は普通駅だ。快速電車がスピードを出して通過していく駅。非常に危険だ。
ホームから落下した時の衝撃で頭がクラクラする...。だがいち早く早く安全な場所に避難しないと!
そう思った矢先に線路が激しく振動する。
まずいぞ、電車が近いーー
激しいクラクションと光で意識を覚醒させた俺の目の前に、顔を引き攣らせた車掌が乗っている運転席が見える。
けたたましいブレーキ音と共に周りから悲鳴が上がる。
「あぁ死んだ。」
どこか他人事の様なセリフが口から出る。
......もう身体を酷使する人生に疲れてた。高校生時代から授業とバイトで睡眠時間がほとんど取れず体はボロボロ。授業自体も寝不足でまともに聞けず、単位もいくつか落とした。今のままじゃ卒業も危うい。ここまで頑張って生きる意味ってあるのか?親も俺を見捨てたし、兄弟もいない。俺が死んでも誰も悲しまない。
これでもう楽になれるのか。
もうちょっと楽しい人生を送りたかった。
おおよそ全ての学生が通るであろう恋愛や青春を無視した一生だった。
心残りはじいちゃん、ばあちゃんだけだ。少ない年金から仕送りしてくれた2人には頭が上がらない。でも俺という足枷がいなくなって生活が楽になると思う。...最後に色々感謝を伝えれないのが心残りだ。
そう人生を振り返っていたら、電車が目の前まで迫っていた。
眩しい。
電車のライトで視界がホワイトアウトする。
あれほどうるさかったブレーキ音と周囲の喧騒が消えた。
電車に撥ねられたからか、体が浮く感覚がするーー
......。
............。
..................?
おかしい。
電車に撥ねられたことによる衝撃が来ない。
もしかして衝撃に気づく暇もなく即死してあの世に来てしまったのか?
とりあえず周囲の様子をみてみよう...。恐怖から固く閉じていた目を恐る恐る開けてみる。
俺は駅のホームにさっきと変わらず立っていた。
「あれ?生きてる。」
なんで?
夢?さっきの夢か?
...凄くリアルな夢だった。
冷や汗が凄いし、息も荒い。線路に落ちた時に、手が地面の砂利に触れた感触まで残ってる。
やっぱり気のせいだろうか。夢って味覚や触覚まで再現するらしいし。
......ってことは夢かー。はぁ、焦った。おおかた駅のホームで立ちながら夢を見た、って感じだろう。立ったまま寝れるってすげーな俺。
そして夢オチとは言え、生還したからだろうか、今は安堵の気持ちでいっぱいだ。やっぱり死ぬのは誰だって怖いな。死にかけて死の恐怖が初めて分かる。
もう死にたいとか考えるのやめよう。今まで通り真面目に生きてたらきっといつかは幸せになれるはずだ。
...とりあえず少しバイトの時間を削って睡眠時間を増やすことから始めようかな。もう線路に落ちたくないし。まあ夢だったけど。
と、珍しくポジティブに考えて、下げていた頭を上げたらーー
駅のホームの人全員が俺を見ていた。
え?
な、なんだ?
これって俺が注目を集めてるのか?
念のため自分の後ろの列の人を確認したが、髪の毛が薄いサラリーマンも目を見開いて俺を凝視していたことから、俺が注目されていることに間違いはなさそうだ。
ん!?
そこで驚愕のことに気づく。
快速電車が駅のホームに停車してる。
夢ではない。夢ではなく快速電車が普通駅に停車している。通り過ぎるはずの駅に何故。
緊張や驚きで飛んでいた周囲の音がようやく耳に入ってきた。
ジリリリリ!と言う喧しい音がホーム全体に鳴り響いている。非常用緊急停止ボタンが押されているらしい。
駅員の「早く救急車を呼べ!」「落下者は無事か!」など、焦りを含んだ怒号も聞こえる。
周囲から聞こえる会話に耳を傾けると、どうやら誰かが線路に落ちたらしい。
...ははっ、だ、誰だよ〜落ちたやつ〜。
おっちょこちょいな人だなぁ〜。
その後、死傷者が発見されず、駅員が首を傾げながらも電車は運行を再開した。
俺は後から来た普通電車に乗って再び帰路に着く。
...その間、電車の乗客にずっと見られていたのは言うまでもなかった。
これが俺の超能力の目覚めた日。
ここから俺が超能力者となって世界を舞台に活躍していくとは、この時考えもしていなかった。